レッスン21
怒涛の一日が過ぎて、朝が来た。
ピチピチピチ……あ、鳥の声。庭に姫リンゴの木があるから、それを食べに来たんだろうな。のどかだなぁ……。
私は、布団の中でウダウダしていた。
そしてぼんやりと、昨日の事に思いを馳せた。
「ビックリしたなぁ……」
私って見る目無いよね?
うん、無いね。
小学校の頃、トラウマになるくらい嫌いになった体育会系の元気なタイプの男の子。いじめをしてきた当人は勿論、震えが来るくらい嫌いだ……けど。
似たタイプの人まで嫌うって言うのは……間違いだ。
だって熊野さんは良い人だ。それに全然怖く無いし、信用できる。
だってビア・ガーデンの時くらいベロベロに酔っぱらった状態で、もし傍に居たのが遥人君だったら……ブルル。
今頃私、喰われちゃってたなー、それに伊吹さんと二股で三角関係に突入しちゃう……?ひょっとして。
ってか、三角関係どころじゃない。奥さんもいるんだ……って、私不倫相手になっちゃうの??そして四角関係……いやもしかしてそれ以上って事も……。
えーん、ヤダヤダ。
私の優しい王子様だったのに!希望の星だったのに!
物語の中だけじゃなくて、現実にも優しくて一緒に居ても怖く無い男の子がいるんだって、嬉しかったのに……っ!
でもそれは私が勝手に思っていただけなんだよな~。
中学でも女の子に囲まれていて、大学ではもう、遥人君は有名な遊び人だたって熊野さんが言っていた。じゃあ、本当は小学校の頃から本当はそんな性格だったの……?表面的には優しい処は変化が無いようにみえた。
遥人君が私を『初恋』の相手だって言ってくれて、ちょっと嬉しかったのに。両想いだったの……!ってさ。
でもそれもきっと、ホテルに連れ込むための嘘なんだろうなぁ……。
うん、そうだよね。
おかしいと思ったんだ。
この地味な私が好かれるワケないよね。あ、友達としてなら好かれる事もあると思う……落ち着くとかいい奴だとか、よく言われる。女子評だけど。
でも恋の相手としては――――伊吹さんみたいな出来る系の美人じゃないし、高橋さんみたいに可愛い気の利く明るいタイプでも無い。
特に好かれる要素は無いもんな、うん。自信を持って頷ける自分が悲しいけれど……。
それにしても、そう考えると遥人君って本当に節操無いな。
誰でもお構いなし……?
そういえば、あの飲み会の時、伊吹さんと遥人君って落ち合う約束とかしてなかったのかな……。
「……してたかも」
だって電話で話していた。予定が変わったとか何とか。もう帰ったからまた今度埋め合せするって……あれ、もしかして……伊吹さん?!
じゃあ、伊吹さんと会う約束をしていたのに、嘘をついて私とホテルに泊まろうとしたの??
「あ、危なかった……」
もし、こんな事実際起こってしまっていたら、伊吹さんにかなり恨まれたかも……!
それともこう言う事、全く気にならないのかな~?元々いろんな人と関係を持っている遥人君と付き合っているから、気にしなかったり?だいたい、遥人君もう既婚者だしね。
……うーん、恋愛の経験値が不足し過ぎて、全く想像できないよ……
「私ってホント、見る目無いの、かなぁ……」
遥人君、いい人だったんだけどな。
心の拠り所だった。
じゃ無かったら、体育会系の男の人どころか中性的な感じの優しい男性も拒否しちゃう人間に育っていた。いま少しでも男の人と話したりできていたのは、遥人君のお陰なのに。
きっと、中学校から何かあったんだ。
そのころから、遥人君とピアノ教室で話さなくなったんだし。
そーだ、そーだ。
あの頃の遥人君は、私目線では『良い人』だった。
だから、もういい。
今の遥人君とは関わらない。
遥人君は成長して変わってしまった。(―――という設定にする!)
でもあの頃の遥人君は、確かに私の王子様だった。その想い出は否定しない。
それで終わり。それでいい。
じゃあ、アイツは……?
いじめっ子の乱暴なアイツは。
今どうしているのかな?少しは変わった……?
遥人君があんな風に変わったのなら。
アイツが逆にすごっく良い人に変わっていても、おかしくない……。
――――なんてね!
もう会う事も無い人の事、考えてもしょうがない。
それに遥人君の変わりようがショック過ぎて、トラウマのいじめっ子の存在が、なんだか軽~く感じられるようになっちゃった。
所詮昔の記憶。子供の頃の過ぎ去った過去。
現実の衝撃に比べれば、小さく感じちゃうな~~!
そういう意味では遥人君に会えて、良かった。
うん、私って前向きだ!
うんうん、どんどん前向きになってきたな!
ってか、前向きにならんと、やってられんよ……!!
……さあ、今日はたっぷり休んで。お母さんの買い物に付き合って、料理を手伝って。
お風呂にお気に入りの温泉の元を入れて、じっくりあったまろう。
そして明日から。
またピアノのレッスン、頑張るぞ~~っ!
おーーーー!!




