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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
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早速の厄介ごと

「ま、非常に大雑把だがね、状況は理解したつもりだ。君ら、今後の事は本気かね?」

 今後の事、というのは本気で俺に付いて来るつもりか、という点だ。

「はい。もとより行く当ての無い身。加えて今回のことで思い知りました、自分一人で妹を守るのも限界があると。助けられた命、アリス様に仕えたいというのも本心ですが、妹の為にも庇護を受けたい、というのも本心です」

「実に納得のできる事だ。君らはどう思うかね?」

 心酔しました、とか言われて付いて来られるよりは説得力のある言葉だ。個人的には戦力として加入してもらっても良いかと思うが、妹君たちの意見が大事だ。


「問題ない、アリスが決めたことならそれで良い」

「人形の姉さまの言う通り。主人様に従います」

 琥珀と翡翠は問題なし、と。

「もともと私が兄さんを巻き込んだんだし、異論は無いけど……いくつか条件がある」

「条件?」

「兄さんを裏切らない事と、兄さんに手を出さない事」

「前者は流石に不明だが、後者は大丈夫だろう。君と似たようなものさ、向こうも同じ心配をしてるだろうよ。何せ君らは可愛いからね」

 前者にしても、現状で裏切られたところで大して親しくも無いんだからそうそうダメージは受けない。

「それと、私の事も名前で呼んで」

 思いの他強い瞳で静かに言われた。まあ彼らを名前で呼ぶ以上それも当然か。そもそもが大した理由じゃない、問題ないだろう。



「判ったよ、エリス」

 名前を呼ぶと体を一度震わせ、抱きしめられた。ああ、やはりこの安心感……これは悪くない。



 エリスからの条件を伝え2人は正式に仲間になった。俺から条件を伝えるのは、自意識過剰の実に痛いキャラになってしまった様で気が引けたが、エリスからだと刺々しくなり過ぎるからね。

 正式加入といっても別に大人数のチームとか傭兵団ってわけじゃない。ギルドへのチーム加入届けだけは必要だったが、言ってみればそれだけだ。


空十字血盟ケイオスクロスクランへの加入を確認しました」

 この一言だけで特に問題も無く終了。





「血盟、という事は皆様は血族なのですか?」

「ふむ、エリスは妹だが……まあ血族と言っても問題はないのかね」

 琥珀はもともとは俺の妄想なんだし、翡翠は俺の魔力で孵った魔獣だし。

「どちらにしても、血族か否かは重要ではないよ。絶対に裏切らない、決意表明のようなものだ」

「ははっ! 我等兄妹を末席に加えていただき感謝します」

「堅苦しい。君良い声だから違和感少ないけど、そう畏まるな。シュラが萎縮しているぞ」

 チーム加入を終えた後、ハーフエルフ君ことグランが質問してきた。

 先ほど話し合いをした、と言ってもグランとシュラが仲間になるって言うだけで結構な時間をとられた。その後は今後の予定を少し話した程度だ。

 その際に自己紹介もしたのだが、いろいろと抜けているし其れでなくても一般的な集団ではないので補足説明中だ。




「それにしても、意外ではありました」

 ある程度の補足を終えた頃、グランが次の話題にシフトする。因みに転生、その他については明かしていない。特に明かす必要もないだろうし、余計なことだろう。

「意外? 意外な事が何かあったかね?」

「いえ、このチームの階梯の事です。失礼ながら、意外なほど低階梯だった物で。シュラの話や昨日のアリス様の魔力や魔術を見るにつけ、実力に見合わないな、と」

 なんか、仕事サボってましたねって言われている気分だ。すいません。



 もちろんそんな感想は俺の被害妄想である。そもそもがギルド登録後3回しか働いてないんだ、階梯ランクが上がる訳がない。それでも2階梯ではあるんだが。

「まあそう言ってくれるな。さっきも言ったが冒険者とやらになって日が浅い。資金稼ぎと言う面でも仕事はするさ。無論のこと、君の体力が回復したら、付き合ってもらうがね」

