ギルドでの依頼探し
「この、阿呆め」
シュラをしかっておこうと思う。お嬢様ってのは厄介だね。
「申し訳ありません!」
そして予想通りグランのジャンピング土下座。良い物を見たね、中々お目に掛かれないからね、ジャンピング土下座。
この家にもう少し距離があれば、もしかしたらスライディング土下座も見れたかもしれない。実に残念なことだ。いや、たとえ家が広くても、この兄妹と俺らが離れて座ってることは無いだろう。いまだお目にかかった事が無いが、大貴族とかの食堂とかなら、もしかするとそういう事もあるかも知れん。
前世では画像で見たことがあるが、あれは絶対に端と端の人は会話もできんな。まあ身分で座る場所違ったりするんだろうし、当然会話の内容も違うのだろうから、案外都合がいいのかも知れん。いや、同じ食堂で食べてる時点で、そうそう身分違いは無いのか?
「アリス!」
後頭部に衝撃が走る。一瞬視界が狭まって、自分が目を開いていたんだ、と思い出した。
「ごほ! ごほ!」
なんか頭に衝撃くると咳き出るんだよなあ。子供の頃カッコつけてやってたら癖になったみたいだ。
「いい加減戻ってきなさい。パニックになると現実逃避を始めるんだから」
琥珀に言われて意識の焦点が合ってきた。グランの土下座はまだ続いている。シュラは呆然と椅子に座って微かに震えているようだ。
「ふー、失礼。グランが謝罪する必要は無い……訳でもないのかね。保護者みたいなもんだし、罰としてシュラの教育をしっかりしとけ。君もシュラも貴族意識のままではしんどいぞ。俺について来る気なら、そうそう良い暮らしってのはできんだろうしね」
金は稼ぐし、宿もそれなりの所に取るけども基本的には旅暮らしになるだろうしね。いずれどこかに拠点を作っても良いが、それでも観光旅行は止めないだろうね。
特に問題の無い罰だと思ったが、グランは土下座のまま否定した。
「ココまでのご迷惑を主人に対してしたのです。シュラはこのまま奴隷になりましょう。私は自刃するつもりです」
ギシリ、と音がした。歯を食いしばって八重歯に痛みが走る。折れてしまわないか心配だ。
「あーあ」
琥珀の呆れるような声がした。
「あがああああああああああああああ!」
無意識だったのだろう、右手に魔力を集中し濃密な塊を作る。粘土細工だ、粘土細工だ。と頭の中で笑い声がする。
さあ、叩き潰そう。
「お兄ちゃん!」
ずん! と重い音がした。
「見境無く、気に入らない物を排除しようとする。アリス、この世界に来てから少々短慮ね」
我に返ってみる。いろいろ飛んでたことに今気づいたよ。
視線の先では魔力の塊を幅広の剣の腹で受けた琥珀が居た。ひざをかがめていることから、相当な質量がのしかかったのだろう。
そしてその後ろでは、呆けているグランの前で、硬く目をつぶりながらも、両手を広げ彼をかばうシュラの姿が見えた。
見た瞬間気が抜けて座り込む。
「また琥珀に助けられたか」
あやうく身内を潰してしまう所だった。
後ろからエリスが手を回してくる。慰めてくれるようだ。ありがたい。
「今の選択は論外」
琥珀がなにやらグランに説教を始めた。俺ではうまく伝わらん、琥珀に任せることにする。
それにしても……転生してから短気に過ぎるね。まあ、今回は理由があるから致し方ないか。
琥珀が今説明しているが、グランは何があってもシュラを庇わねばならない。一般的な恋人でももちろんそうだし、良好な関係の家族でも当てはまるだろう。加えて彼らは兄妹だ。
「君らは兄妹なんだろう。俺は倫理なぞ気にせんが、好き好んで妹を愛でるなら、全てを敵に回してもシュラを庇わねばならない。そもそもが君は妹への庇護が欲しくて配下になるんだろう? 忠誠も結構だが、自分の目的を見失うようでは使えんよ」
琥珀の説明が一通り終わったところで、一応苦言を呈しておく。一気に沸騰してしまった自分としてはあまり強くもいえないが……。
「なんにせよ、グラン。君を殺すところだった、すまんね」
「いえ、判ってみれば自分の言はアリス様の逆鱗を逆撫でするようなもの。不明を恥じ入るばかりです、そして……ありがとうございました。いもうとを、ありがとうございました」
最後の方は涙混じりだ、そして様付けが戻ってるぞ。まあ決して本意ではなかったんだろうし、大変だねえ。忠誠とか言うものは。俺にしても自分の信条を信仰しているような物だから、似たような者かもしれんがね。
「さて、一度落ち着こうか」
いろいろと散かった状況を整理する。
借金の返済、期限は5日で金貨3枚。
先日も酔っ払いの猿を殺してそこそこ稼いだが、今回も都合よく猿の団体に出くわすとは限らない。もう少し確実性のある方法をとりたいところだ。
「という訳で、何か意見はあるかね?」
