借金完済
「頼みってのはな、魔獣の討伐依頼を受けて欲しいんだ」
「たった今強制できん、と言ったばかりですよ?」
「ああ、だから強制じゃなくて、頼みなんだよ」
どうもこういった地方の小規模な町では、冒険者の不足があるらしい。強くて稼げる冒険者はもっと危険な、あるいはもっと楽な場所に移り住む。結果として残るのは、この辺でしか活動できない、零細冒険者、と言うことになる。
「他の支部から、派遣とかは?」
よく知らないが、ギルドは国家をまたぐ組織だったはずだ。融通してくれないんだろうか。
「大規模な魔獣被害や、それこそ高位の魔獣被害があるなら別だが、通常の依頼で出るような魔獣退治には呼べん」
「なるほど、まあそうですね」
それをやってしまうと、切が無いんだろうしね。
「ギルドも国際的な組織とはいえ、そこの職員は多くが地元の者だ。魔獣被害を憂う一方で手を拱いているしか出来んのを、歯がゆく思っても居る」
「まあ、概ね理解しました。しかし、頼みと言われても唯引受けられるほど、余裕が在る訳でも無いですし、この町に定住する気もありませんが?」
親切にしない気は無いが、長く掛かるとなれば話は別だ。面倒くさいし、どうせそのうち旅暮らしだ。
「それは判ってる。報酬にギルドからの上乗せとその他便宜を図る」
「便宜?」
「旅支度の手伝いだったり、優先的なアイテムの売買だったりだ」
ふむ、弱いかね。積極的に手伝うって程じゃない。唯別にこっちに不利はないし、どうせ金を稼がねばならない以上損はしないと思うが、どうしたものかね。
「兄さん」
「ん?」
「馬車を作ってもらったら?」
意外な提案だね。帰りの馬車の中で色々と話はしていたが。
だが確かに良い案なので提案してみる。
「流石に馬車一台をホイッとは渡せん。格安でオーダーメイドの馬車を作るから、その費用を討伐報酬から出すってことでどうだ。馬車のオーダーメイドなんて普通はやらんから、悪い話じゃないぞ。費用も実費だけだ、そうだな大金貨4、いや3枚もあればおそらく」
条件が出たので、少々時間を貰い今いる面子で話し合う。エリスは何時も通り、
「兄さんのしたいように」
で、琥珀は特に問題はないだろうとの判断。グランもどちらにしても金が必要であり、報酬に色が付くなら損は無いのでは、とのことだ。俺もそれには賛成できる。
「出来る範囲でお受けしましょう」
との結論に達した。受けておいても損は無いだろう。馬車のオーダーを受けてくれるだけでも、有難い、と思う。
「そうか。ありがとう」
此方の結論にかなりホッとした様子だ。そこまで追い込まれていたのだろうか。
「実はな、此処最近魔獣の活動が活発すぎるんだ。今までだって、うちのギルドには高位階の奴は居なかったが、それでも何とか対応できてた。此処最近なんだ、それこそトロールなんてモンが出てきたのは」
疑問を見透かしたように説明があった。どうにも色々と魔獣関連で起きている様だ。関わりたくないが、金には代えられない。
とりあえず契約、と言うよりは協力の詳細を詰めて書面にした。報酬は1割上乗せ、馬車は実費のみでオーダーメイドにしてくれる。此方は基本的に討伐中心の魔獣関連の依頼を受ける。
簡単な協力依頼書だが、とりあえずまとめて退室する。
窓口で報酬と預けた大金貨を受け取り帰宅する。
「ただいま」
「あ、お帰り、なさい」
帰ってくるとシュラが出迎えてくれた。一人残したが、拉致イベントとかは起きなかったか。
「主人様、帰りました」
翡翠も窓からチョロッと入ってくる。翼隠してれば普通の爬虫類に見えるね。
今回の討伐が失敗した時を考えて、琥珀と翡翠に色々骨を折ってもらった。
まず琥珀には偽の借用書を作らせる。利率を偽造し、相手が不当に高利を掛けてきたと主張し皆殺しにするつもりだった。念のための証拠、と言うわけだ。皆殺したあとに、利率の違う借用書を提出し、そのことを糾弾すると襲われたので返り討ちにした、と証言するつもりだった。
この世界は警察機構が俄然発達しておらず、捜査なんてザルも良い所。この程度の捏造でも十分通ってしまう。自分たちも十分警戒し、色々コネを作っとく必要がある。まあ、結局は強いものが正しいが原則なのかも知れん。死人にクチナシだ。
翡翠には借金取りの事務所、と呼んで良いのか判らんが、住居兼事務所に潜入してもらった。
証言が残るとまずいので、皆殺す必要があったんだが、相手の人数など把握しておかないと、それも難しいのでね。
