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約束の場所(2)

「廃校の木造校舎と体育館がギャラリーになっているんだ。其処から見て行こうか?」


豪太さんに誘われるままに、私は頷いた。

手を引かれて木造校舎の方へ向かう。


「観覧料、無料なの?公共の公園ってわけじゃないのに」

「そう、スゴイよね。でも代わりに受付に募金箱があるから、来た人は大抵幾らか入れて行くんじゃないかな?ゴミ拾いや草刈りだけでもここまで綺麗に維持するのって大変だよね。かなり広いから、普通に人を雇ってしまったら維持費だけでも膨大な金額になるだろうし……。寄付金だけじゃなくて、たくさんの人達がボランティアで経営に関わっているみたいだよ。」

「確かにお金……かかりそう」


公園も広いし、元学校のギャラリーも広いだけでなく古くて維持するのが大変そうだ。清掃とは別に、北海道では暖房費もかなり掛かるし。しかもここ、美唄市を含む空知地方は山間の所為か豪雪地帯に入っている。維持管理の為に駐車場と校舎の出入口を除雪するだけでも、費用は相当掛かるだろうなぁ……。


「NPO法人が運営していて、清掃活動だけじゃなくてギャラリーの案内やカフェやイベントのスタッフもボランティアが行っているんだ」

「すごい。でも大変そう」

「それがね、参加しやすいように工夫しているんだ。ここを架空の『市』に例えてるんだ。会費を納めるとその『市民』になれてイベントに安く参加できる。『市民』が積極的にボランティアに関わったりもする。名前が面白いんだよ、市民は『ぽぽろ』、中学生以下の市民は『子ぽぽろ』って言うんだ」

「『子ぽぽろ』って……可愛い」

「面白いよね?だから関わっている人達が楽しそうに見えるのかもな―――ここの受付の人とかすごくニコニコしているから、こっちまで楽しくなってくるんだ」




そう言って受付に向かったら、本当にそこに立っている人が『ウエルカム!』って感じの歓迎ムードでニコニコしていた。募金箱にお金を入れて、パンフレットを貰い受付に背を向けた時、思わずクスリと笑いが漏れてしまった。


「本当だった……!豪太さんの言ってたこと」


すると豪太さんも、楽しそうにフフッと笑った。


「ね、きっと受付の人もここの作品が大好きなんだよね。ワザワザここまで足を運ぶ人も安田完の作品が好きで来てるって分かっているから、あんなに歓迎してくれるのかなって想像して―――来るたび嬉しくなるんだよね」

「口に出さなくてもそう言うのって、伝わるよね」


それから少しギシギシ言いそうな、趣の木造校舎の中を順路通りに私達は歩いた。

教室の中にポツンと置かれた作品。ぽとりと落とされたとろみのある水みたいなスベスベの白い石。これもだ―――外の彫刻と一緒。まるで現実感が感じられないような不思議な気持ちを抱かせてくれる、特別な装置みたいに感じてしまう。


「ここの作品は全部触っていいんだよ」

「へぇ、そうなんだ……なんか勿体無い気がするけど」

「手触りも含めて作品なんだろうね。大理石がヒンヤリしていて気持ちがいいから、お勧めだよ」


歩み寄ってしゃがみ込み、手を伸ばす豪太さんに倣って私もツルツルした石面に触れた。


「ホントだ。ヒンヤリしていて気持ちいい」

「でしょ。ずっと触っていたくなる。彼の作品は基本触れるからね。札幌駅のもそうだし、創成川公園のものも。あと知事公館の庭にもあって、気持ちいいからか見るたびいつも子供が張り付いているよ」

「うーん、確かにずっと触れていたくなっちゃうかも」


それから他の教室も覗いた。そんな風に一つ一つ触って確かめ、ちょっと離れて遠くから見て確かめ―――色々な作品を見て回った。体育館には特別大型の作品が展示されていた。それまで割とサイズ的にも可愛らしい作品が多かったから、異世界との境目みたいな光景に違和感を感じて暫し見入ってしまう。その黒い大きな板状の作品達は、白い石の作品よりオドロオドロシイ雰囲気があって少し怖い気がした。


その後はギャラリーを出て、少し森の中を散策する。

時折忘れられたように無造作に設置されている作品を発見して、近づいて触ってみたりした。


「無造作に放置されているみたいに見えるけど……きっと計算して置かれているんだよね」

「そうだね、そういう自然な置き方に見えているなら、設置側の意図が伝わっているって事なんだと思う」


なるほど、じゃあ私は公園を作った人達の掌の上で転がされているという事か。

そのお陰で十分に楽しませて貰っているから、コロコロ転がされても全く気にならないけど。


少し高台になった所に赤い屋根の比較的新しい建物が現れた。木造で少し校舎とテイストが似ている。そこはカフェスペースになっているようだった。


「休憩しようか」


そう言って私の手を引いて、豪太さんは扉を開けた。




次話で最終話となります。

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