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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
88/105

いきなりの急変

短いですが

 最初の一団を倒した後、次の一団、あるいは主戦力が出てこないことに大隊長は不審を抱いているようだ。

 俺が網を張って探査してみても岩山の奥は深く、探査範囲外になってしまう。


「嫌な予感がする。だが、ここから離れるわけにも行かん」


「ですね、ここで後ろを見せたら、いきなりザックリ、なんて事にもなりかねません。琥珀、君ならこういう場合何を疑う?」

 琥珀は少し考えたようだが、すぐに答えを返す。


「陽動・篭城・離脱、あたりが考えやすい」


「ほう、意外と常識的だね」


「戦術というのは常識の積み重ね。奇策・怪策を用いるのはそれを用いなければならない状況にある場合」


「なるほど、篭城ならこのまま徐々に近づいて反応を見よう。なんらなら俺が行ってもいい。離脱、つまり脱出した後なら、時間稼ぎのための部隊ということだ、本体を探す必要がある。で、陽動は?」


「陽動はこちらを岩山に注目させておいて、別の目標をたたく。今回のように別の目標に戦力が少ない場合などに有効」

「別の目標って?」

「ま、まさか!」

 俺の軽い聞き方にかぶせて、大隊長が深刻そうに驚く。彼にもなんとなく考えていることがあるのだろう。


「ここに主力を足止めし、戦力の少ない商業都市ザイルを落とす」

「馬鹿な!! 蜥蜴共にそんな頭があるはずは!?」

「まあまあ、これは可能性ですから。実際時間稼ぎには有用ですねえ。何かあると判っても、このままにしては置けない、不用意に岩山の中を調べようものなら、罠やら奇襲やらであっという間に全滅だ。もとより向こうの住処で集団行動には向かない。かといって離れようにも、背後から攻められたら弱い」

 不安そうな大隊長を宥めつつ現状を把握する。


「ふむ、現状最もまずいのが、自分たちが居ないせいでザイルが墜ちる事、になるのかな琥珀君」

「現状の情報から判断するならそう」

「なるほど、了解した。では琥珀、ザイルの様子を偵察してきてくれ。たった一人の威力偵察だが可能かね?」

 疑問の形をとっているが、大丈夫だろう。という予測は立てている。ちょっと戦ってみたことがあるんだが、琥珀は琥珀で、すごく強い。笑っちゃうほどに強いのだ。


「言ってくる、連絡は魔法で」

「たのむよ」

 琥珀が弾丸のように走り出していく。リザードマンに馬車を襲われたときに使用した、通信魔法で連絡してもらうつもりだ。琥珀は作られた戦闘用の人形なので、使えるものは魔法、つまり先天的に使えるものになる。これは琥珀を作った段階でインストールしておいた物だろう。


 俺が把握しているのもいくつかある。そのうちに琥珀強化用に遺跡めぐりを考えているが、それはこのインストールされる魔法目当ての部分も大きいのだ。


 閑話休題

 ともかく、琥珀が一番早く安全にザイルの町までたどり着け、また即座に連絡ができる人材で間違いない。

 現状はここで野営の予定だったが、大隊長の指示により、追撃・伏撃に十分な注意を払いつつ、撤退する。ということだった。

 その際に俺たちが殿を勤める際、ややもめた。だがまあ、予備隊だしなにより索敵能力が大きいので、沿う大きな危険はないと思う、と皆を説得し、今は最後尾の馬車に乗っている。


 伏撃の警戒はしているが、そこまで心配はしてない。伏撃のつもりなら、行くときに仕掛けない理由がないからだ。


 そして、全体が撤退準備を完了したとき、琥珀から連絡が入った。


「ザイルはすでに堕ちている、城壁の上に何か見える、本体の帰還を待っているような。ここを落とすのだから、リザードマンは全員で来ていると思って間違いない。ただし、それは数が以前のままだったらの場合、伏兵に注意を」

 思っていたことではあるが、実際現実になるとゾワゾワする。伏兵に注意を、というのは俺がやれ、ということだ。つまり最大限に急げと。


 大隊長と示し合わせて急いで帰る。

 それにしてもどうやってこんな事をしたのか。なぜこの日が判ったのかなど、まあ疑問点は大きいが、今考えるのはどうやって取り返すかだ。


 商業都市ザイルは、都市国家である。それは単体の都市で国を名乗る力があるという事だ。この周辺はザイルのような都市国家が乱立し、一種の紛争地域のようになっているが、物流と情報を武器にザイルは争いに加わらずに居るのだ。


