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俺と彼女の死亡遊戯  作者: 松竹梅
プロローグ:避暑
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あの時、あの人と、あの場所で

ミーーンミンミンミン……


「………………アブラ……」

「ミンミン蝉だよ……。たっくん」


隣でアイスの果実を口に運ぶ佳世から鋭いツッコミが入る。


太陽の元気が限界に達している8月中旬。

そんな日に外に出ることなど最早、自滅に等しい行為だが、俺は現在その真っ只中で幼馴染と仲良くアイスなんか食べていたりする。


それもこれも家のエアコンが全てぶっ壊れるという不幸中の不幸に見舞われた為だ。

なんだってお前らが一番活躍する時期に壊れるんだ。まったく……


「でも、風もあるし、日陰だし思ったよりも涼しいね」


避暑地として選んだのは、道成寺本殿の軒下……つまりは実家の寺で、ここには本尊が祀られている。

本尊を本殿で祀ってるって……、とは思われるだろうが、道成寺は基本的になんでもありを地でいく宗派なので、宗教活動ならクリスマスだろうが、ラマダンだろうがOKになっている。

自分の実家ながら、先祖達は一体何を考えてたんだ…。


ここは本殿がある以外は寺の周囲を囲む木しか無いので、暑さのせいか普段は子供の遊び場にもなっているが、今はその子供達の姿すらも見当たらない。


「そもそも暑すぎるんだよ。こんな日に外に出るなんて……」

「だったら、図書館にでも行ったら良かったじゃん」

「ふざけんな。あんなカビ臭い古紙ばっかりの所なんか二度と行くか」

「デパートも潰れちゃったし、此処らへん本当に行く所ないよね」

「いや、個人的には坂本の家にでも行ってゲームでも……」

「それは本当勘弁」


すかさず拒否反応を起こす佳世。

まあ、女子にしてみればドン引き確定の魔空間だからな、あそこ。


「…………」

「何?」

「それ一つくんない?」


日差しがストレートに当たってないとはいえ、暑いものは暑い。

そんな中、隣でこれ見ようがしに見せつけられると、食べたくなるのは、世の常だ。


「嫌だよ。だって、たっくんコンビニで出たらすぐに食べちゃって、一口もくれなかったじゃん」

「いいじゃねえかよ。一つくらい」

「……一つだけだからね」


両手を合わせ必死に頼むと、渋々ながら佳世は渡してくる。


……視線が痛い。こちらが本当に一つしか食べないか監視している。

そんなに信用ないかね。お前に嘘ついたことあんまないんだけどな……。


「……ああ、やっぱり美味いな、これ」


ぶどう味が口の中に広がり、体を冷ましてくれる。

もう一つ欲しい衝動に駆られるが許してくれなさそうだから、大人しく返す。


「でしょ」


返してようやく鬼の形相をやめて、再びアイスを食す佳世。



夏のなんて事もない日常。

しかし、俺が長年願っても決して叶う事など皆無だった日常。

そんな日常は後いく日残されているんだろうか。


騒々しくも懸命に鳴く蝉の声は今の俺には切なく聞こえた。


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