これからのこと
遅くなって毎度毎度すみません
「ふむ、まあそれは結構だが、それと俺とどう関係が?」
ビルは俺の『魔力譲渡』をみて興奮していたようだ。俺の魔力量とビルの宿願とがどうにもつながらない。
「まず、君のその『琥珀』といったか、そしてこのメイド達もそうなのだが魔動人形と言うものは魔力を動力として動く。ここまでは良いかな?」
「ああ、そんな話らしいな。俺は詳しくは無いが」
琥珀のほうをチラと見るとかすかに頷いていたのでそうなのだろう。
「うむ、魔力で動くのは良いが効率的に魔力を再充填する方法が無い。一体一体ゆっくりと補充するしかなかった。通常はそれでも良いのだろう、補充用の施設を増やして、運用数を増やせば平時の戦力としては十分だ」
そういうとビルは言葉を切った。彼の目線は床を見つめ、ため息をこぼした。
「だがあの時は戦時だった。それも全世界くまなく滅びかけている、地獄だった。私達の人形は出たっきり、滅多に帰ってくるものは無く、帰ってきても魔力充填に多大な時間を要した。結局、じりじりと壊滅していった。やはり物量と言うものはどうにもならん」
「まあそうだろう。よほど装備に隔絶した差が無ければ、物量と言うのは最も脅威になる……らしいね?」
俺はそもそも戦争やら戦術やらは詳しくない。まあ物量が大事なのは大原則だろうから、間違ってはいないだろう。
「ああ、だから我々は負けた。愛しい人形達を犠牲にして……それでもなお勝てなかった」
「まあ……君の無念は判ったが、それで?」
「私は勝ちたかった。勝ちたかったが、それよりも人形達を犠牲にしたくなかった。君の、いや貴方の魔力譲渡を解析できれば必要十分の補給ができるかもしれない。そうなれば……そうなればまさに軍隊が出来る。完全な人形による完全な軍隊だ。そうとも、そうなれば我が人形が負けるはずが無い。もしもう一度あの腐れ共がやってこようと、完全に滅ぼしてやれる」
「つまり、復讐がしたいと?」
「復讐というべきかどうか。求めているのは人形達の完全なる蹂躙劇であり、復讐はまあ副産物程度にしか考えていない。それにまあ、次の神々の気まぐれが何時起こるのか、などは不明なのだから」
ビルは不明というが、さてどうだろうか。すでに神の尖兵は現れている。それがどの程度の指標になるかは判らん。しかもおれ自身がそうだろうし。
ビルの協力を得られるのは非常にありがたい、何しろ生き証人だ、死んでるが。だが俺の正体を隠したままではばれたときの不信感がまずすぎるかねえ。
ここは正直に告白しておいたほうが良い、万が一敵対されてもノワールの魔術で呼びだしたのだから問題も少ないだろうし。
「それについては、意外と早いかも知れんね」
それ、というのは勿論神様との戦争の日だ。
「昔、というか君達の時は神の尖兵が現れてから、どの程度で戦争が始まったのか判るかね? さっきそんな話をしていたよな?」
神の尖兵が出現していたとき、さほどそれについては大きく取り上げたことは無かったらしい。末期的な世の中に現れる終末思想の団体、あるいは自分を神に選ばれた、特別なんだという異常者達、どれもこれもはいて捨てるほどいる。
とそんな様な事を、ビルは言った。こちらの質問の意図はあまりしっかりと汲んでくれてないようだが、まあ致し方ない。
「さて、ここからは大事な話だ。聞いてくれ」
「ふうむ、これまでも大事な話のつもりだったが、まあいい拝聴しよう」
ビルが大きく頷き、こちらに先を促してくる。
「君の話しにあった神の尖兵だがね、すでに今生で確認している」
「何だと!!!」
さすがに実戦経験者といえども焦った様で、余裕がなくなる。
「どういうことだ!! いや、それ以前にどうやってそれを知った!?」
「何の事は無い、俺には鑑定のスキルがある、正確にはこの眼鏡のおかげだがね。それで本当に大事な話というのはね、俺がそうである可能性が高い、という事だね」
俺の言葉に流石にビルは声も出ないようだ。その幻覚だと言う瞳の奥で何を考えているものか、少なくとも今のところ襲い掛かってくる様子は無い。
「……可能性……」
「ん??」
「可能性、が高い、というのは、どういうことだ?」
