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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
43/105

琥珀とアリス

仕事にいきたくありません。

悶絶してしまいそうなエネルギーでなんとなく一本

「おはようございます」

「おは、よ、う」

 眠い、眠い、死にたい、殺してくれ。


 何とか5分ほどかけて再起動に成功した。昨日の夕食はおいしかった。この世界の主食はパンだが、やはりと言うべきか固い。その固いパンを食べるためのスープや味を誤魔化す為の肉料理が発展している。

 炭水化物よりも肉が主食だった俺にとっては住みやすいといえるだろう。

 昨日はゆっくり食事をして、片づけをしたらもう就寝だった。夜は早く朝も早い。基本的に明かりはもったいないんだ。いずれ魔力で光る道具でも買おう。


 寝付く前に影の収納を完成させた。ポケットをイメージしたおかげで大分楽だった。恐らくは適性があるといわれた、闇の属性にもかかわっているからだろう。

 出し入れに多少魔力を食うが、収納力は桁違いだ。大分良い物が出来た、注意点としては魔力が無いとアイテムが出せないことくらいかね。



「お・は・よ・う・ご・ざ・い・ま・す」

「ぐふ、耳元で騒ぐな琥珀。起きてる、起きてるから。通常運用になるまで……ほっとけ」

「知っている主様。同じ部屋で寝ているのに、魔力用のキスしかしてこない主様、さぞやお眠いんでしょうね」

 そういえば昨日琥珀に襲われたんだっけ。逆レイプとか俺の趣味じゃないから。勘弁してくれ。



「さて、昨日は部屋の片付けと買出しとで二手に分かれたが、今日も分かれる必要があるの?」

 やっと脳が起動した。俺の脳は立ち上げてから実際に起動して使えるようになるまで1時間はかかる。20世代まえのPCだってもう少し急ぎ足だろう。

「兄さんを独り占めする時間が欲しい」

「同意」

(同意)

 久々に翡翠君の声がした。仕事に付いて来るでなく(妹君の拒否により)、買出しに役に立つ訳も無く(主に肉体的理由により)、すっかり拗ねてしまって帰って来た頃には寝てしまって居たんだよね。


「ああ、そう。ではまあ俺が仕事、もう一人が付き添い、残りは何をしようか」

「適当に掃除でもするよ。兄さん居ないときは家でボーっとしてたんだし、あまり変わらないかな」

 妹君がため息混じりに言った。

「判った。でも今日は私が仕事」

「行ってらっしゃい兄さん。私は……何かできること探そうかな」

(翡翠は主人様と一緒に居たい。でも2人で行くなら仕方ない。寝てる)



 琥珀が俺の手をとってドアを開ける。

 妹君は家にいるようだ。まあ、いくら強いと言っても独り歩きは心配だし、別に良いかと思う。翡翠君は昨日と同じで家にいるようだ。妹君と違って、独り歩きが本気で心配だから、まあ家に居てくれたほうが良い。



「しかし、意外だねえ。琥珀がこんなになっちゃうとは」

 家を出てギルドへ向かう。100mも離れた頃だろうか、琥珀はしきりに後ろを気にしていたが不意に俺を引っ張って角を曲がった。

「そう?」

 そして完全に角を曲がりきると俺に抱きついたのだった。

 幸いにして朝早く、また角もほとんど建物の隙間といえる路地だったので人目は無いが……さて。


「君は俺のイマジナリーフレンドだったそうだが、おれ自身が考えた設定でもはるか昔のことだ、忘れていることも多い。いったいどうしたのかね?」

 琥珀はぐりぐりと頭を押し付けてきた。妹君そっくりだ。

「別に……。アリスが恋しいだけ、触れていないと寂しい」

 言葉遣いと呼び名がわずかに変化する。

「俺の好みにしては微妙に硬いと思っていたが、なるほどねえ。まあ君の好きにしたら良いよ」

「うん。……アリス」

 静かにそういった割にはギリギリと抱きしめる力を強めてくる。


「あれ、琥珀!?」

 あ、やばい。ちぎれそう。

 琥珀は近接特化の戦闘人形だ。竜を殺せそうな鉄塊でも小剣の速度で繰り出せるほどの膂力を持っている。そんな力で締め付けられたら……。

「ち、ちぎれてゃうー、うえ」

「アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリス……」

 しょ、初級の、無理、限界。

 魔術、きんきゅう、は、つどう。


「っ!」

 物理的影響力を持った魔力を使って攻撃その他を行う。ちょいちょいと以前から使っていたが、最近使い勝手が良くなってきたそれを使って琥珀を引き剥がす。

 無論まともにやれば琥珀の方が力が上なのでどうしようもないが、俺の内側から相当な圧力で噴出すれば後ろに下げるくらいは出来る。

「かはっ、あー、はあ、はあ、はあ…」

 酸素は大事だ。いくら吸いすぎは体に毒だといっても、ミトコンドリアは酸素を求める。さて、俺の今の細胞にもミトコンドリアはあるのだろうか。まあいいか。



「君、勘弁してくれたまえよ。初級のヤンデレかね」

「駄目?」

「計算されたヤンデレか、中級位はあるかね。だが殺すのは勘弁してくれ。いや、ヤンデレである以上勿論殺しても良いんだが、俺の好みではない。もっともっと味わいたい、殺すのなら趣向を凝らして考えておくれよ」