「ははっ!」

 相変わらず硬い。エルフで美形の癖に武将みたいだ。



 ともかくグランの体力が回復するまでは自宅療養だ。万が一に備えて、治療できる俺が残り、他の面子でいつもの採取へ、となる。

 グランはまだ本調子でないとはいえ、健康であるのに間違いは無いそうで、二・三日もすれば回復するだろう。

 瀕死の状態から、そこまでの劇的とも言える回復は、さすがに魔術の面目躍如、と言うところだろうねえ。


「アリス……は、この後どうするつもりですか?」

 流石に様は止めてくれ、と説得した結果、何とか呼び捨てにできた。まだ躊躇いがあるようだが。

「目的なんて無いよ。さっきも言ったがね。強いて上げるとするなら、魔物の異常行動を調べる、と言ったところだね」

 エルフなどは自然に詳しい気がする。あくまでもイメージだがね。

 何か情報はないかと思って、これまでの経緯を説明してみた。


「まあ、と言うわけなんだが、グラン君、何か思い当たるかね?」

「……例えば……食料が無い時期に攻撃性が増す大量殺戮期(バーサーク)や、その地域の魔獣が一斉に移動する暴走移動(スタンピート)等、特殊な行動事例はありますが、流石にゴブリンが500体以上の群れを作ったり、森の主の眷属が反旗を翻すなどは、聞いたこともありません」

 なるほどなるほど。

「ふむ、君は魔獣等の生態に詳しいかね?」

「どうでしょうか、エルフの者は自然に関することは一通り知識として教育されます。魔獣の事もその一つですが、詳しいかとなると……お役に立てず申しわけありません」


  一通りの知識、と言うのがどの程度なのかは判らん。膨大な範囲に上る項目をなぞるだけでも大変だろう。

 だがまあ、特異的な行動事例が記録されているなら、今回の事例だって先例があれば記録されているだろう。ならやはり、異常事態なんだろう。

「だからまあ、君が知らないって事が、異常性の一端を示している。どちらにせよ個人的な依頼だ、そうそう気にする事じゃない」

「そうですか。有難うございます」


 

 その後も細々とした質疑応答が続いた。グランたちによると旅をするにも階梯をあげておくと便利らしい。

 ギルドカードは身分証になる、当然上の階梯のほうが信用は増すし、高位階になればギルドが後ろ盾に回ったり、貴族の依頼などから伝もできる、との事だ。

「まあ、正直なところ面倒臭いが、自由に動き回れる立場は必要だし、何よりも金が必要だ」

「……お金、ですか」

「ん?」

 今まで黙っていたシュラが口を開いた。敵意を含む目をしている。他人の悪意には敏感だ、前世での経験上。


「お金は、人をだめにします」

 強い目をしている。10代にありがちな反骨心だろうか。

「シュラ! やめろ!」

「でも、お兄ちゃん……」

 流石にお兄ちゃんが声を荒げる。就職初日に上司に噛み付くとか、ホント10代は恐ろしい。

「ああ、結構結構。君らの過去や内情に興味は無い。金に対する思いもまあ有り勝ちだ。俺の心情的には金は命より重いんだが、君らの心情にも興味は無い」

 偉大なる、某企業NO2の言葉を引用する。実にかっこよく言っているが、隣に座っていたエリスと頭の上の翡翠を取り押さえているなんとも締まらない姿だ。


 呪詛と殺意をブツブツと呟く2人をなだめる。

「エリス、翡翠、アリスは身内に甘い。何を言っても無駄。それ以上はアリスが嫌がる」

 琥珀の的確な助言で何とか治まった。代わりに腕をがっしりとロックされ、頭にべたっと張り付かれているが。

「君らが金にどんな嫌悪を抱いているかは知らんが、金は大事だよ。君の兄君だって金があれば、そもそも俺のようなのと付き合うこともだね……」

 平身低頭謝るグランを制しつつ、いかに金が大事かを懇切丁寧に説明しようとしたのだが。


 ドン! ドン! ドン! 


 と、明らかに近所迷惑な音量で扉をたたく音がする。ああ、最近は来客が多い。前世では年に一回あるかないかだったのに。

 対応する前に乱暴に扉が開かれる。やめ! 借家なんだぞ、丁寧に扱え!



「おう、いたな」

 ザ・ゴロツキ! GOROTUKI! ベリナイス!

 実に典型的な顔だ。外見で人を判断しないが、実にいいお顔だ。


 人の家に無断ではいるな、殺すぞ、屑ども、と心の中で呟いて対応する。トラブルは御免だ、力任せの恫喝外交しかできないが、それでもギリギリまでは粘る。人間努力が大事だ。

「はい、いらっしゃい。何の御用で?」

「お前に用はねえ、そっちのエルフのお譲ちゃんに御用があるのよ」

 下卑た笑いを浮かべて男が答える。うーむ、他人がしているのを見ると結構引く。俺も自慢できる笑顔じゃないからな、今度練習しよう。

「ほう、どんな御用で?」

「いや、だからよお……」

 笑顔のゴロツキが困ったような口調で言った。

「お前に用はねえんだよ!」

 一転して怒鳴りつける。典型的だなあ。正直、幼少時のあれこれで怒鳴り声は苦手なんだが。まあ、不穏、痴呆の患者共に比べればなんと言うこともない。



「そんな訳にもいかんのですよ。この娘は身内でねえ。名目上家長の自分が話しを聞くと、こんな具合なんですよ。まあ予想はついてますがね、大方借金の取立てと言うところだろ? 薬買ったとか言ってたしねえ」