翡翠は実に潜入に向いている。ヤモリみたいなもんだし、従魔なので念話で結構離れた距離でも話せる。このアドバンテージは大きいね、いずれもっと役に立つ事もあるだろう。
翡翠の報告によると、奴等は借金が返せなくて、シュラを慰み者にする話で盛り上がっていたが、返済があればそれ以上何もしない、とも話していた。要は普通の金貸し、と言うことだろう。皆殺しにしないですんで、良かった良かった。
返済には当事者である俺とシュラ、グランで行く事となった。残りの面子には商業ギルドの手続きを頼む。出来れば山羊の権利を貰って来てくれると嬉しい。
「失礼」
翡翠が調べてくれた、借金取りの事務所に赴く。小さな町だから、金貸しは此処だけだ。金貸しの競合店というのもおかしいが、もっと数があれば此処まで暴利では成り立たなかったろう。
まあ数があったらあったで、実際にはまとめ役みたいなのがいてナアナアでやっていくんだろうが。
事務所といっていいのか、中には5人の男が詰めていた。翡翠によると、此処は家族含め9人出入りしていたので後は奥か、外に取り立てに行っているか。
「おお、御嬢ちゃん。待ちくたびれたぜ」
近づいて来る男を手で制して、シュラをグランの後ろに下がらせる。グランの目がオッカナイ、こいつも俺が波長が合うんだから、ちょっとイカレテル可能性はあるからね、注意せんと。
「いや、返済に来た。手続きを頼む」
流石に一昨日からいきなりの金策だ。特に他の金融業が無い状態なので、驚いているようだね。
「……おい!」
一瞬呆然としたようだったが、上役らしい男が周囲を促すと、一人が奥に入り借用書を取ってきたようだった。
「っち! 此方としては驚きだ。こいつ等の話じゃ、絶対に払えないって事だったからな。だが、実際に持ってきた。だからこれで仕舞いだ」
「おや、これはご丁寧に。意外、でも無いのかね。貴方は周りの奴等と、雰囲気が違うようだ」
上役の男は鋭い目でこちらを見ている。周りのゴロツキ共とは違う様子だ、強いかな? 最悪シュラだけでも逃がしたい所ではあるが。
「止めてくれ。あんたと事を構える気は無い」
「ほう?」
「兄さん!?」
因みにこれは周りのチンピラたちの叫びだ。間違っても我が愛しの妹君だと思わないように。
「益々意外だね。君等の様なのは、もっと暴力的だと思っていた」
「ああ、間違っちゃいねえよ。俺らは舐められたら仕舞いだ。だが、それでも事を構えちゃいけない連中ってのを見分ける方が大事なんだ。こんな時化た町で、こんな時化た所帯だ。でかい所は、それこそ幾らでも兵隊がいるんだろうが、俺らはそうはいかねえ」
そう言うと男は肩をすくめる。
「あんた、自分でどう思ってるか知らんが、強いよ。少なくとも俺等が束になっても死ぬって確信できるくらいには」
「そっちがそう思うのは勝手だし、それで後腐れないなら此方は有難いね。とりあえず、これね」
どういう経緯で勘違いしているのか知らないが、どうでも良いや。
こういう判ってるぜ、って奴は強そうだし。事を荒立てないで済むならそれで良い。
「ああ、確かに返済された。これが借用書だ」
返済済みの欄にサインがしてある。前世では借金したことが無いので、何とも言えないが、まあ大丈夫なのかね。帰ったら琥珀に聞いてみよう。
帰宅して琥珀たちを待つ。商人ギルドにて交渉を行っているはずだ。
そう待たずに帰ってきた。交渉の結果、馬車の中身と山羊を相殺で譲ってくれたそうだ。馬車の中身は緊急のものは入っておらず、食料品などが主だった。おそらく馬車の値段もけっこうするからだろうね。
山羊を飼えるようになったが世話をどうしよう。話し合いを持ったところ、今回の件の責任もあり、シュラが担当することになる。もともとエルフで動物ともうまく付き合えるだろうという思惑もあった。
そしたらシュラに名前を付けて欲しいと言われた。しばし考える。
山羊は捻れて歪な二本の角を持っていた。体調は小さめの馬といっても通じるほど大きい。蹄を見て驚く。大きくて頑丈、その上鉤爪のような武器まで付いている。やはりこの世界では草を食べてのほほんとしている訳にも行かないのだろう。まあ前世でも同じか。
話がそれたが名前だな前。歪な角に因んで歪な真珠と命名する。
名前を聞くとシュラは、バロックと名前を呼びながら世話を始めた。まあ任せていいだろう。
山羊の世話などは判らないが、その内に習っておかないとな。
自分の趣味として、フラグ立てといて何も起こらない、と言う展開が多いかもしれません。煮え切らない、と言われる事もあります。申し訳ありません。




