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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
85/105

意外な人選

 

 正式に参加する意思を伝える。討伐に出発するのは2週間後と言う事だ。


「戦力を確認したい」

 話が一段落ついたところで、琥珀がそういって部屋を出て行った。恐らくさっきの中隊長とかと確認するのだろう。琥珀はもともとが戦術支援機の人形だ、最近忘れがちだがね。こういう事には一番の適任だろう。


「じゃ、兄さんは私のもの」

 琥珀が出て行くと、すかさずエリスが腕を絡めてくる。実に落ち着く。


「のう、偶には我等に譲っても良いんじゃぞ?」

 人間の姿になって、俺の足元に居た輝夜がエリスを見上げていった。輝夜の肩には翡翠が乗って、同じく此方を見つめている。


「人形の姉様」

 翡翠の大きくて黒い目が、うるうるとエリスを見つめる。


「嫌」

 普通なら情に流されるだろうが、流石にエリス。ばっさりとその要求を切る。


「ず、ずるいぞ! 闇のだけアリスを独り占めしおって! 平等とはいわぬが、せめてもう少しこっちに分けてくれても良いじゃろ!」

「そう思います。闇の姉様、もう一寸だけ、もう一寸だけ主人様を下さい」

 どうも彼女らは俺を物か何かの様に扱うね。


「……ふむ」

 先ほどは即答したエリスが、今度は考え込む。エリスは時々俺のまねをしているようだが、あまり似ていない。



「じゃあ、分割しよう」

 


 分割、と言うから分解されるのかと思ったが、何のことは無い、三人で分けよう、と言う話だった。

 結局、割り当てられた部屋に四人で寝ている。体が小さいので狭くは無いが、暑い。



「結局闇のが一番良い位置を占拠しておる。大いに不満じゃ」


「輝夜は魔力分けてもらう時兄さんにくっついてるでしょ、わたし(・・・)、の兄さんなんだけど」


ぬしの兄だとしても、今は我のあるじでもあるのじゃ。特に我は主が居なければ生きていけぬ。完全に一心同体と言える」


「それがあんただけだとでも思ってるの? 私達のうちで兄さんが居なくても生きていけるのなんて居ないわよ」


「ぬ、それもそうか……」



「君たち……。実にいい会話だね。なんとも癒される、安心する」

 ベッドに寝た俺の腕の中にエリス、背中に輝夜、頭の上辺りに翡翠。翡翠はまどろんでいる様で会話に参加していないが、実に俺好みの会話をしている。


「ま、それは良いんだが。エリス、そろそろ眠らせてもらえないだろうか?」

 実に俺好みの会話なので、もっと聞いて居たいんだが、前世からの癖なのか、夜に起きている事が辛いのだ。そして不眠症でもあるので、睡眠薬ならぬ、エリスの睡眠魔法が必要なのだ。


「えー、もう? 今日はあまり話せなかったし、もうちょっと……だめ?」

「そうじゃ、主ももっとサービスせよ」

 精神的安寧の為に眠りたかったのだが、二人から反対意見が出た。


「うーん、じゃあまあ、もう少し……」

 そこまで言ったところで、寝室のドアが大きな音を立てて開かれた。

 現在はニーズヘッグ商会の客室に止まっている。大きな部屋で作りも豪奢だ。その豪奢な部屋の、豪奢な両開きの扉が勢い良く開いたのだ。この豪奢な部屋の扉でなければ、ドア毎吹き飛んでいただろう。



 廊下は明かりがついており、薄暗い室内に眩しく射し込む。その光の中、陰となって立っていたのは、黒いコートを着込み直立不動で立つ軍人風、そう琥珀である。


「私が仕事をして居るうちに、アリスを独占? 許せない」

「君、此方は三人居るから独占、というのは定義から外れると思うが。まあ落ち着きたまえよ。お疲れ様、お帰り琥珀」

 ベッドの上に座って両手を開いて、歓迎の意を示す。


 自分を好いてくれる四人が、自分の為に争う。実に俺好みのシチュエーションだ。だが、そこに胡坐を掻いていれば、よくない未来しか想像できない。

 なので、調整自体はまる投げでも、怒りを静めるとかご機嫌をとる、位の事はするのだ。


 おいでおいでって誘っていると、琥珀はため息をつきながら腕に収まった。ベッドの上だから押し倒されたようになる。


「ずるい、ずるいよアリス。私がんばったのに」

「すまんすまん、いつも琥珀には感謝してるよ。勿論皆にもね」

「……兄さん、後で私もそれやって」

 それ、と言うのは抱きついてきた琥珀に押し倒されつつ、抱きしめて頭を撫でている現状のことだろう。


 こういった時間は嫌いではないので、ゆっくりと琥珀の髪をなでる。銀髪のサラサラした髪は、旅の最中でも全く汚れずキラキラしていた。今は入浴後なのか、サラサラな上にいい香りがする。


