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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
55/105

治療終了:御都合主義

細切れのような投稿になってしまい申しわけありません。

次回の更新はまたあきます、重ねて申しわけありません。今月中には必ず。

「馬鹿みたいな寝言言ってないで。起きてアリス」

「別に兄さん起こさなくても良いんじゃない?」

「主人様は疲労困憊。目的も達したので、寝かせて置いても良いのではないでしょうか、人形の姉様」

「駄目」



「がひゅ!」

 鳩尾の辺りに衝撃を受けたらしい。圧迫された肺から空気が漏れて変な声が出た。

 寝起きだというのになんと言う仕打ち。そもそも何してたんだっけ。

 偶に在るんだよなあ、気づかない内に寝てて、今が朝なのか夜なのか、休日なのか仕事なのか、家なのか外なのか、といった基本的な事すら判らなくなる時が。

 ま、仕事前にそんな熟睡はできないし、大体は休みなんだがね。

「翡翠」

「あい、人形の姉様」


 寒い。

 まだ寝ぼけた頭で考える。かなりの寒気だ。寒いのは好きなんだが、かなり寒い、というか痛い。

「痛たたたたた!」

 強烈に冷やされて血流が途絶する。そのため酸素の回らなくなった筋肉等からの悲鳴が痛みとして送られてくる。

 いくら寝ぼけているとはいえ、長年連れ添った手足からのエマージェンシーは無視することはできない。目の前には巨大な蜥蜴、心臓まで冷やされた様な感覚を味わうが……思い出した。いや思い至った。



「寝起きに冷気とか、止めてくれたまえよ。君の魔法は簡単に俺を殺せるんだから」

「主人様にそんな事はしない」

 巨大な蜥蜴、翡翠君はそういうと胸を張った。イグアナの日向ぼっこにしか見えんが。そしてそのまま肩にのぼり、チロチロと頬を舐める。可愛いだ。

 あまり爬虫類の舌に詳しくはないんだが、どうにも哺乳類に舐められているような気がしてならない。猫の舌のようにざらついている。特徴は氷のような冷たさだろう。


 爬虫類の舌と舐められる心地よさについて考察していると徐々に記憶が戻ってくる。

 さて、まいったね。どうも回復魔術の最中に昏倒したらしい。目覚める直前に見たあのなんともいえない、夢現ゆめうつつの光景は、はたして魔術の影響だろうか。

「彼は? 死んでしまったかな?」

 自分の体感時間からして、流石に気絶していた時間が短時間だとは思えない。ハーフエルフの彼に対する延命治療を止めた場合、一体どれほど持つことやら。


「まだ生きている」

 後ろの方で翡翠君に指示を出していた、俺の愛しの人形が言う。

「アリスには記憶の混乱が見える。私達があれを持ってきた時、アリスは未だ魔術を行使し続けていた。目は虚ろで、鼻から出血、此方の声も耳に入らなかった様だけどしっかり延命は続けていた。だから、まだ生きている」

 そういって琥珀は後ろを指差し、あの様だけど、と薄く笑った。


 

 恐る恐る後ろを振り向くと、彼が寝ていたベッドの上には緑色の大きな苔の塊が鎮座し、それに凭れる様にしてエルフの少女が寝ていた。

「あれ、は。一体、な、何だね?」

 大体の想像はつくが、こんな有様は俺の予想外だった。

「あれ? 兄さんに頼まれた物で、兄さんがやった事だけど?」

 うむ、そうではないかと思ってはいた。一過性健忘か、結構厄介だな。

「琥珀、説明して。俺が何も知らない前提で、できるだけ詳細に」



 以下、琥珀による説明。

 彼の病体は詳細には不明だったが、恐らくは重度の感染が主体である、と一応結論した。

 抗生物質やその他薬剤は全くなく、輸液すら満足にはできない。そこで俺は、この世界の治療方法で治す事を考えた。当然いい薬は高く手持ちでは買えんし、妹さんが借金してそんな薬は投与したらしい。

 すぐに入手できる薬は駄目だ、まあ駄目元で俺の知識から引っ張り出して来たのが以下だ。



 吸血苔(きゅうけつごけ):藻類・薬用・毒

 生物に寄生して血を吸い上げ成長するコケ類。寄生した生物の特性を凝縮する性質があり、物によっては薬用にも毒にもなる。寄生生物であるが、宿り主の免疫機能を高める働きもし、自分以外の感染にかからないようにする。苔自体も致命的にはならないため、寄生と言うよりも共生と言った面が強い。



 免疫機能を高める効果が、いったいどの程度の物なのか。そもそも血を吸われた時点で死ぬんじゃないか、などの問題を孕みつつ、琥珀へ捕獲を頼んだ。ここまでは覚えている。

 苔といっても、寄生した動物にくっついている訳で、あちこち探し回って遅くなったそうだ。

 その間俺は回復魔術を使いすぎてグダグダしてた。


 琥珀たちが帰ってきたのは、夜も遅く。回復魔術を使い始めたのが真夜中だったから、18時間以上はぶっ続けたことになる。

「それはまた、我ながら無茶をしたものだね」

「無茶にも程がある、よく生きている。二度としないで」

 琥珀の声は淡々としていたが切実だった、様な気がする。どちらにしても、流石にあんな狂った様はそうそうしたくない。



「それにしても」

 そう、それにしてもだ。これまでの流れを説明され、ある程度納得してもなお納得がいかない物。

 俺の後ろで苔生こけむしているあの緑のエルフだ。どうも妹の方はその有様を見て、耐えられずに気絶したらしい。

 さもありなん。死体その他を見慣れてる俺でも気持ち悪いもん、等身大の緑。

 

