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異世界転生:ヤンデレに愛された転生記  作者: 彼岸花
平凡な冒険者気取り
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長期滞在予定

 翌日、散歩がてら町の周辺をウロウロしてみる。この辺は村があったほうの側面からしか見たことがないが、北側には山と森が広がり南側は俺がいた森が見える。

 北側の山は大きな物ではなく、ちょっと急な丘と言ってもいいだろう。だが大きな木が多く、午後の早い時間には北側は太陽を拝めなくなってしまうようだ。

 散歩ついでの周辺の地理把握も終了した。

 今度は滞在についてだ。流石に1泊2万の宿屋に長居する気にはなれない。資金にもそう余裕がある訳ではないのだ。

 


 ギルドに引き返して長期滞在できそうな場所の情報を聞く。

 受付嬢は以前とは違う人だった。まあ同じでも覚えてないだろうし、俺は人の顔覚えるのが苦手だからわからんと思う。今回は髪の色で見分けた。

 受付嬢曰く、駆け出し冒険者用(大体ランク1~3階梯、街中のお使いからちょっとそこまで薬草摘みに、程度のレベル)だが、柄の悪い人間も多いのでお勧めはしないとのこと。

 取りあえず場所だけでも、とだまくらかして場所を聞き、丁寧に礼を言ってそこへ向かう。


「ここかね」

 町の北側に有る宿屋、『風見鶏』、いかにもな名前の宿屋だ。町の北側に有って午後になれば早々に日陰になるため陰鬱な空気が漂っている。この宿屋は宿舎の管理をしているので場所はここではないが、北側であることは間違いない。なので生活するとなれば太陽とは縁遠い生活をすることになるだろう。


 ただまあ、こちらの面子を見てみると太陽と仲が良い者は居ない様に思う。俺は引きこもりだった、此方に生まれ直してから引きこもりってなんだろうと考える日々だが、前世ではそうだった。分厚い遮光カーテンで部屋を閉め切って過ごしていた。まあ仕事してたから外には出ていたがね。

 妹君は闇の精霊様だ。太陽に当らなくとも問題なく、琥珀は人形だ。本人曰く環境変化には強いらしい。翡翠は、どうだろうか。正直トカゲの生態は良く判らん。まあ本人? が大丈夫、と言っているのでいいとする。

 この面子でいえば日照権の不利は家賃を安くする要因でしかない。まあ、洗濯とかを考えると不便ではあるのだろう。ランドリーがその辺に有る前世とは違うのだから。


「すいません、此方で駆け出しの冒険者用の宿舎を管理していると伺ったのですが」

 奥にいたのは店主らしき亜人だ。部屋は窓から入ってくる光以外に明かりは無く、あちらこちらに薄暗がりがあった。そのため店主も良く見えない。天井にはランプと、店の中心だろう位置に、光量の強い魔術式の明かりがかけられていたが今はまだ午前中だ、使うのはもったいないんだろう。

「貴族の……」

「坊やとか、そういったやり取りはもういいので、端的に願います」

 もう色々めんどくさいからな。何かいい方法は無いかねえ、といっても実年齢が12歳くらいなんだから致し方ないところか。


 取りあえず腕輪を提示する。これで駆け出し冒険者であることは証明できる。そうか、ランクを上げれば取りあえず舐められはしないかな。まあ追々だな。

「ここから北門へ向かって3ブロック程度のところだ。何があっても知らんぞ。1月銀貨5枚」

 近くによってハッキリしたがこの店主は半熊族らしい。本で読んだだけなのでたぶんだが。

 まあ店主の種族なんてどうでもいい。熊耳の熊並みにごついおっさんなんて、残念の塊でしかない。

 一月銀貨5枚、5万か。まあ良いかな。


「ではとりあえず2か月分を」

 鍵を受け取り、腕輪で決済して宿を出る。現在時刻は、太陽の位置から察するに大体昼前か。時計はあるらしいが高級品だ、まあ基本だろう。

しかし時計は欲しいな。時間が判らないとなんとなく不安になる。前世からの癖だ。



「ここかね」

 さっきと同じ台詞だ。正直俺の口調は独特らしい。人を馬鹿にするような印象があるそうだ。妹君や琥珀がそういうんだから、親しくない人には相当嫌われるんだろう。まあ、そんなことはどうでも良い。


 宿を出て北門方向へ10分少々。3ブロックとかいってたが区画とか全然判らん。適当な翻訳しやがって。

 北門に近いのは有事の際の壁だろうか。冒険者は大陸毎に縄張りがあるそうだが、基本的に国に遣えては居ないはずだ。まあ表向きはそうでも、ギルドが設置されている国や町と懇意にしておくのは間違いではないだろうがね。

 特にこの世界では魔物や魔獣、魔族なんて物騒なものも居る。おそらくは前世とは有事の頻度や内容が比べ物にならないだろう。

 



