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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
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家族?

普段より長いかもしれません。読みにくいかもしれませんが、よろしくお願いします。

「おい、ケイオスだぜ」

「おっと、十字架揃い踏みか」

 ギルドに入ると彼方此方から囁く様に聞こえてくる。俺の様に小心な人間は、非常に耳聡い。漏れ聞こえてくる小声から、自分の評判や評価を判断し、それに修正を加えるように生きているからだ。

 だが、今回の件はどうにも違うらしい。

 討伐を引き受けるようになって3ヶ月ほど。最近はギルドには来ていなかった。琥珀が情報収集や換金などの手続きは行っていて、俺は唯狩るだけだった。

 なのでギルド内の囁き声の意味がよく判らない。


「何、あれ?」

 同じくエリスも不思議そうである。不愉快そうとも見えるね。結構視線を感じるので、注目されているのが気に入らないんだろう。

「さあ」

 琥珀は淡白だ。そりゃ琥珀が気にはしないか。

「恐らくは、ギルド筆頭チームで、討伐を恐ろしいサイクルで繰り返す事で、一目置かれているのかと」

 グランが言ってくれたことが正しいのかも。


「そうかも」

「何が?」

「グランの言ったこと、正しい。何度かチームに入れろ、と声がかかった」

 無視したんだろうな。琥珀がそういった交渉事を受けはしないだろう。俺が初耳なんだから、推して知るべしだね。

「そういう希望を断っても大丈夫な物かね?」

「上位階が下位をあしらっても問題はないでしょう。問題なのは上位階の奴等が入れろと言ってきた時です、評価基準であちらが上、となりますと断るとそれなりの軋轢が予想されます」

「かといって力で退けても結果は同じだろうね」

「はい、プライドがあるでしょうから」

 面倒なことだね。断る理由くらい考えておくか。

 良いアイディアがふと浮かんできた。空十字血盟ケイオスクロスクランはその名の通り、一応は血族に順ずるものであると説いている。

 モチロンそんなものは、固い絆とか信じる心とかが、なんとなく、何かすごい力でピンチを救う余地を残しているだけの、言ってみれば方便な訳だ。

 

 もともとの意味としては血族のように固い結束を示す同盟のようなもの、という認識らしい。

 この方便を有効活用しよう。

 名前には一つの家族であることを示す、ファミリーネームなるものがあるそうだ。たとえば、アリス=キャロルリード。アリスが名前で、キャロルリードが苗字。この中にワンダーランドをファミリーネームとして入れると、


 アリス=ワンダーランド=キャロルリードとなる。このワンダーランドをほかの名前にも組み込むことで、我等は血族であるとアピールでき、断るときの一応の大義名分が出来る。どこまで有効かは不明だが。

 となれば皆に聞いてみよう。



 かなり明後日の方向に多段式に加速した思考を説明する。

 概ね賛成らしい。家族名まで名乗ることで、反対の声が上がるかと思ったが、ないなら良い。むしろグラン達の方が萎縮している。名を連ねる以上、責任は家長に掛かってくる。つまり俺に、そこまでして頂く訳には。的な感じ。

 この意見については意外にも琥珀が強力に後押しして、採用された。

 

 ギルドの食堂でファミリーネームなんて考えてて良いのだろうか。

 エリスが苗字まで変えたい、といっている。まああの親と同じ苗字って思うとげんなりするんだろう。エリスが人間だった頃のトラウマは、中々改善されないようで。

 苗字変えるならいっその事カッコ良くて、通りが良いのが良い。俺の中の黒い心が囁くので、いったん撤収して、家でゆっくり考えることにした。


 琥珀に確認したところ、俺の認識しているファミリーネームは確かに家族やある集団に属することを示す名前であり、すでに実家というものと縁が絶えているアリスなら、新しく作ってしまっても問題ないだろう。との事だった。

 名乗るときに不便が無い様に確認したが、特に問題なさそうなのでこのまま走ろう。貴族でもないのに、と思ったが、この世界では陸地が広大で、貴族がいない国やいても力を落としている国もあり、そういう国では平民でも名乗るので、特に不自然ではないそうだ。


 因みに勝手に名乗れる訳ではなく、身分証を発行する機関。国でもギルドでもいいが、とにかくそういった機関から、ある程度の信頼を得ていて、ある程度の手数料を納められる場合のみだ。

