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レッスン16


「えっ」


衝撃的な台詞に、私は驚きの声を上げたまま固まってしまった。


「俺、小学校の頃麗華ちゃんが好きだったんだ。乱暴なクラスの女子が本当に嫌で――――だから、優しくておしとやかな麗華ちゃんは俺の心の支えだったんだ。あれからずっと、麗華ちゃんは俺の憧れの女の子だった。あの頃から変わらず――――今もずっと可愛いままだよ」


遥人君の視線が私の視線をピタリと絡めとる。

私はピンで止められたみたいに、そこから目を離せなくなった。

彼の視線に――――何か熱のようなものが込められているような気がして来てしまう。


「そ……んな、冗談……」


冗談でしょ?

リップサービスとか?


遥人君はふっと笑って、首を振った。


「冗談じゃないよ。本当の事だ」


例え過去の思い出話だとしても、男の人に告白されたという経験は初めての事で動揺してしまう。


暫く気持ち落ち着かずあちこち乱れ飛んだ。そして少しの間をおいて、乱れた心がストンと落ち着き彼の言っている意味をきちんと認識した途端、体全体がポカポカと温かくなるのを感じた。


きっと私の顔は、ユデダコみたいに真っ赤になっているに違いない。

体の中で頬っぺたが一番熱くなってしまったのを感じていたから。


きちんと言われた事を把握してしまうと、居てもたってもいられなくなった。

恥ずかしすぎて、救いを求めるようにキョロキョロと周囲に目を彷徨わせてしまう。その時柱に掛かっている時計が目に入った。




十二時五分




わ、ヤバい。

もう出ないと、最終に間に合わない!


私は勢いよく立ち上がった。


「あ、あ、あの!私帰らなきゃ……っ」


こんな遣り取りさっきやったな。


つい口から飛び出した台詞にそんな既視感を感じたけれども、居心地の悪い場所を立ち去る口実にできたことに、むしろ安堵している自分がいた。


慌てて会計に向かう小走りの私に、遥人君は何も言わなかった。

私はそんな遥人君を置き去りにして、レジへ向かった。

レジの店員さんが私に「別々にしますか?」と問いかけた時、すぐ後ろで「いえ、纏めてください」とアルトとバスの中間の、柔らかな声がキッパリと応えて、注文書を差し出した。


差し出した手がすぐ横に不意に突き出て来て、私の体はビクッと跳ねた。


まさかこんなに素早く音もさせずに遥人君が背中に立っているとは、思ってもみなかった。

それとも私が慌て過ぎていて、注意力に欠けていただけだろうか。


「あ、あのでも……」

「急いでるんでしょ?」


茫然とする私の横で支払いを済ませ、遥人君は私の肩を押して喫茶店の入口を出た。その仕草があまりに自然で抵抗するのを忘れてしまった。


喫茶店は建物の中にあって、入口を出ると私達は絨毯が敷き詰められたロビーのような場所にいるのだった。


「あ、あのありがとう……お金……」

「いいよ。誘ったの俺だし。迷惑もかけたから」


迷惑を掛けたのは、遥人君じゃなくて私じゃないだろうか。

それか、小松さん。


「もし、気になるならさ」


間に合うかな、とソワソワしている私は遥人君の話が終わらないので、気もそぞろだった。


「ここに泊って行かない?」

「――――とま……?」


何?

遥人君、何て言ったの?


「ここ、ホテルのロビー。もう最終間に合わないかもよ、俺も泊まっていくから一緒に泊まろうよ」




は?




え?




私はキョロキョロと周囲を見渡した。

フカフカの絨毯、フロントにビシッとした男の人が立っている。出て来た入口を見ると、さきほどお茶をした喫茶店。




――――ここ、ホテルだったのか――――!





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