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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
81/105

いつものパターン

2時間程度は歩いただろうか。森の中を2時間なのでたいした距離ではない。

 

「ここかね。確かに他の場所と比べられん位の魔力に満ちているね。それに綺麗だ」

 なるほどパワースポットと呼ばれるだけはある。

 大気に満ちている魔力を1とすると、この場所は少なくとも20はある。



 周囲は木が隙間無く茂る原生林だが、この周囲は特に森が深く、樹冠が林間を形成している。

 しかし、このスポットだけが広場になっており、林冠の穴から光が真っ直ぐに地面に降りている。周囲が暗いだけに、光がくっきりとしている。


 これだけならまだしも、光に照らされた微粒子がきらきらと輝いている。驚いた事に、その微粒子は光の範囲に降り積もり、きめの細かい砂の山を作っていた。


 見とれていると、砂山の後ろ、暗い森の中から巨大な獣が現れ行儀よく座った。



 領域の主だろうが、意外におとなしいのか? 殺気や敵意などは感じないが。



 目が会うと、狼は地面に伏せ、頭を下げた。

「偉大なる方、目通り感謝いたします」

「ふむ、俺ではないのだろうね。まあ、君だろうね」

 またこのパターンか、と思いつつエリスを見る。


「これは、闇の精霊獣様」

 エリスが何か言う前にノワールが前に出る。君は本当に博識な骨だ。


 精霊獣(闇)

 属性の魔力が固まって生まれた物。発生上は魔物と同一だが、年を経て、あるいは力を得て理性を有するものをいう。人間やその他の勢力に対しては完全に中立。自身の領域を侵す者や敵意ある者に対して敵対する。

 精霊の前段階ともいわれ、更に力をつけて昇華すると伝えられている。精霊よりも有り触れた存在で、目にする機械は比較的多い。



 なるほど、やはりエリスに対しての挨拶か。闇の精霊獣、ということなので、いわば眷属だろう。実に、実に顔が広いことだ。


「頭を下げぬ無礼をお許しください」

「夜の者よ、尊き方に仕える身で、我の如き矮小な者に下げる頭を持つ必要は無い」     

「これは、ご配慮に感謝。ですが、挨拶の順番が違いますな。我らが主人にも、頭を垂れて頂きたい」

 なんかかっこいいやり取りをしていたのだが、ノワールがもめ出した。とっさに皆を見るが、当然といった風にうなずいている。

 最近は自分の扱いにも慣れては来たが、無駄に敵を増やす行為は謹んでほしいんだが。



「なに?」

 威圧をこめた目でノワールをにらむ狼、膠着する前にエリスが一歩前へ出る。


「知らなかったのだから、私の兄さんに対する無礼は許す。兄さんに挨拶しろ」

「ははっ!」

「いやいや、ご丁寧に。挨拶など不要ですのに。君らもむやみやたらと突っかかるのではないよ」

 エリスの頭をなでながら言う。純粋な好意だろうから、なかなか強くはいえない。


「領域の主とお見受けします。妹のためにこの領域の力を頂きたい」       

「もとより、この場のすべては精霊様のものです。ただお返しするだけ。しかし……」

「ん?」

「どうか、私を貴方の軍に加えて頂きたく」


「ふむ、軍、かね? 確かにいずれはそう言った物も持ちたいのだがね、今は影も形も無いよ」

「構いません。正直に申せば、闇の精霊様のお傍に降りたいだけなのです」

いね、実に素直で。翡翠の統括する予定の、自称軍に入ってもらうかね。序列は一番下になるけど、構わんかね?」

 基本的には入った順番になるから、まあ本人同士で序列の変動があっても別にいいんだけど。ど。                                           

「無論です。感謝します」

 これで翡翠の配下がまた増えた。彼は精霊獣なので唯の魔獣狼よりは強いだろう。




 精霊獣が快く場を譲ってくれたので、エリスがその魔力を吸収する。

 ここは偶々、闇の属性が強い力場だったようで大分強くなる公算だ。


 エリスの強化には多少時間がかかるらしい。

 

