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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
98/105

次の目的地


 とりあえずの方針は決まった。

 決まったが、前途は多難だ。この魔術と魔法の文明で、それらが効かない敵を相手取るというのだから、絶望一歩手前だ。考えてみれば前世で突然重火器が効かない、といわれたら絶望するだろうよ。物語のキャラクターは良く平気なもんだ。


 で、俺が絶望一歩手前で踏み止まっているのは前世の武器を知っているからだし、俺の可愛い身内たちがそうなのはおそらく俺以外に興味が無いからだ。


 そしてビル達がそうなのは、すでに一度負けているからだろう。


 ちょっと状況を整理しただけで見通しは暗い、暗すぎる。


 先ほどはすぐにでもチーム分けをして行動開始、のような流れだったが、その前に一つやるべきことがある。

 ビルは技術者だといった、そのビルに俺が知る限りの地球産の武器を説明し、再現を目指してもらう。相手を見ないことには、効果範囲が判らないが、少なくとも物理的衝撃は効くらしいので、火薬を魔術で代用しても大丈夫ではないか、という期待をしている。

 

 なにより数を揃えた銃は非常に強力だ。銃・大砲あたりが今回の戦の分かれ目になるだろう。惜しむらくはあまりそういう方面に詳しくないことだ、なんとなくの構造と機能などしか判らない、後はビルの経験と勘に頼るだけだ。

 といってもそういった経験は少ないだろう。


 銃も大砲も爆発の衝撃で重くて硬いものを飛ばして相手を殺傷するわけだ。説明した姿かたちに囚われず考えてみてくれ、とは言っておいた。



 その他の対策も色々と考えてはいるが、如何せん相手が相手だ。前回の戦いのときの話はビルから聞いたし、どのような攻撃をしてきたかもある程度わかっている。

 最後まで頑強に抵抗していただけあってビルたちは多くの情報を持っていたからだ。ビルが知らない情報も他には残っているだろう。

 予定されている遺跡探索はそれを集める目的もあるのだ。



「まあやつらの戦闘方法はそれこそ一昔前の会戦のような物、らしいからね。戦術レベルでも備えることはいくらでも出来るよ」

 依然としてビルと話している。ビルの話を元に推測すると、どうも近代以前の戦争のような感じを受ける。であれば、突撃衝力を緩和軽減する馬防柵や落とし穴といったトラップが有用だし、この岩山を要塞化すれば、岩山ごと吹っ飛ばされる事も無いだろう。


 前回と同じレベルで神が攻撃してくるかは未知数だが、それはもうどうしようもない。近代戦に対抗するための仕掛けも考えてはいる、魔術を何処まで通用するようにするか、が鍵だが……前途は多難である。



「ではそういう事で、よろしく頼む。他の遺跡なり何なりを発見すれば、ここに戻ってこれるんだね?」


「其れは保障する。私が関わってない遺跡といえども、転移手段は統一されている。管理者が居なければ起動できるかは未知数だが、琥珀君に一通りの知識はインストールしておいた」

 さっきから琥珀が何かやってるとは思っていたが、そういった話か。


「ただ、流石に他国の物は起動方法も転移の周波数も全く不明だ。他国にばれればそれだけで国が滅ぶような代物だ。その分警戒も強固で手に入れるのは容易ではないだろう」

 転移にも周波数なる物が必要だそうだ。PCで言えばアドレスのような物なんだろうか? 確かに他国にそれがばれれば、自国の真ん中に敵軍が転移してきた、という事態になりかねない。


「よって、まずはかつての我が国の領土内で捜索するのがいいだろう。被害状況から言ってもそれがベターなはずだ」 


「了解了解。そちらも頼むよ、俺の立場で言うことじゃあないがね、あまり時間が無いんだろう?」


「まあ、こちらは任せてもらおう。もう一度あのアレ相手に目に物見せてくれる」

 打ち合わせが終わると、ビルはブツブツと呟きつつもメイドさんたちと何かを話し出した。ビルと話すメイドさん二人は嬉しそうに頷いている。


「アリス……もう行こう」


「ん、そうだね。とりあえずザイル(まち)にいって準備をしよう」

 俺達自身もそうそう時間があるわけではない。早々に他の遺跡群を探し、神様相手にけんかを吹っかけないといけないんだから。

 いや、喧嘩は向こうが売ってくるんだから、買うのか。




「これは、お帰りなさいませアリス様」

 この町のトップの1人、商人のニズヘグ氏が町に帰った俺を見つけてわざわざ挨拶に来た。俺も話を通す必要があったから丁度良かったが、こんなに腰が軽くていいのだろうか、仮にもトップの1人なのに。

 いや、でも商人という物はそういうものなのかもしれないねえ。商機と見れば俺みたいな餓鬼にでも謙るのかも。


「調査した結果、あの岩山の下に年代不明の古代遺跡があることが判り、腰をすえて調査をしたいのであの遺跡を拠点として利用したいのです」

 これはニズヘグ氏に対する建前として用意していた物だ。ニズヘグ氏は商人であるから、何か利益があれば協力してくれる可能性はある。

 しかし、今の段階で利益があるか、と言われると非常に微妙であると俺は思う。


 なにしろ話自体が曖昧であるし、俺も神様に会って転生し、いままで神の尖兵の相手をしていなければ無条件に信じる事は難しかっただろう。


 少なくとも何か、もっと具体的な利益。古代文明の技術であるとか、本当に差し迫った危機であるとか、そういった事を確約できる状態になるまでは黙っていようと考えたのだ。

 何しろニズヘグ氏は商人だ。その話が別の利益になるなら、きっとそうするだろう。


 因みにビルに古代文明の技術を提供してもらってもいいが、確約が取れていない以上は黙っているつもりである。


「そうですかそうですか。何かご入用の際は当商会をぜひご利用ください」


「あ、それで早速なんですがね。丈夫な馬車を馬つきで一台、それとモノゴートを一頭用立てて欲しいんです。あの遺跡は遺跡群・・・である可能性があるらしく、他の遺跡も探してみる、と言う話になりましてね。移動手段として」

