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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
3部[タイトル未定]
69/105

人殺し

「現状はある程度、ただ原因は全く不明です。警備も突破されてませんから、町の中から這い人が沸いてきたとしか」

 這い人=這いずる人だ。まあ略称。

「そもそも、あれらの成因がよく判らんから仮説も立てられんね。そちらの情報なら何か有りますかね?」

「そうですね、此方もそれについては全く。せめてサンプルがあれば、成因と増殖の方法くらいは推測できるかも知れません」

「ああ、確かに」

 この眼鏡で高出力鑑定をすれば、何か判るかも知れんね。


「エリス、君、さっきの奴等出せるかね? 飲んじゃった奴」

「ちょっと無理、前もって言っておいてくれればそのままにしておくけど、もう吸収しちゃったよ」

 まあ攻撃だからね。保管ではなく。

「じゃあ、適当なの一体持ってきておくれ」

「判った。ちょっと待ってて」

 そういってエリスは出て行く。夜の闇の精霊はほぼ無敵だ、心配は無いだろう。



「詳しくは存じませんが、あなたの力で原因が判れば良いのですが」

「まったく」

「貴方はこの惨状、どのようにお考えですか?」

 ギルド長が話を振ってくる。退屈しのぎにはなるかな。

「ふむ、そうですね。まず、時間稼ぎをしてしのぐという状況ではないでしょう。街中まで侵入されてしまいましたから。此処からの代替案ですと、正直撤退しかないのでは、と思いますがね」


「はい、ああ、そうですね。実は這い人は、この町の人間らしいのです」

「ああ、成る程。突然沸いて出た理由はそれですか。上手い手だ、よもや住人が敵になるとはね」

 それにしても、ギルド長の心労此処に極まれり、という事だね。

「どのように対処すべきでしょうか」

 独り言のようだ。あまり前例のある話でもないようだし、相当参っているようだね。


「さて、元に戻す方法が無い以上は殲滅するか、此処を放棄するか、どちらかでしょうね」

「なんとか、何とか元に戻す方法を見つけなければ」

「まあそれが最善なんでしょうが、被害が拡大する可能性がありますからな。素直に殲滅か撤退したほうが有用だと思いますよ」

「あなたは、人の命を何だと……」

 おっと、説教モードだ。面倒だな。

 

「いやいや、ゴブリンやトロルを殺させておいて、人を殺すなというのは可笑しな話でしょう。この場合は敵になるし、法律上も問題はないかと思いますがね?」


「あなたは、法律が無ければ殺してもいいのですか!?」


「別に理由無くは殺しませんよ。ただまあ、俺にとってゴブリンと人の間にあまり差異が無いんですかね。人は会話できるから一応話し合おうとは思いますけど、敵対するなら殺したほうが良い場合も有るでしょうし」


「ゴブリンと人を一緒にするのですか?」

 この場合、人、といっているのは亜人も含むいわゆる人類だ。

「さてねえ、俺の括りは身内かそれ以外かだけですのでねえ。まあ、一応社会で生きている以上、無闇には殺しません。困ってれば助ける、優先順位も勿論ゴブリンよりは上におくでしょう」

 ゴブリンと人が同時に困ってたら、人を助けるだろう。シチュエーションによるが。


「唯今回は明確に敵だ。躊躇して殺されるのはごめんですのでね。特に思い入れがあるわけでもなし」

「これ以上は無駄になりそうですね」

「実に然り、そうそう、もめる前に今回の依頼料ください」

「……」

「貴方と意見が合わないですからね、終わった後に人殺し扱いされて依頼反故なんて事になったら、此方はかなりの損ですから」

 まあ大量殺戮で称号おいしかったですけど。


「…………ギルド(わたしたち)は約束を違えません」

「いやいや、法的根拠の薄い契約なんて信じ切れません。人を信用するな、が座右の名なもので。といっても、馬車が報酬でしたね、では、大金貨10枚でどうです?」

 日本円にして1000万円。吹っ掛けたなあ。でも最高級馬車=車と考えればぜんぜん足りないだろう。これで許してやる。

 その後ギルド長は無言で大金貨を投げた。よしよし、これで良い。あまり親しくすると便利遣いされかねないからね。やはりギルドに拠らないで金稼ぐ方法が必要だな。

 話が付くのを見計らったようにエリスが帰ってきた、琥珀たちも一緒だ。

「兄さん、取ってきたよ」

「お帰り、お疲れ様」

「えへへ、ただいま」

 えへへって笑い声なのに、顔が邪悪すぎる。

 とりあえずエリスの持ってきたサンプルを皆で検証する。サンプルはおっさんだった。女子供を持ってこないあたり、流石である。


「どうかね、ノワール」

「はっ、見たところ通常見る這いずる人と変わりないようです。魔力による変性痕が見られないので、殺して魔術によってアンデッドにしたのではなく、何らかの原因で生きたままこの状態になった、可能性が高いかと」

