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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
74/105

睡眠不足

 

「我は森の主の眷属だ。主は死んだ、故に我もまもなく消えるであろう」

「梟殿は死んだの、か」

 ほとんど付き合いは無かった。しかし、愛用している『眼鏡』を貰ったり、其れなりの仲ではあった。もう少し話しておけば良かったかと思う。この手の後悔は何度しても改善しない。


「死んだ。あの小僧に不意をつかれて、の。不覚であった、主を守れず、敵の手に落ち、あまつさえアリスを殺そうなどと」

「よもや君、そんな事を気にして自ら死に行こうなどと、考えているのではあるまいね?」

 妙に生真面目な蛇君の事だ、そういう事も有るかもしれない。



「流石にそれは、アリスに失礼じゃろうよ。そうではなくての、我ら眷属は主から魔力の供給を受けて成り立っておる。ぬしらの様に魔力が回復せぬ、そして体を維持するのに魔力が必要なのじゃ」

 蛇君の言葉に何もいえなくなる。

「魔力の消費を抑えようとも、供給が無ければいずれは朽ちて行くじゃろう。これは主を守れなかった、不甲斐ない眷属への罰でもある、致し方ない、致し方、無い、の」


「いや、駄目だ。俺が良くない、俺にとって友人は財産だ。無くさないとも、どんな手を使っても」


 作戦会議を招集する。翡翠は引き続き吸収(おしょくじ)を続けてもらって、皆を集める。

 集めると言っても元々周辺にいたので、スムーズに集合し状況を説明する。


「難しいですな」

 最近頼りになる度を順調に伸ばしている、頼れる骨、ノワールがそうこぼす。

「ふむ」

「そもそもが、場の主の眷属が魔力で維持されているなど、今初めて知りましてございます。故に研究も何も在りませんな。で、ある以上は普通考え付く方法、そうですな、魔力の譲渡や回復手段を考える、という事に成りますが」

 ノワールの話し方が大分砕けた気がする。咎めた訳ではないが、堅苦しいのがあまり好きではないので、空気を読んでくれたんだろう。



「例えば、先ほどの魔力の回復薬ですが、申し上げたとおり極めて貴重なものです、今ある分で魔力が完全に回復したとしても、後が続かなければ時間稼ぎにしかなりません」

「いや、それでも良い。時間を稼ぐのは良い手だ。蛇君、君どのくらい持つ(・・・・・・・)?」

 膝の上に抱えている蛇君に確かめる。

 落ち着く、この世界で2人目の癒しだ、実は琥珀より先に出会ってる。失う訳にはいかない。


「ん、何もせず、ただただそこに在るだけなら3日。その薬とやらが我の魔力容量限界まで回復するとして、おおよそ2週間と言ったところか」

 薬は2本あった、約1ヵ月。少年(あの糞無能)が飲まなければもっと時間を稼げたが、致し方ない。薬があったのは僥倖だ。

 1ヵ月とは言っても、ギリギリまでは使えないだろう。何があるかは判らんし。



「1ひとつきですか、アリス様、その時間でシュラが薬を完成させられるとは、とても思えません」

「は、はい。無理、だと、思います。いえ、無理、です」

 エルフの兄妹が心底申し訳なさそうに言ってくる。流石にそれは判る、そんな無茶を言うつもりは無い。

「大丈夫、これは主に俺の我侭であるからね。何とかしてみるよ」


 その後、翡翠が食事を終えたのをまって森の主がいた巨木に向かう。本当は馬車を調達できるような町に行きたかったが、予定変更だ。

 一刻でも惜しいために、森に留まり魔力譲渡について何とかするつもりである。


 魔力譲渡についての考え。言うまでも無く空想魔術である。

 本来の空想魔術は、まさに万能の魔術だったはず。属性や相性と言った物にも左右されるとはいえ、死んだ気になれば間違いなく出来るはずだ。


 

 巨木の虚は以前より小さくなった様だった。露天よりましとはいえ申し訳ないが、今は我慢を強いるしかない。

 梟の人の死体は無かった。彼等は場と一体化しているような物で、死ぬと魔力として還元されるそうだ。

 せめてと思い、墓らしきものを作り手を合わせる。


 


 魔力譲渡に当たっては琥珀を呼び出した。琥珀は以前に主からの魔力供給が必要とか言ってた。まあそれは口実であった訳だが、魔力供給が必要な事自体は本当らしい。

 ただこれは空振りだった。

 

 そもそも琥珀は魔道人形だ。魔力で動く作りをしている人形である。魂が入っているため、大分軽減しているがその特性は変わらず、であるならば、魔力の供給が出来ても不思議ではない、と言う事になる。

 琥珀にしても、魔力の供給方法を説明するのは難しいらしい。

 さもあろう、息をする事の理由を最初から知っている人はいないのと同じだ。


 次に参考にしたのはグランだ。グランが死に掛けていたとき、魔力を譲渡するような感覚で治癒を行い延命した。

 それを突き詰めていけば、正に魔力譲渡が出来るのではないか。

 

