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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
83/105

商人


「では、私達2人で乗せてもらいますね。ノワール、お疲れ様。もし次が来たら、君は休んでいて構わんよ」

「は、勿体無いお言葉です。あの程度、さして問題ではありません。主様方はどうか御緩ごゆるりと」

「ああ、すまんね」

 適当に家臣を労う振りをして馬車に乗り込む。乗ったのは治療した女性と、指揮官らしき男だ。此方は俺とエリス。



「この度は、まこと、なんとお礼を言っていいか」

 馬車に入り、ある程度走ったところで護衛だという男から謝辞を受けた。口調がチグハグな印象を受けるが、体つきをみると、根っからの実戦派・・・なんだろう。


「いえいえ、此方は傭兵のような物でして、まあ通りすがりの営業ですよ」

 別に傭兵と言う訳でもないのだが、冒険者ギルドと揉めそうなこの風向きでは、他に稼げる事を探さなくてはならない。政治情勢に疎いので、傭兵が稼げるかはわからないが。


「そうでしたか、我々は運がよかったようですな。あいつ等は最近大きくなった盗賊の一団でしょう。リザードマンの盗賊とは恐ろしい物です。推測の域を出ませんが、団の規模は数百人に上るとか」

「それは、なんともすごい規模ですね」

 今回襲ってきたのは10人前後。護衛より人数が少なかったが、種族特有の強さで護衛を圧倒している。ノワールに圧倒されたが、これは例外と言うのもだろう。


 その盗賊が数百人。この言い方だと、300以上は居るだろうから、ちょっとした軍隊だ。この国と言うか、この世界の軍事規模を知らないので正確ではないが。


「その規模ですと、領主の騎士団では、危険かもしれませんね」

 紹介したきり黙っていたエリスが口を挟んだ。

「ええ、お詳しいですな」


「顧問が、うるさい物で」

 ああ、琥珀の教育か。俺にも教えてもらいたい。


「エリス。君からみて、うちは大丈夫かねえ?」

「うん、兄さん。今回くらいの襲撃なら気にかけるまでもない。全員で襲ってきても、兄さんが居れば問題ないよ」

「ほお、アリス様はそれほどの腕で?」

 さて、どうしようかね。すでに信仰心に近い物を俺に向けているエリスに、軽々しく戦力評価を聞くんじゃなかったね。

 この世界では、個人の実力と言うのは時に軍隊に匹敵することもある。その為、俺1人居れば、と言う与太話にも相手は興味を示したのだろう。特にノワールの力を見ているから、尚更だ。


「いえいえ、まさかまさか。君、あまり持ち上げないでくれよ。今回の襲撃程度ならまだしも、騎士団も手こずる様な相手はごめんです」

「ええ、それは勿論ですが、今回の襲撃程度、と言い切れる実力は立派な物ですな」

 それからは当たり障りの無い会話をしつつ、宿泊予定の村へついた。



 宿へ入りしばらくすると、先ほどの怪我人が目を覚ましたらしい。アフターケアというか、術後の観察気分で挨拶に行った。


「あ、貴方達が助けてくださったのですね? 本当に、有難うございました」

 最初の印象の通り、馬車の持ち主である大きな商家の娘らしい。


「いえいえ、偶々通り掛っただけですし、実際に助けたのはこの場に居ない友人です」

「治療をして頂いたと、聞いております」

「あ、ああ、はい。そちらの方はまさしく私です。その後の様子を伺いたかったんですよ、どうですか痛みは?」

「痛みは全く」

 それから傷の様子を観察し、感染や神経の損傷が無いかを確かめていく。治癒魔術は外科的にはほぼ万能なので、あまり心配はしていなかった。


「今日は、災難でしたね」

「……父の仕事はああいった事を良く招くようです。偶々私が居た時に合ったというのは、災難といえば災難かもしれません」

「まあ商人の馬車は盗賊には美味しい獲物でしょうね。かといって護衛を多くつければ、更に美味しく見える。難儀な物ですな」

「ええ、父もいつも言っております。少数で強い護衛をいつも探していますので、あなた方にもお声を駆けさせて頂くと思います」

 専属の護衛として雇う、ということだろうか。確かに定収があるのは魅力だが……まあ声がかかってから考えよう。


 しばらく話して部屋を辞する。明日には町に着くらしい、当初の予定通り馬車を手に入れられるかが問題だが、資金が足りなければそれこそ商人に頼んで、バイトでもすればよい。

