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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第4章:緊急避難
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仲直り

「ただいまー」


麗奈が帰りを知らせても、誰も返事をしない。

それもそうだろう。いつも両親は明日も早いと9時を超えずに寝てしまうのだから。

しかし、居間のガラスドアからは光が漏れている。

どうせ、あいつだろう、とドアを開くと予想通り、竜哉が設置式のゲームをテレビに接続し、遊んでいる。ヘッドホンをしている為に、こちらの帰宅にはまだ気付いてはいない。


「はあ〜。これだから……」


ふと、さっき聞いた話を思い出してみる。


「竜哉が女の子をね……」


何度繰り返しても、実感が湧かない。

昔は、あんなに姉ちゃん、姉ちゃんと何かあればこっちに無茶振りを要求してきたこいつがいつの間にそんなに立派になったのやら……。


ちらっと弟の背中を見てみる。相変わらず肉付きだけはいい。半袖から覗く腕は丸太のように太く、逞しい。

ゲームのキャラのように強くなりたいと、空手を始めてもう六年ぐらい経つだろうか。

理由は不純だが、長い間よくやったものだ。

話では県内でも中々のところまでいくらしい。


「まあ、私には敵わないだろうけ・ど・ね」


ドンッ


麗奈は画面に夢中の弟の背中を思いっきり蹴り飛ばす。


「おおおおぉぉ!! びっっっっっっくりしたああぁぁぁぁぁーー!!」

「ただいま」

「姉貴!せめて、肩叩くぐらいにしてくんない!」

「ああ、分かった分かった」

「全然分かってないだろ!」


じーーっと麗奈は竜哉の顔を見る。


「なんだよ?」

「あんた彼女はいんの?」

「いねえよ」

「だろうね」

「返答に慈悲がない!」

「彼女欲しいの?」

「なんだよ、藪から棒に……」

「いいから」

「……欲しいちゃ欲しいな」

「そうか……。じゃあ、姉ちゃんが慰めてあげよう」

「ええ……。俺、Dカップないと女として見れないんだけどなあ」

「てめえら揃いも揃って本当に私に容赦ないわね……。ゲームに一晩付き合ってあげるってだけよ」

「……大丈夫なのか。明日早いんじゃねえの?」

「明日は全部おやすみ。暇だから言ってるの」

「ふ〜〜ん。じゃあ、久しぶりに協力プレイするか」


竜哉は部屋を出てしばらくすると、コントローラーをもう一台とヘッドホンを持ってきた。


「はい」

「そういえば、これ昔と操作方法とか同じよね?」


ゲーム機に触るなんて、記憶にある限り、高3の時に嫌々手伝わされた時以来だ。

言ってみたものの、自分がうまく操作できるか不安だ。


「大丈夫だよ。昔とあんま変わらねえし。もし、駄目だと思ったら、直ぐに行動不能にしてやるから」

「説明とか無しに役に立たなかったら、切り捨てられるのね……。あ、でもちょっと待って。お風呂入ってくるから」

「なに。このフェイント」

「すぐ上がるから」


再びドアを開き、自分の部屋がある二階を目指す。

湿気の混じった熱が体を包み込み、不快感を与え、汗が噴き出してくる。

早くさっぱりしたいと、階段を手すりに手を掛けた時——


「選手交代」

「え?」



背後で聞き覚えのない声がした。



***


「さて、たっくんは何故、正座させられているか分かってるよね?」

「……はい」


帰宅した俺は自室の床に座らされ、前方には笑顔の裏に黒いオーラを漂わせている佳世がいる。

もちろん、これはファミレスでの一件の続きだ。

しかし、こっちだって理不尽に怒られてる気がして、良い加減俺の堪忍袋の尾も限界どころか千切れかかっているぐらいだ。

そう。今まさに俺と佳世との全面戦争が始まろうとしていた。


「あのさー。これいつまでやるんだよ。ファミレスでもあんなに怒ったのにまだ足りないのかよ」

「そういう態度が反省しているように見えないんだよ。なんで、分かってくれないの?」

「分かってるって……。だから、もう機嫌直せって」

「機嫌なんて最初から悪くない!」


唐突に佳世は声を張り上げて、鋭い視線をぶつけてくる。


「なんで、そんなにあの人とは久しぶり会ってもあんなに仲良くできて、私にはそんな気を使った扱いをしてくるのよ!?」

「そんなに仲良くねえって……」

「してたじゃん! 近くにくればイチャイチャと!」

「久しぶりだから、話が弾んだだけだって」

「じゃあ、なんで私には余所余所しくしてんの!?」



声が段々と大きくなっていき、次第に涙を浮かべ始める。


「お、おい。泣くことな……」

「うるさい! 黙れ!」


立ち上がり、手を差し出すが、思いっきり弾かれてしまう。そこそこ痛い。

そして、佳世は本格的に泣き出し、倒れるように床に座り込んでしまう。


「うう……」

「…………」


もう、何が何だか……。

これまでの経緯をひたすら頭の中で思い出してみるが、本当に怒られている理由が分からない。

確かに麗姉とは思った以上に話が弾んだが、そんなに機嫌を悪くするような内容だったか?

俺は佳世とも麗姉も同じに扱っているつもりだ。しかし、佳世にはそうは見えていないらしい。なら、それは俺の不備だったのかもしれない。


「悪かったって……。どうしたら、許してくれるんだよ?」

「……抱きしめて」

「……あ?」

「思いっきり抱きしめて」

「…………」


若干の恥ずかしさはあるものの、俺は膝をついて、佳世を後ろから抱きしめる。


「もっと強く」

「……こうか?」

「もっと」

「ん」

「もっと!」


要望通り、俺は限界まで強く佳世を抱きしめる。

もう、これ締め技になってんじゃねえか。苦しくないのか?


「…………」

「…………」


それから、10分ぐらい経っただろうか。俺の腕に佳世が手を乗せてきた。


「……落ち着いたか?」

「うん。ごめんね」

「なんで、お前が謝るんだよ」


回していた腕を解きながら、俺は謝罪を受ける。


「うん。やっぱり、さっきまで私も幼稚だったなって思ったの。なんかね、たっくんが他の女の人と会話してたのを見て、不安になっちゃたのかも。もしかしたら、このまま私をほっぽり出して、どこかへ行っちゃうかもって思っちゃって……」

「おいおい……」


そんなくだらない理由で怒ってたのか、と言おうとした口を反射的に抑える。

新しい喧嘩の火種なんか今は欲しくはない。


「でも、たっくんに抱きしめてもらって、近くにいてくれているんだなって実感できたんだ。ありがとね。今回は私が悪かったわ」

「じゃあ、この話も終わりにして」

「うん」

「夏休み開始記念の朝までゲームざんま……」

「寝なさい」

「いや……、ゲー……」

「私とお風呂に入ったら、速やかに私と寝なさい」

「ちょ、ちょっと待って。まだ、夜の10時……」

「私の言うことが聞けないの?」

「そ、そのスプーンはどこから取り出したんですか、佳世さん!?」


どうやら、夏休みになっても、俺には夜更かしの自由はないらしく、佳世の言い訳をさせまいとする言葉からのオーラで俺は碌な反抗もできずにそれから1時間後には就寝というなんとも夏休みらしからぬ、健康的な生活を送ることとなった。


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