鑑定結果(偽)
「白草は500gで銀貨2枚、四葉は1本で銀貨1枚ですね」
扱いの差が可愛そうだ。寄生されてるのに。
斑白草の方はさすがに群生するだけあって量が取れる、しかも回復が早く、繁殖のサイクルも早いためいい資金稼ぎになるだろう。鞄が無かったので持てるだけ持って二人で銀貨2枚分にしかならなかったが。
その一方で寄生生物であるところの擬態していた菌類は、銀貨3枚になった。広域鑑定様様だ。
「ところで、この四つ葉の方なんですが、新種の様なんです」
「は?」
受付嬢が声を上げる。そして呆れ顔でため息混じりに続ける。
「いえ、引取りのときに鑑定を実施していますが、これまで四葉が新種とされたことはありません」
因みにここで言う鑑定は魔法陣を刻んだ虫眼鏡のような物を使う、この世界にありふれている物だ。
俺の眼鏡との性能の差は不明だが、俺が眼鏡にからかわれている可能性が高い。
「あなたの様な新人の冒険者はちょっとした情報をさも宝物のように扱い、そして自分の都合の良い様に推測を進め、挙句の果てには全く違う着地点に下りることさえあります。それは悪いことではありません、新人にミスはつき物です。ですがそれを正すのも私たちの仕事です」
なんか恍惚としだしたぞ。この人は自分の仕事に誇りと、何よりも仕事をする自分を愛している類の人間で、尚且つ相手を馬鹿にするタイプか。面倒くさいのにあたったな。
「ハイ、勿論こちらの勘違いだと思います。ですがなぜ勘違いしたのかを知る手がかりにでもなれば幸いです、ギルドとしての審査をお願いします」
こちらの態度もほめられた者ではないからな。半ば叩き付ける様に立ち上がると、去っていった。仕事は出来る人間だと思ってたんだがね。
「こんにちわ」
「ああ、おにいさま、ここんにちわ」
待ち時間が暇だったので骨の人にあってみた。妹君は後ろに控えているし、受付嬢の件で俺が侮辱されたと判断してかなりイライラしている。おかげで骨の人はカチャカチャ鳴りっぱなしだ。
「実は鑑定の結果が二種類あるようでしてね、何かご存じないかと」
「滅相もありません!」
駄目だこりゃ、愛しの妹君を怖がってて会話にならん。合図を出して妹君を落ち着かせる。
「人によって鑑定結果が異なるなんて事は、あるんですか?」
「在りますよ。鑑定対象が簡単なものなら良いが、難しいものを鑑定しようとすれば失敗し自分の都合のいい真実を知ったような気になる。成功失敗の判断は魔力量、お兄様の魔力は桁違いだ。となると、ギルドが都合のいい夢を見ている……のかも」
「そうですかね。この場合夢を見ているのは此方だろうと思いますよ。この道のプロが居るんだろうギルドで早々間違いは起こらない、と考えますが」
「ふむ、そうですかねえ」
骨の人と話していて少し気が紛れた。暇潰しにもなった所で、受付嬢から呼び出しがかかる。なんか思い出すな、買取整理券番号、とか。
「やはりあなたの勘違いの様よ、そもそも鑑定には……」
「ああ、いえいえ、それは結構です。先ほど骨の人に説明されましたので、長々とお手間を取らせて申し訳ありませんでした」
「いえ、此方も仕事ですので」
受付嬢のやや高くなった声を聞き流して話を打ち切り報酬をもらう。
自分の鑑定結果が信じられないとなると、判断基準が問題だな。これも琥珀様に聞いてみるか。
「兄さん、今の魔力量は?」
ギルドを出て少しすると、妹君が脈絡も無く聞いてくる。若干心配そうに見えなくも無い表情だ。
何のことだと思いつつ確認すると愕然とする。
「ん、最大値が2200程度、今日は使ってないからその位だろう……と思っていたが、残200。だー危なくもう少しで1時間ものた打ち回るところだった。どういうことだ?」
妹君は無言でうなずく。
「私は琥珀みたいに馬鹿みたいな知識量を持ってないけども、そんな便利な硝子細工を操るのに並みの魔力では無理なことくらいは想像が付くし、あの大きな鳥が渡すときに、兄さんなら大丈夫とか行ってた」
硝子細工とは眼鏡の事だ。しかし、そんな事言ってたかな。聞き逃したかな。
「なるほどねえ。そういうわけか」
多用も出来んと言う訳か。でもかなり有益な能力だ、常時発動しても大丈夫な程度には鍛える必要がある。
