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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第5章:無用殺人
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資料探し

「えーーと、……たっくん、ここはどこだか分かってんの?」

「図書館だろ」

「そうだよ。ここは本を閲覧したり、借りたりするところなんだよ」

「当たり前だろ」

「ああ、じゃあこの暑さでたっくんの脳みそショートしたわけじゃないんだ」

「うん。いくら、俺が馬鹿だからって、本人の目の前で言っていいことと悪いことぐらい判断してもらいたいもんだ。俺のハートはそんなに強度を持ってないんだぜ」


一周回って気持ちの良いぐらいの罵倒を受けながら、俺は朝っぱらからこの街唯一の図書館に入る。

もちろん勉強ではなく、佳世の蘇生に関して調べるために。

じゃなけりゃ、こんな陰気な所に来たくもない。


ウィーー


「うっ……」


自動ドアの先で俺を最初に歓迎したのは、図書館独特の匂い。

なんかこう……インテリ臭というか、堅苦しいイメージを持たせるこの匂いが俺はめちゃくちゃ嫌いだ。

お前なんかが来るところじゃねえんだよ帰れ、と言ってきているような気がする。

それにエコだとかで、冷房の設定温度が高めなのか湿気も多い。

夏休みだし、利用者も多いからなのかもしれない。

どう考えても、長居はしたくはない場所だ。

さっさと目的の本を借りて、早く帰りたい。


「佳世はなんか読みたい本でもあるか?」

「んーー……」


館内を見回す佳世。


「とりあえず見て回りたいな」

「じゃあ一回別れるか。借りたい本があったら持ってこいよ」

「うん」


返事をすると、佳世は奥へと消えていく。

俺はそれらしい本が置いていそうな『宗教』の本棚へと向かった。


***


「うーーーーーーーん……………」


困った。非常に今、俺は困っている。

宗教に関する本を片っ端から、読んではいるが、なんとも小難しい用語のオンパレード。

さらに、文字が小さい、文が長い。

俺の集中力を削るには十分すぎる要素がふんだんに盛り込んでいる。


いや、最初は真面目に読んでたさ。

しかし、いざ調べてみたら、俺の知りたい内容だけが書かれた本などほぼなく、あるとしてもそれは一冊の本に対して僅かにしか書かれていない。

当然全てを借りることもできないため、本棚に陣取って、端から端まで本を全て調べることにしたんだが、俺の集中力ではどうやら、三冊までが限度らしく、現在手にしている本はもはや、ページを捲るだけ。内容なんてこれっぽっちも頭には入ってきていない。


「どうしたらいいんだよ……」


やる気はあるが、それだけではこの膨大な情報を集めるなんてとても無理な話だ。

それにここは田舎にあるくせに、一つの分類に対して十万冊という噂がある程に本の所蔵量が半端じゃない。

それ全てに目を通し、かつ必要な情報だけを取り出していく。

とても標準クラスの脳みそを持つ俺には身が重すぎる。


「……そもそも、ここに書かれているのって本当なのかよ」


と元も子もない事を言ってみたりする。

ここに書かれているのは宗教に関する歴史やそれに付随する偉人たちの伝説や偉業について。

しかし、今はその全てが眉唾ものなんじゃないか、と思ってしまうものばかりだ。

一部に関してはもはや笑い話にもならないくだらないものばかり。

本当にこんなことあんのかよ。


「たっくん、まだ探し中なの?」


……なんて思っちゃいけないな。

なんせ俺の目の前の現象も、そのくだらないものに分類されかねないものなんだから。


「全く見つかんねえな」

「何探してるの?」

「…………」


不意の質問に思わず心臓が跳ね上がる。

これを佳世に話してもいいもんだろうか。

もしかしたら佳世を傷つけてしまうんじゃないか、と一抹の不安が過ぎる。


…………。


いや、話してしまおう。

そうだ。そもそもこんなこと隠してても仕方がない。

秘密にしてても、こんなに一緒にいているんだから、いずれバレることだ。

なら、今話しておいた方がいい。


「……使者蘇生の方法についての本」


その言葉に佳世は少し顔を強張らせた……ように見えた。


「——それって、私の為?」

「じゃなかったら、こんな辛気臭いところこねぇよ」

「…………」


佳世は少し首を俯かせる。

予想外の反応だ。


「生き返りたいわけじゃないのか?」

「…………」


返答がない。

もしかして、また知らずに佳世を傷つける何か言ってしまったか?

返答がないと、俺もどう反応すればいいのかも分からない。

しばらく、二人の間に重い空気が漂う。


……………………。


嫌だなーー。この空気がすげーー嫌だ。

このままじゃ気分まで悪くなってくる。

この場合、事情を知らない第三者が介入してくると、空気が一変するんだが、あいにくそんな休みに図書館に来る殊勝な友人は……


「あれ、先輩じゃないですか?」

「ん?」


どこかで聞いたような声。

俺に先輩という人間は、恐らく世界中見渡しても一人ぐらいだろう。


「ああ、昨日ぶりだな。えーーと……」

「木下さん」

「そうだ! 木下だよな! 夏休みなのに図書館なんて随分真面目だな」


佳世のアドバイスを受けるまでのロスを埋めるように図書館にあるまじき大声でそれをごまかそうとするが、そんなことを気にする様子もなく、後輩……じゃなく、木下は昨日よりも元気そうな顔色をしていた。


