暇つぶしの魔法開発
翡翠君に話を戻そう。
翡翠君が心臓を凍らせた、と恐ろしい発言をしたが、魔法ならば可能なのである。
はっきり言って魔法は空想魔術と同じような事を、効率的に行えるのである。
俺が油断できないのは尤もな話であるだろう? なんてずるい世界だよー! 人間の扱い酷くない? 絶対無理、もう戦ったら勝てるわけねーよ! 俺1人で中隊規模の火力があるのに、それ以上って。どう考えても無理。
失礼。
取り乱しはしたが、翡翠君の魔法は俺と同質の物である事だけ理解いただければよい。
「君、実に恐ろしい魔法であるね」
翡翠君の魔法は質も悪くて精々が0~5度程度に冷やす物だ。だが、確かに心臓をその温度にできるなら十分だ。生物の体は温度変化に極端に弱い。普段は自力で体温を調整し維持しているが、それが崩れれば軽くない損傷を受ける。
一桁まで冷やす必要も無い。20度の温度でも生存は不可能だ。
(主人様、翡翠の魔法はちっぽけな氷。姉様たちに比べたら見るも無惨)
「姉様?」
翡翠君の口から漏れた意外な言葉を復唱する。
(さっきも言ったけど、従魔は生まれる時に主人様の影響を受ける。翡翠は喋れなかったけど、主人様の知識や考え方をある程度理解して生まれる。だから主人様にとって有益だし、主人様に気に入られる)
「なるほど、魔力に魔術はては魔法なんて物がある位だ、そういう事もあろう。それは良いが、何故姉様と?」
(主人様の頭の中を見た。あの御二人にたいする好意、愛情、親愛、恐怖、全部知ってる。あの御二人は主人様の大切な物で、敬意を持って、けど自分の立場を主張するために……。だから姉様、闇の姉様と人形の姉様)
意外にもまともな返答に少し詰まる。すまん翡翠君。君の事を少し残念な蜥蜴の友人としか思ってなかった。実に良くできた蜥蜴の友人、に考えを改めるよ。
SIDE:翡翠
従魔。生まれた時から主人に仕えることを当然と考える魔獣。
私も当然そう考える。主人に仕え、主人の寵愛を得、主人と共に一生を歩く。それこそが従魔の喜び。
すり込みにも似たその思いに答えるため、従魔は主人の頭の中をのぞいてくる。
主人様は歪だった。考え方には独自の思考が大きく関与しているようで、翻訳キーのない暗号解読のような難解さだ。
何とか理解した主人の考え。尤も強い感情は渇望、何を望んでいるのかと思えば家族・あるいは群れ・あるいは仲間。
寂しくて寂しくて仕方が無いのだ。主人様は自分が愛されない人間だと知っている。だから頼ってきた少数に過分な愛情を示す。失うのが怖いからだ。自分の人間的魅力で引き止めておく自信がないから、尽力するのだ。
従魔にとって裏切らない事は通常の事、容易い事、と思ったがそれを相手に理解させる術がない。
だから翡翠も狂うしかない。狂った態度で主への親愛を絡めつかせなければ、置いていかれてしまう。
寂しいことを何よりも恐れる主は、それ故に自分の周囲が自分に付いてきているかを常に計っているのだ。
だから翡翠も狂気の愛を身につけねば置いていかれてしまう。それだけは駄目だ。
例え演技でも、主人様を騙すことになっても。自分の脳すら騙して狂気を身に纏う。
幸いにも絶好のロールモデルがいる。翡翠の上の2人の姉。主人様を狂信する主人様のヒトデナシの妹と、主人様の狂気の果てに終には主人様と対面するに至った人形。2人の狂気が本物なのか、それとも私の様に主人様の為なのかは判らない。
重要なのはそれをあの疑心暗鬼の塊のような主人様に信じ込ませている事だ。
この2人は裏切らない、裏切られたくない、裏切られたらどうしよう、裏切られたら死のう、殺そう、壊そう、泣こう、笑おう、嗤おう。……正確には信じ切れていない様だが、主人様が信じている事など何も無いのだ。
だから翡翠もそうしよう。何とか狂気を演じよう、観客は|主人様《アリス=キャロルリード》ただ1人。演目は狂愛。代金は主人様の人生。
SIDEOUT
翡翠君がクツクツと低い声で嗤っている様だ。自分で仕留めた獲物が嬉しかったのかね。
だが、まあまだ最初の一匹だ。やり口は判ったので、淡々と効率よく処理するとしよう。
「君、まだ出だしだ。次に掛かるとしよう」
(判ってる、主人様。翡翠がきっと強くなって、主人様を守ってみせる)
「どこの誰、あるいは何から守ってくれるのやら。ふむ、強くなるのは良いんだがこれでは効率が悪いな」
これでは、というのは今一匹狩ったばかりのグルー狩りの事だ。
こいつは魔獣というカテゴリーの中では最弱だという。
魔獣を倒すと何故成長するのか。いったい自分たちが何を吸収して成長するのか判らない。判らないが、考え方としてはRPGの経験値でいいはずだ。
だとすれば最弱の魔獣では役者不足ではなかろうか。
だが逆に考えれば危険度が少ないということだ。流石に橋1つ超えたら別次元の強さ、なんてでたらめな配役はしてないだろうが、この近辺であっても、俺1人で対処できない魔獣が多いことだろう。
