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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
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おとない

休日に付き投稿、書き溜めがある内はマメにする事とします

 やはり我慢強いね元日本人は。だましだまし村まで着けたよ。

 さっさと家に帰って治療しよう。外で治療するのは正直気が進まないからな。

 ここ1年ほどまとまった収入を得て貯蓄を続けているが、そのせいで村の連中から顰蹙ひんしゅくを買っているようだ。肉を供給しており、おすそ分けやらなんやらで還元しているので、そこまであからさまな嫌がらせは受けないし、以前に妹君に絡んだ男共を半殺しにしたので手は出してこない。

 どうにも妹君のことになると見境がない、妹君はランクで言うと友人に当るので金以上に大事な存在だ。前世では6人しか得られなかったうえに、異性は1人しかいなかった。おまけに変わり者が多かったしな。

 変わり者と言えば、妹君も十分に変わり者のような気がする。この1年で以前のような無表情は鳴りを潜めた、今は普通の状態となんら変わりない。ただ身体能力が驚異的になりつつあり、加えて俺への依存も驚異的になりつつある。  

 被虐待のトラウマとも言うべき物なのだろうが、精神看護に疎いので理想の反応等良く判らない。

 結果として甘やかすことになる。人としての成長を鑑みるなら間違っているのだろうが、これ以外の接し方は良く判らない。幸いにして常識と良識は持っているようだし、特に悪いこともしないので今はこれで良い。反抗期が大変そうだ。

 妹君の依存度を実感するのは例えば今がそうだ、帰ってきてドアを開ける、ため息とともに座り込む、妹君が抱きついてくる。と実にスムーズに進んだ。

 今日は激動の日ではあったが戦って直ぐ帰ってきたようなものなので、普段よりは帰宅が早い。妹君はソレにご機嫌なようだ。

「兄さん、兄さん。んふふふ、兄さん」

 兄である俺の胸板にグリグリと額を押し付けて笑う。その笑い方も、嬉しくてついこぼれた、見たいな感じだから生々しい。保護者に対する親愛の情なのだろうが、勘弁して欲しい。こちとら色々ギリギリなんだから。

「君、酔ってるのかね? 傷に響くので離してくれ給えよ」

 おれ自身は酒は飲まないので良く判らんが、よく酔った知人がこんな感じだった。

「傷!? 兄さん怪我したの!」

 で、一転しての心配。そう旨くやられると此方も弱いよなあ、とは思う。前世の経験から言って、子供や女はこちらの反応を予測した上で実に巧妙に演技してくる。本人にその自覚がないのが厄介なところかね。

「致命傷ではないし、魔力もそこそこ回復したから直ぐ治すよ。なので少々離れてくれたまえよ」

 今度は素直に離れてくれた。基本的には素直なんだよね、少々以上に甘えっ子だけども。まあ俺的には保護欲が充足するから、ぜんぜん問題ないんだけどね。

 回復魔法の原理はさっぱり判らんが、治癒過程を想像出来るので俺には簡単だ。治していくと今まで感じていた痛みが理解できるね。痛くないってのはすばらしい。

「終わった?」

 妹が律儀に距離をとったまま聞いてくる。

「はい、終わったよ」

「んー」

 俺の返事を聞くと又抱きついてきた。そのまま深呼吸すると、今度は体を撫で回す。

「何事?」

 返答は得られず。

 ひとしきり撫で回すとようやく離れた。そういえば、身内の体臭は血が近いほど嫌悪感があると聞いたことがあるな。思春期になったら俺も嫌われてしまうのかねえ、よもや転生してからお父さんの気分を味わうとは。

「ちゃんと治ってるね」

「自分の事だから、手抜きはしないよね。基本的には」

「何事があったの?」

「四本腕の熊、魔獣とやらに襲われた。まったくもって油断したよ」

「魔獣」

 妹の目から色が消えたような気がする。妹君は冷静で頭も良いが、物凄くキレやすい。厄介なのはキレていても冷静で、目的を見失わないところだ。切れる理由は自分かあるいは俺に危害が加わった場合。

 今回の件もそうだね、俺に怪我をさせたんなら報復をしよう、とかそんな感じだろう。

 妹君は実は強い。身体能力も異常だが、魔力量が桁違いなのだ。俺の初期魔力5だったのに、ちなみに具体的には教えてくれない。それでも使ってる魔法の種類や頻度から考えて、今の俺の魔力より多い可能性が高い。

