開戦? どうにもぬるい
さて、作戦を立てる段になるが、作戦なんてどうしたモンかねえ。
「報酬の折り合いも付いたし、協力はするが危なくなったら絶対に逃げる。そこだけは覚えておいてくれよ?」
「判りました。では、本格的な作戦会議に移りましょう。今回の作戦は、いわば時間稼ぎです」
報酬の詳細と必要事項の確認をして、ギルド長が会議を始める。
時間稼ぎ。ギルド長が要請した各町の冒険者や騎士団の到着を待つ。
言うのは簡単だが、いったいどの程度で来るものか。
ギルド長や書記官以外の幹部の態度から、俺達のように町を見捨てる選択をするのは珍しくないのだろう。
先ほど町の人の避難、といったが、多くの人は町に留まる。町を捨てたとしても、疎開先で生活が成り立つのか判らないし、国の支援もそこまで手厚くはない。だからこそ、ギルド長たちは町を守ろうとしている。
だが、冒険者は別だ。彼等は逃げた先で自分にあった仕事を探せばよい。特に筆頭冒険者ともなれば、まず仕事には困らない。
そしてそうであるなら、他所の町を守るためにどの程度の人数が動くものか。正直、ギルドだって自分の町の有力な冒険者を使い潰したくはないだろう。
おそらくギルド長が、その辺は上手くやっているのだろうが、間に合いませんでした、という体裁をとってくる事も考えられる。
そしてもう1つの騎士団だが、これはこの国や世界の有事の際の対応能力が判らないので何ともいえない。だが、編成や予算の捻出、装備などで少なくない時間が取られることは想像できる。緊急展開部隊があるのかも疑問だ。
「具体的に言って、どの程度稼げば良いかね? それに稼ぐにしてもこの町の壁程度じゃどうにもならんよ。壁というより柵だし」
「あなたの魔術、こういう時に向くのではないですか? 空想魔術師殿」
副ギルド長が一瞬反応した。たぶんわざとだろう、探っていたようだ。成る程、それを知っていたら此方の要望を簡単に飲んだのも頷ける。
「前にも言ったんだがね」
「すまん、だがこちらも実力は把握して置きたかったんだ」
「いや、探られたこちらの落ち度だろう。それは良い、しかしね」
「何か?」
見つかったのは此方の責任だから良いとして、ギルド長に向き直る。
「確かに俺は空想魔術師だ。そして俺の魔術は多数殲滅に向く」
おお、とかザワッとか場が盛り上がる。予想より小さい反応なのは、空想魔術の事が知られていたからだろう。
「だがね、それでもこの町が要塞であるなら兎も角として、流石に一人で戦線を支えられるかどうかはわからん」
魔獣を狩り続けたこの数ヶ月で此方の能力も上昇している。元々重機関銃による『機銃掃射』だけで、そうとうの数を圧倒する事ができる。
相手が唯の歩兵なら、俺一人で1万は止められる。しかしそれは条件が整っていればだ。
正面からしか来ない相手、進軍速度、足止め要因。それらを説明する。
「十分です。最初に言ったとおり、時間稼ぎが目的ですから」
「その時間稼ぎ、当てになるんだろうね」
「勿論です、1週間も稼いでもらえれば」
1週間ね、相手に感情があるなら楽なんだろうが、どうだろうね。まあ危なくなったら逃げればいいか。
そして今日、我等が故郷がある森の方から、わらわらと魔獣が湧き出している。
数自体は思った程でもない、部隊毎に動いている所を見ると、やはり一連の異常騒動の集大成なのだろう。
ゴブリンキングの指揮で見事に統率されている。あれらが相応に知識を持っているなら、色々とやり様はあるね。
「主人様、遣り様って何?」
頭の上に載っていた翡翠が聞いてきた。声には出していない筈だが……ああ、念話か。
