開始
投稿遅くなって申し訳ありません。
「はあ、これは、どういう?」
茶番だと悟った内の連中から怒気が膨れ上がる。
動いたのは誰だろうか、まずい気配がした。
「待て! やめろ!」
間に合わないか、と思い振り返ると、みんな深々と頭を下げていた。
「あ、どうも。素直になられると実にビックリだ」
「兄さん」
ただ一人立っていたエリスが声をかけてくる。
「兄さんはね、私を含めて、皆の主なの。兄さんがやめろというなら、勿論やめるよ」
前々から思っていたが、案外重い奴らである。まあ俺はそれが、良いんだが。
とりあえず皆を立たせ、ニズヘグ氏と中隊長の2人から話しを聞くことにする。
話を聞く前から、大体の予想は付いていたが、予想通りだった。
雇われる俺たちは、多少の実績はあるがほとんど無名だ。前にいた町の情報は入ってくる、しかしとても信じられないような情報だ。
そして今回戦った中隊はいくら、自分たちで戦ってないとはいえ、リザードマンの情報を知っている。
ニズヘグ氏の言いたいことはわかる。それに中隊長の気持ちもだ。
中隊長は同僚がリザードマンと戦って敗北している。そこに挑もうとするのに、実力もわからない見方がいては困る、という事だろう。
それでもニズヘグ氏は悪いと思っているのか、依頼料と成功報酬を上げてくれた。金さえもらえれば、何もかも許せる。
「まあ、お気持ちは判りますよ。それに報酬が上がるのなら、何も言う事はありません。中隊長殿もよろしいですか?
「もちろんです魔術師殿。正直、魔術師殿の実力は聞いていましたからね。まあ念のため、というやつです。念を入れたかったのは、旦那の方ですがね」
そういってニズヘグ氏を見た。中隊長は同僚から、俺たちが馬車を助けた時の様子を聞いている。流石に同僚の言葉を疑うことはないのだろう。
「ええ、まったく私の不徳です。部下の言葉を信じず、アリス殿を信じられなかった。誠に申し訳ない」
太った体を揺らしながら頭を下げてくる。
こちらも同じ言葉を繰り返し、気にしていない事を伝える。
結局その日は馬車を見に行くこともできず、リザードマンとの開戦の日になった。
リザードマンの住処は町から馬車で4時間ほどの所にあった。
岩山の斜面が崩れたのか、それとも元々そうだったのかは不明だが、とにかく岩山の一面が削られたようになっており、底は深い洞窟になっているようだった。
某クラフトゲームで見た事があるような地形だ。前世では相当特殊な地形で無いと見なかったように、峻険、程度では足りない位にきりっ立った岩山。
鋭いのにどっしりと、大きく広く山並みを広げている。
「なんとも壮大な景色だね」
誰に言うともなくつぶやく。
「それは岩山が? 兵士が?」
戦場ということで隣に立った琥珀が、そう返してくる。
「ん、岩山だよ。さすがに兵士も立派だがね、好きだったんだよ……クラフト」
「そう」
「無人島で木がなかったり、突然家を爆破されたり……」
「うん」
なんとなく感傷に浸ってしまった。変なところで感傷に浸るものだ、流石は俺。琥珀は俺の前世への未練を知っているから、どことなく同情的なのだろう。
未練といってもたいしたことはなく、文明生活への執着のようなものだ。
ゲームやりたい、アニメみたい、漫画読みたい。
最も今は、現実逃避というか、余計な考え事をしている場合ではない。
あの岩山までは5km位あるだろうか。緩やかに波打つような起伏をしており、俺たちが今居るのは少し高くなっている部分、波なら波頭の部分だ。
おかげで陣取っている(文字通りの陣取っている)友軍の兵士を見ることができた。
今回参加した兵士は3つ。ニズヘグ氏の派遣した私設部隊ニベルの1大隊。ニズヘグ氏同様、商業都市の顔役であるフレスベルグ商会から1大隊。そしてザイル騎士団、規模は1中隊欠の1大隊、という物だ。
フレスベルグ商会主とは、昨日の中隊模擬戦のあと会った。フライス=フレスベルグとなのり、挨拶をしてきた。ニズヘグ氏が悪徳商人顔なら、フライス氏はすごくてきる実業家風だ。長身痩躯で目の下には僅かに隈、銀縁のメガネをかけてスーツのような仕立ての服に、護衛が二人付いている。実業家風ではあるが、悪い感じ、なんというかインテリヤクザのようなイメージだ。まあ彼も商人だし、無理もないが。
フライス氏とは結構話をしたが、驚いたのは各商会のありようだ。三つの商会が仕切る町というので、三商会が対立し、その対立を領主が利用して立ち回っているのだろう、と取っていた。