直接ではないにしろ、人生の怨敵を前にしてこの冷静さは非常に素晴らしい。見習いたいくらいだ。
「いやね、俺は別の世界の人間だったんだ。神様にこの世界にこさせて貰ったんだ。その時に色々と力を貰ったし、なんとなく行く先でトラブルに会う。さて、これは尖兵の役割だろうかね。斥候でもやらされてるのかも。ただね、神様にあれこれしろと言われてはいない。だからもしかすると何の関係も無い一般転生者かも知れんね」
軽い感じで説明したが、ビルにとっては重い話だ。さてどうだろうか。
「……貴方にその気が無いのなら、別に構わない。それに尖兵を殺しても、どうせ無駄なことだ」
「いいのかね?」
「何が目的なのか、という話だ。私の目的は、尖兵を殺すことではない。殺すなら神を殺したい、そういう話だ」
流石に何も気にならない、ということは無いのだろう。かなり険しい顔をしているが、まあその程度で抑えられるというのは非常に評価できる。
「貴方の目的が何でアレ、尖兵が確認されたということは、中々に時間が削られた、と言う事に他ならない。一刻も早く軍備を整えねば」
「どのくらいの猶予が?」
「甘く見積もって10年程度、だが無論保障できるようなものでもない」
「いやー、そんな切羽詰ってたのかよ。さて、どうしたものかねえ」
神様レベルの話だから、もう数千年とか単位で考えてた。どうしよう、予想より俄然猶予が無い。
「とりあえずだ、もう考えるのも面倒だから軍備を整えよう。ビルの話だと世界滅ぼさないと止まらないんだろ? 他にこういう施設は残ってないのかね? なにか利用できる軍備は」
「確かめてみねば判らないが、少なくとも現状で交信できるような施設は無いようだ。うちのメイド達が定期的に送信していたらしいが、応答はゼロだ。他国の施設が残っているかは不明だが、最後まで抵抗した我が国がこの有様では、望み薄だな」
ビルがため息を一つ付き続けた。
「ここのような形で隠蔽してある施設はあるかもしれない。地形も大分変わったようだし、他国とは通信網を築く事は出来なかったから、そちらに望みを掛けてみるのもいい。それに管理者は死に絶え、施設だけが生き残っていたとしても十分に使える」
「だがね、万全の状態とは言えずとも、君らの国は抵抗むなしく敗れたわけだろう? ガタガタの状態の施設がいくらか生き残ってても同じ鉄を踏みそうだ」
一度完膚なきまでに負けた相手である。それを不十分な軍備で相手取っては勝ち目など無いであろう。其処が不安だ。思った以上に時間が無くて、対抗可能な策はあるのだろうか。
「前と同じ事をすれば、負けるのは確実だ。違うことをすれば良い、具体的には量産化する魔道人形の魔力補充の機構さえ出来てしまえば、スタンドアローンで戦える1流の戦士を大量に運用できる。とにかく数、数、数だ。大量の相手にひるまず、優位に戦えるだけの数、それが必要だろう」
数、数だ。とビルはブツブツとつぶやき続ける。やっぱりアンデッドってのは思考がちとずれるものなのかね?
「そこんとこ、どうなの?」
「は、通常はそういう事もありえます。今回の場合、死体がしっかりと残っていたことと、この者の魂が強固であった事、強い未練を残していた事、などの理由で問題はないかと。恐らくは生前からの物ではないかと」
「なるほど、変わり者だったのかね」
一通りブツブツつぶやき終わって、落ち着いたビルと今後の具体的な展望を相談する。
兎にも角にも、一刻でも早く戦力を整える必要がある。そのため、この施設に残っていた地図を頼りに他の施設があるであろう場所に赴き、施設を接収し其処の戦力を吸収すると同時に琥珀の戦闘能力を強化していく。元々がそういう目的だったのだから、これははずせない。
次に篭城可能な施設の建築である。篭城、といっている時点で研究施設ではなく砦や城のようなものだ。これは予算の問題と場所の問題とがあって難しい。
腹案としては施設を探してうろうろする間に、適当な魔物を狩その売り上げ等を集めておこうと思っている。今の自分、そして面子なら相当の物が狩れるはずで上がりも大きいはず。ととらぬ皮算用をしている。
大まかにまとめるとこうなるが、さて動向メンバーでまた揉めそうだねえ。