「埃っぽい」

「ガランとしてる」

 琥珀と妹君が感想を述べる。確かに埃っぽくてガランとしている。

 ベッドには古く薄汚れたマットレスはある、が布団は無く家具も無い。部屋は辛うじて二部屋あるが、どちらも狭い、6畳程度だろうか。土地の余っているこの世界の事情を考えるとかなりの狭さだ。


 6畳二部屋と台所、トイレつき。風呂なし。風呂がないのは痛いが、台所が土間のようになっているので、そこに穴を掘ってつくろうかな。いや、でもそう長居はできないし無理か。公衆浴場の様な物はあるし、幸いにも男湯と女湯で分けられているから問題も無い。

 俺は日本人としては風呂嫌いなんだろうが、さすがに無しはキツイ。清拭は得意だが完全に風呂の代替とするのは無理だろう。まあ前世では仕事ではそうしていたが。



「さて、このままでは流石に住めんね。掃除と必要物品の買出し、それとできることならギルドで仕事も請けたいが、それは無理そうだね」

「大丈夫、まだ午前10時。物も収納もないこの部屋なら掃除の手間は少ない。後は買出しと仕事で組み分けすれば良い」

「ふむ、琥珀の意見を採用する。まずはざっと掃除するかね」

 隅々までやれば時間もかかろうが、まずは寝られる様になれば良い。幸いにして掃除用具、箒とか雑巾の類は家の外にあった。


 そういえば、この宿舎は宿舎と謳ってはいるが家である。まあ借家が密集していると思えば良い。家の間隔は多少狭いが、まあ寝るだけの家になりそうだから良いだろう。問題は治安だが、駆け出しの冒険者に彼女らが害される可能性は少ない、と思う。油断はできんがね。

 お隣さんはいるようだが、別段挨拶することも無いだろう。この世界の常識はよくわからんが、そこまで近所付き合いを大事にしている風でもない。



 家具などの邪魔者が無いガランとした部屋は掃除をするのが楽である。

 薄っすらと積もっている埃を箒で掃きだして、雑巾をかける。驚くほど綺麗になる訳ではないが、生活するには十分だ。

 この世界では室内で靴を履く。文化様式がヨーロッパ調なので納得できるものだ。だから椅子やテーブルなどは備え付けられているし、多少床が汚れていても気にはならない。

 俺は靴を履くのが気になるので、狩の獲物だったウサギの皮等を利用してスリッパもどきを作り履いている。そう器用な方ではないが、必要に迫られれば色々できるものだ。


 掃除は約2時間で終わった。3人居て物が無ければこんなもんだ。台所のかまどは煤だらけで難儀したが、その他は大した事は無かった。



 次の仕事は生活雑貨の買出しと、仕事だ。

 仕事は基本的に俺と誰かのペアで行こうと思う。理由はこの2人に頼りきりだと俺の地力が伸びない事と、独りは怖い事だ。

 今日の組み合わせで揉めるかとも思ったがそうでもなかった。


「私は買出し」

「私は兄さんと仕事ー」

 琥珀が買出し。俺と妹君が仕事となった。妹君が踊るような動きと言葉で……実際にくるくる回っているから、踊りながら喜んでいる。

「もっと揉めるかと思ったが」

「新しい家は2部屋あるでしょ、兄さんと同じ部屋で寝るのがローテーションなの。その一回目が私で、その権利で仕事に行くことにしたのよ」

「家では1部屋で寝てたがね? まあアレは寝苦しいのでわかれて貰えるならありがたいが」

「兄さんを1人にする時間がないと発狂するって琥珀が」

 サラッと言っているが、流石にその位では狂わないと思う。

 いや、どうかな。前は妹君の甘え攻勢で骨抜きにされていたが、流石に耐性が付いてきた。確かにそろそろ1人の時間も欲しい。発狂するまでは行かないがストレスにはなるだろう。

 考えてみれば、今度は狩のように1人になる時間が無い。仕事や家で常に誰かと一緒、というのは辛い。寂しがり屋の孤独好き、いまだ健在である。



「君らは俺の知らない所で色々と決めているねえ。嬉しいんだけどね」

 実にありがたいことだと思う。因みにローテーションは、1日交代で3日に一度は俺1人で眠れる日がある。

「今までの話からすると、私たちは長く一緒に居ることになりそうだから。変に足を引っ張り合うとそれこそ兄さんに逃げられかねない、って話したのよ。基本的には合議制、当番製で決めようと思うのよ」

「ハーレムは維持が大変だ、と聞いたことがあったが要因自らが折衝してくれるとは、なんとも僥倖だね」

「んくく」

 妹君は何か嬉しかったのだろうか、喉の奥でそんな声を出した。



 妹君と久々の二人きりだ。腕に絡みつかれて困ったが、それなりにウキウキとギルドへ向かう。別に琥珀と翡翠君が嫌いな訳ではない、なんとなく、気分だ。

 くくく、実に良い気分だ。前世の野郎共め、どうだこの俺のリア充っぷり。

 ……よく考えたら、親殺そうとしたり、熊と戦ったり、鬼虐殺したり、村人に裏切られたり、あんまりリア充じゃなかった。

 

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