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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
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報酬について

話が進みません。申し訳ありませんが、気長にお付き合い願います。

 実に理不尽なものを感じるが、基本的にはチキン野郎なのでそれを言えるはずも無く一人で解体する。琥珀を見ると周囲を警戒しているようだ。それが目的だったのだ、と言い聞かせる。

 素人に(まあ元狩人だから、ある程度はできるけど)綺麗に解体できるはずもなく、血まみれになりつつ進める。それでも5匹を終えるころには慣れてきた。鑑定の力は偉大で、視界に取り出すべき臓器と手順が投影される。


 取り出しては影へ放り込み、影へ放り込んでは取り出す。とっくに鼻は麻痺しているが酷い臭いなのだろうね。幾度か肉食の動物が血の臭いに誘われてきたが、解体済みの死体を投げるとそれを咥えて消えていった。

「もういい」

 7匹目に手を付けようとして止めた。死ぬほど疲れているし、体中ドロドロだ。ちょいちょい川で洗っていたが、血油は落ちにくい。脂肪は独特のにおいがあるし、気持ち悪くなってきた。

「お疲れさま、アリスは真面目ね。生真面目すぎる」

「ふむ、割とよく言われる。自覚は無いんだがね」

 さて、本当にもう帰ろう。結構朝早くに出発したつもりだが、もう夕暮れ間近だ。今の季節は初秋から秋が深まろうかとしている時期だ。俺がこの世界に来て1年たったのだ。



 秋の日は暮れるのが速い、町に入る頃には辺りは真っ暗だった。

 早速ギルドに本日の採取品を持ち込む。影から出すのを見られると面倒なので、あらかじめ出しておくことを忘れない。なにしろいまいち信用できないからね。

「常設依頼の採取買取をお願いします」

「はい……どうしたんですか? その格好、どこか怪我をされたとか?」

 明るいギルド内で自分の姿を省みる。真っ赤だ。暑くてコートは脱いでやってたから被害は無いが、シャツやパンツは再起不能だろう。


「酒猿に襲われてね、解体の練習がてら挑んだんだけど、ベダベダになっちゃいまして」

 そういって笑うと受付嬢に呆れ顔をされた。

「解体の魔方陣をご存じないんですか? 魔法陣の上に乗せて魔力をこめれば、目的の部位をえり分けてくれるものですが」

 そんな便利なものが! 生活にかかわる部分だと結構細かい魔術が発展していそうだ。まあ一々魔物の解体をしつつだと時間かかって仕方ないかも。でっかい魔物もいるだろうし。


「買うことは可能ですか?」

「勿論です、ギルドでも可能ですよ。1枚銀貨20枚です。割高ですが、使い捨てと言うわけでもないので買って損は無いと思います」

「わかりました、検討するので、とりあえず換金を願います」

「あ、はい。ギルドチーム、CCC(ケイオスクロスクラン)様、承りました」

 この流れはテンプレのようなものらしい。



 今日の採取品は、斑白草束、蝕草×2、酒猿の爪と牙、酒猿15匹の討伐証明(腕輪による)、大王蟹三匹、といったところ。酒猿は村近くに出ることもあって討伐対象になっていた、爪と牙は大して役には立たないが、まあ装飾品の材料扱いだ。全部占めて、金貨1枚、銀貨4枚の稼ぎ。すげー、14万円か。

 どうにも一々円での換算をしてしまう。やはり慣れ親しんだ円が印象強いのかね。実際円は強いよ、ウン。



 それはいいとして、1日で14万と言うのは多すぎないだろうか、とも思ったが、命がけであったし数もそれなりにいた。それを考えるなら妥当なのだろうか。一般的な村人とかなら死んでるだろうしね。

 逆に考えると、あれだけの化け物駆除して14万と言うのが少ないのだ。この世界での命の価値やら、強者の定義がだいぶ不安になる報酬だった。


 とは言え、報酬を貰った以上ギルドに用は無いので帰ることにする。シャツはもう駄目そうだ、幸いにも日が落ちて涼しくなったのでコートを着てごまかす。

 家について案の定妹君に驚かれた。事情を説明し着替える。やはりシャツは駄目だった、燃やすことにする。ありがとうシャツ、君の勇姿は生涯忘れない。




「金額については、琥珀どう思う?」

 自分の中で結論は出ていたが、一応琥珀にも報酬の多寡について聞いてみる。

「普通の冒険者、4階梯程度までの冒険者なら今日の酒猿の襲撃で死んでいた。その程度の危険度」

 4階梯と言うことは戦闘職としての駆け出し、やはり素人には厳しいと言うことかね。

 琥珀は金額については言及しなかったが、素人なら命の危険があってあの金額。確かに1日で稼ぐ金額としては破格だが、命に見合うかといわれると疑問が残る。

 やはりこの世界、命の価値は低い。



「とりあえず報酬は規定通りに。6万は共用、残りの2万が各自の取り分」

 ちなみに昨日の報酬はすべて家具代とかで相殺なので分配なし。

(翡翠も? 翡翠はお金使えないけど)