「いえ。ここに来たのはその……これを借りるためで……」

「えっ……?」


目の前に差し出されたCD。見た瞬間、佳世が苦虫を噛み潰したような顔をする。

そこには滴る赤黒い血でこう書かれていた。


『本当に起こった怪奇現象』


「そういうの、好きなのか?」

「はい! ここって結構大きな図書館じゃないですか。だから、夏にこういうのを毎年仮にくるんですが、それでもまだ全部聞ききれていないんです! それに何度も聞いても面白いものもあって、このCDには昔起きた殺人事件を基にした……」

「あーー、あーー! 聞こえない聞こえない!」

「すまん木下。ちょっとやめてくれないか?」


佳世の様子からして、ここでこんな話をするのはやばい。

卒倒するならしっかり椅子に座ってからしてくれ。


「もしかして、こういう話、先輩嫌いですか?」

「いや、別に嫌いってわけじゃ……」


むしろ、大好物の部類だ。


「す、すいません。この棚の本を読んでいたのが、見えたのでてっきりそういう話もいけるんだと思ってしまい……」

「いや、大丈夫だって。もう少し、聞きたいぐらいだし」

「本当ですか!?」

「本当本当」


見るからに、この話題を広げたがっている木下の目は恋をしたかのようにキラキラと輝き、対照的に佳世は死んでいるにも関わらず目から正気が失われ、まだ話が続くのか、と見るからに嫌そうな顔を浮かべている。


「私今どうしようもなく、帰りたいんだけど……」

「こんなに話したがっているのに、それを無下にしろっていうのか?」

「うっ……」

「そういえば、先輩はここで何しているんですか? 何か本を探していたんですか?」

「そうなんだよ。知りたいことがあって調べに来たんだけど、中々それについての本が見つからないんだよ」

「その本って何ですか?」

「ああ、し……」


死者蘇生という言葉をすんでのところで、飲み込む。

そういえば、木下は佳世の一件で昨日まで精神的に追い詰められていたよな。

そんな奴にこんな話したら、また気分を害してしまうかもしれない。

ここまで綺麗な笑顔で話しかけてくれるようにもなったんだ。

だったら、ここはごまかした方がいい。


「し……。何ですか?」

「じ、実はな、俺の実家が仏教系の家なんだが、それに関して調べに来たんだ!」

「えっ? でも手に持っているのってキリストに関しての書物ですけど……」

「うちはそんなの気にしないんだよ! それがどんなものでも良いところを取り込んだクソ煮込み教なんだよ」

「へ、へーー……。そうなんですか」


言っていることが自分ですら無茶苦茶だと思える内容だったが、まあ大体事実だ。

とにかく木下は納得してくれたらしい。


「じゃあ、お邪魔しちゃ悪いですよね」

「いや、別にもう飽きたから帰ろうと思ったところだったんだ。もし良かったら、木下の話聞かせてくれないか?」

「ちょ、ちょっと待ってよ、たっくん!」


ああ、佳世よ。このまま話を切り上げれば、怖い話を聞かずに済むが……。

ぶっちゃけ、俺は佳世の怖がっている姿がもう少し見たいです、はい。


「じゃあ、あっちの席空いてるんで、座りながら」

「ああ、ほら行くぞ、佳世」

「ええーー!! 本当に嫌なんですけどーーーー!!」


***


「それでそれで、こう首からの出血が笑っちゃうほどに飛び出てくるんですよ。その映画!」

「ああ。俺も見たけど、あれってホラーってよりもスプラッタの部類だよな」

「そうですよね! あれはホラーってのはおかしいですよね」


会話しても迷惑にならないように、併設されている市民会館に場所を移し、俺と木下は会話に花を咲かせている。


「うう……。もう……勘弁して」


座ってはいるから、卒倒されても問題はない。

さあ、佳世よ。ここならいくらでも気を失っても俺は気にもしないから大丈夫だ。


「それにしても、そんなに木下は心霊系の話好きなんだな」

「はい。ホラーっていいですよね。なんか、こう決められた事に逆らっている感じがとても好きです」


なんかすごい独特の観点な気もするが……。

それに、木下は分からないとは思うが、お前が憧れて止まない幽霊は現在、お前の近くにいて、お前の話に気を失いつつあることを知ったら、どう感じるだろうか。


「あっ、すいません。お話してたら、もうこんな時間に……。これから塾に行かなければならないんで、これで失礼します」

「塾に行ってるのか。勉強頑張ってこいよ」

「はい!」


しっかりとした返事をした木下はさっさと市民会館を出て行く。


「あーー……。やっと終わった……」

「帰れば良かったじゃねえか」

「ここら辺の道まだ覚えてないし!」

「嫌なら借りてきた本でも読んでれば良かったじゃねえか」


横にはバッグに十冊程の本が収められている。

半分は俺の。半分は佳世の借りたものだ。

全て小説だが、分類はミステリー、純文学など多岐にわったっている。

こういう暇つぶしの為に借りてきたんじゃないのか?


「そんな話されて集中して読めるわけないじゃん! バカじゃないの!?」

「お前、昨日の一件から俺にまた一段と容赦なくなったな……」

「それよりも帰って昼ごはんにしよ。今日はお母さん達も外出してるんでしょ? 私が何か作ってあげようか?」

「ああ、頼むよ」


昨日の違和感は気にはなるが、はっきりいってもうスーパーの惣菜も母親の料理も勘弁だ。

やはり人間可能な限り美味いものを食べたい本能があるのかもしれない。

佳世と手を繋ぎ、市民会館を出ていく。












それ以降、俺はこの木下という少女に会う事は二度となかった。


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