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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第3章:混迷学舎
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最後の登校

「…………」

「なんだよ。眠いのか?」

「えっ。あ……うん」


学校への登校中、佳世はただ黙って俺の自転車の荷台に乗っている。

いつもなら、こっちの機嫌など御構い無しに速射砲並みにバンバン話しかけてくるくせに。


「やっぱ、幽霊も睡眠は大事ってことなのかね〜?」

「……そうなのかな」


元気がねえな。こちとら謎の午後登校で気分が落ち込んでいるってのに、さらに悪くなるじゃねえか。


「それにしても、たっくん二人乗りなんてできる体力あるんだね」

「どれだけ俺をもやしだと思ってんだよ……」


聞くからに空元気なのが分かるが、俺は気付いていない様振る舞う。

まあ、確かに俺には体力も運動神経も貧弱だが、見知っている道ならなんとかなるもんだ。

バランスにさえ注意すれば、思ったよりも運転はいつもと変わらない。

これなら学校までスイスイ行けるんじゃね? と少し慢心した俺は後々酷い目に合わされる事を今は知らなかった……。


***


校門を抜けて、駐輪場に自転車を止める。


「………………」

「えーーと……大丈夫?」

「だ……いじょう……び」


肩で息をする。背中はびっしょり。髪から滴る汗が鬱陶しい。

見くびっていた。まさか、あそこまで上り坂が強敵になるとは……。

っていうか、なんで霊体のくせに体重があるんだよ。めっちゃ疲れたわ。

それに、必死に漕いでる時にはガンバとか言ってくんじゃねえよ。

そんなこと言われたら、フルスロットルかけちまうだろうが。


「そ、それにしても……、やっぱりって感じだったな」

「うん……」


校門を通ると、自転車なり、歩きなりで登校する生徒が結構いたが、俺と佳世が自転車で仲良く二人乗りなんて青春チックなことをしていても、誰もこちらを見向きもしなかった。

これでも佳世はちょっとした有名人で影ではファンクラブの噂さえある。

それを俺が独占していると知れたら、どっかの仕事人よろしく知らずの暗殺されてもおかしくない状況だ。

それをシカトする……。見えていないと考えるのが妥当だろうな。


「お袋と親父が馬鹿になった訳じゃなかったんだな」

「たっくんって親に容赦ないよね……」


愛しい息子を揃って放し飼いにしていれば、親にたいする感情も雑になるだろ。

まあ、おかげで今まで一人暮らしのような気ままに過ごしていたのに、なんだって佳世が俺に取り憑いてから、こんなに家族が集合するんだ?


「このままの勢いで兄貴が帰ってこねえだろうな……」

「え、別にいいんじゃないの?」

「良くねえよ。お前は兄貴を知らないからそんなことが言えんだよ」


***


兄貴武勇伝その1

不発弾を発見し、面白半分に弄り、誤爆させる。

軽症


兄貴武勇伝その2

夏休みに海に友達と出かけたきり、2日帰らずに沖合で漁船に全裸で回収される。

軽症


兄貴武勇伝その3

修学旅行時、清水寺から自作グライダーで飛び出したが、失敗し落下。

軽症


兄貴武勇伝その4

達海に無理やり女装させ、襲う。

未遂


***


——うん。言える訳がないな。特に四番目。

あの時は本当にビビった……。今でもトラウマだ。


「大丈夫? 顔真っ青だよ」

「——ちょっと嫌なこと思い出したんだよ。深くは聞かんといてくれ……」

「?」


下駄箱から上履きを取り出しながら、俺はなんとか過去の凄惨な記憶を忘れようとするが、無駄だ。

思い出してしまうと、服についたシミ並みに取りづらい。


うんうんと唸ってる間に三階の二年生フロアに到着。俺のクラス——2—Cに入る。


「なんか、このクラスちょっと狭くない?」

「そりゃ、特待生組のクラスと比べられちゃ相手にもならないでしょうね」


佳世の所属はAクラス。学年で学力トップ30人が集まる通称『特待生組』と呼ばれるクラスだ。逆に俺のクラスを含めたB〜Dクラスは標準組。なんとか頑張って大学に進学できるレベルの奴らが集まる。

しかし、俺はAクラスが羨ましいと思ったことは一度もない。

あそこは本当に勉強をする為だけに学校に来ている奴らの吹き溜まりだ。

気持ち悪いことこの上ない。もっと高校生といえばやることがあるだろうが。

友達と遊んだり、部活に勤しんだり、イベント中に恋人作ったり……。

俺? やる訳ねえだろ。やる時間あったら直ぐに下校する。


「それにしてもなんかしんみりしてるね」

「……お前はもうちょっと自分が死んだことを自覚した方がいいんじゃねえか?」


こいつらもやるせねえな。せっかくの夏休み前だっていうのに、学年から一人顔見知りがいなくなったんだから。

そんなんじゃ夏休みだってはっちゃけられないよな……。


「今日で、ようやくこっからおさらばできるな、道成寺!」


空気を読めない奴が現れた。

どうする?

