リザードマン
リザードマン。群れを作る上にそれなりの知性と、恵まれた体躯と力を持つという。なので、中々強力で油断なら無い種族らしい。特に群れが都市の近くに作られたときなどは大変らしい。
正直、俺にはあまり脅威ではない。少しだけ自信はあったが、こうも易々リザードマンの戦士を一掃できると、さらに自信を深めてしまう。。
よくない事だ。昔から調子に乗るとろくなことが無い。
しばらく進むと、大きなリザードマンがたっていた。
後ろには他のリザードマンが大勢いるが、ふた周りくらい大きい。あれが神の尖兵で間違いないようだ。
「お前が……」
ガチン!
適当に声をかけようとしたら、目の前に槍の穂先があった。障壁に阻まれたようだが、全く見えなかった。こいつはやばいな。
チリチリと障壁が音を立てる。貫くだけの威力はないようだが……早いな。
いったん距離をとったらしいリザードマンだがそれも残像が見えそうなくらいの速度だ。網の中を移動しているので位置は判るが、中々厄介だな。
もう一度突進してくるのを感じ、周囲に魔方陣を複数展開する。全部『機銃掃射』の魔方陣で、自動で敵を追尾し弾を発射する、所謂セントリーガンだが、現在は敵のみなので使用できる。
敵味方入り乱れてだと、確実に味方にも弾が飛んでいく。
魔術で何とか敵味方識別したいのだが、中々に難しい。
それにしても、結構な距離があるこの状況なら敵の動きが見える。
すばらしく早い。その上、障害物を無視した三次元の立体起動までこなしていやがる。なんとも人間離れした動きだが人間ではないので良いのかね。
いや、リザードマンってあんなに素早く器用に動けるものなのか? もともとが陸地よりも湿地帯とかで活動するイメージが強いが。
それともあれば神の尖兵とやらの実力なのか。
以前に戦った少年はあまり強くなかった。いや、早々とケリがついたからそう思うだけで手強かったのかも知れない。
なにしろ洗脳スキル的な物も持っていたし、状況が違えば大苦戦必死だったろう。
「ん?」
敵が真正面の一転で止まる。槍を後ろに引き前傾姿勢をとった。
姿勢を見ればなんとなく次の行動は察することが出来る。
そしてその予想通りに槍を突き出し一直線に突っ込んできた。
此方も予想に従い周囲の魔力障壁をすべて全面に集中する。前にでっかいカラスを倒したような、障壁に当てて自爆させる方法は今回は使用しない。
あの方法は壁の厚みを薄くすることでスライスするものだが、今回のように近距離で素早い攻撃は後ろに逸らしかねないからだ。
ギャリギャリギャリギャリ!!
集中させた障壁をものともせずリザードマンの槍が突っ込んでくる。
障壁はガラスを破るような耳障りな音を立てて割れていく。
さすがに障壁すべてを破ることは出来ない。だが障壁に阻まれ槍が止まるのは一瞬、すぐさま後退し再び槍を構えて一直線に突っ込んでくる。
そしてまた耳障りな音がして障壁が破れ、鋭い槍が俺の右肩を貫いたのだった。
「ぐっに、ぬ……」
右腕は上がらないが左腕でしっかりと槍を掴む。
「くく、捕まえたぞ」
「ギュ!?」
相手としては頭を貫いた気分だったろう。障壁を調整して右肩に刺さるようにしたのだ。中心へずれれば死んでしまうし、体から外れればすぐに遠くへ行ってしまう。調整には中々苦労した。
だがその甲斐あって相手を驚かすことが出来たようだ。
左手に魔力をこめる。
俺の特技は空想魔術に寄った各種魔術だが、一番最初に覚えたのがこれだ。ただただ熱量を上げていく、妹を、エリスを暖めた魔術は今や鋼ですら瞬時に溶かせるまでになったのだ。
肩口に刺さった槍を掴み魔力による力技で溶解させる。そのまま槍に手を滑らすように根元のほうに持っていく。
手が撫でたところはたちどころに溶解し、最後に俺が手を振ると溶解金属の飛沫がリザードマンの肌を焦がすほどだった。
無論のことおれ自身には被害はないし、刺された槍も回復できる。全くもって魔術とは恐ろしいものだ。はっきり言えば即死さえしなければ大丈夫だろう。
「ぎゃアあ!!」
逃げるのが一瞬遅れたリザードマンに追いすがり、肩を掴んでまた燃やした。
鋼鉄を溶かすほどの熱量で肩を焼かれたのだから、これは相当の苦痛だろう。
「燃やして、撃つ。いつもの手順が増えただけだね」
苦痛を感じるリザードマンが足を止めた。
パチン!
と指を鳴らしてカッコつけてみる。
リザードマンの周囲には複数の魔方陣もちろん『機銃掃射』の陣で取り囲んだのだ。
「今回は一人でやれたようだね」
魔術が発動するとリザードマンはボロボロになって倒れ付した。前回の神の尖兵とやらと比べて多少は楽になった気がする。成長した、ということかね。




