過去
難産で短いです。今後の転換点でしょうか。
批評は覚悟しています。
「やあやあ、どうも。態々見ていただいてまずは御礼を」
意外と陽気な声で軽やかなしぐさで目の前の男は頭を下げた。メイドさんたちはうつむいる。
男はヨレヨレの白衣をきており、前世でよく見た、疲れ切った医師を連想する。超長時間の手術後や集中治療が重なっているときなど、よくその辺で丸くなって寝ていたり、転がっていたりしたものだ。
大分疲れているようだ。目の下は隈がべっとり張り付いており、それなのに目は爛々(らんらん)と輝いている。
「この映像を見ているからには、そちら様にも僕の作った傑作の一体を手に入れたのでしょう。そちら様が何時の時代で、僕達が滅んでからどの程度経っているのかについては……何も判りません。しかし、見てくれていると言うことは確かに生き残った人型が居てある程度栄えている、と思って良いだろう。それは僕達の現状を思えば、大変に嬉しいことだ」
映像の男は疲れた顔にギラつく目を貼り付けて、そんな風なことを言った。
「いろいろな疑問はあるだろう。ただ申し訳なくも映像で、一方通行の物だからね。重要なことだけを説明しよう。この映像を見るには資格がいる。だから君らがその資格を有している前提で話している。それは魔道人形を所持していることだ」
男が言う資格は琥珀を連れて来た事で満たしたようだ。
「そう魔道人形だ。そちらではどう使っているのかな、愛玩用や作業用なら嬉しいね。今回話すことはもし戦闘用の人形として運用する積もりである場合の注意点だ」
映像によるマニュアルみたいなものだろうか。道徳的な配慮とか、犯罪と合法の基準とか、そういったつまらない映像集だろうか。免許更新に来たような気分だね。
「さて、戦闘用ということは相手が居る。無論我々も試行錯誤しつつ戦闘用の人形を作ったのは敵がいたからだ。態々(わざわざ)作った訳は簡単だ、その『敵』は人間の使う魔術が無効化してしまうからだ。魔術というか魔力を基点として発展してきた原文明はこの時点で対抗策を消失した」
予想以上に予想外だった。突然重い話を始められて、俺は大困惑のきわみである。それでも俺に頓着することなく映像は進んでいくのだった。
「敵については後ほどだ。対抗策を失った我々は次なる対抗策を作った。それが物理的な対象の破壊だ。簡単に言えば魔力によって攻撃しても効果は無いが、地面を魔法で攻撃してその破片で攻撃することは出来る。魔力を起点にしつつも物理的にダメージを与える方法。この考えを突き詰めて言ったのが魔道人形である。これらは魔力により性能が大幅に引き上げられ、重量級の武器も軽々使いこなし、素早く翻弄し、確実に敵に肉薄し物理的に殺すことが出来る。魔力は性能向上だけだ、物理的というのが肝でね。魔力的に殺したのでは殺せないんだ」
なるほど、だから琥珀は力が強いし、魔力を魔法や魔術としてつかわないのか。
「さて、これらを理解したうえで、戦闘に魔道人形を使用するならばそのバージョンアップは必須。そして更なる武装や魔力を獲得せねばならない。そのためには殺しあうのだ。魔道人形同士探しあって殺しあうんだ。その戦闘が経験に、倒した相手の武装を手に入れえたパーツで自分をくみ上げる。………………こんな方法しか取れない我々を許してくれ。我々には時間が無い。強い人形を丁寧に作っている暇が無いんだ。一般的な人形でも戦いにはなる、ただ劣勢で次々に作り直さねばならないんだ。人形達に自力で強くなってもらうしかない。そうでもしなければ、敵が抑えきれない」
そこまでの勢力なのだろうか『敵』とは。琥珀を作り出した文明が総力を挙げて撃退しようとして、出来なかった。文明の基点とも言える魔術を封じられたのも痛かったのだろうか。
「現状でも抑え切れていないし、各基地との連絡は日に日に取れなくなっていく。我々はもうすぐ終わりだ。それを悟り、次か次、さらにその次、いつかあるはずの次に託す。『敵』は我々を滅ぼせばしばらくはやってこない、これは確かだ。これを見ている人、貴方の連れている人形を鍛え上げ、それを量産するのだ。『敵』は物量と質の軍隊、魔法と魔術の効かないこの世界の敵だ。貴方が生きてる間には遭遇しないかもしれない、ならばその次、だめなら次、次また次と引き継いで、いつの日か『敵』を抑えきれるだけの軍を組織してほしい。『敵』は必ず来る。『敵』とは……この世界の神であるのだから」
予想だにしない言葉に混乱する。確かに神の尖兵や何より俺を転生させた存在が居るからして、神は居るだろうとは思っていた。だが、何で滅ぼす?
「これは敵のサンプルを分析して得られた結論だ。神々の魔力に告示したパターンの魔力を検知し、宗教や神学の文献をあさり出した結論。神は度々世界を更地にし、次の生物・文明を育んでいたというのだ。我々が大絶滅と呼んでいた自然の摂理は、神の悪戯であったと言うのだ。何がしたいのかは判らないが、魔学者の観点から言うなら…………実験なのだ、それが何であれ、神と呼んで差し支えない」
白衣の男は最初の疲れた様子から、いつの間にか熱弁をふるっていた。いたが、ため息をつくように最後の台詞を吐き出し座り込んだ。最初よりも数段疲れて見えた。
「神が全知全能であるならばこのような事にはならない。基地や拠点を地下に作り洞窟に偽装し、我々の知ったことを少しでも多く残す。次の実験が何時になるのか判らない。過去の大絶滅に周期性は無いからだ。だから少しでも早く、強力な軍を組織して対抗してほしい。私は思う。神は戯れに我々を滅ぼすのだ。だから戦いに勝ちさえすれば、次の機会を与えてくださるだろう。退屈を吹き飛ばしさえすれば…………………………そうそう、神と判断したもう一つの理由を忘れていた、あんな『敵』を見れば、そうとしか思えない。では、長々とどうも。くれぐれも人形を強くしてくれ。我々の無念を引き継いでくれ」
繰り返しになりますが批評は覚悟しています。
この展開は考えていたのですが、もう少しゆっくり持ってくる予定でしたが、自分でもイライラするくらい進まないので、もってきました。