 なんにせよ着いてからだ。



 着いてからだ、とはいえ着く前に皆の意見を聞くことにした。議題はもし商人に盗賊退治を依頼されたらどうするか、という物である。護衛の人からは何となく匂わされているのだ。

 もちろん俺達だけではなく、合同で討伐する場合の参加、と言う形にはなるのだろうがね。


 主だった面子を集めて、盗賊の討伐依頼について説明する。

 主だった面子とは、皆が寵姫とよぶ4人、グラン・シュラ・ノワールの3人である。翡翠が従えている魔獣や精霊獣は基本的には外だ。あっちこっちにいる魔獣を殺して餌にしている、と思う。

 もともと彼ら魔獣の意義は、俺が気にしなくていい戦力なので、あまり把握していない。

 因みに翡翠もこういった話し合いには基本参加しない。フードの中で寝ているか、日向ぼっこしているか。


「さて、どう思うかね?」

「兄さんに任せる。意見が欲しいなら、賛成。ノワールが相手にした程度なら、夜にでも奇襲をかければいい」

「エリス様の意見に賛成します。あの程度なら問題ありません」

 エリスとノワールは賛成、と。


「情報しだい。相手の規模も判らない現状では、判断できない」

「ふむ、我もそれに賛成じゃ。我らも獲物を狩る時にはまず相手を観察する。全てはそれからじゃ」

 琥珀と輝夜は保留、と。


「反対します。犯さなくてもいい危険を、あえて犯す必要はないかと」

 グランは反対の立場のようだ。


「私は、賛成、です」

 意外にもシュラが賛成に回った。


「何故だ?」

 それを聞いてグランが問いただす。


「実体は、どうあれ、私達は傭兵団、のようなものです。収入は、必要で、商人に顔を繋ぐのは、都合がいいかと」

「成るほど、それは確かに。流石は姉上ですなあ」

 思った以上に合理的な提案にノワールが賛同する。グランも納得したようだ。


「ふむ、ではまあ、もし打診されたら参加を前提とした情報収集、ということで良いね。翡翠、君の部下も参加させてくれたまえ」

「判った」

 フードの中から声がする、一応話は聞いていたらしい。

 一応の結論を見て、会議は終了。


 翌日には予定通り、商業都市ザイルに到着したのだった。



 ザイルについてすぐ、馬車は持ち主である所の商人のところへ向かった。

 この都市は、都市という名に相応しく周囲を城壁とも呼べるものが取り巻いている。入り口は東西に2箇所で、そこでは検問が行われていた。

 しかし流石に商業都市の大商人、馬車は検問所の脇を抜け、簡単な積荷と人員のチェックのあと、スムーズに中へと招かれたのだ。



 馬車は見せの裏に回り止った。同乗していたお嬢様に挨拶すると、俺とエリスが商人の元へ案内されると言う。こちらの希望で琥珀もつけてもらい、奥へ通された。


「お連れ様は家のほうで歓待させていただきます」

 案内をしてくれているメイド風の人がそういうので、取りあえずは問題ないと思う。


 案内された部屋は立派だった。ここの商人は商会を仕切る主らしく、本店ここ以外にも色々な町に支店があるとか。

 


「どうも、大変お待たせいたしました」

 しばらく待ち、入ってきたのは太った男だった。低い背と良く肥えた体、ギラギラとして良く動く瞳、まさに悪徳商人と呼べる男の雛形だった。


「いえ、お気になさらず」

 前のソファーに座った男は、俺達に向かって深々と頭を下げた。


「この度は馬車と娘を守っていただき、本当に有難うございます」

 大分偉いだろうに、随分と気軽に頭を下げる物だが、商人にとっては普通のことなんだろうね。


「偶々居合わせただけですよ、運が良かったんでしょう」

「ええ、全く運が良かった。商人は運を見方にすることが重要でして」

「そうでしょうね」

 適当に話をあわせる。


「そして商人にとって2番目に大事な事は、機を逃さないことです」

 そういって目の前の商人は、大金貨を20枚ほど目の前に積んで見せた。 

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