「あ、そうだった。こうして撫でられている場合じゃなかった。連絡が」


 起き上がった琥珀の報告、それは明日のことだった。


 なんでも私設傭兵隊のうちから、俺達のチームに関して戦力に不安がある、と意見が出たらしい。まあ当然だろう。その実際はともかく、此方は子供とペットの方が多い上にその子供がやたらと偉そうだ。

 訳のわからない集団として警戒し、また子供が多いから大したこと無い戦力と侮られる。


 結論として上がったのは、模擬戦、であった。なんの捻りも無い発想。

 商会主からしてみれば、こちらの力が予想外に弱ければ、契約料をひきさげ、もし強ければ計画の中枢に組み込んで、商会の戦力の損耗を押さえようと言う腹だろう。


 此方としてもそれで良い。最後尾の総予備ならうちが被害を食う可能性はとても低い。もし仮に前線に連れ出されてもそれ相応の金銭で折り合いを付けられる、双方にメリットデメリットがある。


「模擬戦、ねえ。やっぱり俺がやった方が良いんだろうね」


「兄さんが態々? ノワールにでもやらせたら良いのに」


「それでは納得しないだろうね、グランやノワールは見た目にも強そうだし。彼らがみたいのはそれ以外の、まあ俺や君等の強さなんだろうね。さて、では明日も早いので、眠らせてくれ」


 なんだかんだと言っていたが、エリスは俺を眠らせることに使命感のような物を持っているので、すぐに眠らせてくれた。琥珀に俺としゃべらせない、と言う思惑もあったかもしれない。



 

 翌朝、予定通りにニズヘグ氏から模擬戦の申し入れがあった。

 予想外であったのは、ニズヘグ氏が恐縮していたからだ。どうも純粋に部下からの意見らしい。商人なので態度では何も測れないだろうが、少なくとも今回の件は寝耳に水のようだ。


「大変申し訳ありません。部下の暴走も止められず、お恥ずかしい限りで。やはり私は商人ゆえ、どうも荒事には向きませんで」

 ニズヘグ氏は良く肥えた体に比例した、丸い顔に汗をいっぱいに浮かべて、ハンカチで拭きながら謝罪してきた。


「御気になさらずに。こちらとしてはある意味当然と思っておりますよ。予備とはいえ命を預ける1部隊ですからね。むしろ、貴方がお疑いにならない方が不思議です。自分で言うのもなんですが、このなりですのでね」

 自分の小さい体を示しながら、肩をすくめる。


「はは、私は荒事には向きません。ですが私なりに得意な分野もございまして……特にそう、『情報』などを高く取り扱わせて頂いております」


「ああ、なるほど」

 大商会の商会主が、いかに恩人とはいえ気軽に色々はなすと思ったが、すでに調査済み、と言う訳だったのか。


「まあ、そんな訳でして。私としてはこのような茶番は望まないのですが……」

 ニズヘグ氏がしきりに恐縮しているのは、俺の後ろに立つ怖い人のせいだろう。

 当然、エリス達は気に入らないようだが、それよりもグランとシュラ、ノワールの3人である。


 特にシュラは意外なほどにご立腹で、グランが宥めているほどだ。

 シュラが偶に見せるこの忠誠心のような物。エリスはさほど不思議ではないと言っていた。


「シュラは兄さんにグラン、つまりシュラの兄を救われているもの。兄さんかグランか、と言えばそれはグランでしょうが、他の物と兄さんなら考えるまでも無い。そういうこと」

 そういって深く頷いていた。



「さあ! そろそろ始めようではないか!」

 この模擬戦の主催者らしき人物だ。

 ニードヘッグ商会は、私設軍隊として傭兵団一個大隊を有している。この世界の大隊は規模が小さく、300人程度であるが、それでも大軍だ。

 大隊は3個中隊で構成され、彼はその中隊長だ。


 昨日話を聞いた中隊長も居るが、申し訳なそうに頭を下げた。

 恐らく、実際に戦ったかどうかの差なのだろう。


 中隊長の声が上がったので前に出ようとすると、ノワールが前をふさいだ。


「アリス様、此処でお待ちください」


「んー、君等の気持ちはわかるが、先方も俺が出なければ納得しないんじゃあないかね?」


「はい、ですがそれは相手の都合です。ここでアリス様の手を煩わせては、我らが納得できないのです」

 ノワールは骸骨なので表情が読めないが、結構怒っているようだ。


「ふむ、まあ、相手よりも身内(きみたち)を優先するがね」


「は、ありがたき幸せ。ご安心ください、向こうも納得させて見せます」


「そうか、君がそういうなら、此処で見ているとしよう。で、君がやるのかね?」


「……いえ、今回は、その、シュラ長姉が」


「なに!?」

 一転して動揺したグランの後を見ると、シュラが身の丈ほどの杖を構えて立っていた。どうやらグランは押さえ切れなかったらしい。



「アリス様」

 肩越しに振り返りシュラがこちらを見る。

「がんばり、ます!」


「ああ、そうだね。ぜひ頑張ってくれたまえ」

 さて、お手並み拝見といこう。


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