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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
72/105

捕縛

本日二話投稿しております、ご注意ください。

71話から読んでいただけるようお願いいたします。

「ち、なんて反則だ!」

 腕が生えるとか、あんな薬、今までの知識には無い。本当に、全くもって反則チートだ。

 完全に油断してた。捕まえるのは諦めて殺す気で行かないと、こっちが死ぬ。

 『機銃掃射』は効かないだろう。トロルの守りにしてもそうだが、どうにも少年の魔法防御力とでも言うものに阻まれているようだ。

 ダメージは入るんだろうが、さっきみたいな薬がどの位あるかも判らんし、消耗戦は此方に分が悪い。此方の魔力は減る一方なんだから。

 やはり近接攻撃は重要だな。狭い室内とかを考えてみると、遠距離だけではどうしようもないし、充実させる必要があろう。


 ともかく、今はこの状況を打破しないと。


 蛇君とトロルは後ろに下がった。相当ご立腹な様子だ、どうしても自分の手で殺したいのだろう。


 此方の攻撃手段としては、『対物ライフル』か、魔技による力押ししかない。

 少年はまた袋から先程とは別の薬を出して飲んでいる。


「殺す!」

 剣が振られる。無駄だと思いつつも体を横に投げ出してみる。

「げふ!」

 やはり無駄だ。原理は判らんがあの剣は必中らしい。

「はっ! 『剣腺破棄』がかわせるかよ!」


「『剣腺破棄』? 何とも愉快な名称だが?」


「神の力だ!」


 神の力と来たか。少年が二度・三度と剣を振ると、体に衝撃が走った。

 斬撃必中と覚えておけばいいだろう。

「いい加減に死ね!」

 さらに衝撃が走る。立っていられなくなり座り込んでしまった。

「いいや、死ねないね」

 こいつを放置しては、俺の大事なものが壊される。


 少年がまた薬を飲んだ。

 ふむ、やはりこんな能力は只では使えんと言う事だ。魔力かそれに類するものを使っているのだろう。だが持久戦は不可能だ。どの程度の薬を持っているか知れん。


「おらおらおらおら!」

 衝撃を数える。治癒魔法で継続的に治癒しつつゆっくりと近づいていく。


 少年が薬を取り出した。

「今だ、蛇君!」

「っつ!」

 少年が勢いよく後ろを振り返る。そこには座り込んだ蛇君が居るだけ。

 古典的だが、一瞬でも気をそらせれば十分だ。


「『対物ライフル』」

 ずごん! と音がして少年の腹をえぐる。第2射をする余裕はない。

 少年に駆け寄り、一気に燃やすしかない。


「が、ふ」

「あ、」

 少年が持っていた剣を投擲する。腕が良いのか、正確に俺の脚を切り裂いた。切断までは行かなかったが、俺の歩みは少年に届かず。後一歩のところで転倒してしまった。

「は、はは、ざん、ねん、だった、な! 今、殺してやる」

 少年はまた薬を出す。腕が生えた奴だ。こっからは持久戦しかないか?

 いや、いくら治癒でももう持たないかもしれない。あの腕を押さえれば勝ちだ、あの腕を、押さえれば! 腕を。


 届かない。あと一歩いやあと半歩のところで。どうする、魔力は……まだいけるはず。

 魔技による伸ばした手は届かなかった。少年が勝ち誇った顔で薬を飲む。



「お前が、残念」



 聞き覚えのある声と共に少年の両腕が切り落とされた。

 シャン! と軽い音と共に落下していく腕。断面は凍っている、ということは。

「翡翠!」

 頭の上でつぶらな目をした蜥蜴が、堂々と誇らしげに胸を張っている。


  

 急いで翡翠を回収して少年へ突っ込み、腰の袋を奪取。そして慌てて距離をとり各種魔術をスタンバイする。

 