「琥珀、琥珀」

 ここ最近のエリス優遇でストレスを貯めている、と思われる琥珀とじゃれる事にする。


 周辺の暗い森の中に入り、琥珀を手招きすると、テテテっと小走りで駆け込んできた。

 そのままの勢いで抱き留めたいところだが、流石に体格差が無さ過ぎる。一度とまって貰いそれから抱きしめる。


「今度は私?」

「そう、出来るだけ平等に甘やかそうと思ってね」

 やってることと思考は完全に浮気だから、せめて平等は確保したいが。

「まあ、エリスは優先するわけだけど」

「それで良い、私を忘れなければ」


「嘘付け」

「そう、嘘。でもしょうがない、本当と思わないと皆、殺してしまうから、しょうがない。アリスを殺して、私も死ねば一番楽なんだけど」

「ふむ、皆が居なければそれでも良いんだけどねえ。流石に今いなくなる訳にもいかない。実に幸せだよ」

「またわたしの不幸を楽しんで」

「いやいや、それは大いなる誤解だよ。そうなっても俺に付いて来てくれる君に感動しているんだ」

「何一つ反省が無い。前世まえはそれで失敗したのに」


「良いんだ、今回は君が実体だからね。俺の幻覚でも妄想でもいいが、君にこうして触れて抱きしめる事も出来る。実に結構な事だ。失うのは怖いが、君だけは大丈夫だ」


「嘘つき、私の事も信じてないくせに」

「いや、君だけは信じてるよ」

「アリスの言葉は全部嘘。自分の事も信じてない。でももう其れで良いの、慣れちゃったから」

 そう言うと琥珀はよりいっそう深く抱きついてきた。


「だからせめて、せめて私を甘くだまして、寂しくない様に悲しくない様に痛くない様に苦くない様に、全身全霊で私をだまして」

「君のそう言う所が実に可愛い。実に俺好みだ」



「……何……してるの?」

 底冷えのする声が背後から聞こえた。

「おや、終わったのかね?」

「邪魔しないで」

 どうやら魔力の吸収というか、レベルアップというかは終わったらしい。エリスが背後の暗がりから出て来た。方向は真逆の筈だから、大きく迂回したか、何か感知できない移動をしたか。


「兄さんの、一番は、私だったでしょ?」

「だからって、独占できるとでも?」

 バチバチと火花が散る、なんていう爽やかな物ではない。付近の気温が低下していくようだ。

 


「兄さんは……私のじゃないの? なんで兄さんは私以外に優しくするの? ワタシイガイニ」

 エリスの目が見開かれて、遠めに判るほどはっきりと瞳孔が開く。あれは黒すぎて目立っているんだ。楽しくなってきた。


「君、いいじゃないか。実にい感じだ。なかなか良い具合だ」

 いいなあ、この緊張感、充足感、安堵感。いい、なんて満ち足りた感覚。

 エリスの目は俺しか見てない。



「姉様!」

 突然地面が凍りつきエリスの足を阻む。

 その前に翡翠が立ちはだかった。


「姉様! 決めた筈です! 主人様を逃がさないために全員で阻むと! 姉様は主人様を逃がそうとしてる!」

「左様、我は合流したばかりでしかとは判らぬが、これ以上主が暴れるなら、我らはそれを止めねばならん」

 何時の間にやら輝夜もエリスの後で睨みを利かせている。



「ふむ、楽しくなりそうだったが、これ以上は俺以外に被害が出そうだ。エリス、ここまでだね。次は俺だけにやってくれ給え。心ゆくまで相手をしよう」

 流石に俺以外に被害が及ぶようなら止めざるをえない。実にもったいないことだが、そこは譲れない。


「……………………そうだった。有難う翡翠、輝夜。琥珀も」

「アリスノことは譲れない。でも、序列はエリスが上」

 そういって琥珀は俺の腕から逃れた。ああ、もったいない。実に良い具合の抱き心地だったのに。




「落ち着いたようじゃの。にしても難儀よの。アリスほどの男であれば側室やら妾等当然であろうに」

「翡翠達と姉様達は違う。考え方と…………主人様への思い」

「つくづく難儀よ。アリスはあの有様じゃしのう。我等は適当に付き合うが吉よの」

「翡翠は、姉様に追いつきたい」

「主もか、まったく恐ろしい物よ。我も何れそうなるのかのう」

「たぶん、無理。翡翠もたぶんああは成れない」


 

 エリスのレベルアップはあっさりと終わったようだ。

 結局のところ、パワースポットに溜まっている魔力を吸収して行われるので、溜まっている魔力が少なければ時間もかからない、という事だ。


 時間が掛からないと言う事は、上がり幅もそれなりなので、目に見える変化は無かったようだ。それでも確実に強くなっていると。



 エリスのレベルアップを終え、当初の目的地にむかって出発する。

 目の前には穏やかな一本道があり、何処までも続いているように見えた。

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