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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
82/105

流れに乗って

 長閑な一本道の続く先で、なかなか見ごたえのある景色が見えた。


「おお、実に素晴らしい光景だね。見給え、街道を行く馬車が盗賊に襲われている。まさに小説のワンシーンではないかね?」

 そう馬車が襲われていたのである。馬車は結構大型の物で、掲げられている旗は青い丸だった。


「ふむ、こういった時は如何すれば良いのかね? 助けた方が良いのか、見てみぬ振りが良いのか」

 助けて余計なトラブルに巻き込まれる、というのもよくある話だ。この世界の常識に疎いのでどうにも判断が付かない。


「普通は見て見ぬ振りです。襲撃側が有利な状況なので襲われているのです。下手に手を出せば返り討ちになりますが、アリス様に限ってはどのようにしても大丈夫でしょう」

 グランが答えてくれる。グランとシュラは家出してから旅をしていたようなので、似た様な光景を見た事もあるのだろう。


「では、助けようか。こういった場面を見て無視するのも気が引けるしね」

「判りました。では我等が行きます」

 グランが名乗り出る、我らといえば当然シュラだろう。

「いえ、兄上様方のお手を煩わせる訳には……ここはぜひ我らに」

 即座にノワールが返す。翡翠がエリスたちを姉様、と呼称しているので、何時の間にやら序列が上の者は姉やら兄になってしまったんだそうだ。


 ノワールの言う我々、とはネロの事だろう。

 ネロはノワールが『這いずる人』の研究から作ったアンデッドで、ノワールのメイドみたいな扱いだ。

 分類的には新鮮な死体(フレッシュ・ゾンビ)になるらしく、腐ってはいないが、死んでいるらしい。普段めったに喋らずノワールの給仕をしている。いや喋れないんだったかな。



「そういえば、ノワール達の戦いは見た事が無いね。ネロも戦えるのかね?」

「は、あまり強くはありませぬが実戦を経験させませんと何時までもそのままですので。お披露目をかねて、我々にお任せいただきたく」

「……」

 ネロが頭を下げる。


「はいはい、ちょっとまってね」

 俺は馬車を襲っている連中を『眼鏡』で鑑定してみた。大分距離があるが、最近覚えた使い方で、望遠機能がついたのだ。このまま『眼鏡』の性能強化に励めば、かなり多目的な情報ツールになるだろう。



 蜥蜴人リザードマン:爬虫類

 二足歩行の爬虫類。爬虫類で変温動物であるが、魔力を持ち自分の体温をコントロールできる。そのため力強く素早い動きが可能であり、膂力も強く、頭も良いため敵対すると脅威である。

 独自のコミュニティーを築き、独自の文化を持っている。

 両上肢は器用に動き武器の扱いを可能とする、また氷の魔法を使う物も多く注意が必要である。



「って事らしいが、大丈夫かね?」

「は、問題ないかと」

「ではやってみたまえ。ただ君らの戦闘を見た事があまり無いのでね、念のため輝夜が護衛してもらえるかね?」

 輝夜は結構前にエリスと一瞬とはいえ戦ってたし、大丈夫だろう。


「ふむ、我か? 判った、まあ大丈夫であろ」

「そういえば君、昔槍使ってたが、あれは?」

「あれは以前のあるじの物だったからな、今の我にはない。まあ大丈夫だ」

「そうか、それは済まなかったね。そのうち武器を用意するよ」



 結局、ノワールとネロが戦い、輝夜が護衛というかサポートをする事になった。


「では、失礼いたします」

 ノワールが丁寧に頭を下げて襲われている馬車へ向かっていく。ノワールは常時浮かんでいるという、訳の判らない種族特性を持っているらしいので、地面を滑る様に進んでいく。


 ネロは死体である事を除けば人間と変わらない。両手に直剣を持っているが、あれで戦うのだろう。

 


「聞け! 我らが偉大なる主が、哀れな貴様らを助けよ、と有難い命を下さった! 命が下された以上、汝らの命は我が預かる。死なせる訳には行かぬ! 全員馬車に張り付き、大人しくしておれ」