 翡翠の事はスッカリ忘れていた。俺の外套のフードに入っていつも寝てるんだった。琥珀が皆を引きずって行った時、流石に翡翠は置いていってしまったらしい。

「テイミングされるのを恐れて皆を逃がしたのに、一番危険な君を忘れてた」

「ひどい、ひどいひどいひどい主人様。翡翠はそんな事しない、主人様以外には従わない、主人様だけ……信じて」

「いやいや、君を信じないんじゃない。相手の能力が規格外な可能性があるんだよ。まあ、あとで説明する。今はフードの中においで」

 翡翠を宥めてフードに退避させる。今回の礼はあとでたっぷりとする事にしよう。


「ひ、ひっ! いいい……」

 彼は自分の魔力を使用して止血したようだ。腰辺りが光っていたから、恐らく何らかの魔法陣だと思う。止血は出来ても、再生までは流石にできないようだ。

 さて、どうするか。両手が使えないから脅威ではない、とはとても言えない。

 さりとてすぐ殺してしまっても良い様な相手でもない。もっと情報を引き出す必要がある。けど危険なんだよねえ。相手の能力も何も判らないから、どんな対策をすれば良いやら。


「やめ、やめろ! 来るな、来るな来るなくるなくるなくるなー!」

 近づこうとすると騒ぎ出した。座り込んで逃げないし、回復もしない所を見ると問題ないか?

 とりあえず、気絶させてどうにかしよう。


 魔技による剣戟で両足を切断し、勿論すぐに止血する。

「ぎいいいいい!」

「ふむ、虫の様な声だな、少年」

 言いつつも、魔技により首を絞め窒息させる。本来は頚動脈を閉めればいいのだが、腹癒せに気道を潰してやれ。

 ギリギリと締め付け、顔を赤くして落ちる少年を眺めていた。




 20秒ほど苦しんで少年は落ちた。

「さて、念には念を入れるとしよう」

 収納できる影からロープを取り出す。獲物を引っ張るときや体を固定する時、罠など結構様々に使えるのでロープはいつも持っている。

 口の中に石を詰めて布で縛る。窒息しない様にかなり大きな石を1つだけだ。

 両手足がもう無いが、何があるか判らない。裸にして首を中心にロープをぐるぐる巻いていく。万が一暴れても、このロープを引けば首が絞まるというわけだ。



「主人様、容赦ない。流石、翡翠の主人様」

 歌うように翡翠は上機嫌だ。俺は自分の行為にかなり引く。安全マージンをとれば殺した方が良い相手だ、ここまでやっても安心できない。

 慎重に対処する。


「翡翠、琥珀達を呼んできてもらえる?」

「勿論です主人様、翡翠を頼ってくれて嬉しい」

「もう魔獣は出て来ないと思うけど、くれぐれも気をつけて」

「こんなトカゲを気遣ってくれる愛しい主人様。翡翠は……」

「君、身内の命は俺の命より大事だ。俺の為を思うなら、自分を大事にして。頼むから」

 翡翠は何も言わず、俺の首筋を強く噛んで飛んでいった。怒らせちゃったか、キスマークでも付けたかったか。実にかわいい蜥蜴君だよ。


 もう一人の爬虫類の友達。蛇君は虚ろな目のまま、フラフラと寄って来ると、膝の上で俺に抱きついて眠ってしまった。

 解呪の方法が判らん。呪いと言って良いのか不明だが、似たような物だろう。口を割らないなら、殺して見るのも手だ。あとはどの位治癒が出来るのか、人体実験かね。

 少年は今手足を欠損しているが、何らかの方法で再生できるなら実に有用だ。



 色々と考え込んでいると、翡翠に連れられて皆がやってきた。

 ロープでぐるぐる巻きになっている、四肢欠損の少年。しかも全裸。

 木の根元で、木に体を預け座り込んでいる、血まみれの俺。

 その俺に抱きついて眠る美幼女、蛇君。混沌としてるなあ。


「…………まったく」

 つかつかと歩いてくる妹、エリス。蛇君を横によけて座り込んでいる俺に抱きついてきた。

「いだっ!」

 エリスが首筋に噛み付いて肉を一切れ奪っていった。咀嚼して飲んでいる。噛まれた事はあるが、食べられたのは初めてだね。だんだん進化していったら、いつの日か俺を食べてくれるんだろうか。