「くふふ、アリスは業が深いものねえ。大丈夫、私はあなたの物。あなただけを見る、あなただけの人形」

 ああ、クラクラする。酸素不足だと思いたいがね、まったく業が深いことだ。


「ああ、実に同意する。さて、仕事だ。前世と違って良い点があるならば、他人と関わらないで仕事が出来るという点だね」

「アリスは人間が嫌いね。なぜ看護師なんてしてたの?」

 素に戻ったという琥珀は実に年相応に見える。なんと言うか好奇心旺盛な少女のようだ。

「福祉は職にあぶれることが絶対にない。それに根性と体力さえあれば資格は手に入る」

 実際専門学校なんてのは根性のみだ。病院実習では人間扱いはされない。俺は要領が悪くて1日2時間は眠れなかった。とにかく記録の量が半端じゃない。

「人間嫌いなのに?」

「だからだよ。完全に人間を物として見れる、意外にも看護師には重宝する。勿論神妙そうな演技力も必要だったがね」

「くふふ、人間の屑ね」

「くくく、辛辣」

 あまり上等とは言えない笑顔で笑いあう2人、しかも子供。まったく人目が無くてよかった。



「今日も採集?」

「今日も、というか何と言うか。まだ2日目だからね。基本的には危険な事はしたくない」

「アリスは臆病だからね」

「まったくもって。まあ故にレベルアップは必然だがね、休日1日目は特訓に付き合ってくれ」

 2連休という事なので、2日目はダラダラとすごす。


「特訓」

「ああ、琥珀には近接戦、妹君は魔術、翡翠君はどうしようかね、強くしないといけないんだが」

「翡翠は従魔。鍛え上げれば強くなる、きっとアリスの助けになる」

「初耳だね」

「それが従魔というもの」


 従魔には、というかこの世界では魔獣や魔族、はては職業にまで全てランクがある。戦闘行為が半ば日常のこの世界では、確かに一目見て実力を把握できるランクというシステムは有益なんだろう。

 で、うちの従魔君は最下級だ(鑑定したときに横についていた物)。種族によってランクアップの内容は違うが、従魔はそれまでの行動で決まるらしい。

「良く判らないんだけど、行動で決まるってのはどういうこと?」

「例えば、翡翠は今は蜥蜴だけど、虫っぽい行動をしていたら虫になるってこと」

 詳細を聞いても全く判らない。虫っぽい行動ってなんだろう。

 まあ、逆に動物(哺乳類)っぽい行動をさせていればそう進化するのだろうか。哺乳類っぽい行動……授乳?


「翡翠君を鍛えるのは俺がやるよ、俺の使い魔みたいだしね。まあ、君等がいれば俺と翡翠君はいらないんじゃないかとも思うがね」

 自虐だが、本気でそうも思う。逆に言えば、2人でどうにかできないような相手とは戦いたくないし、戦わない。


「戦闘ではそうかも。今のアリスは大して戦力にならない。でもアリスが居なければ私たちの居場所はないし、正直な所エリスと殺し合いになる……いや、やっぱりそんな気力も無いかな」

 最後の言葉は聞き取れなかったが、物騒な話だ。嫉妬や攻撃の対象が自分に向くならいいんだが、他の相手に向くというのは頂けない。ヤンデレなハーレムなんて地雷原みたいなものを作ろうとしているんだ、ある程度は仕方ないんだろうがね。

「くくく、良いね。ヤンデレてて。だが過剰に攻撃的なのは減点だ、相手は絡みとるものだ。気づかない内に絞め殺す物だ」

 それなりに釘を刺しておく。俺が生きている間は大丈夫なはずだ。


「アリスには出来ないでしょ?」

「ああ、頭が悪くてね。前世の友人連中なら皆出来るんだが。人間的に終っているのが多かったし」

「貴方は終わってないの?」

「終わりきれてない、かね。これでも職業病でね、他人には優しくする癖があるんだ」

 階段で難儀している老人が居れば手を貸すし、車椅子を見れば押す。苦しんでいる人間には声をかけるし、心停止に対してはICLS位までならばやる。目の前で死なれても全く心に響かないが、死ぬまでの過程には手を出してしまうのだ。