 これも空振りだった。あくまでも治癒である。感覚としては近いのかもしれない、しかし近いだけだ。

 蛇君の体を治せても、維持は出来なかった。



 時間はあまり無い状況でかなり不利。そもそも蛇君や魔力による体の維持など、ほとんど先例が無いのだから先に進みようが無い。研究と言うのは才能がいると思う、俺には真似できん。


「やはり、新しく開発するしかないかね」

「……それとこれと何の関係が?」

 不機嫌そうに言うのはエリスである。不機嫌そうと言うか、不機嫌である。

 蛇君を助ける事は反対しても仕方が無い。俺の性格を知っている者としてはそうだろう。だが、それはそれとして次々に増える俺の取り巻きに苛立つのも、仕方ない事だろう。



 エリスに頼んだのは眠らせない様な魔法を俺にかける事だ。

「なぜ、眠りを奪うのですかな?」

 最近共同研究者および歩く辞典として活躍中のノワールだ。意外な事に俺といい距離を保ちつつ敬う、ということをやってのけるのは見た目が骨の彼が一番上手い。


「魔力譲渡に関して、いろいろと試してみたが進展しない。魔術の開発もだ。空想魔術は主に俺の妄想に鍵がある。あまりに突拍子も無いと、上手く空想できない」

「……は」

「そこで、それを妨げている意識を取り払う。その為に眠らないで、脳に過剰負荷を掛け続けるんだ」

 眠りはいわば脳を再起動する行為だ。3日も眠らなければまともな思考は維持できない。1日徹夜しただけでも、翌日の思考能力は泥酔時と同程度である、と言う話すらある。


「だが、外的要因が無ければ完全に眠らないのは不可能だ。細切れの睡眠でも脳はそれなりにやっていけるからね」

 全くもって優秀な生体機能である。



「だから、兄さんから眠りを奪うの?」

「君には、エリスにはいつも眠らせてもらってるのに、申し訳ない事だ」

「そんな事はどうでも良い、兄さんは眠れない事を何より怖がっている。眠りに落ちる一瞬前の、あの安堵と恐怖を浮かべる顔を私は知っている」

 エリスには夜毎、睡眠薬のように魔法を掛けてもらってる。不眠に対して強い刷り込みのある俺では、空想魔術の構築が出来なかったのだ。


「眠れない恐怖は、眠らねば成らないのに眠れないことが強い。だからまあ前世よりよほどマシだし、目的があって眠れないなら、辛さはあっても恐怖は無い、と思う」

「何で他人のために、兄さんが、辛い思いをするの?」

 ぞくっとするほど低い声、開いた瞳孔。こんな時なのににやけてしまう。



「いいね、とても良い。他人の為に苦労して、依存されたり感謝されたり、すごく良いじゃないか。それにね、俺は蛇君を気に入っているからね、一度逃げられているんだ、みすみすこの機会を逃さない。俺が魔力の供給源になれば、蛇君は俺から離れられなくなる。とても良いじゃないか、え?」



「忌々しい、蛇。私の兄さん、私の兄さんなのに、私のなのに、私の……」

「君、君も実に良いね。依存してくれ、俺に。君も俺から離れないように」

 顔をゆがめて呪詛をはく、そんなエリスを見る。少し俯いた顔に手を当てて、頬を撫でる。ああ、良い気分だ。


「アリス様」

 ノワールに声を掛けられ正気に戻る。蛇君の大事に、なんて様だ。どこまで言っても俺は俺と言う事だろう。

「おっと、失礼、ノワール。まあ褒められた動機じゃないが、頼むエリス」

「アリス様。動機はどうあれ、簡単に自らに刃を立てる事が出来るのは、それはそれで尊くございます」

「ありがとう、君は骨の割に実に気が効くな」



「貸し。蛇の事が片付いたら、兄さんに払ってもらう」

「おお、有難う」


 エリスに眠りを奪ってもらい、只管魔力譲渡が出来る、と空想する。

 俺の空想魔術に出来る事と出来ない事の差がはっきりと出ているのは、恐らくは刷り込み的な前世の意識も多分に関係しているはずだ。

 睡眠を奪い思考を磨耗させる事で、その意識を取り払っていくのが今回の目的の一つだ。


 睡眠不足は実によく思考能力を奪っていく。1日、2日と過ごす内に日常生活にも不都合が出始めた。

 

 まず、思考が鈍っているのだから、当然のように動作が遅い。体は動くが、何をどうやって動かすか、普段なら一瞬で選択する事に時間が掛かる。

 そして、記憶が途切れ途切れになる。魔法によって眠れないのだから、瞬間の眠りではない。脳が情報を上手く伝えられなくなっているのだ。

 言い換えれば脳の防壁、常識や思い込みなどがヌルリと侵食されている。


 これを利用するのだ。俺の脳は『脳内の演算機』によって非常に強固に守られているらしく、エリスの力であっても強力な催眠などは掛けられなかった。

 目的の二つ目は、疲弊した脳に強力な催眠を掛け、空想を更に更に容易にする事だ。

遅くなりました。大変申し訳ありません。

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