子供好き
子供という者が俺は大好きだ。むろんまったく純真な目で子供好きか、と問われればそれは目を背けるだろう。だが、それでも子供が好きだ。女の子だけじゃなく、男の子だって好きだ。
子供をかわいいと思うのは、本能のレベルで思うのだ。
そして、子供は世界の宝だ。あまりに綺麗で見ていると気分が沈んでくる。
結論としては、子供好きの俺の前でその親を殺し、その子を危険にさらしたので、皆殺し、ということだ。
「結論が出たよ、諸君」
なんだか、口が勝手に喋っている様な気もする。なんだか懐かしい感覚だな。頭に血が上りすぎていて、目の前が白黒だ。
まだ落ち着いている。子供を助けるのは当然のことで、これからそのために行動をするのも当然のことだ。
「拝命いたします、我が主」
グランを筆頭に皆が傅いた。琥珀もいる。子供は何処かに預けたらしい。エリスだけは俺の後ろで、俺の服をつかんでいる。
「俺が城門をこじ開け、中に居る親玉を殺す。お前たちは住人を保護し、トカゲを殲滅しろ。親玉は神の尖兵である可能性が高い、皆は手を出すな、それらしき物を見たら逃げろ」
「確かに拝命いたしました」
そう言って一斉に頭を垂れるのだった。
それを確認し、こじ開けるべき城門をみやる。
大きな扉だ、当然この扉が篭城の肝を握るわけだ。
だが、そんな大きな扉も俺の様な魔術を行使するなら、話は違ってくる。
ただの薄い扉と同様にこじ開けてしまえる、という事だ。
ズガン! ゴンゴンゴンゴンゴンゴン!!!!!!!!
最初の一撃、この場合は魔技で思い切りたたきつけただけだ。魔技は魔力を動かす技だが、その動かす魔力の量や密集具合で重くなる。硬質量の物を高速で叩きつけた事になるわけだ。
一撃で扉は歪んで開かなくなってしまった。よって扉を吹き飛ばす方に方針変換、魔技による乱打を繰り出す。
扉から激しい音がして、扉はなくなった。要した時間は5秒といったところ。
最後に、ガゴン!!!!! という大きな音を立てて扉は吹っ飛んでいった。
目に付く範囲には蜥蜴どもはいない。
しかし、俺の『網』には感知されている。以前は平面しか感知できなかった網だが、試行錯誤の上で自分の周囲に無数の『糸』を張り巡らすことで、自分を中心にした半球を索敵できるようになった。
魔術師や魔法使いに感知されないように、隠蔽も施している。
そしてその網によると……。
「城壁から、こちらに向かっている、と」
ぐるん! と顔をそちらに向ける。城壁の上から槍を持ったトカゲ共が飛び降りてくるところだった。
フォン! と音を立てて魔技が魔力を振るう。落ちてくる数体のリザードマンの脇腹を思い切り殴った。
脇腹を殴られ、吹き飛んだ勢いそのまま残りのリザードマンもなぎ払う。
相当数の敵が進入して、いや、この場合は占拠しているんだろう。
あちらこちらで敵性反応がひっかる。
面倒だが、やるしかないな。
Side:ニズヘグ=ニーズヘッグ
始めは何が起こったのか全く判らなかった。盗賊団の討伐に送り出した精兵たち。その彼らよりもはやく、なぜ盗賊団がここに居るのか、全く判らなかった。
町の周辺に盗賊団が巣くったのは2ヶ月も前のこと。一度領主様の騎士団が攻めたが、結果は惨敗。その時に見つかったリザードマンを何とかしようと時間だけが過ぎていった。
そしてついに反撃の機会を得る。三商会合同の騎士団と、通りすがったという謎の一団。
商売をしている以上それなりに情報は集めている。特にこの都市は独立国家のようなもので周辺の国からは良く思われていない。情報は必須なのだ。
その一団はギルドから警戒されているようだ。詳しく探ってみたが、これはギルド側の逆恨みに近い、というかそのものだろう。
ギルドのあった町をつぶされたのは気の毒だが、それを向けるのはすじが違うだろうに。