「で、では、元に戻せる!?」

「否、この手のアンデッドは成った瞬間にはもうアンデッドだ。アンデッド、死に損無い、殺してやる事は出来ても生き返らせることは出来ん。それこそ、我の様に骨になれば、まだまだ動けるがな」

 カタカタとノワールが嗤う。カッコいいなーあれ、カタカタって嗤うの。



「では、やって見ますかね。『鑑定真贋』」

 攻撃系統の魔術を鍛えたように、眼鏡を使った鑑定も鍛えた。グランの件から判った事だが、魔力量によって鑑定はより詳細になっていく。

 そして詳細を突き詰めると、隠されていた事まで暴く事ができる。どうもこの『眼鏡』は今までの研究結果などにアクセスできる端末らしく、データはアクセス権限の様な物で幾層にも分かれている。

 

 魔力によってその権限に干渉し、より詳細なデータを引き出す、らしい。これは『眼鏡』を鑑定して得たものだ。鏡で鑑定するのは非常に滑稽だったがね。



「……何というか、発言に困るね」


 這いずる人:元哺乳類・魔物(低位)

 人間だった物が変化した魔物。蝕白草むしばみしろくさから抽出された寄生媒体を元に人工的に作られた固体。

 低いが感染性があり危険である。意思は無く、操られている事もない。


 寄生媒体

 蝕白草むしばみしろくさから抽出された物質。蝕白草が斑白草に寄生するときに活性化していた物質。相手の情報を読み取りそれに擬態し、またその情報を伝播する事ができる。

 呪いやその他の影響まで伝播する事ができる。


 大分懐かしい名前が出てきた。蝕白草むしばみしろくさ、ギルドにきた最初の頃に採取したもので、白草のコロニーで見つけた寄生型の新種だったはず。ギルドは判らなかったのか、意図的にかは知らんが認めなかった物だ。


 まあ後者だろう。それで研究していた? 見つかった物質で感染を媒介した? いやあ、どうにも無理があるな。


 もしその通りなら、今回の犯人はギルドで魔獣大発生と関係が無い事もありうるが、それは考えにくい。


 むしろ俺とは別の経路で、蝕白草の事を知っていた誰かが、魔獣も率いている、と考えた方が……。


 つまり、俺と同等以上の鑑定眼を有して、それ以上に……。



「兄さん!?」

 おっと、また思考に沈んでいたか。ちょっとカッコいいな。

「失礼、鑑定結果がアレだったものでね」

「アレ?」

 エリスの疑問ももっともだ。

 俺は鑑定結果を、以前の新種発見の話を含めて説明した。


「……そんな」

「感染性ですか、厄介ですな。ある程度の魔力があればその類は防げますが、さてどの程度の物か」

 魔力があれば大丈夫なら、とりあえず俺たちは大丈夫だろう。


「さて、話し込んでしまったがとりあえず外を収めてこよう。ギルドの人は念の為内通者を探して、あとこの町を放棄する準備をして置いた方が良いだろうね」

「やはり、殺すしかないんですか?」

 きけばギルド長はこの町の出身だったとか。まあ身内も多いし、同情は出来る。これは教訓だろう、油断すると身内を失う恐れがある。この件が落ち着いたら、何か考えねばならないね。

 

「殺すしかないでしょうね、もしくはこのまま逃げるか。身内を殺される事に非常に同情しますが、言ったように身内以外はどうでも良くてね。殺すなら此処は俺たちがやる、逃げるなら殿もやる、それで収めてもらいたい所ですね」

 一応精一杯の譲歩だ。先ほどはああ言ったがやはり人を殺すのは躊躇われる。躊躇わない為の方便が必要なのだ、人間とトロルを差別しない、と。

 差別と区別の違いくらい、痛いほど知ってはいるが。


 どちらにしてももう這いずる人を殺している身だ。後戻りはできないし、する気も無い。なに、高が100人や200人何のことは無い。

 

 虚勢を張っていると太ももの上のこぶしが酷く痛んだ。

 震えるこぶしを琥珀が握りつぶしていた。音がしないのが不思議だ。

 こぶしからは血が噴出して、脳が焼けるほどの痛みが伝わってくる。緊急で魔術を使用し傷を癒す。同時に痛みを最優先で取り除く。背中が汗でびっしょりと湿った。


 

 幸いな事にギルド長たちに気づかれはせず、此方の進言を受けて撤退準備のため退室した。

「つっ、か、はー……」

 死ぬほど痛い。

「何を……」

「下らない事を考えていた。前の世界ではとも角、この世界ではアリスの考えで正しい。なやむな、どうせもう人殺しだ」

「えー、悩んだらいいんだよ。兄さん、私が慰めてあげる。兄さんは何も間違って無いって囁いてあげる」


「ああ、そういうことか。有難う二人とも、琥珀すまんね」

 どうやら、形ばかりの前向きを看過されたようだ。そして思考の袋小路にはまる前に戻してくれた。誰かに強烈に指摘されれば、それなりにスッキリするし。

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