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トラックは転生魔法

 

話は少し前にさかのぼる。


 コンビニの帰り道、俺は、トラックに轢かれて死んだ。

 冴えない中年サラリーマンの不幸な死――なんとも夢も救いもないイベントだ。テレビでこんなニュースがやってたら俺はきっと、同情して泣いてただろう。トラック何やってんだよと。冴えないサラリーマンは辛いんだぞと。世の中は追い打ちかけることしかしないのかと。


 なんて思うんだろうけど――今の俺はウキウキでたまらなかった。

 だって、まさかの異世界転生チャンスを貰えたんだから。


 俺は真っ白い空間の中で異世界転生の手続き説明を受けていた。

 ただ広い空間にイスが二つとテーブル一つ。いるのは俺と、ややハゲ気味のメガネをかけたオッサンの二人だけ。


 うーむ、神様ってオッサンなのか。異世界転生の神様って、女神と相場が決まってるのに。ムードもへったくれもない。

 だが、この際よしとしよう。だって、異世界転生なんだもの。きっと、ドキドキワクワクするようなファンタジーワールドが俺を待っているはず!


「はい、じゃあこの紙に目を通して。特に問題なければサインお願いします」


 オッサンから手渡された紙には俺の名前やら職業やら家族構成といったあまりにも事務的な内容が記されていた。

 若干テンションが削がれるが、なんとか耐える。

 きっと異世界転生も大変なんだろうな。なんてったって転生だ。きっと、住民票みたいなのを移したりとか色々とあるんだろう。


 などと考えながら書類を見てると、ふと気になるワードが目に入った。

 死因は――転生魔法の直撃。うん?転生魔法?


「あの、この転生魔法ってのは」


「ああ、それは君が死ぬ前にぶつかった、アレのことだね」


「……あのトラックって、召喚魔法だったんですか」


「最近流行ってるみたいだよ。お手軽で君の居た世界での処理が楽だから」


「はぁ、お手軽」


 通りでおかしいと思ったんだ。ちゃんと逃げたつもりなのに、あのトラック、俺をホーミングしてるかのような動きをしてたし。

 知らなくていいことを知ってしまった。なんだろ、異世界の人たちは結構バイオレンスなんだな。トラック轢き殺し転生が流行ってるなんて。俺やってけるか不安になってきたな……


「はい、確認しました」

 

 サイン欄に名前を記入し、俺はオッサンに書類を返した。

 

「それで君、えーっとクリド王国で勇者として転生されるみただから」


 王国。

 勇者。 


 いいねいいね、いい感じだね。バラ咲き始めたんじゃないの?


 王国と言えば、中世ヨーロッパ風味のファンタジー的社会。 

 勇者と言えば、滅亡直前の世界を救う選ばれし者。


 俺はイケメンチート勇者となって、最強パーティーとあんなことやこんなことを……


 思わず、ふへへ、とニヤけ声が漏れてしまった。


「良いもんですね、生まれ変わりって」


 テンションが上がり過ぎてどうしようもない。会社で働きづめの毎日ともこれでおさらば、これからはファンタジー世界での冒険譚が俺を待ってるんだ――


 と、思っていたら。

 オッサンが、衝撃の一言を俺に告げた。


「君の場合はその身体のままでの転生だけどね」


 うん?

 いやまてちょっと待て。

 その身体のまま?

 この中年ボディのまま?


「このままァ!?」


 俺は思わず叫んでしまった。


「そんな大声出されても……」


「どう考えても無理でしょ! 中年だよ俺! ほら見てこの腹、こんないい音が鳴る! オッサンもオッサンなんだからわかるでしょ。中年ビール腹に勇者は無理だよ、膝痛いもん!」


 オッサンね、そんな「俺知らないよ……」みたいな顔されても!


「てかね、異世界転生っていったら生まれ代わりでしょ! 冴えない音が生まれ変わってチートでバラ色でハーレムうはーで逆転人生でしょうが! そんなのってねーよ!」


「しかしなぁ、それはうちの管轄じゃないしなぁ……というか、召喚魔法も異世界側が勝手にやったことだし……」


「管轄、世知辛い。お役所仕事かよ……」


 上がっていたテンションが一気に萎えてしまった。


 なんだよこれ。無理ゲーじゃねぇか。中年勇者にするって頭どうかしてる。

 俺の皮下脂肪は確かに打撃に有効だろうけども、鎧とか剣とか、そういうの装備できる筋力ないよ。

 最近は膝だけじゃなくてデスクワークがたたって腰も痛めてきたし、どうにもなんねぇよぉ。 


 悲しすぎて「ほげぇ」と唸っていたら。

 オッサンがため息を付きながら立ち上がった。


「仕方ないなぁ。本当はこういうのはいけないんだけど。君はなんか他人事とは思えないし」


 オッサンが俺に向かって、手のひらをかざした。と、そこから光の球体が現れて―――それがゆっくりと、俺の体の中に入っていく。


「これはまさか、伝説の力……的な?」


 俺は目を輝かせてオッサンにそう聞いた。

 絶対そうだろ、またまたこのオッサン、最初からこうしてくれればよかったのに。これで俺も、スーパーパワーでなんやかんか世界を救う感じに!


「いや、魔物と喋れる能力だよ。これなら私達皆に支給されてるものだし、そう問題もないだろう」


「え、なにそれ」


 よりによって、喋れる系……?

 

 俺は半ば、放心状態になった。

 心は中年、身体も中年。スーパーパワーも特になく、ただ魔物と喋れるだけ。


 どう考えても詰みなんだが。


「それじゃ、手続きは終了です。後は向こう側の人たちに一任するので。それでは、頑張ってください」


 オッサンがそういうと、俺の身体は光に包まれていった。


 あー、めんどくせー、どうにでもなれ……


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