散歩気分
2章開始しました。よろしく願います。
1章の最後、梟からもらう報酬を追加しています。申し訳ありませんが、確認の後2章を読んで下さい。
「何か適当な移動手段を持たんといかんかね?」
町に行く道に飽きてきた。そして疲れた。森を出たばかりだ、まだしばらく歩くことになる。
「何れは必要、今は管理も出来ない。そもそも遠出をするのはもっと先」
「そうよね。宿に大型の騎獣は入らないよね。兄さんはどんな騎獣を考えてるの?」
「ふむ、騎獣かね。正直馬以外の物は詳しく無くてね、逆に何がいいと思う?」
まあ、馬にも詳しいわけじゃない。人参と競馬と、大変優しい目をしながら此方を齧ってくる位しか知らない。
(翡翠が)
「うん?」
頭の中に声が響く。念話だというのに小さい、囁くような声だ。
(翡翠が、主人様を運ぶ。翡翠と2人でどこか違う世界へ行こう)
「怖いから乗らない」
大きな蜥蜴に乗るのも怖いが、そのまま拉致監禁されるのも怖い。実に俺好みの展開だが、相手が爬虫類ではあまり嬉しくない。
(……酷い)
俺の頭の上に乗る翡翠が、囁き声の非難と共に髪の毛をムシャムシャしだした。痛いよりもくすぐったいが、可愛い気がしないでもない。
因みに翡翠の造詣だが、全体的に細く流線型をしている。
首と胴体の付け根の部分には、鬣のような硬質の髭がギザギザと付いている。尻尾が長く、頭と胴体を足したよりもまだ長い。俺の頭の上に載ると、尻尾がだらりと垂れ下がる。
腹這いになっているよりも上半身を立て、空を見上げている様な姿勢をする事が多い。何処と無く知的な眼差しで、物思いにふけっているような表情だ。まあ、勿論爬虫類の考えは良く判らないが。
色はその名の通りに全身が美しい緑色、足の部分にはやや青が混じる。髭の部分が金に近い黄色で、鼻先から尻尾の先までの、背中にあたる部分に真っ赤なラインが一本走っている。
瞳の色は真っ黒。ここだけはヤンデレた深淵の瞳をしている。
あまり爬虫類の造詣に明るくは無いが(と言うか全く判らないが)、俺の目から見ればとても綺麗な蜥蜴である様に思う。
蜥蜴に対して綺麗とか、声が美しいとか、髪を食む姿が可愛いとか、時々動く尻尾がくすぐったくて愛らしいとか……そんなことは一遍も考えていない訳ではなかったが、バレル前に思考を元に戻す。
元、つまりは移動手段についてだ。
移動手段といっても、そもそもが馬車以外の移動手段なぞ知らない。前にも似たような話があって鳥とか言ってた気がするが。某RPGの黄色くて二足歩行の鳥みたいな物だろうか?
「私も詳しくないよ。兄さんとおそろい」
蕩ける様な笑みを浮かべて妹君が腕を絡める。絡めるというよりも絡まって来る、といった方が適切だが、実に悪い気はしない。
「出来るなら幼生体の竜種等、そのうち竜の巣に忍び込む」
なんとも物騒なことをおっしゃる。だが、現実問題として危険な世界を旅するのであれば大人しい馬とかその他の騎獣では襲われて一溜りも無い気がする。竜種はやりすぎにしても、多少の防衛能力は欲しいところだ。
(竜なんて唯のでかい蜥蜴、翡翠が居る。翡翠が大きくなる、翡翠が全部解決する)
また翡翠君がカジカジと髪を食む。髪の毛はたんぱく質だったかな。食べられないと思うけど、好きにすると良い。
その私を見てって感情は、嫌いじゃないとても嫌いじゃない。愉悦すら感じる。
おれは、すくなくとも、ひつようとされている。
「索敵」
騎獣の話で盛り上がっていたら、琥珀から声がかかる。俺も我に帰る(返る)。
我に帰るって、一体何処に行っていたのやら。
敵、と言う台詞から恐らくは丘の上に居る黒い点だと思うが、見えん。
「なにあれ?」
「低位の魔獣。大して強くは無い。動くものを見ると突っ込んでくる」
確かに言葉通りまっすぐに突っ込んでくる。
よし、早速眼鏡を使ってみるとしよう。体よく鑑定、と名づけることにする。
魔力を込める量と、情報の流入を調整し、必要最低限の情報を無理なく収集する。幸いにして頭の中に、仮想の演算機があるので慣れるのに時間は要らない。
グルー:魔獣(低位)
草原や平地など遮蔽物の無い地域を徘徊する低位の魔獣。結束の弱い大きな群れを作る、群れと言ってもまとまりは無くそれぞれが生息地に点在する。非常に縄張りが広く、また縄張り意識も強いため縄張りを荒らす相手には見境なしに攻撃を仕掛ける。ただし魔獣としての位階が低く、魔力の扱いに難があるため力は弱い。
牙は細工品やナイフの刃として用いられるため、安価であるが売れる。肉は美味。
まとまりの無い群れってのはもう群れではない気もするが、まあ良いだろう。
「本当に縦列で突っ込んできただと?」
小説版にはないけど、漫画版も思考の一品であると思う。わかる人いるかな。
「縦列って1匹でも良いの?」
「良いんだ、言ってみたい台詞言っただけだから」
「自重」
さて、言うことも言ったし撃ち殺すか。そう思っていると翡翠が髪を引っ張った。
「何かね、爬虫類君」
ブチ。
(翡翠、主人様。翡翠、主人様がくれた名前は翡翠)
髪の毛抜かれた。
「失礼、翡翠君」
(主人様、あの魔獣……翡翠に)
翡翠は控えめだが、割と自信ありげにつぶやくと頭から降りた。まあ、すぐに援護出来るようにしてやらせて見よう。
「よし翡翠! 君に!」
「自重しろと、警告した」
琥珀に首を絞められる。キリキリと琥珀の指の辺りから音が聞こえる。よく見ると球体間接人形なのか、この子は。
「兄さん、じゃれてないでアレ」
「ぬ?」
じゃれていた訳ではないが、ともかく抑揚の無い妹君の言葉に反応すると、翡翠が轢かれて跳ね飛ばされた場面が見えた。
よわっ!
短いです。申し訳ありません。
更新も1章よりは間が開くと思われます。どうか長い目で見てやってください。