 妹も空想魔術師なんだろうか。特に魔法の制約を受けてないように感じる。兄妹だからだろうか? 個人的には妹の戦闘力が高いことは、余計な心配をしなくても良くなるので歓迎だが。

 しかし、今回のような事態では逆だ。なまじ戦闘能力が高い分、報復にいけてしまうと言う難点がある。

「君、物騒な思考をしているようだがね、そいつはもう殺したから相手はいないよ」

「兄さん。だったらせめて死体をバラバラにしないと」

「それはあまり意味が無い行為だね。まあ復讐なんて物は本人の気晴らし以外の何物でもないからさ、君の気が済むんであればそれで十分なんだろうけどね」

 妹は笑った。普段の実に爽やかな笑みではなく、唇の端を歪める様な嫌な笑いだ。こいつは変なところで俺に似ている。自分の笑い顔をじっくり見たことなんてないが、きっとこんな感じなんだろう。

「そうそう、断っておくが、魔獣は森においてきたから1人で行っちゃ駄目だよ」

「そうなの?」

 妹の気配が和らぐ、気が抜けるとでも言えばいいかね。きっと冷静に色々考えた末に、諦めたんだろう。対象がすでに死んでいる、自分の八つ当たりのために森の奥まで行くリスクとリターン、その他諸々。

「なら仕方ないね。その魔獣が地獄に堕ちることを願いつつ、早く帰ってきた兄さんを独占するとするよ」

「独占って、誰かと競合したことがあったかね」

「知らない人間は気楽でいいね」

 別に知らなくはないんだけどね。村の中の女性から好意の視線を感じることは多い。まあ、当然と言えば当然なんだがね、金持ってるモン。その上でソレを女、まあ妹なんだけど、に使うことを惜しんでないからね。

 と言って、向けられる好意に答えられるほど楽観主義にはなれないねえ。

「知らないって事は素晴らしいね、何を知らないかにも寄るけども」

「良いの、兄さんは何も知らなくて。何も知らないで」

 好奇心の塊のような俺にひどい事を言うねえ。

「取りあえず、ご飯にしましょうよ。流石に体力が空っぽでね」

「1日食べなくても死なないよ」

 この妹は基本的に俺が好きなんだろうが、別に俺の世話を焼きたがるわけではない。自分の為に俺が好き、と言った感じで、実に俺好みだ。まあそれはソレとして、食事は大事だと思う。

「いやいや俺は食べるよ」

「じゃあ食べても良いから私がくっ付いてても気にしないで」

「気にはなるけども、我慢する事にしようかね」

「それが良いよ。兄さんは素直で良い子ね」

 こんなやり取りは珍しくも無い、だから気にしない振りをする事も慣れた物だ。流石俺、チキン。こんな状態でよく耐える俺チキン。

 ああ、妹君は可愛いなあ。リアル妹萌えとか、奇跡としか言いようが無い。

 結局夜までべったりだ。こちらは主に本を読んでいる。読んでいる本は所謂博物学の本が多い。前世と違う点は、明らかに荒唐無稽な博物学の内容を、素直に疑えない点くらいかね。

 海の伝説シーサーペント、巨大な一角ツノ鯨、山ほどもある巨獣ベヒーモス、それを捕食するドラゴン、夜と見まがうほどの影を落とすサンダーバード、等々どれも前世で有名なガセネタ共だ。しかしなあ、別に居てもおかしくない。と言うかいるんだろう。

 好奇心が刺激される。見てみたいが……絶対に会いたくはないね。間違いなく死ぬからね。

 妹君は本を読んでいるのを邪魔しない。自分も本を読んでいるときもあれば、俺の膝枕で寝てたり、背中を合わせて座っていたりする。

 今日はそのまま寝てしまったのでベッドへ移した。俺も寝ることにする。

 いつも寝るときに思うことだが、寝るのは嫌いだ。寝付くまでに糞くだらないことを考えて、それだけでイライラするからだ。ああ睡眠薬が欲しいなあ。いや、きっとあるはず。近いうちに町まで行こう、結局伸ばし伸ばしで行けてないしね。

 おやすみなさい。


 

