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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
第1章 平凡に転生
6/105

初任給

感想で褒められたので、調子に乗って次話投稿です。

駄文も駄文ですがよろしく願います。

 眠れない夜が明けた。一晩中妹の保温と魔力の網を張っていたんだが、殆ど魔力は減ってない。どうもあの網は魔術ではなく魔力を広げているだけ、魔力の形を変えているだけなので減少していないらしい。

 この魔力の網(以後網)はなかなか便利だ。村中の様子がわかる。プライバシーとか考えると悪い気もするが、警戒は必要なので勘弁願おう。

 さて網が使えるようになって狩が出来ると思われる。まずは勝手に狩をして良いのかを村長に確認しよう。何事も根回しは大事だ。

 両親は部屋にいる。さすがにショックだったんだろう。起きている気配はない、脅えているだけかも知れないが、それはどうでも良い。

 妹を連れて村長宅へ。記憶の中でも挨拶に来た覚えはない、村長に言ってわかるんだろうか。

「おはようございます、朝早く失礼します」

 ドアをノックして出てきた婦人に声をかける。網をとうして起床は確認済みだ。

「あんたたちは……」

「アリス=キャロルリードとエリス=キャロルリードです。村長にご相談があって、ずうずうしく参りました。どうかお取次ぎをお願い致します」

 さて、偉い人と話したことなんてない。理事長だの病院長だの、その程度はあるが、基本的にDrもNsも言葉遣いに頓着する物は少ない。患者は別としても、敬語なんてあってないような物だ。

 当然俺も畏まって話すなんてこと、高校の面接以来かね。

「あんたたちだけ?」

 親は、と問われているのだろう。さてこの時代のモラルに掛けるのは危険だが、仮にも村長だ。人格者であることを祈ろう。これが町なら信用できないが、村単位の集団の長なら、それなりの人物でないと勤まらないはず。

「親、に関する事で相談があります」

 婦人はいぶかしんで居たが中に入れてくれた。流石に広い、村長は大き目のテープルをはさんで座っていた。

「おはようございます。早くに失礼致します」

 深々と頭を下げる。

「ああ、おはよう。話は聞こえていたよ、早速だが話を聞こうか」

 実際的な人物のようだ。挨拶もそこそこに、

「その剣呑な空気を勘弁してもらえんかね。それと足元の魔力も」

 おっと。しまった、こいつ魔術師か。網は魔術師にはばれる、覚えておこう。

 網を引っ込める。なるほど、子供相手に実際的な話なんて奇特な人物だと思ったが、こっちの正体はばれているらしい。戦闘態勢はとっておこう。妹は直ぐ後ろ、ここにある突入口は窓とドアが二つ、仮に三人ずつ突入してきても撃ち殺せる。

 火攻めは村長がいるからない、網の反応は目の前の村長が確実に人間であるとあった。

「申し訳ありません。少々追い詰められております」

 又頭を下げる。村長がこっちの正体を知っているならそれはそれで良い。少なくとも舐められはしないだろう。

「ほうほう、君の様な空想魔術師を脅かす物が、わしの村におったかいのう」

「わかるのですか」

「足元を這いずる魔力、あんな物見たこともない。見たことない魔力の出所は大体は称号つきじゃ」

 称号つき。俺のような空想魔術師だけでなく、恩恵を与えてくれる称号は多々あるらしい。

「それにの、依然君らが川原で訓練をしているところを見た。あれは空想魔術じゃろう?」

「御慧眼」

 頭を下げる。

「のう、君。そう硬くならんでくれ、君の力は恐ろしいんじゃ。緊張が廻りに伝わる」

「失礼しました。相談というのは両親のことです」

「ふむ」

「身内の恥を開示するので心苦しいのですが、実は妹が両親に虐待を受けております」

 虐待という言葉は何とか存在した。大分ニュアンスは違うが、粗末に扱われていることは伝わるだろう。

「最近は身の危険を感じるようになりました。自分一人であれば問題はありませんが、妹を護るとなると力不足、正面切って対応できずにいます」

 さてどう切り出すか。猟有権の話は面倒だが、証拠が残る形で法を犯すのは得ではない。

「正直に言えば逃げたい、せめて独立したい、と考えますが、なにぶん先立つ物がない。こんな小僧に出来る仕事も少なく、熟考の末……山で狩をする権利を頂けないかと」

「なんと……」

あのおとこの獲物が村に行き渡ってない事は知っています。狩人が2人になれば村は潤います。獲物が安定して取れるようになれば、町に売ることも考えています。そのときには売り上げの3割を村長に収めます」

「なるほど。しかし、君に獲物が取れるかのう」

「先ほどの魔力の網は、元々そのために空想した物です。空想魔術師として不可能ではないかと」

 利益はこれが限界だ、あとは……毎度毎度嫌になるが脅ししかない。

「ええじゃろ」

 嫌にすんなり言ったな。何が目的だ?