実に情けないことだが、経験則すらない状況では俺にできる事は少ない。あっさりと周りを頼ることにする。
「ギルドで高額の依頼を受けるのが妥当かと思いますが、タイムリミットがありますからな」
「ふむ?」
「そもそもギルドで出される高額依頼、何かしらの理由があって高額なのです。討伐であれば相手の力量、または生息地などですかね」
なるほど、生息地か。それでタイムを気にしているのか。確かに遠すぎれば返済が難しくなる。
「とりあえず、ギルドに行くって事で良いかな」
運よく依頼があればよし、なければ……どうしよう。一応手を打っておくに越した事はないか。
「琥珀は留守番な」
保険として打つ手の為に琥珀に残ってもらう。留守番、といった瞬間に目を見開いてものすごい威圧されたが、わけを話すと一応納得したようだ。もちろん解決したら色々と要求はされるだろうが。
琥珀に打つ手を説明しギルドへ向かう。
朝行ったのに又行くことになるとは、面倒だねえ。
グランとシュラの実力は未知数だし、グランに至っては病み上がり、と言うか正に病んでいる途中なので琥珀と一緒に待っていることを勧めたが、頑なに付いて来たがった。気持ちは判るね、流石にこの状況で留守番はきつかろう。
「さて、運よく良い依頼があるかどうか、ねえ」
結論から言うと、討伐系の依頼で金貨5枚と言うものがあった。あったのだが必要階梯8以上、となっている。
階梯……ね。失念していたな、そりゃ高い報酬はできる人間に任せたい。そりゃ高階梯に頼みたいよね。
ココからの動きはひとつだ、何とか特例として上位階梯依頼を認めさせること。上位階梯者が挑む依頼をサクッとこなすこと。金を手に知れること、最終的にシュラの自由を勝ち取ること、とまあそう難しくはない問題だ。
第1関門で交渉中。
ギルドとしては基本的に上位位階の依頼は許可できない。とのこと。
理由は簡単で、失敗がギルドの低評価につながるから。上の依頼ともなれば、それなりの金額が動き、当然依頼主も大物だろうから、実に納得のいく話だ。
対策として、依頼扱いにせずいって倒してくるので、その間依頼を取り下げておいて貰いたい。その間の不利益は大金貨1枚を預ける。
これは依頼の横取りを避けるためだ。勝手に殺してきても良いんだが、別の誰かが受けようとしていたら、ブッキングしてしまう。そうなると分配でもめるので面倒なのだ。その面倒を回避するための、金貨でありギルドへのお願いだ。
ギルド側は、渋々と言う感じでその件を受けた。条件として、失敗した場合大金貨はギルドの物になる。
首尾よく依頼を成立させた場合は、適当な階梯にまでランクアップをしてもらう。ギルドも人不足だそうな。因みにこれは俺のギルドカードで大死人烏の討伐が確認されたことによる特例、と念を押された。
預り証を発行してもらう事も忘れない。大金貨がないと借金返せないしね。
第2関門
依頼書をしまってしまう前に見せてもらう。あくまで建前上依頼を受けないんだからね、ポーズは大事だ。
どうやら魔物の排除依頼だそうだ。因みに、排除・討伐・捕獲と区分がある。排除はとにかく追っ払え、討伐は殺せ、捕獲はそのまま捕まえろ。今回は排除か、殺してしまっても良いんだが、なんにせよ現物を見てからかね。
「結局どんな依頼にしたの?」
エリスがたずねてくる。琥珀が留守番なので基本的に雑務は俺の仕事だ。慣れて来ればグランでも良いんだろうがね。
「ん? 魔獣の排除だがね。対象は手長の大鬼だってさ」
まったくもって基本だ。ファンタジーの学科があれば基礎ファンタジーⅠに出てくる。
「トロル、ですか」
何か間を伸ばさないって(トロール→トロル)玄人っぽくて良いね。
「知ってるかね?」
益体も無い事を考えつつも、呟いたグランに聞いてみる。もちろん俺は基礎的な事しか知らないし、それすらも間違っている恐れがある。頼みの眼鏡も直接見ないと効果ないし。
「トロルは森やその傍に住み着くことの多い魔物です。恐らくは中位に入る魔物でしょう。長い腕と恐ろしい膂力、そしてある程度の知能もある、厄介な物です」
そういえば魔物と魔獣の違いはなんだろうか。一般的には獣の形をしていれば魔獣らしいが、人型だって獣と言えそうだし、どうにも知識があいまいな気がする。
「魔獣と魔物で位毎の強さがどの程度違うのか判らんが、やるしかない状況だし、なんにせよ目標を確認しないと、話にもならんね」
「御尤もです」
「では行こう、目標は町の北側にある森を街道に沿って進んだ奥のほう。旅人や商人を襲う、トロールだ」
思ったより早く投稿出来ました。
話が進まず、もどかしいかと思いますが、スローペースが基本です。申し訳ありませんが、お付き合い頂ければ幸いです。