 当然俺の首から血が出るが、お構い無しに頭を抱きしめて、ぎりぎりと圧迫する。


「この、この、馬鹿兄、馬鹿兄、馬鹿兄。何でいっつもそう……」

 馬鹿兄と言われたのは初めてだ。ああ、癒される。

「すまんね。本当にすまん。だがまあ、かなり今までとは異なる事情でね。説明はするから、そこに転がっている少年の意識をしばらく戻らないようにして欲しいんだよ」

 エリスをきつく抱きしめて癒しを得る。短時間で何とかなった戦闘ではあったが、相手が相手だし、得体の知れない能力と、負ければエリスたちが危うい、という状況でかなり疲労した。



 癒しと共にエリスをあやし何とか機嫌をとる。今回のは尾を引きそうだが、琥珀は此方の援護に回ってくれるだろう。

 何にせよ、状況説明は必須だが説明中に少年がおきて、何かしら不都合があるとまずい。

 神の加護とやらに対して可能かどうか判らんが、エリスに頼んでみる。


「どうだろう、出来そうかね?」

「うん、大丈夫。あまり見ない位には抵抗が強いけど、こんな状態だし、強いといってもまあ大した事ないし、このくらいなら問題ないよ。どうすればいい?」

「とりあえずは起きない様にしてくれれば良いよ」

「判った、その位なら簡単」


 流石は闇の精霊様。見た目に変化がないが、とりあえず昏睡状態の少年を中心にして円形に座る。周囲には障壁を張ってある。

 万が一にも少年が動き出した時、素早く対処するためだ。


「さて、色々と言いたい事はあろうが、まず状況を説明しようと思う」


 とりあえず質問しないように釘を刺し、説明を始める。

 少年の話をする前に自分の説明からしなければならなかった。幸いにして蛇君の言っていた、前世憑き、の話は割と有名だったようで、あまり苦慮しないですんだ。

 

「俺の前世とやらの話は理解して貰えたかな? で、だ、此処からが重要なんだが、この少年が言うにはこの世界は作り物の世界かもしれない、という」

「それは、どういう事なのでしょうか」

 カタカタと骨がなる。


「ふむ、判りやいかは判らんが、そうだね小説の世界のようなものだ。そしてこの少年は小説の世界に、神様から加護を獲て飛び込んできた。少年が使っていた言葉は、プレイヤーが読者いや主人公かな、NPCとは小説の登場人物、と思ってもらえれば良い」

「アリス様の口ぶりですと……その神の加護とやらは相当に強力であり、主人公と登場人物には明確な力量差がある、という事でしょうか」

「ノワール。君、流石に理解が早いね。概ねその通りだ。小説の主人公はある程度小説の内容に干渉できるんだ。世界のルールを超えてね。この場合の世界は、俺の世界でなくこの世界だ」

 俺の言葉を咀嚼して、ノワールがまとめてくれる。彼は魔道の研究者でもあるらしく、かなり理解が早い。

 因みに彼の研究は、現在は効率的に死霊魔術を運用する方法、らしい。

 俺の言葉が浸透するに従い、今回のヤバサが際立ってきたようだ。何しろ下手をしたら目の前の少年はこの世界の神をも超える存在だったかも知れないのだから。



「そんな危険な相手なら、どうして一人で戦ったの!」

「エリスの怒りはごもっとも、だが彼の言葉の中に幾つか気になる事があってね。もちろんプレイヤーという言葉は最大限警戒するべきだが、もう一つ、使役獣ファミリアと言うのがね」

 

