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約束の場所(1)

久し振りになりますが、豪太と麗華が登場します。

全三話(予定)の後日談です。


(いまだにブックマークしていただいている方々に感謝を込めて。)


札幌インターから美唄インターまで約三十分。それから二kmほど山へ向かって車を走らせる。いつかした約束を果たそうと言って、彼が私を連れて来たのは―――この世と隔絶した夢のような場所だった。


ここはイタリアを拠点に活躍していた彫刻家の作品を展示する、野外彫刻公園だ。


「彼が日本でアトリエを探して出身地に立ち寄った時、廃校になった小学校に幼稚園が併設されていて、朽ちかけた木造校舎に通う子供達が遊ぶ様子を見て感銘を受けたらしい。それが切っ掛けで、ここに彫刻公園が作られる事になったんだってさ」

「―――まるで現実じゃないみたい……」


緑の山々に囲まれて市街地にあるような電柱も見当たらない。赤い屋根の古い木造校舎は今となってはとても可愛らしく見える。芝生の上にはところどころに現実感の無い真っ白な石で作られた大きな塊が空から落ちて来てそのまま埋まったような彫刻が、絶妙な間隔でゆったりと配置されている。正面に見えるのは四角い門のような作品と―――そこに導かれるように続く、白い石で作られた道にも見えるような人工の川。まるで天国に導かれるような光景の中で、子供達が服が濡れるのも気にせず水に飛び込んでいる様子に目を細める。


「夢の中みたいね」

「そうなんだよね。五分で市の中心部に辿り着くとは思えないくらい、現実離れした空間で。美唄市も夕張市なんかと一緒でかつて炭鉱で栄えた土地なんだ。近くにその時代の遺構も結構残っていてさ。この小学校もその名残と言えるかもね―――昔は山にベッタリ張り付くくらい住宅がひしめいていて子供が大勢いたらしいよ。映画館なんかもあったくらい」

「へえー!じゃあ今は国道沿いがまちになっているけど、この辺りも人がたくさん住んでいたんだね。すっかり緑に覆われていて、もう人里離れた雰囲気しかしないのに」


見渡す限り、目に染みるほどの緑、緑で。

そんな賑わいが存在していたなんて想像も出来ないくらい、今は穏やかな場所だ。


「そういう背景も考えると、この夢みたいな光景が更に際立つよね。時間軸まで見えて来そうで」


私の手を引きながら、目を細めて周囲を見渡す豪太さん。


本当にここが好きなんだなぁって思った。


そしてそこに私を連れて来たいって思ってくれた事が―――すごく、すごく嬉しかった。これまでも私の事を大事にしてくれているって、そう感じさせてくれた彼だけど。とても大切にしている場所に連れて来て貰えた事で―――更に深く、染み入るようにその事を実感できる気がしたから。



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