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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
95/105

復活?


 時折ノワールにエリスが触れる。おそらくは魔力の譲渡をしているのだろう。

 歌い終わって今度は魔力を文字に流しているらしい。

 結構な時間がかかったが、それでも終わりは来る。椅子に座った彼の指が、カタン、と動いたのだ。


 カタン、と動き徐々に手が上がる。前腕が完全に肘掛から浮いたところでグッとこぶしを握る。パキパキと小気味良い音がした。

 彼は掌を見つめているようだった。

 しばらく見つめた後……。

「ああ」

 と納得したように呟きうなずく。


 彼がもう一度こぶしを握ると、そこには先ほど映像で見たそのままの姿になっていた。

「はっ!?」 

 俺は流石に驚く。ノワールはアンデッドとしてしか復活は無理だと言っていた。


「おいっ?!」

 ノワールのほうを振り向くと首を振っていた。ノワールとしても予想外らしい。

 

「まあ、そう慌てるな」

 何時の間にやら白衣まで着込んでいた男がそう口を利いた。それは映像で見たものよりも力強い声で、抑揚のない落ち着いた声だった。


「これは幻覚だ。骨の体は彼と紛らわしいからな。それにこの私にはこの白衣が必要なのだ。この悲劇の魔術工学師には!!」

 彼は立ち上がると一転してテンション高く白衣を棚引かせてポーズをとった。

 

「私を蘇らせたのは君達かね? 冥府の奥底にて眠る狂気の魂を蘇らせるとは、よほど世界の終わりを早めたいと見える。良いだろう、狂える魂を呼び戻した返礼に、魔術の深淵と狂気を見せてあげよう」

 あっけに取られる一堂を尻目に自分の世界を作り上げる白衣。此れはよくない。エリスや琥珀が激昂する前に何とか話を戻すことにしよう。


「すいませんアリス様失敗のようです」

 するとノワールが深々と頭を下げる。失敗? 何で?

「我にはこの者を制御することが難しいようです。訳の判らぬ言葉で話しておりますし、この姿の変わりようは……危険やも知れません」

 その言葉で呆けていた琥珀がその言葉で我に帰り弾かれた様に俺の前に出る。どうも製作者と判っていない様だし、言葉も通じてないようだ。


 そしてはたと気づいた。自覚なく使っているので忘れがちだが俺には言語翻訳のスキルがあったのだ。


「琥珀、大丈夫だと思う。一旦下がってくれ給えよ。君、あー名前は何かね? 俺はアリス=ルナ=ティクスだ」

 頭を下げる。エリスも琥珀も納得言ってないようだが一応は下がった。


「ほう、この私に名を聞くとは見所があるぞ。我が名は魔道の深淵を除き見るもの、悲劇の魔術博士、フォン=ビルブランドである」

 そういうとビルブランドはバッっと両手を広げてポーズをとった。それにあわせて白衣が大きくたなびく。手馴れたポージングから大体いつもやっているのだろうと判る。めんどくさい人だね。


「紹介どうも。あーっとフォン=ビルブランド……」

「ビルで構わん。ビルと呼んでくれ」

「あ、どうも。えーとビル。お察しのとおり貴方をネクロマンシーでもって黄泉からお越し願ったのは、貴方が残した映像を見て詳細を聞きたいと思ったからですが、大分様子が違いますね。それに映像の方は皆聞き取れたみたいですが、今は言葉がわからないようですし」


「然り然り、あの映像はどの時代のどの人種が見ても判るように翻訳の魔術を掛けたものだ。もともと遥か未来へのメッセージだからな、言語が同一とは考えていなかった。しかし、してみるとどうやら見てもらえたようだな。それで私を呼び出したというのなら無駄と知りつつ残した甲斐はあった」

 ビルは一息でそう話すと、いってんして真面目な顔を向けた。


「さて、私は何年死んでいたのだろう?」

 そう少し悲しそうに話すのだ。


「先ほど、メイドさん達が話すところによると800年程度だと思いますが」


「800年だと? 意外に短いな、まあそれだけ時間が稼げると思えばそれも良い。それよりも……」

 言葉を区切り、先ほど機能停止したメイドさんたちに顔を向ける。


「お前達、よく仕えてくれたなあ」

 そういって頭を下げた状態で固まるメイドさんたちを撫でる。俺には余りわからないが子供を慈しむ、というのはこういう事なのかもしれん。


「直ぐに治してやるからな」

 此方のことは半ば無視して、ビルはメイドさんたちを治そうとし始めた。どういった原理で動いているものか全く判らず、したがって治していると言う行動の意味も判らない。

 人間にやるように瞳孔を調べ、口腔を調べ、脈を取っているかのような行動もあった。2人に対して同じようにあちこちと調べている。

 やがて調べ終わったのかビルは腕組みをして考え込み始めた。

 

「ふーむ、本当に800年なのか? この天才の計算によると、彼女たちはエネルギー切れを起こしているんだが、それには5000年以上かかる筈なんだ」


「あー、たぶんだけど、800年ぶりと言っていたからその前にも来た人があって実際の時間はもっとかかってても不思議はないかと思う。ここは山の下になってて地殻変動でそうなるには800年どころか5000年でも足りないと思う」


「ああ、それはここが元々山の下にあった、と言うよりはこの施設の隠蔽のために山を作ったのだよ。我々の敵はそれこそしつこい位にこの手の施設を攻撃してきてね、特に研究施設は目の敵にされたものだ」

 

