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潮風に乗ってきた幻影

作者: 四季咲樹

 潮風に乗ってきた幻影

               四季咲樹

 男は夜中の浜辺を散歩していた。男が浜辺を歩いている途中、潮風に交じって甘い香しい香りが漂ってきた。男はその香しい香りに惹かれ、香りがする場所に足を運んだ。するとそこにはブロンドで長髪の白いビキニの水着を着た西洋人の背の高い女性が浜辺で月明かりに照らされた海の水を儚いものを観るような目で見ていた。

 「夜も更けたというのに女性が一人で何をしていらっしゃるのですか」

 「え」

 思わず男は日本語で言葉をかけてしまった。ところがブロンドの女性は思わぬことに日本語で男に対して返事をした。

 「先程まで泳いでいて、それからまたひと泳ぎしようと思い海に入ろうとしたのですが、月明かりを浴びた海が煌いているように見えて綺麗だったのと少々懐かしい気持ちにさせられていたので、しばらく月明かりを浴びている海を眺めていたのです」

 女性はどこか遠くを眺めるような瞳で男に云った。

 「そうですか。ですが、私はあなたが海ではなく、もっと遠くの「何か」を観ているように思えるのですが」

 男がそう云うと女性は小さく笑った。

 「そう。あなたには私のことがそう観えているのですね。とてもよい洞察力をしていらっしゃいますね」

 「ありがとうと云っておくべきなのかな。そう思った一番の理由はあなたの悲しげな瞳だったというのとあなたの表情が数秒の間、陰りを見せたからと云うのが理由だよ」

 女性は少し驚いていた。だがその後で感心しているような表情を見せた。

 「本当に凄い洞察力ですね。理由を聞いてなお驚かされました」

 女性はしばらくしてから。

 「では、私はそろそろ戻らなければ。明日のこの時刻にまた会いましょう」

 女性は男にそういって浜辺を走って行った。気がついたら女性は消えていた。それとほぼ同時に水に何かが落ちて水が撥ねる音が聞こえた。

 後日、昨日と同時刻に浜辺に男は赴いた。

そこには昨日の香しい香りをさせたブロンド女性が白いズボンに青色のタンクトップにその上に薄い羽織ものを羽織っていた。女性は海を眺めて立っていた。

 「昨日はどうも、約束通り来ました」

 「本当に約束通りきてくれたのね。ありがとう」

 「今日は水着姿ではないのですね」

 「泳ぐつもりで来たわけではないので。今日はこの満点の星空を一人よりも二人で見たいなと思ってあなた誘ってみただけのことよ」

 女性は小さく笑った。

 「綺麗な夜景ですね」

 「そうね」

 「でも、この星空よりもあなたの方が綺麗だと俺は思っている」

 「そのようなお世辞を云ってもそう簡単に靡いたりはしないわよ」

 女性は鼻で笑った。

 「それは残念。そう云えばまだ名前を聞いていなかったですね」

 女性は少々間をおいた。

 「私の名前はアリスよ。そう云うあなたの名前は、私にだけ云わせて自分は名乗らないなんて云わないわよね」

 「ああ。そんなことは云わないよ。日下部 海斗それが俺の名前だ」

 男と女は満点の星空の下で互いの名前を名乗り合った。それから二人は他愛もないことを話してお互いは別れた。その直後、海斗は昨日と同様水の撥ねる音を聞いた。

 後日、海斗は昨日と同様の時刻に浜辺に赴いた。だがそこには香しい香りはするもののアリスの姿はなかった。だがその代わり月明かりに照らされた海にはブロンドの女性の人影が見えたがその人影は此方に手を振った。その後、海に潜ったまま二度と海斗の視界に映ることはなかった。そしてアリスとの思い出は香しい香りとともに記憶から消えていった。


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