「そうだねえ、例えばあのゴブリンを捕獲して、皆の前で皮を剥ぐとか、切り刻むとか、要は戦意を削ぐ様にしてみたり。もし戦意って言う概念があるなら、一気に部隊を吹き飛ばして見たりすれば大分動揺するしね。まあ様子を見てみない事にはね」
「成る程、氷は? 主人様、氷は役に立つ?」
「氷か……あんまり綺麗に殺してもね、腕を凍傷にして落としてから帰還させる……とか?」
戦意を削ぐなら、出来るだけ惨たらしくないといけない。殺さないで生かして帰す方が効果的だ、ついでに負傷兵の概念があれば、人手を割ける。
ま、全ては机上の空論だ。魔獣がその程度で動揺するはずも無い。
「さて、まあ話は終わりだ。いよいよもって、近づいてくる。開戦と行こうじゃないかね、君」
作戦会議から開戦まではほとんど間が無かった。それでも準備は僅かながらしてもらった。
俺たちは町から少し出て、森よりの場所に櫓を立ててそこから攻撃する。後ろからは他の冒険者と残った町の住人、ギルド職員などが弓や魔術で援護する。
「ワラワラくるね」
エリスが杖をくるくる回しながら遠くを見る。急ごしらえの物見櫓は小さい。エリスと俺で一杯だ。今回は遠距離戦なので、俺たち二人だ。
翡翠では、まだ効率的に広範囲を攻撃できない。
「基本的には俺がやるよ。正に俺の舞台だね」
「だね、兄さんの魔術は大規模だものね。いいよ、私兄さんを後ろから見てる。くふふ、幸せ」
独り占め、という感じだろうか。台詞に笑い声があっていない。邪悪だ。そこが良いんだが。
遠くの方で、ゴブリンキングの剣が振られた。合図だろう、一気にゴブリンが突っ込んできた。
この世界の戦争方法を聞いた事がある。
以前に魔法陣の特性について聞いたが、基本的には大規模魔方陣を起動して打って、その後は白兵戦らしい。弓や騎兵もいるが、メインは歩兵。
ゴブリンどもに大規模魔方陣やそれに必要な高魔力があるとも思えない、それに騎兵や弓兵もだ。だから戦争のやり口に則った歩兵突撃、という事だろう。手に手に粗末な武器を持っているのも見える。
「くくくくく、実に残念だね。君等のしている事は、全滅覚悟の万歳アタックデース」
なにか変な思念が乗り移ったが気にしないことにする。
「『機銃掃射』、魔方陣多重起動」
魔力はすでに1万を軽く超えている。上がれば上がるほど、一度の魔力切れで上がる総量が増えている感じだ。だから多重起動も簡単に出来る。
敵の総数は判らないが、それでも重機関銃5門による掃射だ。ひき肉になるが良い。
血飛沫が赤い霧状に見える。地面が赤い。
ゴブリン程度では抗えない事は経験済みだし、今の魔力量で十分に魔力をこめればゴブリンキングも始末できるだろう。唯、目的は足止めだ、一定のラインを超えない限り深追いはしない。
突撃が全く奏功しないのを見て、ゴブリンキングが大きく鳴いた。遠吠えのように聞こえてくる。撤退の合図のようだ、一斉に引く。
敵ながら、実に見事な撤退だ。そして、死屍累々。高笑いが止まらんね。
「さて、どう出るかね。まともな指揮官がいるなら、別の手を考えてくるから、そうなれば時間が稼げる」
「まともな指揮官以外だったら?」
「現状を認識しないで、数を増やしたり種類を変えたりしてまた突っ込んでくるよ。種類については一抹の不安も残らないではないが、これまで異常行動をしていた魔獣がラインナップだとすると大丈夫。そうなれば時間を稼いで、戦力も削げる」
エリスはニコニコしながら、うんうん、と頷いている。よほど機嫌が良い様だ。含みが無い笑顔など、何とも珍しい。