ともかく、一団を調べた。どうも尋常でない戦闘力を持っているようだ。リーダーらしき少年は信頼されているようだし、文字通り思わぬ収穫だ。
もちろん確認はした。少年は確かに強かった、そして何よりその他のメンバーもそれに準ずる力量を持っているらしかった。
毒、とは。確かに卑怯かもしれない。しかし私は商人だ。商人とは、商売とは結果がすべてなのだ。
あの少女は結果的に私の私兵を倒した。あの口ぶりと自身から、おそらくあの後も戦いが続いていればこちらの兵士は皆倒れていたに違いない。
あの少女の主(これは少年だが)に対する憧憬のようなもの、それを考えれば自信なくあの態度を取ったりはすまい。
少年は我々を圧倒した。戦いにすらならなかった。高位の魔術師たちはみなこの様な者なのだろうか。この少年の助力を得ることができたのは、望外の喜びだ。
そして自信を持って盗賊討伐に派兵した。もとより謎の少年たちの援助が無くても、われわれの独力だけでも討伐できる、それも余裕を持って討伐できると踏んでの事だ。
勝利の報告異常に損害報告が気になる。そんな事になるはずだった。
だが結果はどうだ。精兵たちの行方も知れず、眼前に広がる景色は紛れもなくあの盗賊団のもの。
すでに都市は取り囲まれている。申し訳程度の壁と門では、いくらの時も稼げまい。
その短い時間ですることがある。
現在この都市に戦力を持っているのは、ラタトクス商会の私兵だけだ。私兵といえば聞こえが良いが、内実は我々三商会の暗部、暗殺や流言などを行う部隊。
多少の能力、戦闘力はあっても戦闘向きで無い部隊だ。だから私はラタトクスに伝令を飛ばし、部隊を隠すよう頼んだ。
時間稼ぎはここまで。門を破るまでも無く、次々と壁を越えてくる。
残された我々には降伏する自由が与えられるだろうか。
「このマチはわれわれがセンキョした。てむかうなコロすぞ」
傍若無人なトカゲはなんと口を利いた。そして、見せしめとして殺すと若い母子に言い放った。
「ま、待ってくれ! 私はこの町のトップの一人だ。見せしめなら私を!!」
望んでもいないのに声が出て、リザードマンに手を伸ばした。
「ダメダ! そこでミテロ!」
リザードマン二匹に押し付けられ、目の前でリザードマンが殺そうとしている。周りの動きがゆっくりになり、私の耳から音が消えた。
そして私は見た、母親が私に向かってかすかに微笑んだのを。母親が子供を壁外へ投げたのを。子供を何かがつかんだことを。
私の音が戻っているのに気づくと、門がものすごい音を立てて吹き飛んだところだった。
リザードマンも次々に下に下りていく。
そして私が見たものは、千切られた様にバラバラのリザードマンとかすかに眉をひそめるあの少年だった。
Side out
網で確認した所によると、この周辺には見せしめ役のリザードマンが数体、待機していたが他の反応が無い。
相手の数も作戦もわからないが、いま殺した感じだとあまり脅威は感じない。
此方も結構イライラとしている事でもあるし、このまま歩を進めてよってくる敵を皆殺しにしようと思う。
現在、俺の周囲には魔技による壁、というか大きな尻尾のような魔力の塊が4尾ほど渦巻いている。
渦巻いたそれらは、高速で旋回し物理的な結界をはっている。
強度と労力に少々不安があるが、中々使える技である。
網はこの町全域に伸ばした。このまま進めば、おそらくは神の尖兵であるところのリザードマンがいるだろう。面倒だ、実に面倒だ。俺はこの世界で適当に観光しながらダラダラ過ごす筈だったんじゃないか。
なぜこんなことをしているのだろう。
決まっている……ゴミ共が次々と人のものを壊しにくるからだ。俺の不愉快なことをするからだ。実に、面倒だ。




