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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第6章:消失
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時既に遅し

「もーーーーーーーー。なんなの、本当に! 全っ然釣れないんだけど!?」


昼は既に通り過ぎ、もうじき夕方になろうとしている。

終了時刻まであと三十分。

これじゃあこれまでの消費した時間を無駄になる。

せめて、一匹ぐらい欲しいもんだが、そんな願いも虚しくまるで糸は引く気配を見せない。


「たっくんって、ゲームの才能ないなって思ってたけど、釣りの才能もないんだね」

「お前は逐一俺の心抉るな」

「本当のことじゃん」

「あのなあ、俺みたいな素人に期待すんな。釣りってのはただ、餌を針に付けて、糸垂らすだけじゃダメなんだよ。テクニックなりなんなりを組み合わして、ようやく釣れるようになるんだよ」

「でも、あんなにおじさん達は大漁だ」

「あのおっさん達は暇さえあればここに侵入して釣りしている玄人なの。俺が勝てるわけないの。そんなに言うんだったら、お前がやってみろよ」


散々、俺の後ろでダメ出ししやがって。

何も取れない切なさを思い知るがいい。


「ええ〜〜。私、釣りしたことしたことないんだけど……」

「こんなの持っているだけでいいんだよ。いいから、さっさとやれよ」

「さっきと言ってること真逆なんですが」


渋々竿を受け取ると、俺に新しい餌をつけさせ、佳世は人生初の魚釣りを開始した。


………………五分経過。


「釣れないね」

「当たり前だろ」


俺が何時間場所を移しては釣り、餌を付け替えては釣りを繰り返して反応すらもなかったんだ。

そんな簡単に来てもらっちゃ困る。

だが、運というのはこうやって何かやっている横で誰かが嘲笑っている時に来るらしい。


ピクッ


「んっ、なんか来たみたいなんだけど」

「はっ、悔しいからってそんな嘘つくなよ〜」

「いやいや、これは本当だって! こ、これからどうすればいいの!?」


見れば、竿の糸が垂れずにピンと張っている。

……いや、嘘だよね。こんないくらも経っていないのに、来るわけないよね。

きっと、下の岩に針が引っかかったんだよね。そうだよね。


俺は佳世にリールを巻くよう指示を出し、どうかヒットしていませんようにと切願する。

………………が、


「どう、たっくん? 何か食いついてる?」


マジか。

少しずつ現れる姿は体長30cm程。

この辺りでは早々釣れるものじゃない大物だ。


「ちょ、待ってろ。どこかに網があるはず……」


あれだけの大きさだったら、相当暴れるだろうから、引き上げるのは簡単じゃない。

周りを見渡しても網はない。

親父も準備が悪いな。

誰かに借りに行くしかな……


「よっ」


軽い掛け声と共に佳世は思いっきり竿を引っ張ると、空中に魚が舞う。


「………………」

「えーーと……。たっくん、外して」

「お前は本当にフリーダムですね!」


俺が……、俺があれだけ頑張ったのになんでまたこいつに……。


「大物だね〜」

「ああ……。大物だな」

「じゃあ、また餌付けて」


っ……。なんか言い方がイラッとくるな。

ここは俺がガツンと言うしかない。

このままいくと、俺と佳世のパワーバランスが逆転してしまう。


「なあ、佳世よ。いい加減……」

「また釣れたら、たっくんのものにしていいよ」

「餌付け終わりました。次お願いします」


***


それからはまあ釣れる釣れる。

俺がヒットゼロだったのが、嘘のような正に入れ食い状態。

佳世が釣る。俺が餌を付ける。釣る。付ける。釣る。


最終的に五匹がクーラーボックスに収まっている。

五分に一匹のペースで釣り上げたわけだ。数こそ多くはないが、一匹一匹がかなりの大物だ。


「これなら、勝てるんじゃない?」

「いや、西区もそこそこの量やってるんじゃねえか。こっちのチームがどれだけとったのか見ないと勝敗は分かんねえな」


勝負の決め手は量じゃなく、数だ。しかし、大きい場合は二匹とカウントされるから、佳世の分は10匹とされる。かなりのポイントだ。

もしかしたら、佳世の言う通り本当に勝てるかもしれない。


親父もこれを見たら、気分を良くするだろう。

終了まであと五分。相当重くなったクーラーボックスを担ぎながら、俺は東区の本拠地と指定されたテントへと向かう。


「なんか、たっくん嬉しそうだね」

「ん、そうか? まあ、こんなに大漁なのは初めてだからな。俺自身が釣ってなくても、結構嬉しいな」