エリスの頭を撫でてつつ、ちょっとイチャイチャしていると網に掛かる魔獣がいる。
トロルの群れらしい。
「まともな指揮官じゃない、のかね? 兄さんの力が判ってないのかな?」
「いや、威力偵察としてはありか、とも思う。此方の戦力を知らなければ対処もできんからね。本来威力偵察は前面の敵が対処可能な場合のみ有効なんだが、どこかで見ているのかもしれないねえ」
攻撃可能範囲に入った瞬間、トロルの頭を打ち抜く。
遠距離攻撃用魔術、『対物ライフル』を基にした空想魔術だ。精密さが要求されるから、魔法陣構成はしていない。マニュアルオンリーだ
流石に人に向けるのが禁止されるほどの威力、トロルの顔面なんて何の抵抗も無く抜ける。通常の生物の組成ではどうあっても抗えないだろう。この世界では魔法とか色々あるから、あんまり油断できないのだけれど。
2体・3体と頭を吹き飛ばしていく。照準は魔力で付けているので、射程範囲ならほぼ外れない。まあこれが出来るのは、『脳内の演算機』のおかげである。距離や角度など見ただけで割り出して、最適解を教えてくれるのだ。
使っているのが俺だから、性能を十全には発揮できてないが、射撃補助や魔術制御、『眼鏡』による広範囲鑑定の処理やその記憶蓄積など、地味だがかなり有用なスキルである。
「もったいないね、あのトロルだけでも中々の報酬だよ」
「ほお、エリスもそういうこと考えるようになったのかね?」
「兄さんが言う事だもの。それにお金が大事なのはよく判る。命がお金で生きている事もね」
金は命より重い、至言である。まあ自分や親しいものを除いてだがね。
トロルは一匹でも皮や眼球、睾丸や肉など丸ごと売り払えば金貨5枚は下らない。討伐報酬もそれなりにいくし、金のなる木だ。因みに睾丸は薬の材料になるらしい。
後で回収しよう、と考えつつ狙撃を継続する。
5体も打ち抜いたころ、トロルの動きが止まった。
「ほほう、来るかね?」
一人悦に入り、カッコ付けた俺の呟きが合図だったかのうよう、トロルの群れが地響きとともに突っ込んできた。
ちょっと前にグランが言っていた魔獣の氾濫、暴走。成る程、実に然り。
恐らくは『対物ライフル』による狙撃に一定の間隔があり、単体攻撃であると踏んで数を頼んだ暴走に出たのだろう。指揮官は多少考える力のある馬鹿である、と結論できる。
此方の兵装を知りもしないで、今ある状況だけで希望的解釈をするとは。
まあ、それも俺の勝手な予想と解釈なんだけどね。一応全方位を索敵できるし、手薄になる後方には琥珀とグランを置いてある。これで駄目なら、最初から詰んでたって事だね。
「数と質量による突進は実に良い戦法だ。実際に近代以前の主力であった騎兵は、まさにその突撃衝力をもって主力足りえていたのだからね」
「うんうん」
「突撃衝力を生かすのは速度と質量だ、だが最も重要な点は相手に届くかなのだ」
「うんうん」
「見たまえ! あんな遠方からの突撃では此方にたどり着く前に全滅してしまうよ。強力な遠距離攻撃や大質量をとめる方法が少ないこの世界だ、実際に騎士団との戦闘ならあの方法でも通じるかもしれない。だが、だがしかし! 此方には近代兵器がある。時間の止まった世界に生きる愚か者共に、殺す事だけに特化した我が故郷の戦闘技術を見せ付けてくれる!」
「うんうん」
「きみ、まじめにきいておくれよ」
泣きたくなるから。
「兄さんの話は難しいのよ。ところで実際どうするの? いくら兄さんの魔術でも、あの勢いと量は中々の物だよ? 私がやっても良いけど、たぶん止められないよ?」