 その日の食事にも事欠く女の子が高価な薬を買う、金は? もちろん借金だろう。そして何の担保も無い少女に大金を貸す、あまりよろしくない類の金貸しだ。まあこの世界でどうなっているのかは知らないが。

「そんな訳なら、良いだろう。そちらのお嬢様がお借りになった金、利子をつけて返済していただきたい」

「借用書」

「あ?」

「借用書だよ、まさか口約束で貸したの? だったらこの話はお仕舞い……」

 

 ドン! と机がたたかれた。

「あんまり舐めた口をたたくなよ! 糞ガキが!」

「ああ、そういうの良いので。借用書をどうぞ」

 ドン! と再度机がたたかれた。どかされた手の下には紙切れが一枚。借用書だね。


「失礼して。どれどれっと……」

 正直言って契約書の類には慣れてない。騙されない様によく読みこむが、本来そうそう頭は良くない。故に苦手だ。

 だが大丈夫、此方には戦時シュミレータの琥珀さんがいる。まあそれにしてもカッコはつけないとね。琥珀に渡す前に一応目を通す。

 ……簡単だった。借入額、利率、返済期限、そして返済できなかった処遇、これらが羅列してあるだけだ。

 それにしても酷い。異世界の金融制度は知らんが……。

 

 借りた額は、金貨1枚。これはまあ良いだろう。医療の発達してない世界だし、保険なんて概念も無いだろうからね。良い薬は値が張るのは理解できる。


 問題は利率、翻訳で直すところによると100%単利のようだ。福利じゃなくて本当に良かった。なにせ1日100%なんだから。烏金ってのは聞いたことあるが(もちろん漫画で)100%って……。さすがにシュラは教育が必要だな、流石は貴族の御譲ちゃん。


 返済期限は5日後。聞いた所によると、隣の明かりが無く物音もしない為逃げられたかと思って尋ねたらしい。そこへ丁度帰宅する俺たちを見た、と言うことのようだね。

 逃げられては溜まらんと踏み込んだ、か。


 最後に処遇だが、これは洒落にならん。奴隷契約。つまり身売りの最上級だ。何しろ見目麗しいエルフの美少女、担保としては十分だろう。奴隷に落とされた後は……想像に難くない。



「琥珀、この利率はどうだ?」

「この国では法定金利は無い、当事者の同意があれば問題ないようね。サインは魔力をこめて書かれているから偽造できない。滅多な事では国は頼れない」

 滅多な事、ねえ。

「手持ちは?」

「ちょっと足りない」

 足りないか。

 

 ハーフエルフことグランが傷を負ったのが2週間前、発症の詳細は知らんがまあ10日前後だろうかね。借金の日付もそのくらいになっている。

 現時点で大金貨1枚と金貨3枚。手持ちは管理を委ねているが、大金貨1枚が丸々あったはずだが。足が出ているようだ。

「とりあえず大金貨1枚あるので、残りの金貨3枚の返済期限を延ばしてくれないか?」

「だめだね。そんな事はこの契約書にゃあかいてない」

 ゲヘゲヘとでも形容される笑い方でそう宣告するごろつき。まあ、そりゃそうだろうな。こいつらの目的はエルフの奴隷だ。大金貨がはした金に見えるほど高値で売れるんだろう。

「実にごもっとも。では致し方ない、何とか金を工面してみるよ。期限にまた来たまえ」

「無駄なことは止めとけよ。大金貨をもってたのは驚きだが、5日で金貨3枚なんて、お前らガキにはどうしようもない」

 また鬱陶しい笑みを浮かべるごろつきの男だが、俺も嫌らしい笑みには定評がある、特に気にならん。お前の笑みには歪みが足りない。



「間に合うかどうかは君らには関係ない話だ。期限前にシュラ(こいつ)を奴隷にしようと言うなら、それなりの対処が必要だ」

「お前らガキに何ができる」

「さてね。重ねて言うが、君らには関係ない」

 此方も嫌らしく笑いながら話す。唇を歪めて、目を細めて。写真撮った事とかもあるけど、なんとも嫌な顔なんだ。

 その笑顔に嫌気が指したのか、男は舌打ちをして背を向けた。

「今日は帰る。そっちのはよく体を磨いとくんだな」

 シュラを一瞥して捨て台詞を残していった。

 さて、タイムリミットはあと5日。時間が無い、5日で金貨3枚。要は30万も稼ぐなんてのは、なかなかに厳しい。

 まあ、とりあえずは……。説教かな。


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