「ファミリア?」

「普通は、使い魔や従魔の事を指す言葉ですな」

「そう、使い魔にするなら自分で作るか、呼び出すか、今いる者を利用するかだと思う。蛇君は明らかに操られていた。だから君等にもその力が及ぶのが怖かったんだ」

 怖かったんだよ、と繰り返す。別に言い訳をしているのではない。本心だ。



「エリス、君が精神を司る闇の精霊である事は知っている。それでもなお精神を狂わされる恐れがあったんだ。エリスでさえそうなのだから、他の皆は言うまでもない」

「そこまでの……物なのですか、その、プレイヤーというのは……」

 ノワールの声に恐れが混じる。まあエリスは彼らの神みたいな者だし、致し方ないといえばそうだが。


「ふむ、そうだね。本来は弱い奴のほうが多い。だがね、今回の場合は強い、と思ったほうが無難だ。あと何人居るとしても、ね」

「どうして?」

「彼らがどういった理由でここに居るかは判らない。本当にゲームの世界に入ったのか、そっくりな世界に紛れ込んだのか、ただ勘違いして異世界に居るだけなのか」

 本人がゲームといっていただけかもしれないしね。


「そして彼らがこの世界でどのような扱いかも判りかねる」

「扱い、とは?」

「前世で読んだ小説の話だがね、彼等のような者は死んでも生き返る類の祝福を受けている場合がある。勿論死んだらそれっきりという事もある。それに加えて成長速度、成長限界が馬鹿みたいに高い。鍛えれば鍛えるほど化け物じみた強さになっていく、そして死んでも蘇るかもしれない」

「何とも。恐ろしいものですな、成長限界の方は実感できませんが、生き返るかもしれない、というだけで化け物の領域、確かに何が出来てもおかしくは在りませんな。まあ、私が言う事でもないですが」

 すでに死んでおりますゆえ、とノワールは嗤った。



「じゃあ、こいつもよみがえるの?」

 エリスが少年を見る。敵であるからして、かなり冷たい瞳だ。


「さて、ね。そこが問題なのだよ。もし蘇る、たしか死に戻りとか言うんだが、それがあるなら無闇には殺せない。殺しても蘇るし、それは此処ではないだろうし、何よりさらに強くなって復讐に来るなど、容易に考えられる」


「何とも、厄介なものですね。どうしますか、正直このような話は聞いた事がなく、対処の考えが浮かびません。面目ありません」

「エルフ、にも、そのような話は、何も伝わって、いません」

 グラン達はエルフだ。長く生きていても聞いた事はないのだろう。



「で、だ。彼を無力化する方法を検討したいと思ってね。俺の考えでは監禁位しかなかったが、それでも世話は必要だし、どんな方法で脅威になるか不明だからね。君等の意見を聞きたい」

 そこまで言って隣にいた琥珀を見る。


「私の分野じゃない。殺すなら兎も角、生かし続けて無力化なら其れなりの施設がいる」

「翡翠も。凍らせたら死ぬ、でも翡翠にはそれしか出来ない」

「我等兄妹もそうですね。生かし続ける、という状況は中々難しいかと」

「はい、です」

 一通り言っていき、本命のノワールとエリスが残った。皆、この二人の前に言ってしまった節があるが、まあ判らないでもない。


「大分期待されているようですが……申し訳なくも私にもこうといった手札はありません。殺したあと肉体を束縛し、アンデッドに出来るなら兎も角、死んだ後どうなるか判らないのでは……」

「なるほど、情報が少なすぎて対処が難しいか」

「はい、申し訳ありません」

「いや、それも当然だ。気にしないでくれ」

 深々と頭を下げるノワールに此方が恐縮してしまう。琥珀曰く、上に立つなら其れなりの態度を取らねば成らない、らしいので偉そうにしているが、そもそも部下すら持ったこと無いのに家臣とは。何だよ家臣って、という気分だ。



「……とりあえず、情報を聞いてみようか」

 そして大本命、エリスが口を開く。


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