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旅行日和(3)


屋内の水槽を回っていると、イルカショーの時間が近づいて来た。


「そろそろ時間だから移動しませんか?」

「はい」


イルカショーのプールは屋内にあるが別棟となっている。階段を上って渡り廊下を進むと同じ方向を目指す人が川のように流れて建物に吸い込まれて行くのが見えた。


「けっこう混んでますね」

「人気ありますねぇ……」


俺たちは流れに乗りながら呑気に話していたが、プールの入口に着くと階段状にプールに向いた席がほとんど満員になっていて驚いた。


「十分前じゃ、遅かったですね」

「吃驚しました。小さい頃来た時もこんなに混んでいたのかなぁ、あんまり記憶にないけれど」


奥の方にかろうじて二人分座れる席があって何とか腰を下ろせた。

鍛えている所為で人より体が大きい自覚はある。多分一般男性より二割~五割増しの空間が必要になるだろう。けれども姫野さんがとても華奢で、普通より場所を取らないらしくピッタリと納まる事が出来た。


ちょうど二人分になるんだな。


二人でセット、という気がして嬉しくなる。

というか姫野さんが隣にいるだけで、何でも良いのかもしれない。小さな良い事を見つける度に、全てが自分達を祝福しているように受け取れてしまうのはどういう訳だろう。


つまりは俺、浮かれているんだな。


隣に座る俺の彼女は、ワクワクと音がしそうなくらい嬉しそうにニコニコしている。そしてプールを凝視して「あ、控えのプールの入口にもうイルカがスタンバってますよ……!やる気ありますねぇ~」なんてはしゃいでいる。




あー、もう。

……可愛いいなぁ。




もう語彙が一種類しか浮かばない。

でも良いんだ。だって今日は『デート』なんだから……!


頬が緩むのを止められ無い。今写真でも撮られたら最高にみっともない顔を晒す事になるだろう。それだけは自信を持って断言できる。






イルカショーは見事だった。

ペンギンと彼女のツーショットを撮るのが目的だったので、それほどショーに期待している訳ではなかったから余計に。


イルカ達の演技も素晴らしくジャンプは特に圧巻だったが、何より演出というかイルカの指示をする飼育員達のMCが面白い。ちょっと慣れていないイルカが失敗してもそれを笑いに変えるくらい話術が巧みで、飼育員同士の掛け合いも絶妙だった。


「すっごく面白かったですね!」


目をまあるくして彼女は興奮した声を上げた。


「うん、想像以上でしたね。今日は来て良かった」


そう言って微笑み合う。




幸せだなぁ。

俺の彼女は本当に可愛……(以下同文)




次の出し物はアザラシとトドのショーだ。イルカプールから屋外に出る。崖沿いに海へ出る事が出来るので海に接して作られているアザラシやトドのプールへ向かう。イルカショーが面白かったので、自然他のショーにも期待が高まった。


ふと坂の途中の芝生に、白い四足の生き物が二匹草を食んでいるのが目に入った。


「あれ?これは……」

「羊だ。毛刈り後だから随分スリムだけど」

「何でこんなところに羊が?」


柵の外側にある立て看板を指さし笑っているカップルがいる。

俺達もそちらの方に歩み寄って確認してみた。するとこう書いてあった。




『期間契約社員 労働条件通知書』




「ぶっ、何ですかコレ」


姫野さんが噴き出して思わず口を手で押さえる。

俺は声に出してそれを読んでみた。


「なになに……『従事すべき業務の内容:芝刈り機を使わずにすむように伸びた草を食べる』『休憩時間:好きな時に好きなだけ』『報酬:生えている草好きなだけ』……ハハハ、好待遇ですね、俺の雇い主よりよっぽど優しい雇用主ですね」

「本当!あ、こうも書いてありますよ『休憩時間の例:おなか一杯になった時、眠くなったとき、熱いので日陰で休みたい時』……!」

「すげー楽な仕事だ」

「本当ですね~!」


思わず顔を見合わせて、大笑いしてしまった。


羊をバックに彼女をスマホのカメラに収めた。

ペンギンも良いけど、これも良い。


後でどっちを待受けにするか悩みそうだな。



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