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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
50/105

比翼

 罠、だね。実に情けない、鳥如きの罠にかかるとか。流石はカラス、鳥類の中で最も賢き種族よ。褒めてやろう、ふふふふふ、はははは、あーはっはっはっは。

 ……現実逃避終わり。


 逃げずに直面した現実としては足を凍らされた。幸いにも歩くのが辛いからせめて歩き易い物を、と少し奮発して買ったブーツのおかげで(買ったのは村に居たころだ)中身は無事だが、外見そとみが凍らされては同じだ。

 何しろ向こうからかなりの高速でカラスが飛んでくるのが見えるのだから。ブーツを脱いだり、氷を溶かしている暇はなさそうだ。



 突っ込んでくるカラス、1秒に満たない内に嘴で貫かれる。弾丸を当てるのは至難、障壁での防御も不可、身をかわすのも出来ない。

「死ね!」

 錯綜する思考の中でとっさに思いついた一手を実行に移すため、魔力障壁を全力で展開する。

 ただし横ではなく縦に。



 音は聞こえなかったが振動する空気を感じると、襲ってきた爆風と伴う風圧で吹き飛ばされる。爆音も聞こえたんだろうが、耳で処理し切れなかったんだろうね。

(かはー、はーはーはーはー)

 肺が酸素を要求し、声帯が耳障りな音を、立てていることと思う(・・)。心臓の音しか聞こえんが。

 立ち上がろうとしたが出来なかった。呼吸音だけじゃない、心臓の音しかしない、鼓膜がやられたようだ。蝸牛まで行って無くて良かった。

 とりあえず、自分と翡翠君に即席治療ヒーリングをかけ今度こそ立ち上がる。

「翡翠君、きみ、大丈夫かね?」

「……なんとか」

 鼓膜は戻ったようだが、五月蠅いほどの心音はまだ聞こえている。


 立ち上がって改めて周囲の惨状を確認する。

 近くにあった木は倒れているし、草は見る影もなく毟られている。そして50mほど向こうには、翼を半分切られたカラスが伏せっていた。

「正しく比翼の烏、だね」

 まったく、中位魔獣相手にこの様か。怪我は少ないがギリギリだった。本当に、生き残れてよかった。



 どっと疲れが出る。カラスを殺しに行くために、あそこまで歩く訳だがそれすらもだるい。だがまあ折角やったんだし、勿体無いからね。仕方なく行くとしよう。

 今回のカラスの迎撃は、咄嗟の判断だったが旨くいってよかった。

 高速で突進してくるカラスに対して薄い魔力の板、まあ魔力障壁をぶつける。正確にはカラスがぶつかったんだがね。

 まあとにかく相手の運動エネルギーを利用して翼を毟った。カラスの自爆事故だ。

 懸念としては俺の魔力障壁が耐えられるかどうかだったが、嘴以外が高硬度を有するようには見えなかったし、障壁自体もアッサリ割っていたわけではなかった。今まで横だった障壁でもそうなら、縦にしてしまえば多少なりとも被害が出るだろうと思ったが、上手くいって良かった。



 結果論であるがこの場は助かった。やはりこの世界での俺の力は未熟に過ぎる。もっと鍛える必要があるが、まずは効率的な魔術運用を考えなければ。


 珍しく反省する俺がカラスの下についた。流石に中位魔獣というだけはある、体の半分(まあ翼だがね)を千切られて、かなりの慣性でもって地面に突っ込んだというのにまだ生きている。周囲の抉られた地面や、カラスにぶつかって吹き飛んだ岩を見るに、魔獣というのはどうにもトンデモナイ存在らしい。


 だがまあだからこそ対価も大きいだろう。レベル1で中ボス撃破みたいなもんだ。……俺のレベルは如何ほどなのだろうか……まあいい。

「翡翠君、止めを刺したまえよ」

 万が一にもカラスが動かないように魔力で締め上げる。狩をする時に良く使っていたもので、バインドとそのままに呼んでいる。

 最近、というかこのカラス野郎の件で思い知ったんだが、俺は魔術よりも魔力の形態変化による攻撃の方が向いているのではないだろうか。まあ、どちらもやる心算ではいるんだが。

(主人様、この魔獣は氷の属性を持っていた。翡翠の拙い魔法では殺しきれないかもしれない)

「なるほどねえ、耐性、というやつかね?」

 実にさもあろう。氷を使うのに冷気に耐えられなければ自滅するだけだ。

 翡翠君は俺の知識と、生きる上での最低限の知識は持っているらしいが、属性攻撃の概念が最低限の知識とは、なんとも恐ろしい世界である。


 さて、となると如何しようかね。

 縛っている魔力で判るがどんどん抵抗が無くなっていく。遅かれ早かれ死ぬだろう。その前に翡翠君に殺させないといけない。

 魔獣殺しの経験値がどうやってはいるのか、全く何も判らん。出来る事なら翡翠君に殺させて確実を期したいが。

 駄目なら駄目で致し方ない。駄目元でやらせてみよう。




「ふむ、ヤレバ出来る物だね」

 出来た、というのは変であるが翡翠君は見事カラスに止めを刺した。方法はさっきと変わらないが、タイミングの問題である。流石の中位魔獣も死の直前までは魔力を維持できなかったのだ。

 これは教訓だ。高位の魔獣でも、あるいは高位の俺達でもあっけなく下位の存在に殺される可能性だ。ま、あっけなく殺せた訳ではないが、絶対に殺せない訳でもない。

 油断は禁物、という在り来たりな、それでいてこの世の真理たる結論である。



 経験が規定値に達しました。従魔が進化します。

 脳内に響くアナウンス。いったいどんな原理なんだか、この世界は訳が判らないね。

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