 ノワールが声高く叫んでいるのが聞こえる。


「何故に此処まで聞こえる? そんなに大声が出せるのかね? いや、それにしては音割れしてない」

「私のせい」

「ほう、琥珀にそんな力が?」

 俺が問うと、琥珀はこくんと頷いた。


「私はそもそもが戦術支援機。こういった通信用の魔法も使える。今は一方通行だけど、相互通行も出来る。範囲は狭い」

「ほお、君、実に優秀だね。戦術支援なら確かに範囲も短いだろうが、それでも遠方から指示が出せる、というメリットは素晴らしい」

 離れた場所の味方と連絡を取れるというのは、今更いうまでも無くかなりの優位性を此方にもたらす。



 そうこうしている内にノワール達の戦いが始まった。

 ノワールは夜族なので魔法を使う、らしい。というか人間以外の種族はことごとく魔法を使うらしい。以前に何故か聴いたことがあったが、何も判らなかった。


重力(グラビティ)

 ノワールは当然闇を使うが、ノワールの手から落ちた黒い塊が地面に広がり、襲撃者達の動きを阻害しているらしい。いわゆるデバフと言うやつか。


 阻害効果は相当な物らしく、中には自分の得物を取り落とす者もいた。

 効果範囲はかなり任意に設定できるようだね、馬車の周囲の護衛は普通にしている。


 動けなくなった、あるいは相当動きが阻害された敵に対して、ネロが両手の剣で切りかかる。どうやらネロにもなにか魔法効果があるようで、普段より軽やかに動き、それなのに敵に剣が食い込むと重量が増しているかの様に食い込み、切り裂く。


「ノワールの魔法効果は重力操作、といった所かね」

「うん、そうみえるね」

 いつの間にか横に来ていたエリスに尋ねる。エリスはノワールが使っている闇の魔法の元締めみたいなものだ。


「君も出来るのかね」

「勿論できる。ただあの魔法は効果範囲や効果の設定が面倒だから、私はあまり使わないかな。兄さんが使えって言うなら使うけど」

 やはり、ノワールの重力操作をエリスも使えるそうだ。


 エリスはノワールの上位互換だが、さりとて何もかも勝っている訳ではない。知識や技術が必要な事は、ノワールの方が上だろう。

 今度、ノワールに勉強を見てもらうかね。



 一寸気が削がれている間に、馬車襲撃は大分落ち着いたようだ。ほとんど無効化された戦力に、増強された敵対勢力。あまり考えたくは無いが、一方的な状況だったろう。


「終わった」

 観戦していた琥珀が終了を告げる。

「のようだね。輝夜にサポートを頼んだが、必要なかったかね」

「ノワールはエリスの眷属で、かなり能力が底上げされている。加えて、アリスの眷属でもあり通常の相手なら問題なく蹂躙できる」

「なんとも便利だね、その眷属とやらは」


「行こう」

 みるとノワールが馬車の護衛たちを指揮して戦利品をあさり始めたようだ。因みにこういう場合は正当な権利だそうだ。

 状況が完全に終了した事を受け、琥珀に促されて馬車襲撃地点へ向かった。



「アリス様、ご命令どおり襲撃者を撃退してございます。時間が掛かりまして申し訳ありません」

 馬車に近付くとノワールが地面にひれ伏して頭を下げる。ノワールはゆったりとしたローブに装飾品の類を色々つけているので、ひれ伏す時にそれらがブワッと舞い上がり、実に荘厳だ。


「ご苦労。兄さんも満足している」

 それに対してエリスが応用に手を上げる。こういった教育は琥珀の仕業だそうだ。曰く、舐められない様に、との事だが、俺には必要ないらしい。

「ははあ、ありがたき幸せにございます」

 勿論エリスの労いなので、ノワールは大満足だろう。


 

