表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
99/105

閑話

突然の閑話で申し訳ありません。

感想欄のご指摘で、主人公の不死身体質のわけが判らない、とあり、色々と考えたのですが一人称視点で説明するのは大分先になってしまいそうで、其処まで大きな秘密と言うわけでもなく、閑話と言う形で上げさせていただきます。


反則技だとはおもいます。大変申し訳ありません。

閑話



「ぎいいいいいいいい!!! うえええ」

 魔力枯渇の症状は多種多様だ。

 今日は全身の強直性痙攣こうちょくせいけいれんだった。普通こういった全身性の痙攣は意識を失うものだが、俺の意識はクリアに残っている。

 その性で自由に動かない体と食い縛る事で砕けそうな歯の痛み、息が出来ない苦しみという軽い拷問のような状況を余す事無く感じていた。


 そして痙攣が治まるとすさまじい吐き気と共に生暖かい物がせり上がって来る。抵抗することも出来ず吐き出すと、ドロッと凝血した赤い塊を吐き出す。


 毎回毎回魔力枯渇は様々な症状をもたらす。死にはしないし後遺症も無いが非常に辛いのだ。出来る事なら二度とやりたくない。

 だが魔力の多さに由来したごり押しだけが俺の強みである以上、連日連夜の魔力向上のための枯渇は避けて通れないのだ。


 魔力枯渇は残り2割を切ると徐々に症状として現れ始める。完全に枯渇するまでは倦怠感やめまい、吐き気、頭痛程度で済むが完全になくなってしまうと、様々な症状で死ぬような目にあうのだ。

 そしてその結果上昇する魔力は数字にするなら0.1~5%程度だ。魔力が少ない頃は苦労した。全くあがらないような気さえしたが、ある程度まで上がれば後は加速度的に上がる。


 皆がやらないのが不思議だったが、どうもこの世界では魔力枯渇は死に直結するらしいのだ。


 死にはしないし後遺症も無い、と言ったがそれは俺の特殊能力みたいな物で、普通に死ぬらしい。最初に何も知らず、魔力アップだ、と考えなしだった自分を殺したい。

 そしてそれでもしぶとく死なずに生き残った自分をほめたい。


 今もしぶとく生き残っているのは、我が最愛の妹君いもうとくん、エリスのおかげであるらしい。なんだったかね、ええっと、エリスは精霊として伴侶を作るために魂を一つ持っているとか。

 その魂を入れられた人間はもともとの魂が混ざり合い、擬似的な不老不死になる、らしい。首を落とされるだの頭をつぶされるだのすれば死ぬのだろうが、魔力枯渇程度では死なない。と言う事だ。本当に、最初のほうを乗り切れたのは僥倖だった。


 ああ、無論のこと、こういったことをツラツラと考えたのは、魔力枯渇で死に尽くして、それでも朝を生きて迎えた後の事だ。




 

「見てるのが辛いわ」

 兄さんが死に疲れて眠ってしまった部屋で、私は蛇にそう呟いた。

 兄さんの苦しみを私は全部見ている。兄さんは毎日毎日こうやって死に果てている。偶にはこうやって眠って、と言うより気絶してしまうけど、大体はそのまま起きていて、私はそれを眠らせるのだ。


「必要だ、とは判っているが、確かに、これは……」

 蛇、たしか輝夜とか名前貰ってたわね、兄さんに。忌々しい事に私の名前は兄さんに貰った物じゃないのに。


「だから言ったじゃない。辛いって。兄さんが苦しんでるのなんて、見たくないわ」

 輝夜は最近兄さんに見初められた、一番新しい寵姫ちょうきだ。兄さんは世界そのものだから、沢山の寵姫が居ても何もおかしくない。私が気に入らないのは別の話だけど。

 