「そう警戒するな。実際に君の言ったことは正しい、君の親父さん一人では十分な肉は手に入らんし、だぶ付いた肉を売ってそれを村に還元してくれるというのなら、そう悪い話ではないんじゃよ」

 それに、と村長は続ける。

「君の能力なら十分狩れるじゃろう」

 実際的な人物だから実を取ったのか、あるいはやはり裏があるのか。まあとりあえずはこれで良い、裏があった場合のことも後で考えよう。

「ありがとうございます。早速きょうから山に入ります、大変お手数で恐縮ですが、肉屋に話をつけて頂きたく思います」

「おう、そうじゃったそうじゃった。では早速いこうかの」

 やはり権力者に話を通しておくとスムーズだ。俺一人で肉屋に話しても買い叩かれるのが落ちだ、村長はこちらを警戒しているからそんな愚は犯さない。一度村長に能力の一端を見せておいてもいいだろう、俺の能力がどの程度のランクなのかは不明だが、村の人間くらい皆殺しに出来る、ということを見せておいても良い。まあ、それに俺の脆弱な精神が耐えられるかは疑問だがね。

 さて、村長と別れた後山を仰ぎ見る。登山の経験はないねえ。どうしたものか。妹も一緒に連れて行こうと思っているが、山登りのノウハウも知らなくて大丈夫かね。

「一人で行くなんて、言わないよね」

 別に死にに行くわけでもないのに、そんなムードたっぷりに聞かないでくれよ。

「まさか、置いてって死なれるんなら目に付く場所で死んでくれたほうが良い」

 ちょっと前に妹が言ってた台詞だ。

「くふふ」

 妹は嬉しそうに笑った。このまま年相応に幼くなれば良いんだが。

「それは良いが、山歩きなんて大丈夫かね、君」

「山? 兄さん山に行くの?」

 妹が首を傾げる。

「ん? 狩りに連れて行けってことじゃないのか?」

 だとしたら、さっきの俺の台詞は恥ずかしすぎる。まずい、羞恥の感情は嫌いだ。頭が沸騰して冷静な思考が出来なくなる。このところ体に引きずられてか精神が幼い気がするな。

「だから、兄さん山に狩りに行くの?」

「違うのかね」

「うん、あの男は山の裾野の森で狩をしてるよ。今の時期は冬眠する獣が多いけど、山よりも森のほうが豊かなんだって」

 ふむ、つい日本の感覚で考えてしまうが、この世界の森は深く広い。傾斜のない山、樹海のような物だろう。

「なるほど、森か。森の中で道を覚えていられるほど、出来た人間じゃないんだがねえ」

「大丈夫。私が判る」

「ほう、何故?」

「? 自分の歩いた道くらい覚えていられるよ」

「森の中ではその考えは危険かもね」

「大丈夫。もし心配なら糸巻きでも持って、糸を手繰れば良い」

 妹が持っていた袋から糸巻きのような物を取り出した。なんとも準備がいいことだ。

「後三つある」

「実に準備が良い、さすがは俺の妹。君は実に良い妹だ」

 事有るごとに妹アゲ。まあ其れは良いとして、こいつがアリアドネの糸玉になるわけだ。正直俺の方向音痴は超絶だ。元が半引篭もりなせいで知らない道では絶対に迷う、角を三回曲がればもうアウト。それでも携帯のナビがあったので何とかなったが、ここの空に人工衛星は飛んでないだろうねえ。

「こいつを使って道しるべにするんだね」

「うん」

「では早速行こうか」

「お家でお昼作るからもって行こう」

 一度帰るのであれば、糸巻きもってなくてもあまり問題はなかったかな。

 