「山一つ作れる程の技術があった? なんとも素晴らしい事だが、それでも滅びたと言うことか」

 大分まずそうだ。流石は神様といったところだろうか。確かにこの山の造詣は見事で逆に違和感があったが、それでも山一つ隠蔽のために作れるとは恐れ入った。

 そしてその文明が滅ぼされたと言う事実はかなり重い。


「うむ、滅びた。相手の特性を研究するのが遅かったのもあるがな。とにかく相手の物量が強大でね……。其処にいる君の人形。彼女たちを作り上げ、ある程度戦いになる所まで戦力差は拮抗できた。何しろそれまではまともな戦いにもならなかったものでね」

 動かなくなった二体のメイドに対し何らかの処置を施しながらビルは言った。骸骨ゆえに表情は全く伺えないが自嘲気味な響きがあった。


「魔術による攻撃に対しての絶対的な耐性を有する。とは、残した記録で説明していただろう? どうにも記憶が曖昧だが、その部分を説明しない訳がないからな」

 手を止めてこちらを見てきた。俺は頷く、確かに先ほどの記録にはそういった趣旨の説明があった。たしか、魔法と魔術が効かず、物理的に殺す手段としての琥珀たち人形である、と。そして人形を強くするために人形同士で殺しあうのだと。


「確かにそう言っていた。俺として気になるのは、人形を強くするために人形同士で殺し合わせようとする部分だがね。琥珀にそんな事はさせたくないし、完全無欠の軍隊を作っても、相手が軍ではどうしようもないと思うがね」

 これがビルを復活させた最大の理由だ。別に同族殺しがどうのという気は更々ないが、琥珀の相手が強ければ琥珀が危険だ。それは避けたい。


「ん、ああ。それはまあ後で説明しよう。それでな、彼女たちを作って対抗手段を得たはいいが、もう遅すぎた。その時点で他の国との連絡はつかず、我々だけの抵抗は徒労に終わった。だがまあ、時間を稼ぎ次へのメッセージを残せた、というのはなかなか僥倖だったな。何しろ今まで残っているのだから。おそらく他国は滅びたんだろうなあ。わが国は魔術における兵力という点で一歩劣っていた、その代替兵力の研究が、他国より一歩だけでも生き延びた理由だ」


「魔術に対する耐性、というがね。全く何も影響を与えられないのかね?」

 魔術による結果が全部素通りしてしまうようなら、俺には対抗手段がほとんど残らない。


「いや、例えば岩壁を作る防御の魔術がある。それを乗り越える時間はかかるし、炎の魔術で焼こうと思ってもできないが、それを火種にして何かで焼く事はできる。風の魔術なら多少進軍の速度を緩める事ができるだろう。ただ著しく効果は薄い。攻撃的な魔術は全く用を成さない。まさに絶望だ」

 ビルは修理の手を止めないまま答えた。


「例えば、俺は魔術で炎弾ほのおのたまを連続発射できるんだが、それも効果はない?」


「無いだろう。魔術で生み出した物自体は相手に効果を発揮できない」

 困った。となると、空想魔術での攻撃は全く役に立たないということか。予想以上に不利だ。魔術での攻撃が無理となると、後はサポートと魔技によるしかない。回復ともう一つくらいサポートができると良いんだが。


 戦うつもりになっているが、きっと戦うことになるだろう。神様がこっちに送ったのにはそういう訳もあるだろうからね。

 考え込んでしまった俺を見て、ビルはメイドさんの調整を続けた。


「よし、これでいい。後は勝手に魔力を吸収していく」

 ややあってビルが満足げに頷き手を止めた。


「治ったのかね?」


「まあそうだ。魔力吸収のための機構が経年劣化を起こしていた。そのため魔力供給が需要に追いつかなかったようだ。このまましばらくほおって置けば動くようになる。動作テストはその後だ」


「魔力吸収で動くのか?」

 エネルギー補給がいらないと言うのは、中々の性能で、かなりすごい事ではないのか。


「まあスタンドアローンで戦闘をこなす兵器だ、ある程度の自己修復とエネルギー補給くらいはやる。そもそもがまともな補給線を築け無くなった頃にできた物だ」


「そりゃすごい。時に意図的に魔力を送り込めば回復は早まるのかな?」


「それは勿論。ただ技術的にはかなり難しいと聞く、私は魔術工学師だから、生身での魔力運用には詳しくないがね」


「さっきもそう言ってたね。魔術工学師とはどんな物なんだね?」

 復活したての時にそういって見得を切っていた気がする。


「魔術・魔力を動力とした機械や武器の設計・製作・運用などを引き受けていた人種だ。私自身はあまり魔力が多くないのでね、こっちの道に進んだ訳だが、個人の魔術師と違って兵器の開発は戦局をひっくり返せる力を持っている。なかなか性に合っていると思う」


「そういう括りなら、俺は魔術師になるだろうね。だから魔力譲渡は出来るんだ」

 まったく技術とはどこでどう役に立つか判らないものだ。

 いまだ頭を下げて魔力補給中というメイドさんへ魔力を譲渡する。輝夜以外には著しく効率は悪いが、こっちは元々の魔力量が桁違いなので気にならない。


「ん!? これは……」

 ビルが驚いている。やはりそれなりの難易度の魔術なのだろう。魔術というよりは魔力の運用方法だろうけど。


「おお!? おおお!! すごいぞ!! 君、何だねそれは!! なんという魔力供給量!! なんという高効率!!」

 ビルは突然興奮し俺の手をとった。


「やった!! やったぞ!! これなら、これならやれる、やれるぞ!!!」

 ビルは両手を広げ天を仰ぐ。そしてしばらくの間哄笑を続けたのだった。


 


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