 身分証が変更されて始めて、その名前や家名が受理されたと看做みなされる。勝手に名乗っても良いのだが、自称、になってしまうので、実に避けたいところだ。



 名づける。

 あまり意識に上ったこともないが中二病にとって、全ては名前から始まるのだ。

 そういった訳で、俺が張り切るのは予定通りだったが、グランやシュラまでが張り切るのは完全に予想外の自体だった。どうやら、家族名をつける、という事がそもそも異例なのだという。

 確かに新しく家族を作る、という自体は中々に珍しいだろう。結婚などで新しく家族単位を作っても、当然ファミリーネームはすでにある。

 グランやシュラの考えでは自分たちで一家を興す。となってしまったのかも知れない。ちょっとした遊び心、とはもう言えんね。


 そしてエリスと琥珀・翡翠も割と乗り気だ。エリスは両親の家が嫌いだし、琥珀と翡翠は俺と同じ名前に憧れていた節があった。普通に名乗ってたきもするが、やはり勝手に名乗るのと正式に名乗るのでは違うのだろうか。


 そんな訳で、命名会議は紛糾した。

 家名といわれてもどんな物か馴染みがない。日本だと名字に当たるのだろうが、名字を考えたことはない。 

 唯の呼称であれば何となくで問題ないと思うが、家として考えるとねえ。琥珀と翡翠は好きな宝石シリーズなんだが、アリスだし、宝石にするなら英語名が妥当だけど、あまり好きじゃない。


 喧々諤々の会議だったが、基本に立ち返り、好みと気分とその場の乗りで決めることにした。

 結果発表。


 アリス=ルナ=ティクス


 となった。ルナティクスを分割しただけの物だが、割と気に入っている。中二全開。

 ルナティクスは言わずと知れた、狂気のラテン語読み。俺自身はあまり自分の事を狂っているとは思っていない。人と感じ方や考え方が若干違うだけだ。狂っている人間は、割と好きだ。

 まあ、大体は乗りで決めたので後で後悔はするだろうが、どうしたってそれはあるし、皆は言葉の響きを気に入っているので良しとしよう。

 琥珀以外にはルナティクスは月や月光を表す古い言葉、と説明してある。まあ月的な、で間違いはない。月が狂気の象徴かどうかは文化の違いがあるかもしれないが。


 という訳で、

「アリス=ルナ=ティクス、えっとルナ家でいいのか? 初代当主? 貴族でもないのに? 大仰な事だよ」

 自己紹介する。皆も新しい名前を名乗りあい楽しんでいる。琥珀と翡翠はちょっと違和感があるが。


「グラン=ルーナ= リヴィエール、ルナ家の末席に加えていただき感に堪えません」

「同じく、シュラム=ルーナ=アコライト、ルナの名を、汚さぬよう、が、頑張ります」

 ふむ。家族名に元々も名字が加わっているが、まあそれは良い。ルーナってなんだろう。

「ルーナって何? ルナは発音とかしづらいかね?」

「ああ、いえいえ。エルフの習慣というか規則ですね」

「エルフ、は、主家の家名を、拝する、時に、文字を変える、のです」

「主家の家名をそのまま名乗るのは恐れ多い、と考えるのでしょう。主家に近いほど変更は少なく、今回の様にルナ→ルーナ程度であれば、それはもう分家筆頭であります。琥珀様よりそう名乗る事のお許しを頂いております」

 グランとシュラが説明してくれて納得した。今後、家臣? が増える事はないと思うが、まあ遊び心だ。かまうまいよ。



「いや、そんなルールは知らなかったよ。申し訳なかったね。まあ、筆頭といっても今後家臣が増える事はないと思うがね、その辺は了解してくれ給えよ」

「えー、兄さんの国つくろうよ」

「主人様の国、つくろう。自然が一杯な国が良い」

「そんな今日のご飯はカレーが良い、見たいな乗りで言うことかね。国なぞ運営出来るものかね。誰かが決めたルールにのっとって安穏と暮らすのが、賢い方法という物だ」

 エリスと翡翠が無茶を言ってくる。この非才の権化たる俺には絶対にそんなことはできない。


「アリスは変な者の味方をする。増えるかも知れない」

「そうですな。琥珀様の言うとおりかと、まあ増えなくとも一向に構いません」

 琥珀が物騒なことを言い出した。

「君らがそういうなら、特に問題はないよ」

 

「ムウー」

 突然重低音の音が窓の外からした。

「あ」

 するとシュラが窓とカーテンを開けた。因みに個人的な趣味で部屋は常に薄暗い。

 開け放たれた窓から、ぬうっと長い首が顔を出した。歪んだ真珠(バロック)だ。長い首の先から長い舌が出て、シュラを舐めている。

「ムウ」

 重低音がバロックの口から漏れた。え、鳴き声? メエーってのは? あれ、ムウ?