 狩の時間は知らないが、真昼間に素人2人でできるんだろうか。森の奥まで分け入った俺たちは木の傍に腰を下ろした。歩きなれない森はかなり難儀だった、2km程度は踏み入っただろうが、それが深いのか浅いのかはわからない。

 少なくとも人間の気配は全くない、動物所か空想上の怪物がいても不思議ではない雰囲気がある。

 肉屋のおっさんが言うには、肉は貴重品であるらしい。だから肉ならば種類は問わない、ただ出来るなら殺す前に血抜きをして欲しいとの事だった。良くは判らんが、失血死させればいいんだろうか。

 さて、網を張るか。

 出来うる限り魔力の網を伸ばす。索敵範囲は半径約1km、その範囲内でも結構な数の反応がある。一番近い物は左手側に約200m、木がしげり過ぎていて全く見えない。

 見えないがかといって近づいても気づかれるだろうね、ただまあ手はある。網は俺の魔力そのものだ。昨日妹を炎の腕で軽々と持ち上げた。無意識にやったことだが同じことが魔力で出来るだろう。

「君、獲物を見つけたよ。これから動きを止めるから、近づいていって仕留める。ついてこれるかね」

「たぶん、兄さんよりも足速いから」

 そうなんだよね。妹は意外にも身体能力が高い。どうにも身体・精神がアンバランスな妹だ。後、はっきり言われると結構傷つく。

「重畳。ではいきましょうか、ね!」

 網として広げていた魔力を獲物に集中して四肢を拘束する。まさにバインドだ。

 拘束後に獲物に向かってダッシュ。さあ殺してやる。

 ごふっ!

 おもいっきり根っこに足をとられ転倒。ああもう、ごつごつした根っこばかりのところで転んだ。生きてるのが嫌になってくる位痛い。拘束を解かなかっただけで俺は俺を賞賛するね。

「兄さんって、カッコいいけど基本的にかっこ悪いよね」

 くくく、カッコいいって言われた。後半はともかく、妹が俺に軽口を聞くようになったのは良い事だ。

 妹としては、昨日のようなことは覚悟していたらしい。そこで俺が激しく切れて、庇ってくれたので色々と嬉しくなったらしい。

「と、ともかく行こう……じゃないかね」

 痛い。もう皆死ね。

 程ほどに急ぐ。ダッシュ出来る足場じゃなかった、生前は50m走るともう限界だったんだから。

 さてと、見つけた。でかい四足獣、鹿か。記憶にある物の中で近いとすれば、ヘラジカの小さいもののようだ。バインドのイメージは魔力による四肢の拘束だ、地面の魔力だまりから手が伸びて抑えてるイメージ。

 さて、殺すのは簡単だ。俺の魔力で抑えられるんだから、頭を打ち抜けば御終いだ。だが血抜きとなると面倒だな。      

 血抜きなんてやったことないが、動脈が切れたときの血の勢いは前世から知っている。となれば吊り上げて首を切る。一気に噴出して血抜きになるだろう。

 吊り上げるのも大丈夫、魔力の力は広げた魔力の集中度と俺からの距離に比例するらしい。この至近距離と魔力の集中度なら軽々と持ち上がる、魔力のイメージをつかんだだけでこの汎用性、空想魔術師はやはり恐ろしいらしいな。

 吊り上げても暴れる獣に対し、魔力で首を絞める。本当は頚動脈を遮断して楽に落としてあげたいところだが、位置が良く判らない。気道も一緒に絞めているので苦しいだろうね、ごめんなさい。

 日本人としては動物に謝る気持ちになる。だからといって止めることはできない。

 そろそろ解体するか。

 硬質化した炎を刀のように整える。炎の刀ならフランベルジュだな、この形態での呼び名はフランとしよう。

 首の側面に当たりをつけ、フランを操りスパッと切る。運よく太い動脈にぶつかった様だ、血が噴出している。超便利、空想魔術。 

 重力と動脈の圧力で血も粗方抜けたようだ。後は獲物を持って帰るだけ。しっかし、空想魔術が使えなかったら獲物一つ持って帰るのも重労働だったな。下手な戦闘スキルを貰うよりは、こっちの方が有難かったかもね。

