魔物と飲み会(参加自由)
はじめて書きます、よろしくお願いします
異世界転生と言えば。
うっかりトラックに轢かれて命を落として。
神様にセカンドチャンスを貰って生まれ変わり。
チート能力やらイケメンフェイスでやりたい放題。
成り上がりからのハーレムでウハウハ人生。
これは冴えない俺にもバラ色人生来るんじゃね?
そう考えていた時期が、俺にもありました。
「酒だァ! 酒もってこい!」
オークの野太い声が俺の耳を打つ。しかし、その声も周囲の騒ぎ声にすぐ掻き消された。
ここは森の奥、魔物の住処――まさに、そのど真ん中。
いたるところに焚火が炊かれ、薄暗い夜を照らしている。その明かりの周りに無数のオークやらゴブリンやらといった魔物が湧いていた。
その魔物たちは――ジョッキを片手にどんちゃん騒ぎをやっていて。
そして、その中に俺もいた。
いやいや、オークに転生とかそんなのではなく。俺、立派な人間なのに。
そう、異世界転生ですよ異世界転生。ここ異世界なわけですよ。
トラックに轢かれたところまでは良かったんだ。
神様的なオッサンに会えたところまでも、女神じゃないのを覗けばギリセーフだった。
これは彼女いない歴三十七年、中年おデブの俺にも、遂に一発逆転のチャンスがきたんじゃねーかなって思ったよね。
なのになぁ、こんなさぁ。
「おい! ブラザー楽しんでるかー!」
オークのうちの一人が俺にヘッドロックをかましてきた。
うげぇ、と間抜けな声が出る。
「飲め飲め! オメーが持ってきたこの酒めちゃくちゃうめぇぞ! ほらほら!」
「おー、ありがとございやすありがとございやす」
空のジョッキにオークが酒をなみなみ注いでくる。俺もいつもの習慣で反射的に御礼を言ってしまった。悲しいかな我が習性。
ウキウキで臨んだ異世界転生。さぞかしチートでイケメンな主人公様になれるものだと思っていた。
しかし現実は非情なもので――
俺はフツーにそのまま、三十七歳中年モードで異世界に飛ばされてしまった。
ギリお目こぼし的に神様から貰った特殊能力も、
「魔物と喋れる」
という極めて微妙なもの。もっと、伝説のスーパーパワーみたいなのが欲しかった。
これで勇者やれってんだから一体どうすりゃいいんだ。
……しかし、やったらオークはフレンドリーだ。体型俺と似ててシンパシー感じるし。そうそう悪い奴にも思えなくなってきた。
つーか、魔物の中の地位は下働き的なポジションって言ってたし、オークも色々と苦労が絶えないんだろうなぁ。
うーむ、中間管理職経験者としては同情せざるを得ない。
そんなことをぼんやり考えていたら、ジョッキは酒でいっぱいになっていた。
「おいコバヤシ! イッキだろイッキ!」
オークがヘッドロックを更に強めながら俺に言った。
おいじゃねぇよ。しかもイッキコールかよ。なんでこんな現実感ある異世界に召喚されちゃったかなぁ。
「おお!いいぞ!」
「おらイッキ!イッキ!」
「男見せろー!」
しかもなんか魔物共は盛り上がってるし。クッソ俺は人間様やぞ。そんなに魔物に騒がれたらチビってまうやろ。
しかし、こうなったらどうにもならないな……
「っしゃぁ! やったろうじゃねぇか!」
半ば自棄になりながら俺は立ち上がった。絶賛中年太りの俺の膝が若干悲鳴を上げたが、気にしないことにする。
もうこうなったら、なるように身を任せるしかねぇ。
俺はジョッキを掲げ、声高らかに叫んだ。
「おら野郎ども! 今日は飲むぞ! 飲みまくるぞー!」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
怒号が辺りに響き渡る。チビりそうだ。
どんちゃん騒ぎはまだまだ続く。酒もまだたんまりある。
しっかし、とんでもない異世界転生させられたもんだ。
イッキのみをした後、俺は深くため息をついた。