 やっと寝付いたと思った。正確には思ったのに、とイライラの感情がつく。

 何で起きたのか。俺は物凄く寝起きが悪い。妹君が起こすのをためらうほどに悪い、起きたときには皆死ねばいいのにと思うほど寝起きが悪い。まだ真っ暗なうちに起きるなど考えられないほどに悪い。

 コンコンコン。

 起きた理由はこれか。ドアがノックされているのだ。ぬかったなあ、ここんところ油断して網を張っていなかった。いつの間にかなくなってたよ、その習慣。まずいかね? ノックするって事は問題ないかね。

 村で医者的な仕事もしてるので、急患ということも考えられる。ああ、先生方はよく夜中中緊急手術して次の日の朝から定時手術、なんて拷問のような生活してたねえ。

 俺がツラツラ考えている間もノックはやまない。と、部屋が明るくなった。妹がランプに火を入れたようだ。慎重に足音を殺してドアへ歩む気配がする。

 コンコンコン。

「うるさい。兄さんが起きる」

 冷え冷えとした声だ。妹君もまあ寝起きが良い方ではないからね。と言っても妹君の場合は起きれるけど機嫌が悪い、程度の物だが。

 ドアを開けようとする気配がする。流石に起きよう。

「待った」

「兄さん、起きちゃった?」

 言葉と裏腹に驚くそぶりは無い。知っていたんだろう。

「俺が開けるから、君はこっちおいで」

 素直に寄ってきてなぜか俺のベッドに入った。俺はベッドの上から魔力で扉を開ける。もちろん照準はドアにつけている。

「どうぞ、あんまり歓迎しないけどね」

 炎に照らされてトコトコと入ってきたのは、8歳くらいの小さな女の子だった。こんな可愛い子村にはいなかったと思うけど、物の怪の類かね。

「どちらさま?」

 内心死にたい位に怖いけども、妹君が居る手前怯える素振りすら見せずに聞いた。

「ぬう、待っても待っても来ないから態々匂いを辿って来たと言うに、薄情な友人じゃのう、ぬしよ」

 自体が飲み込めない、こいつは誰……

「兄さんに寄るな爬虫類」

 思考を始めたとたんに妹の底冷えするような声がした。声の出所は少女の直ぐ前に立っていた。

「ぬ、おぬしは……」

「兄さんから離れろ!」 

 妹君から強烈な魔力の波が感じられ、その瞬間には少女は吹き飛ばされていた。妹君も夜の闇に出て行く。

 一瞬ポカンと思考停止してしまったが、これはまずい。妹君が少女を殺してしまったら揉み消しが面倒だ。何よりあの少女可愛い! 殺すのは惜しい。

 人間の屑の面目躍如たる思考回路で外に飛び出す。

 妹君が立っている。魔力を纏っているのは判るが暗くて良く判らない。幸いにも満月だが、なんとなく霞が掛かっているような感じだ。対する少女は良く見える。何処にあったのか体の大きさに不釣合いな長い矛を持っている。

「待て、誤解があるようだ。我はおぬしらと争うつもりはない」

「其方に無くとも此方にはあるんだよ。爬虫類」

「あは。我は確かに爬虫類じゃが、死霊使い(ネクロマンサー)に言われたくはないの」

 不穏な単語が飛び交っているね、死霊使いって? 妹君にそんな特技があるとはしらなんだ。

「余計なことを、言うな!」

 妹が何かを投擲するような動きを見せた。何も持っていないが何かを投げたようだ。対面の少女が何かを矛で受けて反り返ったことで知れた。

 反り返った体を戻しつつ少女は一歩踏み出した。一歩としか見えなかったが、妹の目の前で矛を振り上げている。矛なのに使い方は剣の様だ。あれだけの長さの矛を大上段から叩きつける。重量だけで必殺だ、俺もぼけっと見てるわけには行かないか。

 妹君を包み込むように魔力を展開し、矛を受ける。音はしなかった。昼間熊を受け止めた時の様な衝撃を感じた、流石にそこまで重くは無いが、十分に思い一撃だ。

「ぬ、何故邪魔をする。こやつは主の妹ではないぞ」

「黙れええ!」

 少女の言葉に激昂した妹君が又何かを投げた。今度はそれを少女の前で受ける。此方も重い。化け物共め。

「…………兄さん」

 俺が妹君の何かを受けたことを知ると、力なく呟いて糸が切れたように座り込んだ。大体理由は判るが、めんどくさいことになってきたねえ。

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