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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第6章:消失
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炎天下フィッシング

カチカチ。


「…………」


カチカチ。


「…………」


………………………。


「…………あーーっ、やっぱりねえか!」


パソコンの画面に吐き捨てる。

図書館同様、俺は死者蘇生に関してネットの世界で調べている。

しかし、本以上の情報は得られないし、ネットだからなのか妙に胡散臭い内容ばかりが散乱していた。

中には蘇生を約束する霊能力者の記事や、カルト集団の勧誘なんかもあり、下手に調べると、危ないことだけはしっかりと分かった。


「久しぶりに出しておいて、この程度にしか役に立たねえのかよ……」


俺や家族は昨今珍しく、ネットを使わない。というか、使えない。

お袋が興味を持ち買ったのだが、この家の全員がどうやって動かしていいかわからず、結果押入れ深くに封印されていた。

なので、これもゲーム同様型落ちだが、あまり使っていないからなのか、動きだけは無駄に良い。

しかし、俺自身も機械音痴の気があり、少ししか使ったことがないため、今のように、1時間以上も使用し続けると、目がチカチカしてくる。


「……休憩するか」


慣れない作業を嫌々やっても仕方がない。

電源を切って、椅子の背もたれに寄りかかり、おもいっきり伸びをする。

ポキポキと背中の骨が鳴る音が心良い。


「それにしても………」


気になることが一つ。

それは図書館での出来事。

俺が佳世に生き返らせてやると言うと、まるでそれを望んでいないかのような反応を佳世は示した。

後日、幾ら聞いてもしっかりとした回答はもらえかった。

もしかしたら、佳世は生き返りたくないのかもしれない。

なんでだ? 生き返ったらなにか良くないことでもあるのか?

そんなことあるのか。逆に死んでいた方が不便じゃないか。

この前のお袋の一件みたいに、みんなに無視されるなんて精神的にキツイものがある様な感じがする。

それにその状態がいつまでも続く保証がどこにある。

もしかしたら、この瞬間にも佳世は消えてしまっているのかもしれない。

そんなのは、嫌だ。

せっかく、昔のように親しくなったのに、サヨナラなんてもう二度としたくはない。

しかし、その心配をさせている張本人は今、何をしているのかと思えば……


「ねーー、ねーー、たっくん。これの三巻目が見つかんないんだけど」

「知らねえよ……」


パソコンを探している途中で見つけた、兄貴の置き土産の漫画を読み漁っていた。

俺がこんなに必死になっているのに、その後ろで読書三昧ですか。

イライラする。めっちゃする。


「たっくんも探してよ」

「なんで、俺がお前に協力しなきゃならないんだ!」

「探してくれても良いじゃん。たっくんのいけず〜〜」


ブウブウ言いながら、俺が手伝ってくれないと分かると、佳世は漫画が詰まったダンボールを漁り始めた。


「ああ……。こんなのいつまで続くんだよ」


情報を探し始めて、早一週間と三日。流石に嫌気もさしてくる。

テーブルに突っ伏して、目を閉じても、嫌なことばかりが頭に浮かんでくる。

これがマイナススパイラルってやつか……。


「そんなに根を詰めないで。ほら、外にでも出て、新鮮な空気でも吸ってきたら?」

「嫌だ。外暑い」


誰が好き好んで用もないのに外に出るか。


「出掛けるぐらいなら、家でゴロゴロしてた方がマシだ」

「たっくん本当に外嫌いだよね」

「嫌いなわけじゃねえよ。ただ、俺は無駄にエネルギーを消費したくないだけなんだよ。地球にも優しい」

「こんなにガンガン冷房つけてる人にそんなこと言われても地球も迷惑だよ」


確かに俺は地球を大切にしたいとは思う。

しかし、だからって我慢して自分に害を与えるのも間違っている様な気がする。

だから間をとって、クーラーの設定温度を18℃しているのに、どうやら佳世には俺の底知れない地球への愛は分からないらしい。


「でもさ、本当に外に出た方が良いよ。なんか最近、顔色も悪くなってきたし」

「そうか?」

「そうだよ。青みがかってて……。気持ち悪くないの?」


そういえば、最近胸の奥がムカムカとすることがある。だけど、そんなに気にしたことはなかったな。

しかし、そんなに体調が悪そうに見えるとはな。体力がないながら、少しショックだ。


「まあ、そんなに悪くないから、大丈夫だ」

「病院行った方が良いんじゃない?」

「本格的にダメになってきたらな」


一時のものかもしれないし、とりあえず様子を見ることにした。


……………。


なんか気を紛らわしたら、漫画が気になってきたな。

もしかしたら、掘り出し物があるかもしれない。絶版になってるのとかあったら、高く売れるかもしれない。

そう思って手を出そうとした時だった。


バーーーーーンッ!!


「達海いるか!」


勢いよく玄関のドアが開かれて、親父が家に飛び込んできた。


「なんだよ。藪から棒に……」

「おう、やっぱりいたな。昼間からパソコンでシコシコと……。お前はニート予備軍か」

「予備軍でもないし、シコシコもしてないわ!」


こちとら、幼馴染と暮らし始めてからご無沙汰なんだよ、チクショウ!!


「で、何の用だよ」

「ああ、そうだった! お前にしか頼めないことがあるんだ。ちょっと来てくれ」


そういうと、親父は俺の腕を引っ張ってきた。


「ちょっ、待て待て! 説明ぐらい……」

「来たら分かるから、しのごの言わずについてこい!」

「なになに、面白そうだね!」

「佳世、ワクワクしてんじゃねえよ!」


結果、俺はこの世で一番大っ嫌いな炎天下の中に強制的に連れ出されてしまったのであった。

一体、何をさせられるんだか……。


***


…………。


「……釣れないね」

「……ああ」


太陽が元気よく地上を照らす中、俺は海に釣り糸を垂らし続ける。

もちろん魚を釣る為に。


「よーー、大量か?」


汗だくになりながら、ひたすら暑さに耐えている俺に、親父は缶ビール片手に陽気な声をかけてくる。


「…………」


ゴッッ!!