「君、肉捌けるって言ったけど……こんな大きなの捌けるの?」

 帰り道、妹君と糸玉を回収しながら話をする。糸は念の為手繰っているけど、妹君は本当に道を覚えているようだ。なんて恐ろしい子だ。

「解体は肉屋さんでしてくれるよ、その後部位毎に売ってるの。干し肉とかの保存食は作ったことある」

 ふむ、捌くとは意味が違うような気がするが、まあどうでも良いか。

「肉を売るときはどの位売ってたのかな」

「良く判らないけど全部売っていたと思う、その中から自分の家の分を貰って帰るのよ」

「保存食って言ってたけど今もある?」

「何年か前の飢饉の時に食べちゃったと思うよ、その後は作ってない」

「なんでかね?」

「たぶん、あの男がお酒飲むようになってその分肉をお金に変える様になったからだと思う」

 アルコール好きの虐待野朗め。しかし、飢饉か。そんな物もあるとなると保存食は作っておくべきだな。

「保存食を作るとして、何が必要かねえ」

「何を作るかにも寄るけど、塩漬けの肉とか燻製とか」

 そっちの知識はさっぱり無いのでどうしたものかね。妹君は判るかな?

「燻製とか干し肉とか塩漬けの肉とか、どんな物か判らないんだが、判るかね?」

「作り方は大体判るけど、そんなに美味しくないよ?」

「まあ、飢饉なんて話を聞くとね、備えて置いて損はないよ。何事も備えることは大事だよ、金を溜める事も食料を保存することも一緒」

「兄さんがそういうなら、そうなんだね。取りあえず塩と燻製用のチップ、後は保存する場所なんだけど……」

 燻製と干し肉って違うのかね。そこは妹に任せようかね。動物の方はそれで良いとして、植物性の保存食。干し柿とか梅干かなあ。梅干は旨くやれば100年単位で保存できる、後は蜂蜜とか、かなあ。この世界に蜂はいるんだろうか。

「兄さん、聞いてるの?」

「はい、もちろん」

「兄さん考え事しているとき話聞かないよね。直ぐ判るよ」

 ばれていたか。取りあえず保存食については後で考えよう。最悪金で貯めて置いて町で仕入れる方法もある。いずれ町まで言ってみる必要はあるな。必要なら町で買い物もしなければならないだろうし、いずれ旅に出る予定なので今のうちから……

「これだよ。私の兄さんは良く一人旅に出ちゃうよ」


「ほお。初日っから仕留めてくるとはたいしたもんだ。村長のお墨付きは伊達じゃあねえな。こいつなら全部で金貨1枚出すぜ」

 初めて硬貨の話が出来る。以前に少しだけ言ったが、各国ごとに発行硬貨が違う。この国はサーマ大陸のやや南に位置するレヴィ王国らしい。発行通貨はレヴィ金貨・銀貨・銅貨、さらに大金貨という一回り大きな金貨の四種類。記憶をたどる限り、紙幣は見当たらないようだ。

 価値としては相対的になるが、四人家族で金貨1枚で10日位の生活費にはなるらしい。ちなみに銅貨100枚で銀貨、銀貨10枚で金貨と繰り上がっていく。

 概算だがこのレヴィ金貨を10万円と定義しよう。いいなあ万札、久しく会っていないが福沢諭吉は俺の友達だった。向こうはそう思っていなかった様だが。

 さて、ついでなので共通貨幣の話を加える。国はそれこそウジャウジャあり両替もめんどくさい。国から国へ移動する際には共通貨幣のほうが取り扱いが楽だ。しかし、共通貨幣にも通用する範囲がある。

 大陸が恐ろしく広いので場所ごとに異なった貨幣を使っている。大まかに言えば東西南北と中央に分かれている。

 例えばここは、サーマ大陸南貨幣圏となる。

 共通貨幣は金貨のみ扱いで大陸名+場所+金貨の名称になる。再び例、サーマ南金貨のような感じ。そして中央には各金貨の両替所が設置されており、7つある大陸の共通貨幣なら両替可能だ。注意したいのは共通貨幣は両替用の貨幣だという点だ。

 共通貨幣はそもそも各国、各大陸の商人ギルドが連携し発行している通貨だ。その意義は価値が変動しやすい各貨幣に変わって安定した価値を持つ保険、という意味が大きい。他のギルドも便乗していたりするらしい。

