レッスン42
熊野さんは、梶原君の肩を掴んでぐいと私から引き剥がすように押しのけた。
「俺を閉じ込めて代わりにここに来るなんて、何、考えてんだ」
「……旧交を温めに来たんだよ。いわば同窓会?お前こそ何でコソコソ姫野に会ってんの?お前、元々コイツと何の関係もないだろ?」
熊野さんは軽口を叩く梶原君を無視した。
傍にしゃがみ込み、私の肩にそっと手を掛けた。
「大丈夫ですか?」
肩からじんわりと温かさが染み渡る。
熊野さん。
熊野さんだ。
私はポカンと熊野さんを見上げたまま、声も出せずにいた。
本物だ……
「あ!……すいません。嫌でしたよね、男に触られるの。まして浩太と同じ顔の俺じゃあ……」
「おいっ、なんちゅーこと言うんだよ」
熊野さんの手がそっと離れて、肩が寂しい。
その途端強制的に現実に引き戻された気がして、パチパチと瞬きを繰り返した。
「うるさい浩太。散々、後悔した癖に強がるなよ。気になる子に意地悪するなんて、大人のする事じゃないぞ」
「なっ……なにを、ガキの頃の事を蒸し返して……」
不思議。
小学校の時の力関係は梶原君のほうが上だったようなのに、立場が逆転しているみたい。
落ち着いてみると、梶原君は顔を朱くしてそっぽを向いている。
それを見て、彼を不器用だと指摘した熊野さんの言葉がストンと腑に落ちた。
そーか。
そうなんだ。
そういうこと。
「久しぶり、先生。御無沙汰してました」
私の顔をみて、ニコリとする熊野さん。その笑顔は、破壊力ありすぎで……
気が付くと私は熊野さんに飛びついていた。
「うわっ」
熊野さんは尻もちをつく。
「熊野さんっお帰りなさいっ」
「……はい、ただいま……」
抱き着いた私を抱えて、熊野さんは戸惑ったように目を白黒させていた。