 モノゴートは現在まで俺達の馬車を引っ張ってくれていた、目立たない山羊君いや山羊さんだったかな? である。


 馬車を用立ててもらうのは二手に分かれるため、モノゴートの方は現在の馬車のスピードアップのためだ。


 そして重要な人選だが。

 まずエリスは残す。これが最も重要な事ではないだろうか。無論エリスは大反対したが、ビル曰く、精霊と言う概念は前戦争の時には無かった物で……いや、概念自体はあったのだろうが戦闘には参加していない。よって重要な戦略の要になりかねない。

 つまりは研究したいから置いてってと言う事らしい。


 それに伴って琥珀は俺と別ルートを行くことになる。これはエリスが嫉妬したためで、自分が残されるのに琥珀が一緒なのは我慢なら無い、と言うことらしい。


 結果として、ルート①と呼ぶほうに、俺・輝夜・ノワールで。

 

 ルート②と呼ぶ方に、琥珀・翡翠・グラン・シュラでという風に分けた。

 翡翠がルート②に居るのは戦力バランスのためだ。翡翠は嫌がったが、エリスと琥珀ににらまれて黙った。

 最後に輝夜がルート①なのはいうまでもなく、俺からの魔力供給のため……なのだがこの場合、輝夜の1人勝ちだ、とまた騒ぎになり収めるのに苦労した。


 こうしてルートを選択し、周辺地理の確認と遺跡探索の目的を持った旅が始まる。




「兄さん、絶対、絶対に浮気しないでね。もししたらあそこに連れ込んで今度こそ出さないから。世界の終りまで二人で居よう?」

 あそこ、と言うのは以前にエリスを怒らせて連れ込まれた謎空間だろう。世界の終りまで二人きりと言うのには正直引かれるが、俺の精神がそう長いこと持たないだろうと考えると、そしてその後のエリスを考えると同意しづらい物がある。


「輝夜も判ってるわね? 私が居ないところで兄さんに手を出したら体の皮と手足を剥ぐわよ?」


「うむ、我は元々蛇であるゆえ手も足も無いが……そうだのう。エリスには借りもある、確約は出来んがなるべく我慢しよう」


「ああ!?」

 輝夜の言葉にエリスが凄む。元々もが美少女なので凄まれると非常に怖い。俺は好きだが。


「逆の立場で自重できるか考えてみよ、我慢してやると言っているのだからおとなしくせい」


「ぬ、ぐぐ……」

 こうした訳でエリスも一応の納得を見た。ということだ。





「兄さん、本当に、本当に気をつけてね?」

 出発当日の朝、エリスは繰り返し繰り返し俺の心配をしている。

 メンバーを決めてから4日ほどたっている。その間に旅支度を整えたわけだが、食料品や最低限の衣類、薬、寝具など結構な出費になった。


 くわえてもう一台馬車を新調したので中々洒落にならない額を使った。大部分はニズヘグ氏の報酬で賄えたが、我がパーティーの資金は危険なほど目減りしていた。


「私も琥珀も翡翠も居ないなんて心配だよ。ノワール、何があっても兄さんを守るのよ」


「ははっ!! この命に代えましても」


「あんたの命偽物じゃない」



「まあまあそう心配するなよ。とりあえずは二月程で帰ってくるから」


「二月も兄さんと離れ離れなんて、死にそう。次に合うときはいっぱい甘やかしてね?」


「勿論だとも、んじゃそろそろ行こう」

 

 引き止めるエリスを振り切って馬車に乗り込む。こちらのパーティーは俺と輝夜にノワールしか居ない。これまでが大所帯だっただけに実にさびしい。


 馬車の中にはニズヘグ氏から預かった荷物が積まれている。パーティーの財政悪化に伴い、路銀稼ぎにニズヘグ氏から荷物運びの依頼を受けたのだ。

 

 町から町への輸送は非常に危険で、夜盗やモンスター、果ては同じ商人たちからも狙われると言うなんとも殺伐としたことになっている。

 ニズヘグ氏は俺達の実力を目の当たりにしているので安心だ、と結構な額で雇ってくれた。


 まず始めの目的地は宗教都市・戒律都市とよばれる大きな都市で、名を『リーンクレイグ』という。

 この世界には世界宗教と呼ばれる物はないが、この周辺ではリーンクレイグを中心とした豊穣の神が信仰されているらしい。神の名を呼んではいけない、とかで単に豊穣の神と言われているが、その名に反して苛烈な神と教義らしい。


 その教義は神に信仰をささげることで豊穣が与えられる。信仰とは厳しい戒律によって守られる物である。ということらしい。

 非常に俺とは合わないと思われる。俺は刹那的・快楽主義的な生き方を是としているので、荷物を届けたら野宿でもしつつ周辺探査をしたほうが良い、気がする。


 面倒なことにならねばいいが。

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