「いいんだ。俺の趣味だから」

「翡翠にまで分配するのはやりすぎだと思うけど、第一どうやって使うの?」

 妹君が翡翠の前に置かれた銀貨を指ではじく。

「翡翠君にどんな金がかかるか判らないが、こうやって分けておけばそっから使えるだろう? それに翡翠君は意識があるし意思の疎通も出来る、欲しい物があったら俺が買えば良い」

「お金が大事だって言う割には分けるのね」

「金は大事だ。この世には金以上の物なんてほんの少ししかない、君らの様に近しい者以外、他人の命より金は重い。ま、大事だからこそ平等に分けるのかもね、さっきも言ったが俺の趣味だよ」

「元医療者の言葉とは思えない」

 ほおっておきたまえ。



 夕食は妹君が用意していてくれた。流石に昔からやっているだけはある、俺ではこうはいかんだろう。というか、俺は駄目人間なので、竈の焚き付けすら危うい。

 妹君への生活的な面での依存度はかなり高い。妹君はそのことを知っていらっしゃるので、俺に食事を供する時は大層嬉しそうな顔をする。


「兄さんに頼られる幸せは、さすがに兄さんには判らないよね」


 と昔から話している。頼られる幸せは十分に知っている。使い捨てられる溜め息もあわせて。

 妹君にはそんな思いはさせないよう、俺は密かに決心している。



 今日も今日とて、妹君は嬉しそうな顔で料理を並べている。

 安く買い叩いたという、小さなテーブルと三脚の椅子。小さいといっても、基本的に子供サイズの俺たちには十分な大きさではある。

 幸いにして円卓であるので、等間隔で三人が座り、食事をしつつ雑談に興じる。翡翠は俺の範囲であるテーブルの上にちょこんとおり、野菜などを食べている。

 明かりはランプだ。魔法のランプであれば光量もそれなりだが、高かったので普通のランプである。

 天井に1つ、卓上に1つ。光は辛うじて部屋を照らしているが、其処彼処そこかしこに暗がりがある。昔の人が暗がりに怪物を幻視したのも無理は無い、そう思えるほど部屋の隅は真っ暗で、正確な部屋の大きさすら曖昧になる。



「毒薬だの薬だのになりそうな物を集めてみたが、製薬技術なんて無いよねえ」

 食事中の雑談である。そぐわないのは勿論だが、気にする人間は居ない。あまり細かいことを気にする面子ではない。

「もちろん、むしろ兄さんが一番持っているはずでしょ?」

「無茶言うなよ。薬なんて縁遠いものだよ、精々が聞きかじり程度だ」

 配合変化と併用禁忌、薬効と副作用、そして投与方法を覚えている程度だ。それだって怪しいから、辞書は手放せなかったし。


(翡翠も無理)

 まあ翡翠君は無理だろうね。

「集めてても無駄になるかな。換金したほうが良いかね」

「それが妥当。少なくとも誰かがそういった知識を得るまでは」

 他愛無い話でも其れなりに楽しい。

 前世では人と笑いながら食事する、ってのは得難い事だったから


 ………………人。

 やばい、改めて考えると交友関係に人間が一人も居ない。そもそも暫定ハーレムの面子以外で真っ先に頭に浮かんだのが、でっかい梟と骨の人・そして大蛇である。

 まあ、もともと交友関係は狭いほうだったから、この場に会話できる知的生命体が3人も居るのは僥倖だ。1人か2人、生命体かどうか怪しいのが混じっているが。 


「どうしたの兄さん」

 妹君が呆けてしまった俺の手を握った。少し不安げな顔をしている、少し反応が大げさなのは、村を追い出されて心労が嵩んでいるのかもしれんね。

「いやいや、そう大した事ではなくてね。改めて、親しい人間がいないな、と思ってね」

 俺の言葉を受けて、3人はお互いを見回した。

「言われてみれば」

「人型、という事で兄さんには手を打って貰うしかないかな」

(翡翠も全く、そんな事失念してました)

「いやいや、翡翠君。君は自覚していたまえよ」

 抗議の心算か、翡翠君は俺の指に噛み付きガジガジとしていたが、そのうち甘噛みになり、手に寄り添う形で寝てしまった。最初の噛みつきと甘噛みの違いは、ほとんど無かった。


「別に、そう気にしている訳ではないよ。前世ではありえない事態だが、まあ異世界にまで来たんだ、人間の知り合いが居なくとも問題はない、と思う」

 問題なのは俺が人間である、という事くらいカね。自覚はあったが、やはり人付き合いは壊滅的に駄目だ。

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