 そしてそのザイルはその姿も、国として誇れるものになっている。

 城壁とでも言うべき壁が取り巻いており、その上には物見の櫓、弓を射るための穴、そして立派で堅固な城門、という具合だ。周囲に堀などがないのは、流通の要所としての理由らしい。


 その城壁の上に、今はリザードマンが立ち、親子らしい女性二人を片手で持っていた。



 少しさかのぼる。

 琥珀の一報により、盗賊討伐部隊は一転してザイル奪還部隊と成り果てていた。そして、隊長が反転の命を出したところで、リザードマンの巣穴である岩山から、ワラワラとリザードマンが出てきたのだ。

 こちらが後ろを向いた所での奇襲。


「なるほど、意外に頭がいいんだな」 

 ザイルが襲われている、という段階になっても何処かでリザードマンのことをなめていた。

 そして、それを反省していると左右の森の中からも、ワッと勢いを着けてリザードマンが出てくる。ああ、俺より頭が良い。そりゃ警戒している行きよりも、急ごうと焦っている帰りを狙うだろうし、これは時間稼ぎでもあるんだろう。


 馬車はさらにスピードを上げた。このまま強引に振り切る気だろう。まあ時間稼ぎに付き合う必要はない。


「これは、まずいか……」

 馬車も勢いをつけて走っているから、すぐに追いつかれはしないだろうし、左右から来るリザードマンもまだ幾分余裕がある。が、時間の問題である事はすぐに判る。


「ここは……」

「ここは翡翠にお任せあれ!!」

 俺が食い止める! とかっこよくフラグを立てようとした所で、フードの中の爬虫類がピョーンと目の前に飛び出し、手荒く走るガタガタと揺れる馬車の床に着地したのだ。


「主様。主様は都市のほうへ。ここは私が」

「いや、きみね……」

「翡翠でいいのです。使い減りしない軍勢、それが翡翠の役目です」


 そういうと止めるまもなくふわり、と翡翠は馬車の外へ出た。地面に着地するまでには、堂々とした体躯の竜の姿になっていた。ランドドラゴンなのだろうが、間近で見ると恐ろしいものだ。

 そしてもっと驚いたのが、翡翠の影から、次々と魔獣が湧き出しているのだ。その中にはあの精霊獣も居て。

 なぜ影から? そもそもいつから影が使えるように? 多過ぎるほどの魔獣はどこから?

 と、疑問は尽きなかったが、そんな気分を置き去りにして馬車はぐんぐんとは知っていく。


「翡翠ー! 危なくなったら逃げるんだぞー!!」

「はーーーーーい」



 という、なんとも間の抜けたやり取りで後方を任せる事になってしまった。

 後でちゃんといろいろ聞いておこう。



 翡翠のおかげで後は順調に進めた。ちょっと考えていた、無尽蔵に仲間を増やせたらどうしようかと思ったが、早々うまくはいかないようだ。

 琥珀も言っていたが、リザードマンの数が変なのだ。どうせ前回の少年のように何らかのスキルかギフトを受け取ったのだろうが、予想が付かない能力は困る。


 飛ぶような勢いで言ったとはいえ、時間を半分にすることなどできず、到着は3時間後のことだった。


 そして俺は城壁の上の母子を見たのだ。


 リザードマンは母親を見ると首を持った、そしてこちらに見せ付けるようにしてその顔を殴打したのだ。勢いが強すぎて首の手が外れ、女性は子供の下へ飛ばされた。

 子供を抱きしめ、庇う様にする。上目にリザードマンを睨む、その途中で俺たちを見つけたのだろう。


「助けてー!!!」

 と、大きな声を上げた。

 そして声と同時に子供を俺たちに向かって投げたのだ。高い城壁のうえからだ。母親だろ! と一瞬にしてはらわたが煮えた。なんとか子供を魔技によって受け止め、見せ付けるように城壁を見ると、女がリザードマンに殺されたところだった。女の表情は笑っていた。


 ああ、と、納得した。そりゃそうか。また一つ馬鹿を自覚してしまった。


 女の方を見ていると、リザードマンの足元にニズヘグ氏らしい男が倒れていた。どうやら町の有力者に見せしめをしていた所に帰って来た為、此方にも見せた、ということか。


 魔技で受けた少女は落下の衝撃か、気絶していた。それはいつの間にか隣に居た琥珀に預ける。


 なんだかトテモ不愉快な気分だった。



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