「ガハッ!!」


俺は躊躇なく、親父の腹に怒りの右フックを叩き込んだ。


「おま……っ、急に何すんだよ……」

「それはこっちのセリフだ。こちとら家で優雅な時を過ごしていたのに、何故にこんなクソ暑い中、魚なんぞ釣らなきゃいけないんだよ」

「悪かったって……。だけどな、人員不足で……」

「知ったこっちゃねえよ」

「だってよ、今年こそ西区の奴らにガツンとやり返したかったんだよ……」


現在、近所の波止場にはたくさんの中年の親父どもがワンサカと押し寄せ、俺たち同様釣り糸を垂らしている。


「なんでこんなに人が集まってるの?」

「今日がここの解禁日なんだよ。ここは元々、船が止めらていた波止場だったんだ。だけど、新しい波止場を作って、ここはお役御免になったんだが、どうにも魚が多く住み着いて、絶好の釣りポイントに変わった。しかし、管理されていないこともあって、事故の元になるってことで、市役所が立ち入り禁止にして、年に一回だけここで釣りをしてもいいってことになったんだよ」

「へーー。じゃあ、なんでお父さんはたっくんを無理やり連れてきたの?」

「親父共が勝手に住人を東区と西区に分けて、勝負することにしてんだよ。だけど、東区はあのデパートの影響で引っ越した奴が大量に出たからな。今年こそ勝つために素人の俺に連れてきたんだろうな」


もちろん、東区のリーダーは俺の親父だ。

元々は勝負事が好きでこれも親父がやりだしたって噂だ。

自分で仕掛けておきながら、長年負け続けるとは、なんとも親父らしい。

そして西区のリーダーは、


「やあ、達海君も来てたのかい?」

「あっ、はい。こんにちは」

「うん、元気で大変よろしい。ウチの龍哉も来てるよ。よかったらこっちのチームに」

「何しに来たんだ、坂本ぉぉ……」


こちらに話しかけてきた中年男性こそが西区のリーダー、坂本の親父さんだ。

その半袖から覗く日焼けした太い腕はウチの飲んだくれとは比較にならないほど太く、逞しい。

さすが坂本農園の看板を背負って立つ男は違う。

逆に俺の親父はまだフックが体に響いているのか、坂本さんに威嚇をしながらも、白いコンクリートに突っ伏している様はとても威厳なんか感じられない。


「なに達海君が来てるって聞いたから、ウチに誘いに来ただけだよ。泥舟に乗せたっきりじゃ可哀想だからね」

「泥舟とは言ってくれるじゃねえかよ……。今日こそは俺たちのチームが勝つからな! その首、海水でもかけながら、待ってやがれ!」

「そうかい。じゃあ首を長くして待ってるよ。達海君、愛想尽かしたら、何時でも来なさい。歓迎するから」

「はい」

「返事すんじゃねえよ、達海!」


本当は今すぐにでも鞍替えしたかったが、後々になってぐちぐち言われるのも嫌なので、負けると分かっていても、親父のチームに参加することとなった。


***


「…………」


…………。


「…………」


…………。


「…………やっぱ、釣れねえじゃねえか!」


何時間経っただろうか。太陽はさらに上昇を続け、暑さのピークを迎えようとしている。

しかし、ここに来てから一度も俺の竿にはヒットの兆しすら見られない。


「こんなに魚が泳いでるのにね〜」

「まったくだよ」


そう。魚がいない訳じゃない。

少し水面を覗いてみると、かなりの数が悠々自適に周りを泳いでいる。

ただ、針に食いついてくれないだけだ。


「……餌が抜けたのか?」


しかし、引き上げてみても、きっちりと付いている。


「餌、変えるか……」


確か、親父が置いていったバッグの中にある筈だ。


「…………これか?」


白いプラスチックの箱があり、中を開く。


「…………何それ?」

「何って…………、ゴカイだけど」


箱の中身は虫餌と呼ばれるゴカイ。

見た目はミミズに近く、一匹一匹が謎の粘液を体に纏いながら、ウネウネと箱の周りをうねっている。

それを一匹が摘み、


「うっ……!」


半分に千切り、頭のある方を釣り針につける。

千切った部分からは、血のように真っ赤な体液がデロリと出て、痛みに悶えるかのように激しく体を動かしていた。


「? どうした、佳世」

「次に餌をつける時は、私に見えないようにして…………」


どうやら、餌をつける時の光景が相当ショックが大きかったらしい。

顔色が海と同じ色になって、口を手で覆っている。

悪いことをしたな。女子の前でやることじゃなかったかもしれない。


「ああ、悪い悪い。前に一緒に来た奴は平気だったから、ついな」

「一緒に来た奴?」


あいつと佳世とでは女性らしさに天と地ほどの差があるしな。


「親父に言われてきてみれば、あんたも今回は参加してたんだ」

「噂をすれば、なんとやらだな。可愛いウェイトレスさん」

「それ、ここで言うのはマジでやめて……。あと絶対におじさん達にそれ言いふらさないでよ」


そう、こんなグロテスクな生き物に平気で触れる女子なんて、俺は一人しか知らない。


「一週間ぶりになるかな、達海」

「ああ、久しぶり、麗姉」


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