……やはり効率よりは安全性だね。
とりあえず翡翠君が自分の身を守れるまでは雑魚相手にしよう。
とりあえずは似たような流れを繰り返す。つまり俺が弱らせ、翡翠君が止めを刺す、という方法だ。
俺もただ弱らせるだけでは能がないので、梟の人からもらった『竜の角』を試したり、新しい空想を魔法陣化できるよう試したりするつもりだ。
「翡翠君、では次に行こう。獲物を見つけて抹殺するのだ」
(ハイ、主人様。目に付くものすべて、皆殺し)
危ないテンションで意気込んでは見たものの、基本的に待ちの狩しかした事無い俺と翡翠君は待ちぼうけである。
半径1キロの俺の網を目いっぱい張り、掛かった者が勝てそうなら狩る、やばそうなら逃げる、を基本スタンスにまっている。
その間に翡翠君は魔力の質を高め、俺は角や空想について使い方を考える。
たぶん傍から見ていると、ペットの日向ぼっこに付き合う少年、に見られている事だろう。
人目なんか今更気にしないが、退屈である。
暇に明かせて角をいじっている。翡翠君が魔力訓練でまったく動かないので、ますます日向ぼっこ感が強い。
さて、この角は前回のような使い方、つまり魔力の腕で振り回して刺す、という使い方では真価を発揮しなかった。まあよく考えてみればフラン(自称)で十分以上に同じことができる上に、さすがに竜の角をそんな事に使うのは勿体無い。
ということで現在別の方法を考えているが、難航中である。
竜の角の詳細なんて本によってまちまちだし、薬になるとか傷を癒すとか、なんかユニコーンとかと混ざってんじゃないのか、とさえ思うものも多かった。
接近戦で使えなかった以上、遠距離戦で使ってみる事にする。
まず、この角は魔力をある程度貯める力がある。おそらくは素材の問題と隠すように彫ってある魔力停滞の魔法陣のためだ。もともと魔力を蓄えられる角の性質に、さらに魔力を蓄える魔法陣で補強されている。
二重の意味で魔力を蓄えておけるようになっている。
魔力を蓄える。実はこれは有り触れた技術、とまでは言わないが普通の技術より少し上、程度のものである。
そもそもが魔力の神様に見放された人間たちである。効率が悪い術を、もともと少ない魔力で細々と使わなければならない。
魔力量だけ外力に直結する魔法陣では人間にできることは少ない。
今の翡翠君のように、直に触ると火傷する、ひょっとしたら痛い、冷たくて不快である、煙たい、程度の奇跡を起こして見せて高々と笑うのが精々だろう。
力なく、不甲斐なく、どうしようもない先人は考えました。魔力が足りないなら溜めて置いて一気に使おう、と。
結果としてこの考えは当たったといえるだろう。
魔力を溜め込む性質の魔法陣を考案し、それをいざというときに別の魔法陣に流用することで威力を得る。
例え単純な火の玉を飛ばすだけの魔法陣でも、魔力量によってはとんでもない威力にできるのだ。
現在では中位階梯以上の冒険者の切り札や、さらに大規模にしたものを戦争に用いるなどしており、保有魔力量は各国における軍事力の目安にすらなっている。
さて、魔力量の貯蓄について一席上げてしまったが、ここで重要なのはこの杖でもある程度似た様なことができる、ということである。
問題なのは俺の魔力量ではあまり有意義ではない、ということだ。
まあ普段から溜めて置くのは不利益ではないので、コツコツと貯める事はするとして……今現状の武器としての利点を考える。
竜の角、という現実感のまるで無いアイテムであるだけあって魔力との親和性が高い、ような気がする。
親和性が高い、つまり魔力がスムーズに使える。俺のノイズだらけで効率が最悪な魔術の補助をしてくれる……そう、一言で表すならば……魔法の杖である!
翡翠君は動かない。琥珀に合いたいなあ。妹君はポカンとするだけだろうし……。突込み待ちはさびしい。
さて流しっぱなしのボケモドキはともかく、この杖は思ったより有用だ。弾丸で試すといつもより高威力でスムーズに出せる。威力は3割り増しだ。
レンガやコンクリートの壁でもボロボロにできる重機関銃……をモデルにした俺の空想魔術だが、3割も威力が上がればオリジナルにも迫れるだろう。
そしてもう一点、魔力を収束させることで生まれた新たな空想魔術、速射性を重視した機関銃の真逆! 一撃の威力を追求した榴弾砲である! イメージは野戦運用可能な長距離砲である!
榴弾砲、要は大砲である。1発打つのに魔力を500もつぎ込んで作る、対戦車兵器だ。この世界に戦車があるか判らないので、攻城兵器のひとつだ。まあ今の魔力では直ぐに空っぽになるだろうが。
大変遅くなっており申し訳ありません。
忙しさにかまけ書き溜めもできておりません。今しばらく、遅い更新でお付き合い願えますよう、お願い申し上げます。