ここの魚は頭が良く、こんなに釣れている所なんて見た事ない。


「その、…………ありがとうな、佳世」

「! …………うん」


誰かに感謝するなんて言っている俺自身が驚いている。

それほどに、今気分が朗らかで、気持ちが良い。

そう思いながら、本拠地の大型テントの中に入る。


「親父、ほら釣って……」


きた、と俺は口に出せなかった。

その先には東区の参加者が全員倒れていたからだ。


「えっ、これって——」


佳世は異様な光景に驚きを隠せないようだが、俺は見た瞬間に、口をへの字に曲げる。


「助けなくていいぞ、佳世」

「へ? いやいや、とにかく救急車呼ばなくっちゃ」

「必要ねえよ、こいつらにはな」

「それって、どういうこと?」

「こいつらはな、多分自分たちがかなり前に負けを確信したんだろう。だから、どうせ負けるんだったら、試合を放っぽり出して、飲み会にしてしまおうって考えたんだろうな。ほら、酒の空き瓶があっちこちに散乱してるだろ」

「ああ、本当だ……」


別にそれならそれで良い。

だが、だったら俺に止める様言いに来るべきじゃないか?

それを放っぽり出して、自分達だけ楽しむとはどういう了見だ。

かなり癪に触るぞ、この野郎。


「じゃあ、これからどうすんの?」

「決まってんだろ」


そう、決まっている。

こいつらに、佳世の釣った魚を収めるなんて勿体無い。

しかしだからと言って、このままリリースするのも気が引ける。

俺はクーラボックス以外の荷物をそこらへんに放り投げながら、言い放つ。


「鞍替えだ」


***


「いやーー、おじさん達があんなに大歓迎してくれたね」


東区に見切りを付けて、向かった西区は敵である俺たちを快く向かい入れてくた。

全ての魚を譲り、そのまま帰るつもりだったが、後ほど家に捌いたものを送ってくれるらしい。

お陰で俺は手ぶらで家に帰ることができている。

ご機嫌な佳世なんて、俺の前をスキップしている。

まあ、あんだけ大漁なんだから当然だよな。


「おじさんたちのお刺身って大丈夫なのかな?」

「大丈夫だろ。一応玄人なんだし」


いざとなったら、火を通せば良い話だ。


「そういえばさ、あの麗姉さんが言ってたことってなんだったんだろうね?」

「俺をおちょくって楽しんでんだろ。気にする方が馬鹿を見る」


そう言いながらも、俺はあの時の会話を脳内で繰り返す。

何度か騙されたことはあるが、あの時の感じからして嘘ということはないだろう。

だが、はいそうですか、と飲み込むこともできない。

ただの戯言と処理した方が妥当だろう。


その内容を俺なりに噛み砕くと、どっかの誰かが俺とコンタクトを取りたがっているって事なんだろう。

助けられないとは、恐らくこの状況——佳世との生活——から助けられないという意味なんだろう。

だとするなら……俺にとってとてもヤバイ状況って事にならないか?

だってそうだろ。危ないから助けに来てくれるんだろ。

なら、その俺の身に害を及ぼす存在がいるってわけだ。

それが誰なのか——馬鹿でも分かる。


「釣り大会面白かったね」

「えっ……。あ、ああ! そうだな……」


思考の海から現実に戻る。

途端に全身のあらゆる汗腺から脂汗が噴き出してくる。

麗姉よ、伝えるのは良いが、時と場合が悪い。

芽生えた疑心はもう消えない。

上手く顔は笑っているだろうか。

声の感じはいつも通りだろうか。


「またこうして二人で遊びに行きたいね」

「そうだな」

「ずっとこのままでいれば良いのに」

「……そうだな」


調子を合わせる。

確か、前にもこんな状況を前に体験したような気が。


「——嘘つかないで」

「え?」

「嘘つかないでよ。達海はずっと一緒に居られないって思ってるんでしょ?」

「…………」

「私と達海とでは行きている世界が違う。だから、私が消えてしまう可能性があるかもしれない。そう思っているでしょ?」


当たっている。

だから、死者蘇生の方法を探していたんだ。

ずっと、一緒に居たいから。失った時を取り戻したいから。


だけど、もう論点はそこじゃない。

ここからは安全な場所から悠々と探し物をするだけじゃ済まない。

いつ爆発するか分からない爆弾を背負っているようなもんなんだからな。


「だから、あの晩も言ったじゃない。達海がこっちの世界に来れば、幸せに暮らせるかもしれないって。だからさ……」


今まで前を歩いていた佳世が、急に反転して俺に顔を向けて来る。



「やっぱ、死ねよ」



惚れるような笑顔をしながら、佳世の指が俺の腹の皮を破った。


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