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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
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帰宅

 脳内のアナウンスに戸惑いつつも、カラスの上でキリッとした表情で遠くを見つめる翡翠君を見た。

 翡翠君の体はカラスの中に溶けるように消えていき、カラスの死体もまるで粘土の様にグニャグニャと丸まっていった。

無論の事、カラスの死体は粘土ではないので、血肉や臓腑が撒き散らされ酷い有様になる。

 しかしその撒き散らされた元カラスも、本体というべき元カラスへ吸収されていった。グネグネと臓腑がうねって行く様は、なるほど実に異世界である。

 転生して結構な時が立つ。未だ俺の認識は客人まれびとである。



 グネグネと不気味に蠢いていた翡翠君+元カラスが徐々に小さくなっていく。粘土細工を小さく圧縮していく様だ。

 圧縮された粘土は黒い卵のようになって動きを止めた。そして間も無くピシピシと罅が入っていく。

 パカッ、といつか聞いたような気の抜けた音がする。

 粘土細工の卵が割れた音だ。中から翡翠君と思しき影が出てくる。内心ドキドキして待っている。

 

 進化、あるいは変異、あるいは成長。何でも良いがそういう物を見るのは初めてだ。それはドキドキもするだろう。

 影は間違いなく翡翠君だった。見紛う事なき翡翠君である。つまりそれは殆ど外見が変わっていないと言う事だ。

 相変わらず流線型の綺麗な体、緑色と一筋の赤色が目に映える。

 違う点は明確だった。翡翠君の背中に羽が生えている。生えている、というのは語弊があるか。

 正確には翡翠君の背中に光の玉(サイズはビー玉くらい)が2個あり、そこから羽が生えているのだ。羽はさっきのカラスの羽だ。

 体に比較して大きくて、羽を畳めば尻尾の付け根くらいまである。


 爬虫類の体に鳥類の羽、違和感を感じる事この上ないが似合っては居る。烏の濡れ羽色、という表現があるが実に綺麗な黒だ。

 体の半分を覆うほどの翼は凛々しい翡翠君の姿とあいまって、神秘的ですらある。

 結論としては、実に中二的にカッコいい。



「翡翠君、綺麗なものだね」

 素直な感想だ。もともと黒が好きなのもあるが、綺麗な色だ。

「褒められた!」

 声色その他は変わっていないが、明確に違う点がある。

 翡翠君はこれまで念話で話していた。念話は頭の中に響く声だが、今の声は確実に空気の振動を経て鼓膜を揺らす声だ。

 

 翡翠君を『鑑定』してみる。今の声もそうだが、姿形がほぼ同じだけで、中身が別物になっている可能性もあるからだ。


 翡翠・翼在る蜥蜴:従魔(低位)

 より高位になった従魔。従魔の進化はそれまでの経験や吸収した敵の性質によって変化する。

 翼を得たことで高速飛行と立体機動の能力が追加され、魔力の量と質が大幅に上昇した。

 偉大なる古代の神の名を模しているが、その能力は遠く及ばない。何時の日にか偉大なる神に迫る!


 

 最後のほう決意表明になってたぞ。

 偉大なる古代の神、恐らく翼ある蛇(ケツァルコアトル)、あるいはククルカン。古代アステカの最高神だろう。

 炎の神聖であり、太陽神でもある神を目指す翡翠君が、氷の魔法使いというのは実に皮肉だ。


 翡翠君の念話は魔力の質や量によって進化した、と考えれば良いだろう。空気を介しているんだから、妹君たちにも会話が届くはずだ。

 確認したところ念話もできるようなので、内緒話にはうってつけだろう。



「お疲れ様、主人様」

「流石に疲れたね。君の能力の検証は後にして、とりあえず帰ろう。精神的疲労で気持ち悪くなってきた」

 不思議な酩酊感と頭痛、そして吐き気。簡単に言えば強い酒に酔ったような物だが意識はクリアである。恐らくは魔力を操る弊害なのかもしれない、何事もリスク無しでは扱えない。

 まあ大した害ではない、魔力喪失に比べればぬるま湯みたいなものだ。気にせずに鍛えるとしよう、中位の魔獣程度でこの有様では先が思いやられるよ。



 町から結構離れた草原におり、帰るのにも一苦労だった。

 疲れると諸々の事が面倒臭くなる。本当ならギルドによって、あの烏の討伐以来を探して、あればラッキー、無ければせめて素材を売る程度のことをして元を取る……つもりだったが、もう無理、疲れた。

 夜勤明けの朝のようだ。それも大きな手術が立て込んだ準深明け、顔を上げているのも辛い。やはり魔力の形態変化とかでの疲労だろうか。


「……おかえり」

 疲労でフラフラしつつドアを開けると、不機嫌そうな妹君に抱きかかえられた。

 もたれ掛かる事で自分の体にかかっていた疲労を自覚する。ふー、と付いたため息とともに力が抜けていく。

「まったく、ああもうまったくもう。ちょっと目を離すと兄さんはこれだ。いっつもこうだよ。すぐフラフラになって、フラフラに……兄さん、せめて死にそうになるなら、私の傍でやって?」

「君、やはり君は俺の癒しだねえ。まだ俺と一緒に死にたいと思ってる?」

「なんで兄さんが居ないのに生きてなきゃならないの?」

「そう、それそれ。全く持って心が満たされる」

 妹君と話していると自分が人間の屑であると自覚できる。なによりも妹君を縛っていることに満足を覚えることによって。


「アリス」

 妹君を抱きしめていると琥珀から声がかかった。抱きしめていると言うか凭れ掛っているんだがね。

「この近くにアリスがそこまで疲弊する魔獣が居た?」

 いろいろと聞きたい事があったんだ、皆でテーブルに座り説明会をするとしよう。

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