「いやいや、魔術師殿。文字通り支配しているのさ。この町の領主なんて物はね、我々商会の1部署程度に考えてもらえれば結構。それに我々の商会はほぼ一つの様な物、一つの商会に取引分野の違う部署が3つある、と考えた方が判り易いかな」
などと話していたのだ。
今回参加した戦力のうち2つまでが、商会出資の物である、というのはそういうことだ。そしてラタトクスが参加していないのは、その商会の戦力は諜報などに特化しているから、ということらしい。
現在は岩山を望んで、三つの塊が陣取っていた。遠めに見ているせいか、200人はいるであろうその一塊が、ちっぽけな集団に見える。
まず中央に一つ、少し下がってやや離れた左右に一つづつだ。
琥珀や隊長にきくと、こうした陣形を取って戦うのはほぼ戦争でしか見られないとの事だ。
会戦という形式で、近代以降はほとんど見られなくなった。戦国時代の関が原のような感じがする。
普通、盗賊討伐というのなら、適当にせめて十分、攻める姿勢を見せただけで散り散りに逃げるのだという。
今回の相手、リザードマンが結構な相手であるということだろう。
前回の戦いのとき、リザードマンは近づくと岩山からワラワラと出てきたという。どこかで見張りでも立てているのか、そこまでの知能があるということか。
今も真ん中の一部隊が、じりじりと岩山に近づいている。開始前に聞いた作戦だと、前に出た部隊が敵と交戦しつつ、徐々に下がり、それを左右の二部隊で包囲する。という作戦らしい。
琥珀に確認したが、悪くない作戦ではあるようだ。相手方だの人間の盗賊なら、遠くから矢でも射掛けていけばいいらしいが、リザードマンは頑丈で中々素早いらしく、こちらの人数ではあっという間に接近されるそうだ。
俺たちの役割としては予備なので、特に決められてはいないが、ノワールのデバフと俺の回復魔術で援護する予定でいる。俺の魔力が続く限りは、どんな傷でも治す、と宣言してある。
部隊がある程度近づくと岩山からリザードマンの一団が出てきた。30匹くらいだろうか。思ったより小さな集団だ。
おそらくは騎士団と戦った時に奪ったであろう、鎧を突けた者や盾を持った者、剣や槍を持つ者、そして粗末な棍棒などを持つ者もいる。
作戦などない様に、こちらに向かって一心に突っ込んでくる。
こちらの部隊はそれに対し、槍衾をつくり牽制する。そして作戦通りじりじりと、力負けするように下がっていく。
「作戦通りにやるようだね。数が少ないから、力押しでもいいと思うんだけど?」
琥珀に聞いてみる。あの部隊は300人に少し届かないくらいの差がある。装備の事まで考えれば、1:10くらいの戦力比があるはずだ。
「相手が人間なら、それも良い。でもリザードマン相手なら、1:1になる」
「ああ、なるほど。奴らは強いんだったね」
どうもそう思えないので、中々頭が回らない。あれらが強いから、俺たちがここにいるんだっけ。
自分の頭の悪さに辟易していると、作戦通り。左右から包囲して、リザードマンの一団を殲滅しているところだった。
いくら一体が強くても数の暴力に押され何れは力尽きる、少数精鋭の最大の敵は数なのだ、と誰かも言っていた。
第一陣を全滅させ、隊全体が後ろに下がる。けが人をこちらに収容し、俺が回復していく。
今回の戦いはこんな感じで、持久戦を想定していたらしい。しかし、気になることがある。
「いくらなんでも、追撃がこないのはおかしいですな」
部隊全体の指揮を執る、大隊長がつぶやく。回復の様子を見に来たらしく、大隊長と各部隊の隊長が来ている。どのくらい回復するかによって、作戦その他が違ってくるのだろう。
その中には、顔見知りの中隊長はいなかった。
「ほう?」
なんだか判らんが、偉そうにしておけ、という琥珀のお達しなのでこういう時には偉そうにしなければいけない。ただ、偉そうというのがどういう態度なのか、さっぱり判らないのでただの変わり者のように見られているかもしれない。
「あれが威力偵察の部隊だとしても、自分たちの目の前に置かれた脅威に対して、あまりにも反応が鈍すぎます。30程度の集団である程度のダメージをこちらに与えました。一遍にぶつかれば崩せる、と、そう考えるはずです」
「それなのに、追撃というか、第二陣が来ないことが不審、だと?」
「はい、奴らは強い。そしてその事を知っています。ここで出てこないのは……」
大隊長の言葉に嫌な予感がした。




