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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
第2章:深まる昵懇
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何かを仄めかす過去

「……微妙」


スーパーで惣菜を買ったのは良かったが、どれもこれも味気ねえ。

やっぱ、料理は愛情って本当なんだな。


「やっぱり、私がなにか作る?」

「いや、これ食わなきゃいけないしな……」


佳世の気遣いは嬉しいが、買ってしまったんだから仕方ない。

それに今、佳世に包丁を持たせる事に、俺は躊躇していた。

というか……


「お袋、出かけるなら電話寄越せよ……!」


覚悟して帰ってきたのに、いざ家に入ればもぬけの殻。

何処かへ遊びに言行ったらしい。


「たっくんのお母さん、遅いね?」

「どうせ、どっか飲み仲間と飲んでんじゃねえの」


お袋は帰ってきたら、だいたい知り合いに帰ってきたと報告して、そのままどっかで酔い潰れている。

今日もそうなんだろう。


「ただいま〜〜!!」


玄関の方からお袋の雄叫びが飛んでくる。

珍しい。声からして酔っ払っているは確かだ。それなのにこんなに早く帰ってくるなんて。


「おかえり」

「おお、帰ってたのか〜。愛しき我が子よ」


こちらに気づいたお袋が陽気に返事をする。顔は火がついたように真っ赤かでだらしなく口が半開きになっている。

その手には何かを掴んでいた。

土産かと思ったら、


「親父?」


顔をまっ白くして、ぐったりとした俺の父親が首を絞められながら、昨日ぶりの帰宅を果たした。


「それは?」

「それはって、たっくん……」


実の父親をそれ呼ばわりする俺に軽く佳世が窘めてくる。

だって仕方ないだろ。全く帰ってこない親父に尊厳とか威厳とか言われたくない。


「ああ、これ? なんか私が北条の家に行ったらそこに居たんだよ。だけどね、この馬鹿、私の顔見るなり逃げるもんだからさ。捕まえて、ちょっと小突いたら大人しくなったから、そのまま連れ帰ってきたんだよ」

「ヘ、ヘルプミー。達海……」


意識があったのか、こちらに手を差し出して助けを求めてくる親父。

知るか。呑んだくれてるから、そんなことになるんだ。丁度いい機会だから、少し懲りてもらわないとな。


「じゃあ、俺は飯食い終わったから、風呂入って寝るわ」

「おお。分かってるね〜」

「待って……。おい……て……かないでくれ……」


父の懇願は聞こえていたが、何もなかったかのようにスルーする。

親父よ。俺も苦しいんだ……。これから親父の身に起こることはきっと地獄なんて生易しいものなんかじゃないと思うが……俺は今、お袋の味方だ。


「いいの?」

「いいの」


佳世が親父の安否を気にしているが、俺は実害がなければそれでいい。


『さあ、ダーリン。昨日作ったシチューが残ってるから、温めてあげるね♡』

『いやああああああぁぁぁぁぁーー!!』


あのシチューを消費してくれるとはありがたい。もったいないと残していたのが功を奏したな。

別に、洗うのがめんどくさかったから残した訳じゃないから。ここ大事。

壮絶な事になってるであろうリビングに背を向け、階段を昇る俺は尊い犠牲に対して心の中で敬礼をした。


***


「佳世よ……」

「何?」

「い……良い加減出ないか?」

「えーー。まだもう少し入ろうよーー」


背中越しに聞いてみるが、佳世は一向にイエスと言ってくれない。

親父を見捨……ランデブーの邪魔をしないように、俺は昨日の約束通り、佳世との混浴に40分程勤しんでいる。

そのせいか、体は火が出そうなほどに熱く、意識が朦朧として定まっていない。


ぴ……ちょん


「ひゃい!」


天井の水滴が背中に落下し、変な声を出してしまった。


「あはは! たっくん、可愛いーー」


こいつ、随分と笑うようになったな。

いい事なんだが、まだ慣れないのでバカにされている感じが少しする。


「……出る」

「ダメダメ! ごめんね!」


怒ったふりして逃げようとするが、素早く腕を握られる。


「いや、もう十分暖まったから」

「夏だからって、体を冷やすのはダメだって。もう少し」

「そのもう少しっていつまで続くんだよ! 良い加減ゆでダコになっちまうよ!」


こうなりゃ無理にでも、上がってやる。

しかし、全く佳世から腕を振り払えない。

こいつ、見た目以上に力あんな。


「とにかく、湯船に戻って!」

「いーーやーーだーー!」


必死に抵抗を試みるが、拮抗状態を中々抜け出せない。

すると、佳世が隙を突いて俺の両肩を掴んでくる。


「も・ど・り・な・さい!!」

「ゴバッ……!」


力任せに湯の浸かるどころか、バスタブの床に思いっきり叩きつけられる。

もちろん湯は張っているので、呼吸もままらない。


「そんな暴れないの!」

「ボババ……! アンボボボ!」


待って! とりあえず、その手を退けて!

死ぬ! いや、本当に死んじゃうから!