「こんな状態になるとはね」

 苔の鑑定結果から、何らかの薬効(まあ魔法効果でもいいが)が得られるものと予想し持ってきてもらった。彼はまだただの知り合いだから、得体の知れない苔を寄生させるのも躊躇は無い。無いが、流石に体中に苔が生えてしまうとは。

「それも忘れてる? これはアリスの予想通りの結果」

「兄さんが言った通りになってるけど、まずかった?」

「虚ろな目で薄く笑い、鑑定と処置と予想を行った主人様はかっこよかった」

 おお、覚えの無い事で褒められている、これはこれでいい気分だ。

「もっとほ……」


「蜥蜴」

 上機嫌な俺の言動をさえぎって、妹君が言い放つ。冷たい声だった。

「……や、闇のね、姉様?」


 妹君が翡翠君の首根っこを尽かんで出て行ってしまった。今のやり取りのどこに地雷があったのか、難しい人だね。まあ、そこが良いんだが。翡翠君は大丈夫だろう。妹君は俺の嫌がることはしない、そこは信じてる。



「さて、俺の予想通りといったが、よく覚えてないんだよね。説明してくれ」

「アリスは恐らく魔術の連続使用による負荷で、意識が混濁していた。空想魔術に限らず、本来魔術とは連続使用するものではない。特に空想魔術は脳への負荷が大きい。『脳内の演算機』のおかげで廃人にならずにすんでいる」

「全く、危なすぎる。で、それは判ったが俺はなんと言ってた?」

「その眼鏡で高出力の鑑定を行った様子。魔力をありったけ篭めて鑑定した結果判ったことだと思う」

 なんともご都合主義な。つまりはこの惨状こそ吸血苔の真の能力というわけだ。


「しかしねえ君、魔力切れでトリップしていた状態での魔力だろ? それも妄想の類で、たまたま当たっただけじゃないのかね?」

 あの夢現な白昼夢は魔力切れの症状と信じたい。狂気の女神による転生だけに、脳内に時限爆弾が仕掛けられていても不思議じゃあないからね。

「アリスはあの時点で魔力は十分にあった。演算負荷で狂っていた様だけど。そもそもがアリスの回復魔術は一瞬で致命傷を修復できると聞いた」

 見たことはないけど、と琥珀は続ける。


 確かに俺の回復魔術はかなり高性能だ。そもそも魔術を使い始めた頃、魔術がイメージに依存していると考えたのがきっかけだ。自分の前世に結構な自信を持っていた俺は、治癒のイメージなどできて当たり前だ、と強く考えてたことが原因だろう、と思っている。

 まあ、とにかくだ。俺の治癒は外傷ならば一瞬で治す。実は俺の最高峰は治癒スキルだ。

「で、それが何かね?」

「つまり、そんなアリスの回復魔術は死に掛けの人間の延命にすら、大して魔力を使っていない。魔力量は十分に残っていた……可能性が高い」

「ふむ」

「だから、アリスがその残った魔力を鑑定につぎ込めば、何かしらの秘匿事(オカルト)が見えたのかもしれない」

隠し事(オカルト)ねえ、なんとも胡散臭いことだよ」

 そうは言いつつも眼鏡の記録を確認する。


 吸血苔(きゅうけつごけ):藻類・薬用・毒・食毒植物

 他の生物に寄生して血を吸う藻類、一般的にはそう認識されているが実際には生物に寄生して、その生物が犯されている毒等を吸収する魔法生物である。毒を吸収しそれを魔力として蓄えているらしく、毒の吸収により寄生した生物の命を救うことも多く、また吸収する毒がなくなれば宿主しゅくしゅから魔力を吸収するため、寄生というよりは共生関係である。


 まったくもって、ご都合主義な事だ。

 で、毒を食らってモソモソと増殖したのが、この緑色の芋虫というわけだ。

 それにしてもこの眼鏡、使い方を誤ると危険だねえ。今回の隠し事が発見されていない事象なのか、それともこの眼鏡に写らなかっただけなのか。

 ま、それはいい。後回しにしよう、検証は必要だが今じゃなくて良い。何しろもう魔力が危険だ。

 そして魔力もそうだが、目の前の苔とそれに凭れ掛る美少女のほうを優先するべきだろう。



「琥珀、君の見立てではこれはどんな物かね? 確かにこの眼鏡では大丈夫な様だがね、見た目が大惨事だからして」

 眼鏡の信憑性は兎も角として、全身苔生した(こけむした)塊というのはどうにも恐ろしげだ。

「さあ、知らない。でも別に死んでも構わない相手、様子見」

「ん、実に道理。だがねえ、妹君の頼みだし、何より引き受けた以上仕事として全うするさ。金はもらってないがね。まあ、結局のところ様子を見る他無い訳だが」

 経過観察というやつか。



 結局、彼は運が強かったのだろう。結果として生き残った。

 治療を始めたときにはもう日が変わっており、俺が目を覚ましたのは日の出の頃、そこから経過観察をしていた所、徐々に苔が落ち始め日が落ちる頃には一部を残して、すっかり綺麗に落ちてしまった。

 一部というのは損壊が特に激しかった壊死創だ。そこには苔が残り、緑色のファーの付いている様に見える。ちょっとフカフカで触ってみたい。

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