エリスの魔法は意外な事に直接攻撃に向いていない。質量を持った闇、というべき物を操って突き刺したり切り裂いたりするのが基本らしいが、あまり効率の良い方法ではないらしい。
エリスたち闇の精霊は、精神系統の魔法こそ真骨頂であるらしい。魔力抵抗を持たない相手なら、発狂させる事も簡単との事。魔力抵抗とは魔術・魔法に対する防御の事で、魔力量がそのまま抵抗になる。
「あれだけの量だと、眠らせるしろ狂わせるにしろ、時間掛かるし、その間にとどいちゃうよ」
「心配無用。兵器とは常に進化するものだ。見せてあげよう、君が皆と差別化を図るため、自分が添い寝するとき以外睡眠の魔法を掛けてくれないので持て余した! 長い長い夜の間に生み出した新魔術を!」
「そういう事してるから眠れないのよ? よく考えたら、すぐ眠っちゃうと私損してる気がするよ」
「すいません。色々とサービスするので、どうか眠らしてください」
エリスの魔法には依存性でもあるのか。どんどん眠りが削られていく。エリスなしで安眠できる日が、もう来ない気すらしてしまう。
冗長な掛け合いは兎も角。このような場合を想定し、ても居ないが編み出した新魔術である。
御他聞にもれず前世の兵器を参考にしたものだ。
『榴弾』や『機銃掃射』、先ほどの『対物ライフル』と比べて、3倍以上の魔力を注ぎ込む。此方は魔方陣を構築できるほど使い込んでいない。出来たとしても魔方陣運用はあまり効率的ではないだろう。
練り上げた魔力の塊を上空に放り投げる。
「死ね、ゴミ共! 『集束爆弾』」
掛け声と共に魔力塊が弾け、地面に向かって無数の小魔力塊を叩きつける。
「おおー、派手」
エリスが気の抜けた賞賛? を投げるが、下の地獄絵図はそんなものではない。
『集束爆弾』、いわゆるクラスター爆弾である。大きなケースの中の小爆弾で地上を面攻撃しようと言うもので、費用対効果や制圧面積の大きさから空爆に取って代わる兵器だった。前世で死ぬ前頃から規制の流れがあったようだが。
普段の如く、俺の空想は完全に兵器としての再現が出来ないが、それでも近代兵器の面目躍如、といった働きはしてくれる。
トロルの波は、出エジプト記の如く真っ二つに割れ、恐らくは耳をやられたであろう両脇のトロルが呻いていた。勿論割られた中心は、すでに原型が無い。
「結構魔力を食うな。費用対効果が売りの兵器で、恥じ入るばかりだね」
まあ費用対効果といっても、比較が空爆だからね。そりゃ俺の他の魔術と比べたら高くつくだろう。
高いといっても、上昇している魔力量で補いは付く。残っているトロルに向けてさらに『集束爆弾』を発動する。
最初に一発、ドンっと音がして、破裂した魔力塊から小さな魔力の弾丸がばら撒かれる。それらは僅かな時間差をおいて着弾するため、ザザアーっと波の音や麦穂の揺れる音を何倍も大きくしたような、意外と耳に心地良い音が響く。
ヨロヨロと立ち上がり、森に下がるトロルが一匹。最後の生き残りらしい。
バシュ、と空気圧を発射したような音がして、最後の一人の頭が弾けた。
「んふふふふ、第一波殲滅確認」
「おおー、パチパチパチ」
「口で言うの止めて」
称号獲得。
称号:虐殺者・蹂躙者・殲滅者・無慈悲・射撃高揚が与えられました。
虐殺者・蹂躙者・殲滅者・無慈悲を同時入手した事で、
称号:英雄を入手しました。
英雄の効果により魔術使用に恩恵が与えられますが、称号:空想魔術師を入手しているため任意での魔術強化が可能です。
魔術強化を行いますか?
「一編に言われると良く判んない」




