笑顔が素敵な君との徒然登山ロード
いつも通りのある日、君は突然立ち上がり言った。
「明日、神剛山を登りに征こ!」
踏切が鳴る。
カタコトカッタンと線路が軋む。
どこか間延びした可笑しな発車メロディー。
僕は乗る電車を間違えたようでした。
「今どこっ!?」
馬鹿げた電子音が僕を叫んだ。
音質と電波と感情は途切れ途切れの狭間。
それでもどこか煌めきを灯した声。
そんな声が、何だか僕はちょっぴり好きなのです。
興味本位で隣の君にきいてみたり。
「どうして神剛山を登るの?」なんて言ってみたり。
君は、ほんの少し悩んでから。
「そこに山があるからだね!」なんて。
照れくさそうに言ってみたり。
だから僕は、この人が好きなんだろう。
鈴のように揺れる遮断機。
鈴のように揺れる君の髪。
だから僕は君の笑顔が好きなんだろう。
とっても甲高い警笛。
とっても甲高い君の歌。
音痴だなんて笑って言ったら
ちょー怒られました。
足音響く。
ガサゴソパッサと落ち葉が踊る。
君とのどこか秘境じみた寂しい登山ロード。
僕は君と遠足に来ている気分でした。
「ここどこっ!?」
呆けた透き通る声音が僕を叫んだ。
ここを吹く風、僕らはどこ吹く風の迷子道。
それでも何故かワクワクを宿したその声。
そんな声に、僕はちょっぴり惚れたようでした。
呆れて隣の君にきいてみたり。
「どうして迷っちゃったの?」なんて言ってみたり。
君は迷う素振りすら見せずに。
「あなたともっと遊びたいから、わざと迷った!」なんて。
静かに笑いながら言ってみたり。
だから僕は、この人に好いちゃったんだろう。
炎のように舞い散る紅の葉。
炎のように舞い踊る君の歩き方。
だから僕は、君の在り方に惚れちゃったんだろう。
世界があることを知らせる坂道大地。
世界があることを知らせてくれる君の存在。
唐突にありがとうって赤面調で感謝してあげたら。
ちょー疑問に思われました。
たどり着いた山の天辺。
やっぱり君と一緒じゃないと。
この景色は見れなかった気がするんだ。
真っ赤に染まる夕焼け。
真っ赤に染まってしまった僕の表情。
空になった炭酸ペットボトル。
空になってしまった君のお腹は。
かなり音を立てて、鳴ってしまいました。
だから僕は、この人に憧れたんだろう。
雲一つない橙紺色の空。
雲一つない君の橙紺色に光る瞳。
だから僕は、君にメロメロにされちゃったんだろう。
遠くの波音立てる白浜とフレッシュな海。
近くにいる君とイレギュラーな気分の僕。
だから僕は、君が大好きなんだろう。
僕と君だけの世界。
君と僕だけの聖域。
もう一度だけ、あと一度だけ。
「どうして神剛山に登ったの?」なんてきいてみたり。
君は迷うか迷わないかギリギリで、言ってみたり。
「あなたと一緒にいたかったからかな?」なんて。
ちょー、ちょー、最高の笑顔で。
答えてくれたのでした。