「バロ、なあに?」

「ムウ」


「え、あれ何? 会話してんの? 鳴き声?」

「ああ、はい。エルフはある程度動物の思考を読むことが出来ます。まあそれなりに信頼関係がないと無理ですが。バロックは大分懐いているようですね」

「君等エルフは、何とも不可思議な生き物だなあ。よもや動物と話せるとはね」

「多種族からはそう見えるようですね。ただ動物も森に生きる隣人。意思疎通が出来たほうが何かと便利なのですよ」

「なるほど、異文化と言う物はそういうものかも知れんね」

 判ったような判らないような気がするが、俺も翡翠と話せるし、確かに何かと便利である。大分比較対象があれだが、納得は出来る。



「でバロックはなんと?」

「バロ、も、名前が、欲しい、らしいです」

「ああ、ああ。なるほど、さもありなん」

 まだ飼う様になって数ヶ月の短い期間だが、結構高頻度でジャレているし、動物に裏切るメリットがあるとも思えない。合縁奇縁とも言うし、拾った山羊を血族にするのも一興。

「では、バロック=ルーナ=アコライト、でどうかな?」

「わ、私?」

「そ、バロックはシュラが一番世話してるし、それならシュラの家の家臣かなと思って。戦闘中もバロックは良い壁になるしね」


 この山羊は実は結構やる。元々が群れを作らず、単独で生活していた種類なのでそれなりに強い。ヒズメと角による攻撃もそうだが、長い体毛が複雑に絡み合い、体毛自体もかなりの強度なのでとにかく硬いのだ。しなやかな筋肉と体毛で、攻撃を受け流すことが出来る。

 現状、グランの壁を抜けて、後衛のシュラが襲われた事は無いが、壁は二重三重にしておくべきだ。


「い、妹が、出来ました。おにい、ちゃん」

「うむ、シュラの妹なら、俺の妹でもある。バロックよルナとルーナの名に恥じぬよう、共々に励もう」

「ムウ」


 バロックは雌だったのか。そして今の鳴き声は同意や共感らしい。正直違いが判らんが。

「何にせよ、よろしく頼むよ。……今度こそ、楽しく家族できるといいね」

 後半は誰にも聞こえないだろう。三度目の正直ということもある。



「家族ごっこ、諦め切れない?」

 琥珀である。本日の添い寝は琥珀である。エリスは一通りじゃれ合った後、俺を眠らせてくれる。翡翠は色々知るのが楽しいらしく、雑談に終始する。たまに顔を嘗めてきたりする程度はあるが。

 琥珀は俺を甘やかす。

 本人曰く、それこそが存在理由なのだと。


 今もベッドの端に腰掛けた俺を、後ろから抱き包んでいる。身長差も体格差も無いから、琥珀の無理な体勢は想像できるが、妙な安心感があり止められない。


「さてね、家族が欲しくないと思った事は無いね。こっちにきてエリスがいて良かった、と思うよ」

「エリスだけ? 私は?」

「君も奇特な人だ。時と場所、世界まで超えて付き合ってくれる」

「この世界に来て、体を得たことと、アリスが素直になった事が、私は嬉しい」

「素直、ねえ。そうなったのかねえ」

「家族が欲しい、といったでしょ。30年以上一緒にいて、口に出したのは、初めて」

「お、おお。成る程、それは素直になったものだ! 確かに、確かに! 俺の口から出たとは思えんね、さて、一体どういった心境の変化か」


「手の届く夢になった」


「家族が?」


「そう、もしかすると今度は」


「成る程、成る程、実に僥倖。今度はこぼれない様に願いたいね」

名前の変更。もう少し早くやりたかったのですが、予想以上にかかってしまいました。

やっと2章は終わりました。章わけはあまり意味がないかもしれませんが、一応やっておきます。

歩みの遅い駄作ではありますが、今後ともお付き合い願えれば幸いです。

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