「その思考はもう終わっているそれ。大丈夫、この世界でも生きていける。私はアリスとまた話せて、本当に幸せ」

 殺すことには抵抗があるが、死そのものには慣れている。まあ多少のアドバンテージにはなる。

「もしかして、琥珀に話しかけなくなったから寂しかったの?」

「うん。貴方は私を覚えてるくせに、私を覚えてたくせに、何で……あなたはわたしとあそんでくれないの」

 突然琥珀の声から抑揚が消えた。やっぱり狂気の神に貰った物だから、多少なりとも狂っているんだろうか。

「なんで」

 一言つぶやいて俺に手を伸ばす。

「君」

 喉元までかけられた手に自分の手を重ねて、琥珀に目を向ける。重なった手を目にして琥珀の瞳に色が戻った。

「かっ、はーはー」


 大きく深呼吸。琥珀ははっと何かに気づいたように大きく呼吸し、首を左右に振った。

「この体、この思考、やっぱり狂気の神に貰っただけある。アリス、気をつけて、わたし少しおかしい」

 琥珀は戸惑っているようだ、どうにも思考にノイズがあるらしいが、それはまあ当然だ。

「琥珀は俺の妄想の産物だ。当然狂気も混じっている、どうにもならなくなったら俺を殺してもいいよ」

 まあ、その後妹君に殺されるとは思うが。いや、そんなことには成らないかもしれないな。


「貴方が本気でそれをいっているのは知っている。昔付き合ってた女にも同じ事を言ったわね」

「うん? ああ、アレは失敗だった。素人さんだったからね、何でそれで俺に興味を持ったのか?」

「貴方、他人には良い人だもの。友人に良い人って言われたことは無いけど、知り合いは皆そう言ってたでしょ?」

 前世を思い出す。確かに友人は皆俺のことを酷評していたが、他の人はどうだったかなあ。


「どうだったかなあ、他の人か……。あんまり覚えてないんだよねえ」

 前世の記憶は完全に保持できているが、もともと親しくない人間のことを覚えていない。親しい人間が極端に少なかったから、つまり殆ど人間の事を覚えていない。

「貴方はそういう人だったのを失念していた、まあいいや。アリスごめんなさい」

「何で謝るのかね? 首を絞めようとしたこと? それとも少し狂ってること?」

「どっちも」

「我々の業界ではご褒美です。いつの日か、君と妹君で俺を殺してくれるのかねえ。ま、良いや。仕事に行こう」

「うん」

 琥珀は珍しくうれしそうに頷き、腕を組んできた。何がそんなに楽しいのか、俺の妄想の産物なら歪んでなければならないのは当然じゃあないか。



 一応ギルドにて常設依頼に変更が無いか、採取対象に変化が無いかを確認する。昨日の新種疑惑の影響を鑑みたが、特に見られないようだ。やはり、あれは鑑定ミスだったか。

「変わり無い様だね。昨日と同じように森の方面で川周辺を探すか」

 まだ2日目だ。1か所1か所を少しづつ踏破していきたい。別にここに滞在する気は無いが、もう少し強くならないと話にならない、その時間稼ぎ程度だ。

 そんな訳で今日も真面目にお仕事。朝食は屋台の肉串で済ました。琥珀の朝食には濃厚なキスをせがまれたがね。魔力が食事、とかうそぶいていたけど必要ないといってた気もする。歯磨きは常にしておいてよかった。



 門を出て森を目指す。反対側には故郷への道(カントリーロード)があるが、早々帰りたいとは思わない。

 森を右手に見るようにして旋回。少し進むと小川がある。この小川を遡れば昨日の群生地だ。

「といっても昨日刈り尽くしたから今日は何にも無いけどね」

「何も無いけど、何で来たの?」

「そう土地勘がある訳でもないからね、見つけたところの周辺から探そうと思って。それと実験」

 俺の言葉に琥珀は笑う。無表情なんて嘘の様な笑みだ。また始まった、とでも言いたげなあきれを多分に含んだ笑い。


「広域鑑定をだね、もっと効率的に使えないかと思って。俺の網を広げてかかったものを片っ端から鑑定する。魔力消費が不明なんだ、やばくなったら周囲の護衛をよろしく」

「わかった」

 コクンと頷く姿は可愛すぎる。脳が溶けてしまいそうだ。


 麻薬のような琥珀の笑みは置いておいて。まず網を広げる、初めなので半径200m程度でいいだろう。

 網に掛かった物を魔力的に感知して、眼鏡に送る。優れた端末である眼鏡はそれを高速で分析し、視覚情報として俺に伝える、というわけだ。空想魔術と高速演算(覚えているかな、最初に出てきた脳内の演算機だよ)そして優れた端末があって初めて実現する荒業だ。

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