 そして馬車の護衛や乗員はその光景を見て目を白黒させている、という訳だ。

 これも当然といえば当然、いま自分達が襲われてやられそうだった所に颯爽と現れる骸骨。そして苦戦する様子も無く2人だけで敵を蹴散らしていく。

 蹴散らしたと思えば偉そうに指揮を始め、それに従っていると、ほぼ子供に見える一団が現れて深々と頭を下げる骸骨、というシチュエーション。 


「さて、と。大丈夫ですか? お怪我などあれば治しますが」

 ノワールたちを後ろに下げて、護衛の指揮官らしき人に愛想を振りまく。この偉そうなのはどうにも居心地が悪いのだ。


「貴方は傷を治せるのですか!?」

「当然。我らが主の真価は治癒にあり」

 琥珀が偉そうにうなずく。かっこよく言っているが、後方支援専門器、と言われているようだ。


「あ、ああ、はい。一応治療に関しては、それなりにお役に立てるかと」

 琥珀に乗せられた形だが、一応外傷なら治療可能なレベルだろう。



 治せる、と行った瞬間に護衛が沸き立つ。馬車の中から1人の女性が担ぎ出された。

 どうやら流れ矢に当たったらしいが、肺を貫いているようだ。運よく危険な血管には当たらなかった様だが、肺がつぶれて気胸になっているようで、呼吸は大分速くて苦しそうだ。


 身なりから見て、この馬車の持ち主か、その娘というところだろう。

 矢は抜かれておらず、タオルの様な物で傷の周りを押さえている人が居る。


「さて、矢を抜いてしまいましょう。抜くと同時に回復しますので。誰か体を押さえる人と、矢を抜く人をお願いします」

 俺の言葉に一瞬青い顔をしていたが、実際に助けられているので藁にも縋る思いなのだろう、何人かが女性の体を押さえて、1人が矢に手をかけた。


「体内に残ると厄介なので、慎重に抜いてくださいね。エリス、この人に麻酔……えっと痛みを無くして眠らせてあげて」

「うん、判った」

 エリスに麻酔をお願いする。麻酔は色々と条件があるが、エリスにとって見たら眠らせるのと手間は変わらないだろう。


「ではお願いします」

「は、はい!」

 引き抜かれた矢を確認し、治療魔術をかける。魔方陣として定着させたのは即時回復ヒーリングだけなので、不自然にならない様にそれを使うが、治療効果に不足は無いようだ。


 もともと外側の損傷は派手ではない。中の肺さえ修復できれば大丈夫だろう。本当は肺の破れを確認したり、そのあと肺を膨らませたり、色々と面倒な手順が必要だが、回復魔術は全部すっ飛ばして治してくれる。



「…………一応、大丈夫みたいですね」

 琥珀に頼んで、両方の呼吸の音を聞いてもらい、左右の差が無い事を確認する。一応念のため全身にも回復魔術をかけ、後は寝かせておく。



「さて、一通り終わった所で交渉に入りましょう」

「は?」

 エリスに麻酔を切るように頼み、後は自然に目覚めるのを待つだけとなったので、その場の指揮官らしき男に報酬の相談を持ちかける。


「流石にただ働き、と言うのは割に合いませんでね」

「あ、ああ! それは勿論だ。勿論相応の礼はする。しかし、我々はこの方の家に雇われた護衛なのだ、勝手に報酬を払う事はできない。大変申し訳ない話だが、このまま商業都市まで付いて来て頂けないだろうか?」

「商業都市というと、『ザイル』? それなら我々も目的地だし、別にかまいませんよ」

「そ、そうか! それは有り難い。あまり大きくない馬車だが、どうぞ乗って行って欲しい」



「全員で乗るには無理があるな。琥珀、こういう時はどうしたら良いの?」

「普通はアリスとエリスが乗って、他は護衛扱い。非常に不本意だが、今回はそれでいい」

「良いのかね?」

「馬車が狭すぎる。確かに狭い、許せない、ああ、狭い。アリス……私達が買う馬車は、大きいのにしよう。皆で乗っても大丈夫な、大きいのに」

 琥珀が一緒に乗れないことを気に病んでいる。皆で乗っても大丈夫、という所に結構な進歩を感じる。


「そうだね、琥珀。ぜひそうしよう」


 いらいらする琥珀に気を使いつつ、2人で馬車に乗り込んだ。金持ちらしい馬車に乗り込むことに、一抹の不安を覚えたがまあもう仕方ないだろうね。


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