お願い! マジでマジでマジでマジでマジでマジでマジでマジでマジで……


「…………」

「やっと落ち着いた。もう、そんな暴れちゃ……」

「…………」

「たっくん?」


***


「ねえ、たっくんは将来どんなお仕事したいの?」

「うーーん。パイロットさんにもなりたいし、パン屋さんにもなりたいな」


夕暮れによって全てが橙色に染まった寺に植えられた木の根に座って俺と佳世が楽しそうに会話をしている。見た目的に小3ぐらいだろうか。



……何これ?


まさか……、走馬灯って奴じゃないよな。

ちょ、……嘘だろ! 道成寺達海、齢17にして、風呂で溺死ってジョークの一つにもならねえよ!

と、とにかく戻——どうやって帰りゃあいいんだ?

やべえよ……。早く俺、目醒めろよ。他に助けてくれそうなのは……。

佳世……しかいないよな。だけど……、あいつか……。

もしかしたら、俺が溺れたって気付かずに、ほったらかしって可能性も……。

いやいや! 流石に目の前で動かない奴いたら、助けるよね! 普通助けるよね! そうですよね、佳世様?

嫌ですよ……。まだ、女子と付き合ってもいないし、残ったゲーム片づけてないし!


「ふふ。たっくんはなりたいなものがいっぱいあるのね」

「うん! 佳世姉ちゃんは何になりたいの?」


絶体絶命のピンチに自分のあらゆる知識を総動員し、悩みに悩んでいるところに、昔の俺たちの会話が耳に入る。


懐かしい……。昔の俺って佳世姉ちゃんって呼んでたんだな。


「何になりたいかな。うーーん……。…………ごめん。すぐには出てこないな」

「えーー、なんで?」

「未来が見えないっていうか……、今はそんな事考えてる場合じゃないから」


……なんか、昔の俺馬鹿っぽいな。

足と腕に数え切れないぐらい傷跡がどれだけ注意力散漫なのか教えてくれる。

逆に佳世は大人っぽい……のか?

昔は勘付かなっかが、なんかこの時の佳世って儚くて、見失ったらどこかへ行ってしまいそうな感じで、着ている白ワンピースがさらに拍車をかける。


「私にね、もうすぐ弟ができるんだ」

「え、そうなの! いいな〜。うちにはお兄ちゃんしかいないし、威張っているからあんまり好きじゃないんだ」


そうだ。あのBS2だって本当は俺がお袋に取ってもらったのに、それを横取りされたんだったな。

まあ、こん時の俺には操作も満足にできないだろうから、宝の持ち腐れなんだけど。


「……生まれてこなければいいのに」

「そんなこと言っちゃダメだよ! 可哀想じゃん」

「——そうよね……。可哀想よね……。でも、弟が生まれてくると、私に良くないことが起きるって……姉様に言われたの」

「そ、そうなの?」


佳世の顔の涙に昔の俺があたふたと動揺しながらも、ポケットに入っていたハンカチを渡す。

馬鹿の割に紳士だな。


「……ありがとう。でね、今日はたっくんにお願いがあるの」

「何?」

「もし、私に何か良くないことが起きたら、たっくんに助けてもらいたいの」

「うん。分かった! 姉ちゃんは必ず僕が助ける!」

「お願いね」

「任せて。僕はいつも姉ちゃんの味方だからね!」


笑顔でそんな小っ恥ずかしいことを言うなよ……。

こっちの顔が赤くなるだろ。


「で、助けるって何をしたら良いの?」

「それは……」


***


「生き返れ、たっくん!」

「ごっ……!!」


突然、鳩尾に入った衝撃が全身を駆け抜け、暗かった眼球に突如として光が入る。


「mぢえkwjしqjqじゃい!!」

「良かった……。たっくん生きてたんだね」


良かったじゃない! 心臓マッサージは死にかけの人間にとどめを刺すものじゃないぞ! 声にならない悲鳴を上げながら、俺は脱衣所を転がり回る。


「ちょ……、お前は手加減ってものを知らないのか……。危うくお前と同じになるところだったわ!」

「惜しい……」

「おい」

「冗談だって。冗談」


冗談に聞こえんわ。

でも、とにかく助かったんだな、俺。


「……ありがとうな。助けてくれて」


一応は助けてくれたんだ。礼ぐらい言わないとな。


「いいよ。これでたっくんが私とデートすることになったんだし」

「ああ、そうだな。デート……」


うん。今明らかに不審な言葉が入ってたよな。


「デート?」

「デート」

「デートってなんだよ」

「一緒に外に出て、食べたり、遊んだり……」

「そういう意味じゃねえよ! なんで、俺とお前がデートするんだよ!」

「良いじゃん。デートしようよ」

「ふざけんな!! そもそも、お前が勢い余って沈めたから死にかけたんだろうがそうじゃなくてもこちとらのぼせてんだよ頭がズキズキしてんだよそもそも……」

「私とするの……嫌なの?」

「嫌な訳あるか!! むしろ、お願いします!!」


そう言われたら、何も反抗できねえじゃねえか……。

流石に幽霊が金持ってると思えないから、全部俺が出すのは目に見えていいるが……。大きな出費になりそうだ。


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