 輝夜はそうなってから、初めて兄さんの魔力枯渇を見た。本人が見たいといって、兄さんが良いと言ったから部屋に入れた。

 こうなった兄さんは見たくないし、見せたくない。本当は苦しむ兄さんと一緒に苦しみたい。ましてや他の誰かに見せるのなんて絶対に嫌。


「もう良いんじゃない? 今日はもう落ち着いたから、出てって」


「そう邪険にするなよ闇精霊。別におぬしをないがしろにして、愛しの兄さん(・・・・・・)を狙ったりはせぬ」


「兄さんの眠りは私の領域、誰にも見せたくないの。あんた、之から兄さんに付き添って旅するけど、寝ているところは見ないで」


「無茶を言う出ないわ、ぬしが居ないのなら隣に寝るわ」


「……っチ!!」

 殺したい。でも兄さんの所有物に私が手を付ける訳には行かない。ああ、兄さんが私以外殺してくれたら良いのに。



「それにしても、聞くと見るでは大違いじゃ。なぜこれで生きていられるのじゃろうなあ。いや闇精霊の魂とやらがそれだけ丈夫なのやも知れぬが」

 輝夜がいっているのは、兄さんの特異体質の事だ。私は兄さんに対して契約をした。闇精霊、もしかしたら他の精霊もだけど、魂を1つ持っている。擬似的な魂だ。

 そして契約対象にその魂を入れる。そうする事で魂を強化し不老不死を擬似的に再現する。長い長い時間を生きる精霊が、自分が1人にされたくなくて勝手に行う外道な方法だけど、いまさら兄さんを失ってその先意識が残るとも思えないから、その選択自体には後悔は無い。



 不思議なのは、私が魂をこめる前から兄さんは魔力枯渇を経験していた事。本当に最初の一回であれば偶然と言うこともあるかもしれない、私もそう詳しくないから良く判らないけど。

 でもノワール達に聞けば殆どありえないような確立らしい。それこそ別の理由で助かった、例えば魔力を使い切らず枯渇していなかった、偶然同じような症状の病気になった等をでっち上げるほうがまだ信憑性があるそうだ。


 でも兄さんが死ななくて良かったと思って魂を入れたんだけど、後から兄さんが転移してきた人間と言う情報を知って納得した。


 これまで私に興味も無く過ごしてきた兄さんがある日突然私を構うようになった。あの当時の私は正常な判断が出来ないで、兄さんを受け入れるのにも相当の困難があったようにも思う。実は良く覚えていない。

 兄さんが暖めてくれて、美味しい物を食べさせてくれて、守ってくれた。私の記憶に残っているのはこれだけ、両親の顔とかはもう覚えてない。


 でもあれだけのあからさまな性格の変化は成る程別の人間が乗り移ったと言われたほうがしっくりと来る。


 別の人間、別の魂。


 もともとあった、アリスの魂に別の世界ところから来た兄さんの魂が混ざった。

 混ざったと言うよりは、兄さんの魂がアリスの魂を吸収した、食べたと言うのが本当かもしれない。何しろ、今の兄さんにアリスとしての感情は何も残ってないもの。

 それがたまらなく嬉しい。



「まあ、あのアリスの魂に触られたら、ただの人間の魂では太刀打ちできまいな」

 私の考えを話すと、輝夜は何度も頷きながらそう言った。それは私もそう思う。兄さんの魂は独特で狂っていて、それだけに強固だ。最初から壊れているからこれ以上壊れようが無い。

 ただの人間だったアリスの魂は埋まらない隙間を埋める緩衝材程度にしかならなかっただろう。


「良いのよ、兄さんが来てくれたんだもの。今ここに居るんだもの」

 私はそういって、寝ている兄さんの口を、その唇にこびり付く血を舐めた。


「兄さんが私の傍にいてくれる。それ以上に必要な事なんてない」


「それはそうかもな」

 輝夜は私ほど兄さんに心酔していない。私と同じなのはあの忌々しい人形、琥珀ぐらいだ。あいつはちょっと兄さんの昔を知っているからって……。


「ただ、いまアリスが生きているのは、まえの(・・・)アリスのおかげもあるのか、多少は感謝しようじゃないか、ん?」


「……そうね。どんな物にでも多少の価値はあるのね」

 どんなものにも価値はある。兄さんの命を救ったのは確かだし、その後に私が入れた擬似魂と更に反応し、更に頑丈になったはずだ。確かめるつもりは無いが首くらい落としても生きているのではないだろうか。

 もしそうなったら素晴らしいと思う。私の夢は兄さんに抱かれて死ぬ事。そのためにも兄さんの命は長くて強いほうが良い。


「だから少しだけ感謝しないでもないわ」

 だからせめて形だけでも感謝しよう。貴方が無駄に生きていたおかげで、私の兄さんは助かり、私の夢は手のとどく位置にあります。無駄に生きた魂に感謝を。


 そこまでおもってふと、もっと大事な事があることに気づいた。兄さんの腕に抱かれて今日は眠るのだ。兄さんがおきないように眠りを深くして、その腕にすっぽりと包まって眠る。私の場所、私が安心できる場所、兄さんの鼓動が聞こえる場所。


「ふん、今日は譲る。アリスの不死身の秘密もわかったから、今日のところは、譲ってやる」

 輝夜も心酔してないだけで、それなりに気に入って入るようだが、何はともあれ今日は私が独占してやった。今から兄さんが起きる時間まではこのまま至福と共にまどろんでいよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