→シカト

→無視

→他人のふり


「夏って言ったらやっぱり出会いだよな! 彼女とか作ってワッショイワッショイしちゃおうかなーー!」


ああ……、視線が痛い。

周りのこっちを見てくる視線が痛いよ……。


「嫌だ……。またあの馬鹿コンビよ。こんな時になんて不謹慎なのかしら……」

「なんて可哀想な奴らなんだよ……」

「あいつらがいなくなればよかったんじゃね?」

「もしかして、あいつらデキてんのか?」

「カップリング的には最高だわ……!」


ヒソヒソと会話をしている程を装ってはいるが、完全にこっちにも聴こえるようにしている。

というか、馬鹿コンビとか、可哀想な奴らってなんだよ! 俺入ってるの!?

なんで、巻き込まれなきゃいけないんだ……。


「ハアハア……」

「なに興奮してんだよ、佳世!」

「放課後の教室。眠るたっくんを起こす坂本くん。起きたたっくんに坂本くんがすかさずに接吻。慌てるたっくんに坂本くんが一言。『ずっと好きだった』。無碍にも断れないたっくんはそのまま教室で……」

「待て待て待て待て待て待て!」


幾ら妄想だからってそれ以上は聞きたくはない!

頬を高揚させ、顔をニヤつかせる佳世の口を俺は両手で塞ぐ。


「おーーい、朝のホームルームだ。座れ〜、馬鹿コンビ〜」


前のドアから吉田が名簿を持ちながら、教室に入ってくる。


「あ〜〜、ようやく明日から、待ちに待った夏休みだが……、お前らも知っているように、先日不幸な出来事があった。それについてもこれから体育館で校長から話があるので、これから体育館に行く。廊下に並べ〜」


ああ、やっぱりそのことについて話すのか。

椅子から腰を上げながら見た佳世の顔は、浮かない顔をしていた。


「ここにいるか?」

「うん……」


俺が座っていた席を佳世に譲り、廊下に出て行く。

やっぱり、自分の事を話されるのは嫌なんだろうか。

少し心配しながら、俺は列に従って、その先の体育館へと向かった。


***


「……これから始まる夏休みは決してダラダラと休むために設ける休みではありません。皆さんが規則正しく、生活するよう心がけてください」


マイクを通し、お決まりのような校長のおしゃべりを俺は右から左へと聞き流していく。

冷房きいてねえ。日差しバンバン射し込んでくる。近くの準備室から漏れ出る埃臭さが鼻に着く。

そんなどうでもいい話はいいから、早く終わらせてくれないかな?

誰か倒れちまうぞ。


気を紛らわせようと、周りを見渡すと、近くの生徒の顔からも苛立ちを浮かばせている。考えていることは、皆同じらしい。

しかし、隣のBクラスの先に本来いるはずの奴らが居らず、そこだけ謎の空間が空いている。

……Aクラスは不在か。勉強大好き共はクラスメイトがいなくなっても健在だな。まったく……反吐が出る。


「というわけで、夏休みの諸注意でした。それと皆さんに悲しいお知らせをしなければなりません」


宣言通りきたな。校長の声も若干上ずっている。


「我が校で生徒会長を務めてくれていた、2—A所属の不知火佳世さんが、三日前、お亡くなりになりました」


死因を言わないのは、生徒たちを気遣ったのか、それとも学校のイメージを守ろうとしているのか。


校長の言葉に聞いていた生徒たちがざわつき始める。

いくらメールで分かっていたからといって、静かにはできないんだろう。

中には倒れて保健室に運ばれて行く奴までいる。


「今、ここで黙祷を捧げたいと思います」


持っていたマイクをスタンドに戻し、校長は真っ直ぐに背を伸ばす。


「……黙祷」


教師を含めたその場の全員が目を閉じ、その場に静寂に包まれる。


「……すん、……うっ」


しかし、それも長くは続かない。

数秒もせずに、誰かが泣き出す。

それが発破となり、大多数の生徒が涕泣していく。


佳世よ。皆お前の為に、泣いてくれてるぞ。悲しんでいるぞ。

お前は自分が死んだ事を別に良いじゃんって言ったよな。

別に良くないんだよ。大切な命なんだよ。少なくともここにいる奴らは、お前を大事にしてくれていたんだぞ。

それなのに……なんで死んじまったんだよ。


頰を伝う冷たい涙を、俺は拭き取ることも止めることも出来なかった。


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