この眼鏡の鑑定がどういった原理かは知らんが、俺の空想魔術による物だとしたら、長じることでコストの削減ができるかもしれない。
眼鏡のことは一度置こう。コストの削減ができなくとも魔力の総量を上げれば済む話だ。それよりも採取に関わる彼是が先決だろう。
「というわけで琥珀様、如何したら良いでしょうか」
銀貨5枚の報酬を手に帰宅する。なんか仕事した感が無いが1月分の家賃を一日で稼いでしまった。物価とか狂ってんじゃないのか。
この高価な報酬に理由があるとすれば、町の外はいつ死んでもおかしくない危険地帯ということだ。町の周辺は大丈夫でも原料のある森の中や川の近くは危ない、まあそういったリスク込みの料金として割り切ろう。
帰宅した部屋は綺麗になっており、家具も運び込まれていた。1人ずつのベッドと俺の箪笥と妹君たち共同のクローゼット、食事用のキッチンテーブル。2人がまとめて一緒のクローゼットなのは部屋のローテーションがあるからだろう。
「何? 帰って来るなり。あとお帰りなさい」
「あ、うんただいま。買い出しご苦労様、何とか生活拠点が出来たね」
「お疲れ、約束通り今日兄さんと同じ部屋なのは琥珀で良いわ」
琥珀が笑った気がしたが、此方に向いたときには普段通りの無表情だった。
「主様寝よう」
いきなりストレートか、だがまだ早い。
「その前に諸々の事で琥珀の意見を聞きたい」
まず袋などの携行品についてだが、琥珀は戦闘行動には詳しいが補給や輜重といったことには疎く、さらに専門外である採集の装備など判らないとの事だった。だが少なくとも荷物入れには俺の影に収納スペースを確保しているはずだ、との意見を言う。
「確かに拡張して物が入れられないか試しているが、まったく効果が無い。やり方が間違っているのかどうかも判らん。君から見てどうかね琥珀」
琥珀は俺の影を見て指でつつきコンコンと叩く。
「魔力量は十分にプールされているのにそれだけ。ためた魔力を使って空間を形成してない」
「そんな一手が必要なのか、今までは魔力を込めながら大きくなれと思ってただけなんだが」
「基本的に間違ってはいない、でも漠然としすぎ。影を通して空間をつなげるとか一定の広さの箱を作るとか、そういったイメージ」
「ふむ、それならそうしよう。イメージ的には四○元ポケ○トだから、容易なはずだ」
「適当にやったら良い」
「判った。では空間については後でやってみる、次に自分の鑑定眼が信用できない件について」
琥珀に今日あったことを伝える。
「その眼鏡については良く判らないけど、鑑定の基本的な法則は同じはず。その魔力量で失敗は変。ギルドが間違っているか、ギルドに横取りされたか」
琥珀の無表情に怒気が加わった。無表情に怒るとは器用なものだ。いや、この場合器用なのは雰囲気だけで怒気を察する俺かね。
「まあ、そういうこともあるだろう。何しろこっちは素人だ。ある程度の搾取は想定内だし、甘んじて受けねばならないだろうね。いずれ権力でも持ったら皆殺しにしたい」
「隠しきれてないよ」
だって不条理じゃん。
まあ権力者集団を相手にする時は慎重にもなる。村長の時は皆殺しにできるから強気だったが、流石に国を超えて活動する戦闘集団の統括、おいそれとは行くまい。
「とりあえずギルドの方は様子見だね。道理の通らないことは死ぬほどムカつくが、無理を通す相手に向かっていく危険も承知だ。少なくとも何らかの後ろ盾、あるいは権力を得るまでは大人しくするよ」
「相変わらず臆病。まあ別に問題はない、慎重なのは良い事」
琥珀は俺がそう告げると常の通りに戻った。俺が気にするかどうかが、琥珀の判断基準らしい。
「そう願うよ。さて俺は影を収納にする訓練を始めるとするかね」
「その前に夕食、魔力が空になれば食べられないから」
「ああ、そういえば当番もローテーションで決めないとな」
「日替わり。買い物は週に一回程度皆で、ついでに週休二日。一日は完全自由行動」
さすがに琥珀は判ってる。さっきの寝室についてもそうだが俺を完全に一人にする時間が無いと、あっという間に耐えられなくなる、と予想しているのだろう。その予想は正しい。
問題は俺がこの世界の設備で料理が出来るか、ということだろうな。
短いですが、読んで頂ければ幸いです。




