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旅行日和(2)


小樽市街を抜けて石狩湾を右に見ながら湾に沿って車を走らせる。

その昔この港に沢山のニシンが押し寄せて、漁師衆の懐を潤わせたと言う。その名残の残る古き良き時代のニシン御殿を通り過ぎると、小高い山の上に水族館が現れた。


「水族館って小学生以来かもしれません」

「俺もです」


駐車場に停めたMPWから降りて、建物を見上げながらそう言う彼女に俺も同意した。大人同士のデート先として適当なのかどうか迷ったが、何となくペンギンを見て喜ぶ彼女を見たい!と思ってしまったので今回のルートに選択してしまった。

喜んで貰えるか内心不安だったので、姫野さんの声が弾んでいる事に安堵した。


中に入ると施設は古いのだが、思った以上に人が居て家族連れだけでなくデート中らしきカップルもチラホラ目に付いた。




「あれ?コツメカワウソがいませんね?」




屋内施設を順番に回って水槽を覗いていたのだが『コツメカワウソ』と掛かれた広めの水槽に生き物の気配が無い。


「あ!あんなところにいた~!」


背後で子供の声がして振り向くと、天井を指差してキャッキャッと騒ぐ少年が目に入る。その視線の先に目をやると、アクリルのような筒が廊下を横切るように取り付けられていてその中に何か茶色いものが押し付けられていた。


「わっコツメカワウソ、こんな所で寝ていますよ!熊野さん!」


運動用なのか天井を渡された筒が廊下の反対側迄続いており、そこにも水槽が在って更に床の下にも透明な板の下をカワウソ用の通路が通っている。こちらは水中通路になっているようだ。どうやら二つの水槽を円柱型の透明な通路で繋いで、好きなようにグルグルとカワウソが行き来出来るようになっているらしい。そうして客にその様子を観察させる仕組みになっているようだ。

天井の筒の中で二匹のコツメカワウソが絡み合うように眠っており、その白いお腹を筒に押し付けるようにしていた。


「お腹が丸見えですね……」

「恥ずかしくないんですかね」

「目が覚めて皆に見られていると気付いたら、慌てるんじゃないでしょうか?」


真面目な顔で返事をするからおかしくなった。


「な、なんですか!また笑って~」

「スイマセン」


俺の冗談に真剣に答えようとする所が可愛くて、思わず笑ってしまう。彼女の行動はいちいち自分のツボに嵌るので困ってしまう。

するとコツメカワウソが目を覚まし、慌てたようにカサカサと動き出した。そして物凄いスピードで透明な通路を走り抜け、水槽の中に戻ってしまった。


「ほら!やっぱり恥ずかしかったんですよ」

「プッ……そ、そうですね……」


ちょうど餌の時間だったらしく、飼育員が魚を持って水槽の中に入っていた。

カワウソはその匂いを嗅ぎつけただけで、別に恥ずかしくて慌てた訳では無い。事前に入口付近で餌やりの時間をチェックしていたた俺には何となく予想は付いていたのだが、姫野さんは飼育員を目にしてやっと気が付いたらしい。

頬を真っ赤に染めて、肩を揺らして笑いを堪える俺の背中をドンっと小さな手で突き飛ばした。全然痛くないけどね……そこがまたいいんだよなー。


拗ねる様子が可愛らしくて、笑いが止まらない。

しかし餌やりのパフォーマンスに夢中になっている内に機嫌が直ったようだ。クルクル変わる彼女の表情を見ているだけで日々の仕事の疲れが飛んでいくのを感じる。




やっぱ俺の彼女、可愛いーなー。




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