 当然各国の王、領主、盟主などは反対した。苦肉の策として両替用の貨幣として認可されている。一度各国の通貨にしないと使えない仕組みだ。しかし、どちらでも同じだった気がする。いまや貨幣の価値は共通貨幣に対してどの程度か、で測られているのだ。米ドルの様な物かね、よく知らんけど。

 また、亜人等にはまた別の貨幣があるのでその限りではない。貨幣なんてものは最も判りやすい共同幻想だからね、文化が違えば価値も違うさ。

 大きく話がそれた、レヴィ金貨の場合は、レヴィ大金貨がサーマ南金貨と同価値。この国にいる限りは大金貨で持っていたほうが便利だが、どちらにしても大金貨は要は100万円玉だ。危なくて持ってられない。

 少しでも金が貯まったら、宝石などの身に着けられる資産にして持っていたほうが良い。


 さて、話を戻そう。

 鹿一頭でレヴィ金貨1枚、10万円。相場が判らないので何とも言えない。取りあえずは売って金を貯めるべきか。所見の客が相場どうの、と言い出したら不愉快だろう。特に同じ村ではそれはまずい。

 いずれ町に売りに言ってもいい、森から遠ければそれだけ需要もあるだろう。村長との約束もあるしな。

「それで結構です」

 金貨を受け取り頭を下げる、もちろん2人分の肉は貰ってきた。さてどの程度貯まったら良いかね、二人暮らしなら金貨2枚で1カ月暮らせる。12枚、半年分も貯めれば独立して良いだろう。

 乱獲を心配して村長に聞いて見たが、動物は年々増えているらしい。本当かどうかは判らない、まあ乱獲の規模が前世とでは比較にならないだろうし、今はこれ以外に稼ぐ手立てがない。

 これは所謂初給料か。どうしようかな。

「君、何か食べたい物はあるかい?」

「なんで?」

「初任給は家族に奢るって古き良き風習があるのだよ」

「初任給」

「まあ、それはいいから。何か食べたい物、あるいは欲しい物でもいいよ」

「うーん。兄さんがいればいいなあ」

 本気で考え込んでポロッと。なんて破壊力の技を持ってやがる、聞こえるか聞こえないかが高ポイント。でも人の気を引くのが得意だったりする事もあるし、お兄ちゃんは負けませんよ。

「ふむ、だったら……調理器具でも買うか。包丁と鍋とか」

「ああ、うん。それいいねえ」

 妹は調理担当であるが、両親が自分調理しないために調理器具の劣化には全く対処していないのだ。錆付いたなべを磨いて切れない包丁で料理をするのは手間だろう。

「包丁だけでも良いの。すごく楽になると思う」

 どうにも妹の雰囲気が違っている気がするねえ。厭世的というか破滅的というか、そんな空気が無くなって来た気がする。家庭的というのもまた違う気がするが。まあどうでも良い事だ、妹が楽しそうなら何でも構わない。

 結局包丁を買っていった。この時代の刃物は総じて高い、製鉄技術が未発達なためだろうか。まあそれでも生活必需品なのでそれなりのお値段で買えた。

 そういえば、俺の武器はどうするかねえ。接近戦なんてする意味はあまり見出せないが、否応無しに接近する事もあるだろうしねえ。といって、今の体では武器を振るうことも出来ないし。一応炎のフランも近接戦が出来る。

 ま、とにかく金ためないとな。さっさと独立しないと。

 

 それからは概ね順調だった。特に両親が何かを企む事もなく、狩りの邪魔をする出なく。

 狩りの方も慣れてきた為か効率が上がった。まだ町へ行くことは適わないが、町の商人に村長から伝手を貰い、一応町に肉を卸している。約束どおり3割は納税しているので混乱もない。

 慣れた事もあり、妹は家で留守番をするようになった。

 そして今日、目標金額をため予定通りに独立を果たした。村長から空き家を買い取り、妹と移り住んだ。ここまで約3ヶ月、転生してから7ヶ月程度が過ぎていた。

 妹の性格は両親と敵対した日から好転し始め、大分明るくなった。今も新しい家ではしゃぎ回っている。

 さて、目標の第一段階はクリアした。後はコンスタントに金を貯め、保存食を作り、訓練し、何よりも肉体の成長を待つしかない。11歳で旅は出来ない、少なくともあと4年はここに居るとしよう。それまでには妹の説得材料を探しておかないとね。

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